M&Aの会計処理方法は? 種類や会計基準、スキームによる違いを解説

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M&Aには株式譲渡、合併や吸収分割等の組織再編型といったさまざまな手法があり、M&Aの当事者である売り手、買い手、および取引対象となる対象会社に適用される会計処理も多岐にわたります。適用されたM&Aの会計処理の結果として、各当事者の損益計算書や貸借対照表に思わぬ会計インパクトが生じ、あとから問題になることもあります。
本記事では典型的なM&Aの会計処理を紹介します。M&Aの会計処理を事前に把握し、M&Aの検討に役立てましょう。

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1. M&Aの会計

M&Aの会計処理は、以下の2つの領域で必要になります。

  • 財務会計
  • 税務会計

両者には類似点も多い一方、独自の内容もあります。それぞれの詳細についてみていきましょう。

1-1. 財務会計

財務会計は、会社のステークホルダーに対し会社の経営成績や財政状態を適切に報告するための仕組みです。財務会計は、報告対象となる会社を単体またはグループとしてとらえるかにより、個別会計と連結会計に分類されます。

個別会計

すべての会社に適用される個別会計は、報告対象となる会社を単体でとらえ、その経営成績や財政状態をステークホルダーに対し報告するものです。ある会社がM&Aを実行した場合、会社単体にどのような影響を及ぼしたかという視点からM&Aの会計処理が行われます。
例えば、株式譲渡が行われた場合、買い手は株式の取得、売り手は株式の譲渡を認識するための会計処理、合併の場合は買い手と売り手の貸借対照表を合算する会計処理が行われます。

連結会計

連結会計は、報告対象となる会社を子会社や関連会社も含めたグループととらえ、そのグループとして経営成績や財政状態をステークホルダーに対し報告するものです。
連結会計は各社の個別会計の合算を基礎としますが、単体ではなくグループの視点になるため、個別会計で行われた会計処理が連結会計では消去されることもあります。
例えば、ある会社がM&Aを実行し、他の会社の株式を取得して子会社化した場合、個別会計では取得した株式を貸借対照表に計上しますが、連結会計では取得した株式は計上されず、取得した会社の資産や負債が合算されるといった形です。
合併などの組織再編型で行われるM&Aの会計処理には、連結会計と近い会計処理もみられます。

1-2. 税務会計

税務会計は、会社が納めるべき法人税等の国税や事業税等の地方税の金額を算出するために行われます。すべての会社は納税義務を負うため、税務会計もすべての会社が対象です。
税務会計は個別会計の内容を基礎としますが、個別会計では認められるものの税務会計では認められない(否認)される会計処理もあります。
税務会計は複雑な税法のルールに従い計算する必要があり、税法のルールは頻繁に変更されるため、慎重な対応が必要です。

2. M&Aにおける会計基準

連結会計には、以下のいずれかの会計基準を採用可能です

  • 日本会計基準
  • IFRS(国際財務報告基準)※日本向け修正国際基準も含む
  • 米国会計基準

M&Aの会計処理は、適用される会計基準により異なることがあります。

2-1. 日本会計基準

日本会計基準は、日本におけるすべての会社の個別会計に適用されるとともに、多くの会社の連結会計にも適用されている会計基準です。
日本会計基準は、一般に公正妥当と認められる公正な会計慣行をルール化したもので、企業会計原則や企業会計基準に集約されています。
日本経済のグローバル化に歩調を合わせ、コンバージェンスという日本会計基準を国際財務報告基準に近づけようとする大方針があり、国際財務報告基準を踏まえた改正がたびたび行われます。

2-2. IFRS(国際財務報告基準)

国際財務報告基準は、国境を超えて世界的に財務報告の比較可能性を担保することを目的に誕生した会計基準であり、2000年代にEU域内の上場企業に適用が義務付けられたことから急拡大しました。
日本でも連結会計に関して2010年3月期から日本会計基準の代わりに国際財務報告基準を適用することが認められています

