デューデリジェンス(Due Diligence)とは? M&Aでの目的・進め方と問題発見時の対応をわかりやすく解説

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デューデリジェンス(Due Diligence:DD)について

デューデリジェンス(Due Diligence:DD)とは、M&Aなどの取引に先立ち、対象会社の実態や潜在的なリスクを把握するために行われる調査です。買い手を中心に実施され、取引の判断に必要な情報を確認する目的で行われます。

M&Aでは、対象会社から開示された情報だけでは、事業や財務、契約関係などの実態を十分に把握できないことがあります。そのため、買収を進めるかどうかだけでなく、買収価格や契約条件、取引スキーム、買収後の対応を適切に判断するうえでも、デューデリジェンスが重要になります。

本記事では、デューデリジェンスの目的や調査項目、実施の流れ、費用に加え、売り手側が準備しておきたいことや、調査で問題が見つかった場合の対応について解説します。
なお、本記事の内容は一般的な解説であり、個別の状況については各種専門家にご確認ください。

監修者情報

M&Aキャピタルパートナーズ株式会社 執行役員 コーポレートアドバイザリー部長 公認会計士 梶 博義

大手監査法人、事業承継コンサルティング会社を経て、2015年に当社へ入社。 これまで、監査、IPO支援、財務DD、親族承継・役職員承継コンサル等を経験し、当社入社後はM&Aアドバイザーとして活躍。一貫して中小企業の支援に従事し、M&Aのみならず、事業承継全般を得意とする。


デューデリジェンスとは

デューデリジェンス(Due Diligence:DD)とは、M&Aなどの取引に先立ち、主に買い手が対象会社の財務・法務・税務・事業などの状況を調査し、リスクや実態を把握する手続きをいいます。日本語では「買収監査」と呼ばれることもあります。もっとも、公認会計士による法定監査とは目的や保証水準が異なり、財務諸表の適正性について監査意見を表明する手続ではありません。また、法令上実施が義務付けられているものではなく、実施の要否や範囲は当事者間の合意によって決まります。
なお、売り手側が買い手によるDDに先立って実施するセルサイドDDもあり、後述します。

デューデリジェンスの意味

デューデリジェンスは、英語で「相当の注意」を意味する言葉に由来し、取引を行う当事者が果たすべき注意義務という意味合いを持ちます。M&Aの実務では、買い手が対象会社の実態を把握し、意思決定の判断材料を得るための調査全般を指す言葉として用いられます。

M&Aにおける位置付け(企業価値評価との違い)

企業価値評価(バリュエーション)が、対象会社の事業計画や財務数値をもとに、理論上の企業価値を算定する作業であるのに対し、デューデリジェンスは、その前提となる財務数値や契約関係、法令遵守状況などが実態として正しいかどうかを調査する作業です。企業価値評価はいわば「値付けの計算」であり、デューデリジェンスは「その計算の前提が正しいかどうかの検証」という位置付けになります。両者は連動しており、デューデリジェンスで判明した事実が、企業価値評価の前提条件の見直しにつながることもあります。

M&Aでデューデリジェンスを実施する目的

デューデリジェンスを実施する目的として、主に以下のようなものが挙げられます。

それぞれについて、詳しく解説していきます。

企業価値・買収価格を正しく把握するため

企業価値評価は、基本合意の段階では、対象会社から開示された事業計画やIM(企業概要書)などの限られた情報をもとに、暫定的な試算として行われるのが通常です。デューデリジェンスによって、正常収益力(一時的な特別損益を除いた本来の収益力)や実態純資産、簿外債務・偶発債務の有無といった、より精緻な情報が判明することで、当初想定していた買収価格が妥当かどうかを再検証することができます。例えば、収益力が想定よりも低いことが判明すれば価格の減額交渉につながり、逆に開示されていなかった強みが確認できれば、当初提示額を維持する、あるいは条件面で有利に交渉を進める材料となることもあります。買い手にとっては、最終契約締結前にこの検証を行うことで、価格や取引条件を見直すだけでなく、買収そのものを継続するかどうかという意思決定を行う機会にもなります。

