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吸収合併とは、合併により吸収されて消滅する会社の権利義務のすべてを、存続する会社に包括して承継させる企業合併の一手法です。経営の効率化などの統合効果を早期に得られるため、実務上の企業合併でも、多くは吸収合併が実施されています。
この記事では、吸収合併の意味や新設合併、子会社化との違い、メリットやデメリットを解説すると共に、手続きの流れについてもご紹介します。
このページのポイント
~吸収合併とは?~
吸収合併とは、合併によって存続会社が消滅する会社の権利義務の全部を吸収して承継する手法。会社が他の会社とする合併(企業合併)のうち、1つの会社の法人格のみを残し、それ以外の会社の法人格を消滅させたうえで、消滅する会社の権利義務のすべてを存続する会社に包括的に承継させる方法を指す。
目次
1. 吸収合併とは
企業合併には、次のとおり、吸収合併と新設合併の2つの手法が存在します。
吸収合併とは、合併によって存続会社が消滅する会社の権利義務の全部を吸収して承継する手法です。
一方で新設合併とは、新たに会社を設立し、消滅する合併対象会社のすべての権利義務を承継させる手法です。
1-1. 吸収合併の概要・意味
吸収合併(きゅうしゅうがっぺい)とは、会社が他の会社とする合併(企業合併)のうち、1つの会社の法人格のみを残し、それ以外の会社の法人格を消滅させたうえで、消滅する会社の権利義務のすべてを存続する会社に包括的に承継させる方法を指します。
会社法では、次のように定義されています。
吸収合併 会社が他の会社とする合併であって、合併により消滅する会社の権利義務の全部を合併後存続する会社に承継させるものをいう。 引用元:会社法第二条二十七号(e-Gov)
吸収合併が実施されたときは、効力発生日から2週間以内での変更登記が必要です(会社法921条)。存続する会社は変更の登記を、消滅する会社は解散登記を行うことで、その後は存続する会社と同じ法人格となります。
1-2. 合併と吸収の違い
合併とは、複数の会社の法人格を1つの法人格に統合する手法です。合併によって、複数の会社の資産や負債、権利義務などが1つの会社に統合されます。
先述のとおり、会社法上の合併には「吸収合併」と「新設合併」の2つの手法があります。「吸収」とは、いわゆる吸収合併を指し、1つの会社を存続させる一方で、 その他のすべての会社を消滅させて権利義務の全部を吸収し承継させる方法です。
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2. 吸収合併の目的
吸収合併は、会社法上認められている合併手法です。複数の会社の資産や負債、権利義務を統合して、より効率的な経営を目指し、シナジー効果を高めることを目的に行われます。
シナジー効果とは、複数の会社における経営や人員資源、機能などを組み合わせて、より大きな成果を生み出す効果のことです。吸収合併によって経営資源を集約させることで、両社によるビジネス領域の補完や経営基盤の強化、ビジネスモデルの創出など、企業体としての価値が高まります。
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3. 吸収合併と新設合併の違い
企業合併はM&Aスキームの代表的な手法であり、吸収合併と新設合併とに分かれています。吸収合併と新設合併は仕組みに大きな違いがあり、実務上でも実施頻度が異なります。
3-1. 新設合併とは
新設合併とは、2つ以上の会社がする合併のうち、合併するすべての会社が消滅して、新たに設立される新会社に消滅会社のすべての権利義務を承継させる手法です。
新設合併について、会社法では次のように定義されています。
新設合併 二以上の会社がする合併であって、合併により消滅する会社の権利義務の全部を合併により設立する会社に承継させるものをいう。 引用元:会社法第二条二十八(e-gov)
吸収合併では1つの会社が存続し、その他の会社が消滅しますが、新設合併ではすべての会社が消滅し、新たに会社が設立されます。このように合併の仕組み上、大きな違いがあります。
3-2. 合併の実務では吸収合併を選択する企業が多い
合併の実務では、ほとんどの企業で新設合併よりも吸収合併が選択されています。なぜなら、次のような理由が挙げられるからです。
- 登録免許税は新設合併のほうが高い
- 新設合併では、事業に必要となる許認可の新規取得をしなくてはならない
