更新日
中小企業や、ベンチャー・スタートアップ企業が銀行などに融資を申し込む際、個人保証をつけるよう要求されることがあります。個人保証は、経営者などの「個人」が、会社の融資に対して弁済の義務を負う仕組みです。
「個人保証についてくわしく知りたい」「個人保証をはずす方法を知りたい」という方も多いのではないでしょうか。
そこでこの記事では、個人保証のメリット・デメリットに加えて、2014年2月から適用がスタートした「経営者保証に関するガイドライン」、2022年に策定された「経営者保証改革プログラム」も取り上げ、個人保証を解除する方法までくわしく解説します。
このページのポイント
~個人保証とは?~
企業が銀行などの金融機関から融資を受けるとき、債務者である企業ではなく、経営者などの「個人」が返済や支払いを保証する義務を負うことを「個人保証」という。よくあるケースが金融機関からの借入に際して経営者が連帯保証を行うケースと、経営者の所有不動産に抵当権が設定されるケースである。個人保証は日本独自の商慣習で、特に中小企業に求められる場合が多い。
目次
1. 個人保証とは
日本で広く行われている「個人保証」とはどのような仕組みなのでしょうか。その定義を見ていきましょう。後半では、連帯保証との違いも説明しています。
1-1. 個人保証=会社への融資に対して経営者などが負う義務
企業が銀行などの金融機関から融資を受けるとき、債務者である企業ではなく、経営者などの「個人」が返済や支払いを保証する義務を負うことを「個人保証」といいます。
よくあるのが、次のようなケースです。
- 金融機関からの借入に際して経営者が連帯保証を行う
- 経営者の所有不動産に抵当権が設定される
なお、個人保証は、経営者本人だけでなく家族や親族が担うこともあります。
個人保証は日本独自の商慣習です。特に中小企業に求められる場合が多く、これには次のような理由があります。
- 個人資産と会社資産がほぼ一体となって経営が行われるケースが多いため
- 収益管理が十分でなく、経営基盤に脆弱さがみられるケースが多いため
- 経理に不備が多く、管理会計などにおいて客観性に欠けるケースが多いため
上記のような課題を抱える中小企業に融資をすることは、金融機関にとっては貸し倒れや未収のリスクを負うことを意味します。しかし、個人保証をつければ、金融機関はこれらのリスクを軽減できます。
1-2. 「保証」の定義
保証とは、金銭などを借りた人(債務者)が返済などの義務を履行できない場合に、ほかの人が代わりに債務の履行義務を負うことをいいます。
民法446条では、保証人の責任を以下のように規定しています。
保証人は、主たる債務者がその債務を履行しないときに、その履行をする責任を負う。
出典:民法446条 保証人の責任等
個人保証は、実際の債務者である企業以外の「人(個人)」の財産をもって債務の返済を保証(担保)するため、「人的担保」とも呼ばれます。これに対し、所有する土地や建物といった不動産に抵当権を設定するなど、「モノ」で返済を保証する場合は「物的担保」といいます。
物的担保の場合、債務金額がたとえ5億円であっても、担保物件の価値が1億円であれば、差額の4億円に関して責任を負う義務はありません。
一方、人的担保については、あらかじめ上限額を定めておかないと、その時点で残っている債務の全額を保証しなければなりません。
1-3. 保証と連帯保証
個人保証は、通常の保証よりも制約が強い「連帯保証」であることがほとんどです。
連帯保証とは、本来の債務者(主たる債務者)と連帯して債務を返済する義務を負うことです。連帯保証をする人を「連帯保証人」といいます。企業が金融機関から融資を受ける場合を例に挙げると、融資を受ける企業が「本来の債務者」、経営者本人や家族・親族など、連帯保証の対象となる人が「連帯保証人」となります。
連帯保証人は、本来の債務者とほぼ同じ責任を負います。金融機関などから返済を要求された場合、一般の保証において認められている次の行為ができません。
- 債権者である金融機関などに対し、まずは本来の債務者に請求するよう求めること(催告の抗弁)
- 本来の債務者に弁済に充てられる資産などがある場合に、その資産から先に取り立てるよう求めること(検索の抗弁)
- 保証人が複数いた場合に、弁済額は保証人で分割した金額の範囲でしか請求できないため、全額は支払わないと主張すること(分別の利益)
このように、連帯保証人には大きな責任が生じるため、契約は書面(または電磁的記録)で行う必要があり、口頭での契約は無効となります。
なお、融資取引などでは、単に「保証」といった場合も連帯保証を意味していることが多いので注意しましょう。