潜在的なリスクを把握するため

会計帳簿に表れていない簿外債務や、訴訟・紛争のリスク、許認可の欠落、重要な契約における解除条項など、公開情報だけでは把握できないリスクを洗い出します。例えば、未払残業代や社会保険の未加入といった労務上の課題、取引先との契約に付されたチェンジ・オブ・コントロール条項、あるいは主要な許認可の承継可否など、財務諸表だけでは見えてこないリスクが、デューデリジェンスを通じて明らかになることがあります。
これらのリスクは、買収後に買い手が想定外の負担を負う原因となり得るため、事前に把握しておくことが重要です。把握したリスクは、その内容や重要性に応じて、後述のとおり、価格調整や契約条件(表明保証・補償条項)への反映、取引スキームの見直し、場合によっては取引の是非そのものを判断する材料となります。

契約条件・スキームの判断材料とするため

デューデリジェンスの結果は、最終契約書における表明保証条項や補償条項の内容、あるいは株式譲渡・事業譲渡・会社分割といった取引スキームの選択にも影響します。例えば、金額として見積もることが難しいリスクが判明した場合には、価格を調整するのではなく、表明保証条項でその点についての事実を保証させたうえで、違反時の補償条項を手厚く設計するといった対応が取られることがあります。
また、簿外債務や偶発債務のリスクが高い対象会社については、対象事業や資産のみを承継できる会社分割や事業譲渡のスキームを選択することで、対象会社に残るリスクを一定程度切り分けられる場合もあります。このように、調査で判明した論点をどのように契約条件や取引スキームに反映するかは、M&Aの実務において重要な検討事項であり、各種専門家を交えた協議が必要になります。

PMI(M&A後の統合)を見据えた情報収集のため

デューデリジェンスは、買収の可否や価格を判断するためだけでなく、PMI(M&A後の統合)を円滑に進めるための情報収集としての役割も担います。例えば、組織体制や人事制度、基幹システム、主要な取引先との関係、キーパーソンとなる人材の有無などを事前に把握しておくことで、買収後にどのような統合作業が必要になるか、あらかじめ見通しを立てやすくなります。
デューデリジェンスの段階でシステムの老朽化や属人化した業務運用が判明していれば、統合に必要な期間やコストを見込んだうえで、買収後の計画を立てることができます。反対に、こうした情報を事前に把握しないまま買収を実行すると、統合段階になって想定外の負担が発生し、期待していたシナジーの実現が遅れる原因となることもあります。

デューデリジェンスの主な種類と調査項目

デューデリジェンスには、財務・税務・法務など、調査対象の分野に応じた種類があります。また、売り手側が買い手によるDDに先立って実施するセルサイドDDもあります。

それぞれについて、詳しく説明していきます。

財務DD

財務DDでは、対象会社の財務諸表の内容を調査し、収益力の実態や資産・負債の内容、簿外債務の有無などを確認します。
単に決算書の数値を確認するだけでなく、一時的な要因を除いた本来の収益力(正常収益力)や運転資本の水準、実態純資産などを確認し、買収価格や資金需要の前提に影響する論点を整理します。

財務DDで特に確認される主なリスクとしては、保証債務や、会計上十分に認識されていないリース関連債務、未払残業代、退職給付債務など、貸借対照表に計上されていない簿外債務・偶発債務の存在が挙げられます。また、売掛金の中に回収可能性の低い滞留債権が含まれていないか、棚卸資産の中に実質的に販売不能な滞留在庫が含まれていないかなど、資産の評価が実態を反映しているかどうかも重要な確認事項です。加えて、特別利益の計上や一時的な取引によって、その期だけ収益力が実態よりも高く(あるいは低く)見えてしまっているケースもあり、正常収益力を見誤ると、買収価格の前提そのものを誤ることになりかねません。関連会社との取引条件が第三者間の取引条件と乖離している場合には、収益力の実態を歪めている可能性があるため、あわせて確認が必要です。これらのリスクは、価格調整や契約条件への反映を検討する際の重要な材料となります。

財務DDの目的や具体的な進め方、分析項目、実施時のポイントについては、「財務デューデリジェンスとは?」で詳しく解説しています。

税務DD

税務DDでは、過去の税務申告内容や納税状況を確認し、追徴課税や税務否認のリスクがないかを調査します。
繰越欠損金の利用可能性や、グループ内取引・組織再編に関する税務論点なども確認し、買収後に想定外の税負担が生じないかを検討します。