2-3. 米国会計基準

米国会計基準は、米国の会社に適用されている会計基準で、日本会計基準や国際財務報告基準とは相違点もみられます。
米国会計基準は、日本の会社であっても米国の証券取引市場に上場している場合は適用が求められることから、そのような会社は、日本においても連結会計に関して米国会社基準を適用することが可能です。

3. 【手法別】M&Aの会計処理・仕訳

M&Aの会計処理は、株式譲渡や組織再編といった手法別、また、個別会計・連結会計・税務会計別にルール化されています。具体的にどのような会計処理が行われるのか、M&Aの手法別にみていきましょう。

3-1. 株式譲渡

売り手の個別会計では、譲渡された対象会社株式の消滅を認識して、譲渡対価と譲渡直前の簿価との差額があれば売却損益として処理します
【例】
売り手A社が買い手B社に対象会社株式を現金対価:100で譲渡し、その譲渡直前の簿価:15とした場合、会計処理は以下のとおりです。
売り手(A社)個別会計

借方 金額 貸方 金額
現金(譲渡対価) 100 対象会社株式 15
売却益 85

売り手の連結会計では、譲渡対価と譲渡直前の連結会計上の簿価との差額を売却損益として処理します。
【例】
譲渡直前の連結会計上の簿価:40とした場合、会計処理は以下のとおりです。連結会計上の簿価が個別会計上の簿価を上回っている分については修正が必要になります。
売り手(A社)連結会計

借方 金額 貸方 金額
売却益 30 対象会社株式 30

売り手の税務会計では、原則として個別会計と同じ会計処理を行いますが、税務会計における譲渡直前の簿価は個別会計とは異なる場合があります
買い手の個別会計、税務会計共に取得対価をもって対象会社株式を認識します。
【例】
具体的な会計処理は以下のとおりです。
買い手(B社)個別・税務会計

借方 金額 貸方 金額
対象会社株式 100 現金 100

買い手の連結会計では、買い手が対象会社を連結子会社化した場合には、取得した株式は計上されません。取得対価と対象会社の時価純資産価額に差があれば、出資比率相当分ののれん、または負ののれんを認識します。
【例】
対象会社の時価純資産価額:80とし、対象会社に買い手以外の株主はいない場合の会計処理は以下のとおりです。
買い手(B社)連結会計

借方 金額 貸方 金額
対象会社の
時価純資産価額
80 対象会社株式 100
のれん 20
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3-2. 第三者割当増資

第三者割当増資は、会社が特定の第三者に対して新株を発行し、その新株を引き受けてもらう手法です。
株式を発行した会社では、発行した新株の対価として出資金の払込みを受け、資本金に組み入れます。なお、払込総額の1/2までを資本金ではなく資本準備金に組み入れることもできます。
【例】
新株発行会社A社が総額100の新株を引受先B社に対して発行し、その払込総額の半分を資本準備金に組み入れる場合の会計処理は以下のとおりです。
新株発行会社(A社)個別会計

借方 金額 貸方 金額
現金 100 資本金 50
資本準備金 50

引受先(B社)個別会計

借方 金額 貸方 金額
A社株式 100 現金 100
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3-3. 株式交換

株式交換とは、買い手(取得企業)が別の会社(被取得企業)を完全子会社化する場合、自社株式を被取得企業の株主に交付することと引換えに被取得企業の全株式を取得するM&A手法です。
まず、完全子会社化される被取得企業においては、特段の会計処理は必要ありません。
親会社となる取得企業の個別会計では、取得した株式の総額を計上するとともに、自社株式を発行したことに伴い、株主資本の増加を認識します
【例】
取得企業A社が株式交換により被取得企業の全株式を100で取得し、完全子会社化した場合の会計処理は以下のとおりです。
取得企業・株式交換親会社(A社)個別会計

借方 金額 貸方 金額
現金 100 株主資本 100

また、親会社となる取得企業の連結会計では、完全子会社化する被取得企業の取得に関する会計処理を行います。
【例】
取得した被取得企業の資産(時価):150、負債(時価):70とした場合の会計処理は以下のとおりです。
取得企業・株式交換親会社(A社)連結会計