2. 個人保証のメリット
個人保証をつけるメリットとしては、「会社の信用が高まる」「融資が受けやすくなる」の2点が挙げられます。それぞれについてくわしく説明します。
2-1. 会社の信用が高まる
金融機関から融資を受ける際、企業の信用性は大きな要素となります。しかし、中小企業の場合は次のような課題を抱えているケースがあり、信用性が十分ではないと判断されることがあります。
- 大企業に比べると会計監査が不十分で、意図せず不適切な会計処理が行われているケースがある
- 決算書の信頼性が不確かなケースがある
- IR情報の正確性が低い
しかし、個人保証をつけることで信頼性を補完でき、信用を高めることができます。
2-2. 融資が受けやすくなる
融資が受けやすくなるのも、個人保証をつける大きなメリットといえるでしょう。
中小企業は、経営基盤が不安定な傾向があります。経営成績が思わしくない場合や設立して間もない場合などは特に、借入は困難です。
また多くの中小企業で、会社の資金不足を個人の資産で補ったり、経営者の個人的な支出に会社の財産を充てたりといった行為がなされています。つまり、法人と個人の資産がきちんと分かれていないのです。
こうした企業への融資は金融機関にとってリスクが高く、審査は厳しくなりがちです。しかし、個人保証をつけることを条件に融資が下りる場合があります。
3. 個人保証の問題点
個人保証にはメリットだけでなく、問題点もあります。金融機関などから個人保証を求められた場合は、以下で取り上げている問題点も踏まえ、十分に検討することをおすすめします。
3-1. 経営がうまくいかないときに個人の生活が犠牲になる
個人保証をつけた企業の経営が立ち行かず、債務の弁済が困難になった場合、個人保証の対象者に債務の弁済義務が生じます。返済額や対象者の資産状況にもよりますが、多くの場合、対象者は自身の預貯金や不動産等の財産を切り崩さなければならず、生活に大きな影響が生じます。
不況下などでは、過重な負担により対象者の生活が破綻し、自殺に追い込まれる事例もありました。
3-2. 事業を簡単に終わりにできない
事業からの撤退や新規事業への挑戦など、思い切った事業展開をしにくくなるのも、個人保証のデメリットです。
経営が悪化した局面でも、赤字事業からの撤退や廃業、債務整理、新規事業への挑戦などにより、経営を立て直したり、損害を最小限に食い止められる可能性があります。
しかし、経営者本人が個人保証をしている場合、経営状態の悪化は経営者の個人の財産にも影響し、個人破産のリスクもあります。そのため思い切った事業展開に踏み切れず、採算性の低い事業を継続するケースが少なくありません。
3-3. 事業承継や起業が難しくなる
個人保証は、事業承継や起業においてネックとなる場合があります。
経営者本人が個人保証の対象者になっている場合、後継者候補が個人保証も受け継ぐのが一般的です。しかし、後継者候補が難色を示し、事業承継や相続がスムーズに進まないことがあります。
個人保証の引き継ぎがとりわけ争点になりやすいのが、親族承継や社内承継です。事業を親族あるいは社員に承継したいものの個人保証が障壁となっている場合は、第三者承継(M&A)も視野に入れるといいかもしれません。
また、起業家や創業したばかりの企業は個人保証を求められがちです。しかし、これを重荷に感じる人は多く、個人保証が創業や新規事業立ち上げの妨げになっている可能性が指摘されています。
4. 「経営者保証に関するガイドライン」について
「金融機関に借入を申し込みたいけれど、個人保証はしたくない」という起業家・経営者も多いのではないでしょうか。そんな方は「経営者保証に関するガイドライン」を活用できないか検討してみるといいでしょう。
4-1. 「経営者保証に関するガイドライン」とは
「経営者保証に関するガイドライン」は、個人保証に依存しない融資の促進を目的に、全国銀行協会(全銀協)と日本商工会議所によって策定されました。
経営者保証とは、経営者本人が個人保証の対象になることです。ガイドラインは2014年2月から適用されており、活用することで個人保証を解除したり、個人保証なしで借入できたりするケースがあります。
ガイドラインは、中小企業・経営者・金融機関に共通の自主的なルールであり、法的な拘束力はありません。個人保証を求める・求めないの判断は金融機関に委ねられていますが、金融庁も積極的に推進しています。後述するガイドラインの3要件を満たしていれば、個人保証を見直せる、または個人保証なしに借入できる可能性が高くなります。
4-2. 「経営者保証に関するガイドライン」で融資はどう変わる?