税務DDで特に確認されるリスクとしては、まず、過去の税務調査での指摘事項や、申告内容に誤りがあった場合の追徴課税、加算税・延滞税などのリスクが挙げられます。関連会社との取引について、独立当事者間の取引条件と乖離した価格が用いられている場合には、移転価格税制や寄附金認定のリスクが問題となることがあります。また、繰越欠損金を保有している場合でも、支配関係が生じてから一定期間内に組織再編等を行うと、引継ぎや使用が制限される場合があるため、買収後にどの程度活用できるかを慎重に見極める必要があります。消費税の還付や、役員報酬・退職金の損金算入の適否など、細部の論点についても、買収後に否認された場合の影響を踏まえて確認することが重要です。

税務DDの目的や実施するタイミング、具体的な調査内容、進め方については、「税務デューデリジェンスとは?」で詳しく解説しています。

法務DD

法務DDでは、契約関係、株主構成、許認可、訴訟・紛争の有無、コンプライアンス上の問題などを調査します。また、株式の権利関係や重要契約の内容、M&Aを機に契約が解除・変更され得るチェンジ・オブ・コントロール条項の有無などを確認し、取引実行の可否や契約条件に反映すべきリスクを把握します。

法務DDで特に確認されるリスクとしては、まず、株式が複数の株主に分散している、名義株や所在不明株主が存在するなど、株式の権利関係が整理されていないことが挙げられます。この場合、株式譲渡の手続そのものに支障が生じる可能性があります。また、事業の継続に不可欠な許認可について、M&Aのスキームによっては買い手が自動的に承継できず、再取得の手続が必要になる場合があります。主要な取引先との契約にチェンジ・オブ・コントロール条項が付されている場合には、M&Aの実行を理由に契約が解除・変更される可能性があるため、事前の確認と対応が欠かせません。このほか、係争中の訴訟・紛争や、独占禁止法・下請法等の法令違反の有無、労働関係法令への対応状況など、労務DDと一部重なる部分もありますが、法務DDで確認すべき重要なリスクです。

法務DDの目的や主なチェック項目、実施するタイミング、具体的な進め方については、「法務デューデリジェンスとは?」で詳しく解説しています。

ビジネスDD

ビジネスDDでは、対象会社の事業内容、市場環境、競合状況、主要な取引先との関係などを調査し、事業の将来性や持続可能性を確認します。財務DDが「過去の実績」を検証するのに対し、ビジネスDDは「将来の収益力」を検証する役割を担います。

ビジネスDDで特に確認されるリスクとしては、まず、売上や利益が特定の取引先や特定の商材に大きく依存していないかという点が挙げられます。主要な取引先を失った場合に事業の収益力が大きく低下するようであれば、将来の収益力を過大に評価してしまうおそれがあります。また、市場環境や競合状況の変化により、現在の事業モデルが将来にわたって持続可能かどうかも重要な論点です。事業計画に織り込まれている売上成長率やシェア拡大の前提が、市場の実態や過去の実績と比べて楽観的すぎないかを検証することも、ビジネスDDの重要な役割です。これらの検証結果は、企業価値評価における将来キャッシュフローの前提の見直しに直結します。

ビジネスDDの目的や種類、具体的な実施手順、活用できるフレームワークについては、「ビジネスデューデリジェンスとは?」で詳しく解説しています。

労務DD

労務DDは、人事DDのうち、従業員の雇用条件や就業規則、労務トラブルの有無、社会保険の加入状況など、主に労務面を調査するものです。特にキーパーソンとなる人材の処遇や、退職金制度・未払残業代の有無など、買収後の負担につながり得る事項を確認します。

労務DDで特に確認されるリスクとしては、まず、未払残業代や社会保険の未加入・過少加入といった労務コンプライアンス上の課題が挙げられます。これらは買収後に是正を求められ、想定外の追加負担につながることがあります。また、就業規則や退職金規程の整備状況によっては、退職給付債務が決算書に十分に反映されていない場合もあり、実態としての負債を確認する必要があります。加えて、事業運営上の重要な技術やノウハウ、顧客との関係が特定のキーパーソンに依存している場合には、買収を機にその人材が離職するリスクや、離職した場合の事業への影響も、あわせて検討すべき論点です。

