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業績不振や株主の利益を軽視する会社では、経営陣の交代や経営方針の変更を希望する株主が少なからず存在しますが、会社に対する要望を実現するためには、多くの株主から賛同を得なくてはいけません。
そこで経営陣の交代や経営方針の変更を希望するなどの不満を抱える株主が経営陣に対して仕掛けること「プロキシー・ファイト(Proxy Fight)」といいます。
今回は、プロキシー・ファイトの概要から、メリットとデメリット、株主に与える影響、具体的な事例について詳しく説明します。
このページのポイント
~プロキシー・ファイトとは?~
経営陣と株主間の権力争いで、株主が経営陣の交代や経営方針などに影響を与えようとする戦略のことをいい、株主総会における議決権を行使する権限を第三者に与える委任状の争奪戦を指す。プロキシー・ファイトは、委任状の争奪戦にまったく関係のない株主に対してもポジティブな影響を与えるが、勝利した経営陣の方針次第では、業績の低迷が予想されて株価が一気に下がる可能性もあるため、良い影響が長期的に続くとは限らない点は留意すべきである。
目次
1. プロキシー・ファイトの概要
1-1. プロキシー・ファイトとは?
プロキシー・ファイトとは、経営陣と株主間の権力争いで、株主が経営陣の交代や経営方針などに影響を与えようとする戦略のことをいいます。具体的には経営陣と株主の間で行われる委任状の争奪戦を行います。委任状とは、株主総会における議決権を行使する権限を第三者に与える書類のことです。
株式会社において、取締役の解任や合併などのM&Aの実施といった重要事項は、全株主の有する総議決権のうち一定数以上の賛成により決議されます。すなわち、株式会社で自らの要求を通すには、議決権の賛成をよりたくさん集める必要があります。
そこで経営陣に不満を抱いている株主は、他の株主からできるだけたくさんの委任状を集めることで、自らの要求を通そうとします。具体的には過半数または3分の2以上の議決権の委任状を集めることができれば、経営陣の意向とは無関係にほとんどの要求を通せるようになります。
しかし、経営陣からすると、株主による委任状集めを容認することはしません。一定数以上の委任状を集められてしまうと、経営陣は権限を失ってしまうからです。そのため経営陣は、自分たちに味方する株主から委任状を集めて、敵対する株主が一定数以上の議決権を握らないように対抗します。
つまりプロキシー・ファイトは、より多くの賛成票を集めるための争いといえます。ただし、株式会社では賛成する株主の人数ではなく「議決権の数」によって行使できる権限の強さが決まります。そのため、実務上は、多くの議決権を有する大株主や機関投資家をいかに味方につけるかが、プロキシー・ファイトで勝つ上で重要となります。
2. プロキシー・ファイトのメリットとデメリット
次にプロキシー・ファイトのメリットとデメリットを紹介します。
2-1. プロキシー・ファイトのメリット
まず、プロキシー・ファイトの主なメリットは以下のとおりです。
- 経営陣が株主利益を優先するようになる
プロキシー・ファイトの結果に関係なく、その後は株主の利益を優先した経営が行われるようになることが期待できます。プロキシー・ファイトが発生したということは、経営陣や経営方針に不満がある株主が少なからず存在することを意味します。よって経営陣からすると、株主から解任されるリスクが高いと言えるため、株主の利益を最優先せざるを得なくなることから株主にとってはメリットといえます。 - 企業価値の向上を見込める
業績不振や企業価値の低下は、経営陣に原因がある可能性があります。例えば、経営陣が過去の成功体験に執着することで、時代や消費者ニーズの変化に対応できていないケースなどが考えられます。このような経営状況の低迷を打開できる手段の一つにプロキシー・ファイトがあります。プロキシー・ファイトにより経営陣や経営方針が変われば、時代や消費者のニーズに対応することで企業価値が向上する可能性があります。 - 敵対的買収の阻止
上場企業の場合、常に敵対的買収のリスクに晒されています。仮に敵対的買収に成功されてしまうと、既存株主にも不利益が発生するおそれことがあります。
そこで敵対的買収に反対する既存株主が委任状を集めることで敵対的買収を阻止することができます。プロキシー・ファイトは経営陣との争いだけでなく、敵対的買収への防衛策としての効果もあるといえます。
2-2. プロキシー・ファイトのデメリット
次にプロキシー・ファイトの主なデメリットは以下のとおりです。
- 多大な費用や労力を費やす必要がある
プロキシー・ファイトの結果に関わらず、委任状争奪戦に勝つために多大な費用や労力を費やさなければならないことが最大のデメリットといえます。具体的なアピール方法としては、広告やプレスリリースなどの大々的に宣伝方法がありますが、多大な費用や労力が発生します。これらの費用や労力は、プロキシー・ファイトに勝ったとしても返ってくるものではありません。 - 企業の成長が停滞するリスクがある
プロキシー・ファイトで株主重視の経営に転換させることがデメリットになることがあります。なぜなら株主を重視するあまり、会社の成長を軽視した経営に陥るおそれがあるためです。例えば現経営陣のおかげで業績を伸ばした企業の場合、経営陣の交代により業績が低迷するリスクがあります。
3. 株主に与える影響
プロキシー・ファイトは、委任状の争奪戦にまったく関係のない株主にも大きな影響を与えます。それは、プロキシー・ファイトにより株価が大きく変動するためです。
プロキシー・ファイトで勝つには、より多くの委任権を株主から集めるだけでなく、議決権を有する株式を買い集める方法も有効です。実際にプロキシーファイトが発生すると、経営陣や株主は、勝つために株式を買い集めます。
また、経営陣や経営陣と争う株主が株式を買い集めていると予想した投資家も、キャピタルゲインを得る目的で株式を買い集めるため、結果的に株価は上昇する可能性が高くなります。
そのため、プロキシー・ファイトは株主に対してポジティブな影響を与えます。しかし、プロキシー・ファイトによる良い影響は長期的に続くとは限りません。それは、勝利した経営陣の方針次第では、業績の低迷が予想されて株価が一気に下がる可能性もあるためです。
4. 具体的な事例
国内企業におけるプロキシー・ファイトの有名な事例を1つ紹介します。それは大塚家具の事例です。
大塚家具の親子対立は、経営者の交代に際してプロキシー・ファイトが発生した事例です。2015年に創業者である勝久氏と、長女で社長の久美子氏が経営方針を巡って対立したことがきっかけで勃発しました。その結果、久美子氏がプロキシー・ファイトに勝利し、勝久氏は退任しました。久美子氏は新たな経営陣を擁立しましたが、業績は低迷しました。この事例から、同族経営における後継者問題やガバナンス上の問題を引き起こす場合があるため、コーポレートガバナンスの強化には、社外取締役や機関投資家の役割が重要であることが伺えます。
5. まとめ
経営陣と株主の間で行われるプロキシー・ファイトは、会社自体や株主に大きな影響を与えますが、株主の利益を重視した経営方針に移行する可能性は高いと考えられます。また、プロキシー・ファイトは、株主による経営への積極的な関与であり、企業ガバナンスの向上に寄与することが期待されますが、その過程や結果には慎重な判断が必要と考えます。