「経営者保証に関するガイドライン」の適用により、中小企業は経営者本人による個人保証(経営者保証)なしでも融資を受けやすくなります。
実際、ガイドラインが適用となった2014年2月以降、政府系金融機関、民間金融機関における「経営者保証に依存しない新規融資の割合」は概ね増加しています。
特に、将来性のあるビジネスであれば、スタートアップであっても個人保証なしの融資が下りる可能性があるといえるでしょう。しかし、金融機関を納得させて融資を通すには、事業計画書をはじめ入念な準備が依然として必要です。また、個人保証の慣行そのものが禁止されたわけではないので注意しましょう。
なお、金融機関がやむを得ず経営者に個人保証を求める場合は、以下の2点の対応に努めるよう求められています。
- 個人保証が必要な理由と、解除のためにはどのような対応が必要なのかを、ていねいかつ具体的に説明する
- 適切な保証金額を設定する
4-3. 「経営者保証に関するガイドライン」を利用したい場合はどうすれば良いか
「経営者保証に関するガイドライン」にしたがって個人保証をつけずに融資を受けたい場合、次の3要件を将来にわたって満たす体制が整備されていなくてはいけません。
- 資産の所有やお金のやりとりに関して、法人と経営者が明確に区分・分離されている
- 財務基盤が強化されており、法人のみの資産や収益力で返済が可能である
- 金融機関に対し、適時適切に財務情報が開示されている
出典:中小企業庁ホームページ「経営者保証ガイドラインの3要件」
上記の3要件のすべて、あるいは一部を満たせば、経営者保証をつけずに融資を受けられる、あるいは、既についている経営者保証を解除できる可能性があります。
4-4. 「経営者保証に関するガイドライン」をさらに進めた「経営者保証改革プログラム」
「経営者保証ガイドライン」の適用以降、経営者保証なしで融資を受けられるハードルは着実に低くなってきていますが、まだ十分とはいえません。
そこで金融庁は、経営者保証に頼らない融資をすみやかに確立すべく、経済産業省、財務省と連携して「経営者保証改革プログラム」を策定しました。
経営者保証改革プログラムが重点的に取り組むのは、次の4分野とされています。
① スタートアップ・創業
- 経営者保証を要求しない新しい信用保証制度の創設
- 経営者保証を求めない制度の要件緩和 など
② 民間金融機関による融資
- 個人保証に依存した融資の抑制
- 事業者・保証人の納得感の向上 など
③ 信用保証付融資
- 経営者保証ガイドラインの3要件をクリアしている企業を対象に、経営者保証を解除する取り組みの徹底
- 3要件を満たしていない企業であっても、経営者保証の解除を選択できる制度を創設 など
④ 中小企業のガバナンス
- 経営者保証をはずすためのガバナンス体制の整備
- 官民による支援体制の構築 など
5. まとめ
個人保証は日本ならではの商慣行です。経営者本人あるいは家族・親族などが保証人となることで、会社の信用が高まる、融資のハードルが下がるというメリットがあります。
一方で、経営が傾いた場合には個人保証が足かせとなって思い切った事業展開ができなかったり、破産したりといったデメリットもあります。
政府は現在、個人保証に頼らない融資を推進していますが、個人保証という制度そのものが無くなったわけではありません。金融機関に個人保証を求められた際には、どのような対策を採るべきか専門家に相談すると良いでしょう。
個人保証は事業承継にも大きく影響します。M&Aをお考えの方は、まずはM&Aキャピタルパートーズにご相談ください。個人保証の交渉を含め、納得のできる意思決定ができるよう真摯にサポートいたします。