- 新設合併で上場会社が消滅会社となる場合、新規上場申請を行う必要がある
新設合併では、上記のような手続きの煩雑さやコストがかかり、時間もかかってしまいます。企業合併は、統合効果を早期に得るために行われますが、新設合併では効果の発現も遅くなってしまいやすいのです。
これらの理由により、実務では新設合併よりも吸収合併を選択する企業が多くなっています。
4. 吸収合併と子会社化について
吸収合併と似た概念として、「子会社化」が挙げられます。ここでは、吸収合併と子会社化の違いと、子会社の吸収合併について解説します。
4-1. 吸収合併と子会社化の違い
吸収合併と子会社の違いは、吸収合併は合併手法の1つである点、子会社は、会社の形態の1つである点で異なります。
つまり、吸収合併は、企業合併というM&Aスキームの1つです。一方で、子会社は自社の財務・営業・事業方針の決定権を他の会社(親会社)に支配されている形態を指します。
子会社と親会社について、会社法では次のように定義されています。
子会社 会社がその総株主の議決権の過半数を有する株式会社その他の当該会社がその経営を支配している法人として法務省令で定めるものをいう。 引用元:会社法第二条三(e-gov)
親会社 会社が子会社とする会社その他の当該株式会社の経営を支配している法人として法務省令で定めるものをいう。 引用元:会社法第二条四(e-gov)
先述のとおり、吸収合併は、1つの法人格を残してその他の会社の法人格を消滅させ、存続する会社に権利義務のすべてを承継させる手法です。一方で、子会社化は、子会社の法人格を維持しつつ、親会社が子会社の議決権(株式)の過半数以上を取得し、あるいは取締役の半数を獲得するなど実質的な経営権を握る形態を指します。子会社化のなかでも、子会社の株式を100%取得する形態が完全子会社化です。
このように、吸収合併と子会社化は、会社の存続・経営形態が異なります。一方で、子会社は吸収合併の当事会社になりうる点に留意が必要です。
4-2. 子会社の吸収合併
実務上、経営の効率化や資本の一体化を図るために親会社を存続会社とし、子会社を消滅させて吸収合併を行うケースが少なくありません。また、組織再編として、グループ企業において子会社同士が吸収合併を行い、経営強化を図る場合もあります。
親会社が子会社を吸収合併し、または、子会社同士が吸収合併をする目的には、次のような理由が挙げられます。
- 経営の効率化
- 子会社の負債を引き継ぐ
- 事業のシナジー効果
親会社が存続会社となって100%子会社を吸収合併するメリットには、シナジー効果による売上強化やグループ内でのコスト削減、関係性の強化などが挙げられます。また、多額の負債を抱える子会社を救済するために行われるケースもあります。
5. 吸収合併のメリット
吸収合併には、次の2つのメリットがあります。各メリットについて詳しく確認していきましょう。
- 組織統合の観点からのメリット
- 金融・資金調達の観点からのメリット
5-1. 組織統合の観点からのメリット
吸収合併における、組織統合の観点からのメリットは次の3つが挙げられます。
- 存続会社は消滅会社の権利義務を包括的に承継できる
- シナジー効果を期待できる
- 「対等合併」なら、対等な立場のM&Aを印象づけることが可能
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存続会社は消滅会社の権利義務を包括的に承継できる
吸収合併では、存続会社は消滅会社の権利義務、資産や負債を包括的に承継できます。
M&Aスキームのうち事業譲渡では、事業に伴う権利義務や資産、負債などは個別に承継しなければならず、人的、時間的なコストがかかります。また、統合効果の早期発現も期待できないでしょう。
一方で、吸収合併では包括的な承継が可能なため、承継対象が複数あり手続きの煩雑化が予想される場合に効果的です。また、従業員との雇用関係や取引先との契約関係も包括承継できるので、事業の円滑な引継ぎが可能となります。 -
シナジー効果を期待できる
吸収合併では、法人格をまとめて経営資源を統合することによって関係性が強化されます。結果として、シナジー効果を早期に発現させることが期待できます。
特にグループ内の会社による吸収合併では人的資源やシステムなどを集約し活用できるようになるため、業務効率化やコスト削減にもつなげられるでしょう。 -
「対等合併」なら対等な立場のM&Aを印象づけることが可能