労務面を含む人事DDの目的や調査対象、実施の流れ、注意点については、「人事デューデリジェンスとは?」で詳しく解説しています。

ITDD

ITDDでは、基幹システムやITインフラの状況、情報セキュリティ体制などを調査します。システムの老朽化や属人化した運用がある場合、PMI(M&A後の統合)に想定以上のコストや時間を要することがあります

ITDDで特に確認されるリスクとしては、まず、基幹システムが老朽化している、あるいは特定の担当者しか運用方法を把握していない(ブラックボックス化している)ことにより、買収後の運用継続やシステム統合に支障が生じるリスクが挙げられます。また、情報セキュリティ体制が不十分な場合、情報漏洩や外部からの攻撃によるリスクを、買収後に買い手側が引き継ぐことになります。使用しているシステムのライセンス契約が、M&Aに伴って買い手側に承継できるかどうかも、確認しておくべき論点です。これらのリスクが大きい場合には、買収後のPMI計画において、システム統合のための追加的な予算や期間をあらかじめ見込んでおく必要があります。

ITDDの必要性や具体的な調査項目、進め方、実施時の注意点については、「ITデューデリジェンスとは?」で詳しく解説しています。

セルサイドDD(売り手側が実施するDD)

上記の調査分野とは別に、売り手側が事前に自社の状況を把握するために実施するセルサイドDD(ベンダーデューデリジェンス)があります。セルサイドDDとは、売り手側があらかじめ自ら、または依頼した専門家を通じて実施しておくデューデリジェンスをいい、財務・税務・法務・労務などの論点を事前に整理し、円滑な情報開示や交渉に備えるために行われるものです。財務DDからITDDまでが「調査分野」による分類であるのに対し、セルサイドDDは「実施主体」による分類であり、両者は並列の関係にはありません。買い手によるDDに先立って自社の状況を把握しておくことで、後述する事前準備や、DDで問題が見つかった場合の対応を、余裕をもって進めやすくなります。

セルサイドDD(ベンダーデューデリジェンス)の目的や具体的な実施項目、進め方、注意点については、「ベンダーデューデリジェンスとは?」で詳しく解説しています。

デューデリジェンスの実施タイミングと流れ

ここではデューデリジェンスの実施タイミングと、開始から完了までの主な流れを、時系列に沿って説明します。

基本合意後に実施される理由

デューデリジェンスは、一般に、買い手と売り手が基本的な取引条件について合意した基本合意契約の締結後に実施されます。基本合意契約の締結前の段階では、対象会社や取引条件について、買い手候補との間でまだ十分な信頼関係や取引の実現可能性が確立されていないことが少なくありません。
デューデリジェンスには、対象会社の内部情報の開示や、経営陣・役職員へのヒアリングなど、相応の負担と情報開示リスクを伴うため、ある程度取引の実現可能性が見えた段階で実施するのが一般的です。もっとも、案件の状況によっては、基本合意に先立って、財務・税務など一部の分野に絞った簡易的な調査が行われる場合もあります。

デューデリジェンスの主な流れ

基本合意契約の締結後、デューデリジェンスは主に以下の流れで進みます。対象会社の規模や案件の性質によって多少前後することはありますが、大まかな時系列は共通しています。

  1. 資料開示
  2. 質問対応(Q&A)
  3. 経営陣・役職員へのヒアリング
  4. 現地確認
  5. 報告書の作成

Step1.資料開示

基本合意契約の締結後、まず買い手が要求する資料リストに基づき、売り手が財務資料や契約書等を開示します。開示を求められる資料は、決算書や税務申告書、主要な契約書、株主名簿など多岐にわたるため、売り手側であらかじめ準備しておくことで、その後の工程を円滑に進めやすくなります。

Step2.質問対応(Q&A)

開示された資料をもとに、買い手側の専門家が質問事項を整理し、売り手側が回答します。資料開示と並行して、複数回にわたりやり取りが行われるのが一般的で、当初の開示資料だけでは判明しなかった論点が、このやり取りの中で明らかになることもあります。