借方 金額 貸方 金額
被取得企業の
株主資本
(資産・負債純額)
80 被取得企業株式 100
のれん 20
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3-4. 株式移転

株式移転とは、単独または複数の会社が、新たに設立された会社に自社の株式を取得させ、その完全子会社となる組織再編取引の一つです。M&A手法としても用いることができ、買い手(取得企業)がある会社(被取得企業)を取得する際に、直接被取得企業の株式を取得する代わりに、共同で親会社を設立するというものです。
【例】
取得企業であるA社が被取得企業B社と共に株式移転親会社C社の完全子会社となる場合で、C社がA社の全株式を100、B社の全株式を20で取得し、完全子会社化した場合は以下の会計処理となります。
株式移転親会社(C社)個別会計

借方 金額 貸方 金額
A社株式 100 株主資本 120
B社株式 20

株式移転親会社C社の連結会計では、完全子会社化するA社とB社の取得に関する会計処理を行います。実際にA社がB社株式を取得するわけではないものの、会計上、買い手であるA社が取得企業、対象会社B社がA社に取得される被取得企業という扱いになります。
【例】
取得したA社の資産(簿価):150、A社の負債(簿価):50、B社の資産(時価):30、B社の負債(時価):20とした場合には以下の会計処理を行います。
株式移転親会社(C社)連結会計

借方 金額 貸方 金額
A社の株主資本
(資産・負債純額)
100 A社株式 100
B社の株主資本
(資産・負債純額)
10 B社株式 20
のれん 10

なお、取得企業A社と被取得企業B社においては、例えば新株予約権付社債を発行していた場合等を除き、会計処理は不要です。

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3-5. 事業譲渡

事業譲渡は、売り手が自社の事業を買い手に譲渡するM&A手法です。買い手または売り手における資本取引を伴わないため、資産の売却や取得に近い会計処理を行います。
対価として支払った現金と、移転事業の資産と負債の純額との差額は売り手では移転損益、買い手ではのれんとして計上します
【例】
売り手A社が買い手B社に対して、資産80(簿価)・90(時価)、負債10(簿価かつ時価)から構成される事業を現金対価100で売却した場合、会計処理は以下のとおりです。
売り手(A社)個別会計

借方 金額 貸方 金額
現金 100 資産 80
負債 10 移転損益 30

買い手(B社)個別会計

借方 金額 貸方 金額
資産 90 現金 100
のれん 20 負債 10

売り手では移転損益が、買い手ではのれんが計上されることがポイントです。売り手と買い手の間に資本関係が無い限りは連結会計の処理は不要であり、また、原則として税務会計の処理は個別会計の処理と同じです。

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3-6. 合併

合併は、買い手(取得企業)が、ある会社(被取得企業)を自社に吸収して一つの法人とするM&A手法です。具体的には、取得企業が被取得企業の株主に対して被取得企業の株主と引換えに自社の株式や現金を割り当てます。
【例】
もともとの資本関係が無い取得企業A社がA社株式を対価として被取得企業B社を対価として取得する場合、買い手の個別会計の会計処理は以下のとおりです。取得対価:100、B社の資産(時価):70、負債(時価):40とします。
取得企業(A社)個別会計

借方 金額 貸方 金額
資産 70 負債 40
のれん 70 株主資本 100

取得企業A社と被取得企業B社にもともとの資本関係が無いことから、取得企業は被取得企業の資産・負債を時価で承継します。取得対価相当額は株主資本の増加となり、それと資産・負債の純額との差額はのれんとして計上されます。
被取得企業B社は法人格が消滅しますので、仕訳を考慮する必要はありません。また税務会計の仕訳も基本的には個別会計と同様になります。