対等合併とは、合併比率を1:1の割合で行う合併です。対等合併では、合併に際して受け取る配当金などの経済的価値が1:1となります。
吸収合併では、当事会社それぞれが存続会社と消滅会社という立場の違いが生じるため、対外的な印象の悪化が懸念されます。対等合併を実施することで、当事会社は対等な立場で経営を継続できる点、また、対外的にも対等な立場を公表できることはメリットといえるでしょう。
5-2. 金融・資金調達の観点からのメリット
吸収合併における金融・資金調達の観点からのメリットは次の2つが挙げられます。
- 買い手は株式を合併対価として利用し買収できる
- 消滅会社の繰越欠損金を引き継げる可能性がある
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買い手は株式を合併対価として利用し買収できる
吸収合併では、買い手となる存続会社は消滅会社の株式を合併対価として利用し、株主に対価を支払うことで買収が可能です。
合併対価には、現金や存続会社の株式、社債や新株予約権が認められます。特に、存続会社の株価が高い場合に合併対価を存続会社の株式とすることは価値が高く評価されます。存続会社は資金調達をせずとも、実質的な企業買収を行える点は、吸収合併のファイナンス面でのメリットといえるでしょう。 -
消滅会社の繰越欠損金を引き継げる可能性がある
適格合併であれば、消滅会社の繰越欠損金がある場合に、存続会社が引き継ぐことができる可能性があることもメリットです。
適格合併とは、消滅会社の資産や負債を「簿価(=帳簿価額)」で引き継ぐ吸収合併の形態で、100%子会社のように一定の条件を満たした場合にのみ可能です。適格合併では合併時に時価評価などされないことから法人税が課されず、また、繰越欠損金を自社の損金として引き継ぐことができるため、存続会社の節税にもつながります。
6. 吸収合併のデメリット
吸収合併には、デメリットもあります。次の2つの観点から、吸収合併のデメリットについて詳しく解説します。
- 組織統合の観点からのデメリット
- 金融・資金調達の観点からのデメリット
6-1. 組織統合の観点からのデメリット
吸収合併における、組織統合の観点からのデメリットは次の2つです。
- 手続きが複雑
- 効力発生日までに一定程度の統合作業を完了する必要がある
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手続きが複雑
吸収合併は、会社法によって必要な手続きが明確に定められています。手続きは、契約書の締結から株主総会の招集・決議、反対株主から株式買い取り請求権の行使があった場合の履行や債権者保護手続きなど多岐にわたるため、単なる株式譲渡と比べると多くなってしまいます。特に、存続会社以外の会社が消滅することに起因して、手続きが増える点はデメリットといえるでしょう。
また、会社法に定める手続きを怠った場合は、合併無効の訴えが可能になります。法的に不安定な状態を避けるためにも必要となる手続きをおさえておくことは大切です。
具体的な手続きの流れについては後述する「吸収合併の流れ」をご覧ください。 -
効力発生日までに一定程度の統合作業を完了する必要がある
吸収合併では、合併契約締結から効力発生日までの期間内に統合作業を進める必要があります。なぜなら、吸収合併では合併の効力発生日から、1つの法人格として事業が運営されるからです。
株式譲渡と比較すると、PMI(買収後の経営統合作業)も早急に進める必要があるため、PMIの現場担当者に負荷がかかり、本来の事業活動が停滞してしまう懸念も生じます。統合作業と共に現場担当者へのヒアリングを通じたケアも重要となるでしょう。
6-2. 金融・資金調達の観点からのメリット
吸収合併における、金融・資金調達の観点からのデメリットは次の3つが挙げられます
- 簿外負債を引き継ぐことがある
- 取引先が重複する場合、売上高が減少することがある
- 存続会社の株主の持株比率が低下する
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簿外負債を引き継ぐことがある
先述のとおり、吸収合併では、消滅会社にかかる権利義務の一切を存続会社が包括的に承継します。その権利義務は帳簿内にとどまらず、簿外負債(帳簿に記載されていない債務)や不要な資産も引き継ぐこととなります。
事業譲渡であれば、譲り受ける資産を選別し、簿外負債を引き継ぐ必要もありません。吸収合併によって想定外の損失を受けないためにも、簿外負債や不要な資産がある場合は、吸収合併を実施すべきかを慎重に検討するため、事前のデューデリジェンスなどを慎重に進める必要があるでしょう。 -