Step3.経営陣・役職員へのヒアリング

資料開示やQ&Aを通じてある程度論点が整理された段階で、必要に応じて経営陣や主要な役職員へのインタビューを実施します。書面上の資料だけでは把握しきれない経営方針や、事業運営上の実態を確認する目的で行われます。

Step4.現地確認

ヒアリングと前後して、工場や店舗などの現地確認を行う場合もあります。設備の状況や在庫の管理状況など、資料だけでは確認しづらい実態を、現地で直接確認する機会となります。

Step5.報告書の作成

これまでの調査結果を踏まえ、各分野の専門家が最終的な報告書としてまとめ、買い手に報告します。この報告書の内容が、最終契約における表明保証条項や補償条項の設計、価格調整の要否などの交渉材料として用いられます

デューデリジェンスに要する期間は、対象会社の規模や調査範囲によって異なります。調査範囲を財務・税務など一部の分野に絞った場合は数週間程度で実施されることもありますが、法務・ビジネス・労務・ITなど複数の分野にまたがって実施する場合や、対象会社の拠点・子会社が多い場合、資料の整備状況が十分でない場合には、1~2か月程度、またはそれ以上を要することもあります。取引全体のスケジュールを検討する際は、こうしたデューデリジェンスに要する期間もあらかじめ考慮しておくことが望まれます。

デューデリジェンスの費用相場と調査範囲の考え方

次にデューデリジェンスの費用相場と調査範囲の考え方について解説します。

費用相場の目安

デューデリジェンスの費用は、対象会社の規模や業種、拠点数、子会社の有無、調査分野、依頼する専門家の関与度、資料の整備状況などによって大きく変動するため、公的な一律の相場として示せるものではありません。費用は、突き詰めれば「どこまでの範囲を、どの程度の深度で調査するか」によって決まるものであり、金額だけを単独で捉えるのではなく、調査範囲とあわせて理解しておくことが重要です。
あえて目安を示すと、中小企業のM&Aでは、財務・税務DDに絞って簡易的に実施する場合には数十万円程度からとなることもありますが、法務DDやビジネスDD、労務DD、ITDDなどを含めて調査範囲が広がる場合には、100万円を超えることもあります。いずれもあくまで目安であり、実際の費用は個別の見積りによって確認する必要があります。

企業規模・調査範囲による違い

デューデリジェンスの費用を左右する要素は、大きく「対象会社の規模」と「調査範囲」の2つに分けられます。対象会社の事業規模が大きく、拠点や子会社が多い場合には、確認すべき資料や関係者が増えるため、必要な工数が増え、費用も高くなる傾向があります。また、調査対象とする分野(財務・税務・法務・ビジネス・労務・IT等)が広がるほど、関与する専門家の数や作業時間が増えるため、費用は積み上がっていきます。
逆に、対象会社の規模が小さく、財務DDや税務DDなど一部の分野に絞って実施する場合には、費用を抑えることができます。このように、費用は調査範囲と表裏一体の関係にあるため、見積りを比較する際は、金額だけでなく、どこまでの範囲が含まれているかをあわせて確認する必要があります。

費用を抑える際の注意点

デューデリジェンスの費用を抑えるために調査範囲を過度に絞り込むと、重要なリスクを見落とす可能性があります。特に、対象会社の事業内容やリスクの所在によっては、財務・税務以外の分野(法務、労務、ITの状況等)が取引の成否に大きく影響することもあります。デューデリジェンスの費用を抑えられたとしても、買収後になって見落としていたリスクが顕在化すれば、その対応にデューデリジェンス費用を上回るコストや時間を要することもあり、結果として安さを優先したことが割高な選択になってしまう場合もあります。費用と調査範囲のバランスは、単に金額の多寡だけで判断するのではなく、対象会社の特性やM&Aの目的、想定されるリスクの所在を踏まえて、専門家と相談しながら検討することが重要です

売り手がデューデリジェンス前に準備しておきたいこと

デューデリジェンスへの対応は、問題を隠すことではなく、適切な情報開示を行うための事前準備と捉えることが重要です。売り手が準備しておきたい主な事項は、次のとおりです。