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3-7. 会社分割

会社分割は、売り手が自社の事業に関する権利義務の全部または一部を包括的に買い手に承継させるM&A手法です。事業譲渡と混同されがちですが、事業譲渡は承継対象となる権利義務を相手方との合意に基づき個別に承継するのに対して、会社分割では包括的に承継する点で異なります。
【例】
もともとの資本関係が無い売り手A社が買い手B社に対して資産(簿価):30、同(時価):60、負債(簿価・時価):10の事業を現金100を対価として会社分割により譲渡する場合、買い手の個別会計の会計処理は以下のとおりです。
なお、取引の結果、A社のB社に対する出資比率は20%(A社からみてB社はA社の持分適用関連会社)になったものと仮定します。買い手A社では、取得に準じた処理を行います。
買い手(A社)個別会計

借方 金額 貸方 金額
資産 60 負債 10
のれん 50 株主資本 100

売り手B社は、買い手A社を持分適用関連会社化することから、A社に分離した事業に対する投資が継続しているものと考えます。
売り手(B社)個別会計

借方 金額 貸方 金額
負債 10 資産 30
A社株式 20

売り手の連結会計上は、譲渡した事業の時価と株主資本(簿価)に関して減少した出資比率相当額を持分変動差額として計上します。
売り手(B社)連結会計

借方 金額 貸方 金額
A社株式 64 持分変動差額 64

※(100-20)×(100%-20%)=64

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4. M&Aの会計処理におけるのれんの扱い

M&Aの会計処理においては、のれんの取扱いも重要な事項です。のれんは、M&A取引において、買い手が支払う取得対価が取得した会社や事業の純資産額を上回る場合に発生します。具体的な内容をみていきましょう。

4-1. のれんとは

のれんは、取得対価が取得した会社や事業の時価純資産額を上回る場合、株式譲渡であれば連結会計に、組織再編型M&Aの場合には個別会計や税務会計にも計上されます。
一般的に取得対価は、対象会社の収益力に基づき決定されます。取得対価は時価純資産額と相違するのが通常であり、のれんが発生する余地は大きいです。
のれんは、対象会社の貸借対照表に計上される資産や負債の計上額だけではとらえきれない超過収益力に相当します。

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4-2. のれんの会計処理

のれんの会計処理は、適用される会計基準により、その処理方法が異なります
日本会計基準では原則として20年以内の期間において、毎期均等額を償却します。ただし、のれんが計上される対象会社や事業の将来的な収益力が損なわれたという兆候があり、実際に収益力の低下を確認できた場合には、のれんの残高を一時に取り崩し、損失に計上する減損処理が行われます。
国際財務報告基準や米国会計基準では日本会計基準と異なり、原則として、のれんの定期的な償却は行いません。一方で毎年減損テストと呼ばれる対象会社や事業の公正価値とその簿価との比較を実施し、前者が後者を下回る場合には減損を行います。減損されたのれんは、仮に将来的に業績が回復したとしても、もとに戻ることはありません。
なお、税務会計上は資産調整勘定という、のれんに類似した概念があります。資産調整勘定は、組織再編型M&Aの場合に計上され、償却期間は5年間と定められています。

5. まとめ

本記事では、M&Aの会計処理について、手法や適用される会計基準ごとに解説してきました。
M&Aの会計処理は複雑ですが、その会計インパクトを理解してM&Aを進めることが成功への近道です。そのため、M&Aの専門知識と会計知識の両方を有する専門家に伴走してもらうことが大切です。
コンサルタントの士業資格保有率が業界トップの14.8%を誇るM&Aキャピタルパートナーズでは、公認会計士や税理士、米国公認会計士等のM&A実務と会計知識に精通した専門家が、その豊富な知見を活用し、貴社のM&Aをサポートします。M&Aによる会計インパクトにも留意しつつM&Aを進めたいとお考えの方は、ぜひ一度ご相談ください。

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監修者プロフィール
M&Aキャピタルパートナーズコーポレートアドバイザリー部長 梶 博義
M&Aキャピタルパートナーズ 
コーポレートアドバイザリー部長
公認会計士梶 博義

大手監査法人、事業承継コンサルティング会社を経て、2015年に当社へ入社。
これまで、監査、IPO支援、財務DD、親族承継・役職員承継コンサル等を経験し、当社入社後はM&Aアドバイザーとして活躍。一貫して中小企業の支援に従事し、M&Aのみならず、事業承継全般を得意とする。

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