取引先が重複する場合、売上高が減少することがある
存続会社と消滅会社の吸収合併前の取引先が重複する場合、売上高が減少する可能性があります。吸収合併後は、存続会社の1社のみが顧客にとっての取引先となるからです。
シナジー効果の向上を狙って吸収合併をしたものの、取引金額が縮小されて売上高が減少しては意味がありません。吸収合併後も安定した売上を出せるよう、取引先への関係構築につとめましょう。 -
存続会社の株主の持株比率が低下する
株式を対価として株式を対価として吸収合併を行う場合、現金を調達する必要のないメリットがある一方で、存続会社の株主の持株比率が低下するデメリットもあります。また、割高な合併比率で吸収合併を実施した場合、既存株主の経済に影響を及ぼす可能性も否定できません。
特に上場企業では、吸収合併によって株価が下落するケースがあるため、適切な企業価値で合併比率を算定するなど、慎重に行う必要があります。あらかじめM&Aの専門家に相談して手法を選択しても良いでしょう。
企業合併のうち、「吸収合併」をご検討中の経営者さまは、国内トップクラスの成約件数・実績を誇るM&Aキャピタルパートナーズへどうぞご相談ください。
M&Aキャピタルパートナーズでは、ご相談初期から契約締結にいたるまで、専任の担当アドバイザーが寄り添いサポートいたします。
7. 吸収合併の手続きの流れ
吸収合併の手続きは次の流れで実施されます。ここでは、各手続きについて解説します。
- 吸収合併契約書の締結
- 債権者に対する異議申述公告・個別催告
- 事前開示書類の備置
- 株式買取請求に係る株主への通知または公告
- 株主総会招集手続
- 株主総会決議
- 反対株主の株式買取請求手続
- 債権者保護手続
- 合併の効力発生
- 事後開示書類の備置
- 吸収合併に係る変更登記
7-1. 吸収合併契約書の締結
吸収合併を行う際は、合併の当事会社同士で吸収合併契約書の締結が必要です。各当事会社において、あらかじめ取締役会を開き、合併に関する重要事項の決定、および、合併承認を求めるための株主総会の招集について承認を得ておきます。
7-2. 債権者に対する異議申述公告・個別催告
吸収合併にあたり、債権者によっては債権回収を実施するケースがあります。このような事態に備え、債権者に不測の損害を与えないように、合併効力発生日の1ヶ月前までを期限として債権者に対する異議申述公告・個別催告を行うことが求められます。事前に全体的なスケジュールを確定し進めていきましょう。
7-3. 事前開示書類の備置
前段階で設定した意義申告広告・個別催促の日までに、合併契約の内容などに関する法定開示事項を記載した事前開示書類を備え置かなければなりません。備置の開始は、株主総会開催日の2週間前で、かつ株主または債権者への公告・通知・催告のなかでもっとも早い日となります。事前開示書類は、合併の効力発生日から6ヶ月を経過する日まで継続して備え置きます。
7-4. 株式買取請求に係る株主への通知または公告
吸収合併の効力発生日の20日前までに、当事会社は株式買取請求に係る株主への通知または公告を行います。後述するように、合併に反対する株主は、自身の保有する株式を構成価格で買い取るように求める権利(株式買取請求権)を有します。本通知や公告は、この株式買取請求権行使に備えて実施する手続きです。
7-5. 株主総会の招集手続き
株主総会は、株主総会開催日の1週間前までが招集期日となります。この手続きは、株主総会招集手続と呼ばれるもので、株主総会開催日の1週間前までを期限に、株主総会招集通知を各株主宛に発送します。公開会社の合併では、株主総会開催日の2週間前までに招集通知を発送しなければなりません。
7-6. 株主総会決議
吸収合併では、会社の最高意思決定機関である株主による意思決定が必要です。そのために、吸収合併の効力発生の前日までに株主総会決議を開催し決議します。通常の議題であれば普通決議として行われますが、吸収合併は会社法上の行為でも重要な意味を持つため特別決議が必要です。
7-7. 反対株主の株式買取請求手続き
会社合併に際して、事前に反対の意思を表明する株主は、当事会社に対して公正な価格で自己の保有する株式の買取を請求できます。請求期間は、効力発生日の20日前から前日までに限られます。
7-8. 債権者保護手続き