それぞれについて、解説します。

開示資料の整理

デューデリジェンスでは、過去数期分の決算書、税務申告書、勘定科目内訳書、主要な契約書、株主名簿、許認可証など、多岐にわたる資料の開示を求められます。これらの資料をあらかじめ整理しておくことで、デューデリジェンスをスムーズに進めることができます。

契約書の確認

取引先との契約書に、M&Aを実行することで契約が解除・変更され得る条項(チェンジ・オブ・コントロール条項)が含まれていないかを、事前に確認しておくことが重要です。該当する契約がある場合には、取引先への事前説明や同意取得の要否についても、早めに検討しておく必要があります。

税務・労務上の整理

未払残業代や社会保険の未加入といった労務上の課題、あるいは税務申告上の未解決論点がある場合には、あらかじめ状況を把握し、可能な範囲で整理しておくことが望まれます。こうした課題を事前に把握しておくことで、デューデリジェンスの過程で慌てず、適切な説明ができるようになります。

説明できる状態に整えておくこと

デューデリジェンスにおいて重要なのは、問題を隠すことではなく、把握している事実を正確に説明できる状態を整えておくことです。問題があること自体よりも、それを把握していない、あるいは十分な説明ができないことの方が、買い手の信頼を損ない、交渉に悪影響を及ぼす場合があります。前述のセルサイドDDを活用し、事前に自社の状況を客観的に把握しておくことも有効な方法の一つです。

デューデリジェンスで問題が見つかった場合の対応

デューデリジェンスで問題が判明した場合の対応は、問題の内容や重要性に応じて、主に次のようなケースに分かれます。

それぞれについて、解説します。

価格調整につながるケース

デューデリジェンスによって、正常収益力が想定より低い、運転資本が不足している、簿外債務があるといった事実が判明した場合には、企業価値評価や株式価値の前提が見直され、買収価格の減額交渉につながることがあります。金額として一定程度見積もることができる論点は、価格調整により経済的に反映される場合があります。

契約条件(表明保証・補償条項)に反映されるケース

問題の内容によっては、金額として一義的に見積もることが難しい場合もあります。こうした場合には、価格そのものを調整するのではなく、最終契約書における表明保証条項(対象会社の状況について、売り手が一定の事実を保証する条項)や、補償条項(表明保証違反等が判明した場合に、売り手が買い手に生じた損害を補償する条項)に反映させる形で対応することがあります。

売り手側にとっても、デューデリジェンスの過程で買い手がどのようなリスクを認識しているのかを確認し、表明保証や補償の範囲・期間・上限が過度に広くならないよう、各種専門家と相談しながら交渉することが重要です。

M&Aが中止となるケース

デューデリジェンスの結果、対象会社の存続そのものに関わる重大な問題(重要な許認可の欠落、多額の簿外債務、粉飾の疑い等)が判明した場合には、価格調整や契約条件の見直しでは対応しきれず、取引自体が中止(いわゆる「ブレイク」)となることもあります。もっとも、デューデリジェンスで問題が見つかったからといって、直ちにM&Aが中止になるとは限りません。問題の内容や重要性に応じて、価格調整や契約条件への反映により対応が検討される場合があります。

デューデリジェンスを実施する際の注意点

最後にデューデリジェンスを実施する際の買い手側と売り手側の注意点は主に以下のとおりです。

それぞれについて、詳しく解説します。

調査の目的・範囲を明確にする(買い手側)

デューデリジェンスを実施する前に、何を明らかにしたいのか、どこまでの範囲を調査するのかを明確にしておくことが重要です。目的や範囲が曖昧なまま調査を進めると、重要な論点を見落としたり、必要以上に時間や費用がかかったりする可能性があります。対象会社の規模、業種、取引スキーム、想定されるリスクに応じて、財務・税務・法務・労務・ITなど、どの分野をどの深度で確認するかを整理しておく必要があります。

専門家を適切に活用する(買い手側)