吸収合併によって、損害を受け、または債権回収にリスクが生じる債権者は少なくありません。債権者の保護を目的として、効力発生日の1ヶ月前までにすべての債権者に対して合併に異議を申し出ることのできる旨を官報で広告し、知れたる債権者に催告する必要があります。
7-9. 合併の効力発生
吸収合併では、合併契約書に記載のある効力発生日に、合併の効力が発生します。合併の効力発生によって、消滅会社のすべての権利義務が存続会社に承継され、消滅会社は解散・消滅します。
効力発生日に当事会社が実施すべき行為はありませんが、効力発生日以降2週間以内に合併登記を行わなければなりません。
7-10. 事後開示書類の備置
効力発生日後においては、事前開示書類と同様に、6ヶ月間にわたって存続会社の法定事項を記載した事後開示書類を備置する必要があります。
7-11. 吸収合併に係る変更登記
存続会社は、吸収合併の効力発生日以降、2週間以内に合併登記を行います。また、消滅会社の解散登記もこのタイミングで同時に行わなければなりません。
8. 吸収合併の登記事項
吸収合併の登記事項や必要書類は存続会社、消滅会社によって異なります。
存続会社は、法務局に対し「株式会社合併による変更登記申請書」を提出し、変更登記を行います。一方で、消滅会社は「解散登記申請書」のみを提出します。
吸収合併に際し、当事会社の登記変更に必要な書類は次のとおりです。
- 組織統合の観点からのデメリット
- 金融・資金調達の観点からのデメリット
8-1. 組織統合の観点からのデメリット
吸収合併における、組織統合の観点からのデメリットは次の2つです。
- 手続きが複雑
- 効力発生日までに一定程度の統合作業を完了する必要がある
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手続きが複雑
吸収合併は、会社法によって必要な手続きが明確に定められています。手続きは、契約書の締結から株主総会の招集・決議、反対株主から株式買い取り請求権の行使があった場合の履行や債権者保護手続きなど多岐にわたるため、単なる株式譲渡と比べると多くなってしまいます。特に、存続会社以外の会社が消滅することに起因して、手続きが増える点はデメリットといえるでしょう。
また、会社法に定める手続きを怠った場合は、合併無効の訴えが可能になります。法的に不安定な状態を避けるためにも必要となる手続きをおさえておくことは大切です。
具体的な手続きの流れについては後述する「吸収合併の流れ」をご覧ください。 -
効力発生日までに一定程度の統合作業を完了する必要がある
吸収合併では、合併契約締結から効力発生日までの期間内に統合作業を進める必要があります。なぜなら、吸収合併では合併の効力発生日から、1つの法人格として事業が運営されるからです。
株式譲渡と比較すると、PMI(買収後の経営統合作業)も早急に進める必要があるため、PMIの現場担当者に負荷がかかり、本来の事業活動が停滞してしまう懸念も生じます。統合作業と共に現場担当者へのヒアリングを通じたケアも重要となるでしょう。
8-2. 金融・資金調達の観点からのメリット
吸収合併における、金融・資金調達の観点からのデメリットは次の3つが挙げられます
- 簿外負債を引き継ぐことがある
- 取引先が重複する場合、売上高が減少することがある
- 存続会社の株主の持株比率が低下する
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簿外負債を引き継ぐことがある
先述のとおり、吸収合併では、消滅会社にかかる権利義務の一切を存続会社が包括的に承継します。その権利義務は帳簿内にとどまらず、簿外負債(帳簿に記載されていない債務)や不要な資産も引き継ぐこととなります。
事業譲渡であれば、譲り受ける資産を選別し、簿外負債を引き継ぐ必要もありません。吸収合併によって想定外の損失を受けないためにも、簿外負債や不要な資産がある場合は、吸収合併を実施すべきかを慎重に検討するため、事前のデューデリジェンスなどを慎重に進める必要があるでしょう。 -
取引先が重複する場合、売上高が減少することがある
存続会社と消滅会社の吸収合併前の取引先が重複する場合、売上高が減少する可能性があります。吸収合併後は、存続会社の1社のみが顧客にとっての取引先となるからです。
シナジー効果の向上を狙って吸収合併をしたものの、取引金額が縮小されて売上高が減少しては意味がありません。吸収合併後も安定した売上を出せるよう、取引先への関係構築につとめましょう。 -
存続会社の株主の持株比率が低下する
株式を対価として株式を対価として吸収合併を行う場合、現金を調達する必要のないメリットがある一方で、存続会社の株主の持株比率が低下するデメリットもあります。また、割高な合併比率で吸収合併を実施した場合、既存株主の経済に影響を及ぼす可能性も否定できません。
特に上場企業では、吸収合併によって株価が下落するケースがあるため、適切な企業価値で合併比率を算定するなど、慎重に行う必要があります。あらかじめM&Aの専門家に相談して手法を選択しても良いでしょう。
企業合併のうち、「吸収合併」をご検討中の経営者さまは、国内トップクラスの成約件数・実績を誇るM&Aキャピタルパートナーズへどうぞご相談ください。
M&Aキャピタルパートナーズでは、ご相談初期から契約締結にいたるまで、専任の担当アドバイザーが寄り添いサポートいたします。
存続会社 |
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消滅会社 |
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また、吸収合併の登記手続きでは、登録免許税がかかります。存続会社と消滅会社では、登録免許税額が異なる点、存続会社の登録免許額の算出方法は3つある点に留意しましょう。
当事会社において、吸収合併の登記手続きで生じる登録免許税は次のとおりです。
存続会社 |
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消滅会社 |
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9. 吸収合併の契約書の記載事項
吸収合併の契約書には、次の3つの事項の記載が必要です。
- 法定記載事項
- 任意的記載事項
- 法定外契約
9-1. 法定記載事項
法廷記載事項とは、契約書への記載が会社法によって定められた事項のことです。法定記載事項のうち1つでも欠けている場合は、吸収合併契約は無効となり効力が生じないため、必ず記載しましょう。
吸収合併での法定記載事項は、次の5つです。
- 当時会社の表示
- 消滅会社の株主に対して交付する合併対価
- 消滅会社の株主に対する割当に関する定め
- 消滅会社の新株予約権者に対する対価・その割当
- 吸収合併の効力発生日
9-2. 法定記載事項
法廷記載事項とは、契約書への記載が会社法によって定められた事項のことです。法定記載事項のうち1つでも欠けている場合は、吸収合併契約は無効となり効力が生じないため、必ず記載しましょう。
吸収合併での法定記載事項は、次の5つです。
- 当時会社の表示
- 消滅会社の株主に対して交付する合併対価
- 消滅会社の株主に対する割当に関する定め
- 消滅会社の新株予約権者に対する対価・その割当
- 吸収合併の効力発生日
9-3. 任意的記載事項
任意的記載事項とは、会社法上定められておらず法定記載事項ではない記載事項のことです。記載は必須ではないものの、当事会社間にとって重要とされ契約書によく記載されます。任意的記載事項に抜けがあったとしても合併の効力に影響はありません。
主な記載事項には次のような事項が挙げられます。
- 合併契約が承認される株主総会の期日
- 存続会社の定款変更事項
- 存続会社の役員選任事項
- 吸収合併による退任役員がいる場合、退職慰労金の支給に関する事項
- 吸収合併の効力発生までの財産管理
- 吸収合併の効力発生までの剰余金配当の禁止または制限
- 吸収合併後の従業員の処遇
- 吸収合併契約の解除事由と変更事由
- 効力発生の解除条件
9-4. 法定外契約
法定外契約とは、法律上は定められていない、吸収合併契約とは別の契約のことです。法定外契約は、合併や統合の過程で行う内容を明らかにする目的で締結されます。
例えば、経営統合契約などが法定外契約に該当します。経営統合契約には、吸収合併に関する基本契約以外に、統合に際する準備体制に関係する事項、合併後の経営体制に関する事項などが記載されます。
10. まとめ
吸収合併は、企業合併のなかでも新設合併に比べて多く実施されている手法です。消滅会社の権利義務の一切を承継会社が包括的に継承することで、経営の効率化やシナジー効果による売上高の向上、コスト削減が見込めます。
ただし、法人格を存続させる子会社化や、株式譲渡とは性質が異なり、複雑な手続きも必要になります。M&Aによってどのような資本承継を実施したいのかを明確にし、メリット・デメリットを踏まえたうえで吸収合併の実施を検討してください。