デューデリジェンスは、財務・税務・法務など専門性の高い分野にまたがるため、公認会計士、税理士、弁護士など、各種専門家の活用が有効です。M&Aの実務経験がある専門家に依頼することで、単なる事実確認にとどまらず、価格調整や契約条件への反映、取引スキームの見直しなど、実務上の判断材料として活用しやすくなります。なお、デューデリジェンスは当事者の意思決定に大きく関わる手続であるため、必要に応じてM&A仲介者とは役割を分け、独立した専門家に確認を依頼することも重要です。

誠実な対応を心がける(売り手側)

売り手側は、開示すべき情報を誠実に開示し、把握している事実を正確に説明することが重要です。重要情報を隠したり、説明が二転三転したりすると、買い手との信頼関係を損ない、交渉全体に悪影響を及ぼす可能性があります。問題がある場合でも、早い段階で状況を整理し、専門家と相談しながら説明方針を検討しておくことが望ましいでしょう。

情報管理を徹底する(買い手側・売り手側共通)

デューデリジェンスの過程では、対象会社の財務情報、契約情報、従業員情報、取引先情報など、重要な内部情報が開示されます。買い手・売り手双方において、秘密保持契約(NDA)の内容を遵守し、閲覧権限や資料の共有範囲を適切に管理することが重要です。情報管理が不十分な場合、取引先・従業員への情報漏えいや、M&A交渉そのものへの悪影響が生じる可能性があります。

よくある誤解と失敗例を知っておく(買い手側・売り手側共通)

デューデリジェンスをめぐっては、実務上、次のような誤解がよく見られます。

「デューデリジェンスを実施すれば、すべてのリスクを把握できる」という誤解
デューデリジェンスは、限られた期間の中で、開示された資料と関係者の説明をもとに、重要性の高い項目を中心に確認していく調査です。すべてのリスクを網羅的に検出することを保証するものではないため、調査で拾いきれない部分は表明保証条項や補償条項によって手当てするという発想があわせて必要になります。
「報告書を受け取れば完了」という誤解
デューデリジェンスの価値は、問題を発見したこと自体ではなく、その結果を買収価格や契約条件、買収後の対応計画へどう反映するかにあります。報告書の指摘事項を交渉や契約書へ落とし込まないまま最終契約に進んでしまうと、調査に費やした費用と時間が活かされません。
「問題が見つかれば、価格が下がるか破談になるかのどちらかだ」という誤解
実務では、是正措置の完了をクロージングの前提条件として設定する、補償の上限や期間を個別に調整するなど、価格以外の形で反映されることも少なくありません。

失敗例として多いのは、売り手側で資料の整理が追いつかず、調査期間が延びて交渉の勢いが失われてしまうケースや、買い手が自社の買収目的と切り離して調査を外注してしまい、一般的な指摘が並ぶだけで意思決定に使えない報告書となってしまうケースです。いずれも、事前準備と調査目的の共有によって避けられる部分が大きい論点といえます。

まとめ

今回はデューデリジェンスについて説明しました。

デューデリジェンスは、単にリスクを発見するための調査ではなく、企業価値評価の前提を検証し、買収価格や契約条件、取引スキームの判断材料を得るための重要な工程です。調査によって問題が見つかった場合も、直ちにM&Aが中止になるわけではなく、問題の内容に応じた対応が検討されます。デューデリジェンスへの向き合い方は、M&Aの成否そのものを左右する重要な要素の一つです

これからM&Aを検討する立場によって、意識しておきたいポイントは異なります。買収を検討している場合は、調査の目的や範囲を曖昧にしないこと、そして調査結果をどのように買収価格や契約条件に反映させるかをあらかじめ想定しておくことが重要です。会社の売却や事業承継を検討している場合は、デューデリジェンスを「乗り越えるべき審査」ではなく、自社の実態を客観的に把握し、買い手に誠実に説明するための機会として捉えることが、円滑な交渉につながります。

いずれの立場であっても、デューデリジェンスは自社だけで判断しきれる領域ではありません。財務・税務・法務など専門性の高い分野にまたがるからこそ、早い段階から公認会計士、税理士、弁護士などの各種専門家に相談し、自社の状況に応じた調査範囲や進め方を一緒に検討していくことをおすすめします。



よくある質問

  • デューデリジェンスを省略してもよいケースはありますか?
  • デューデリジェンスの実施は法令上義務付けられているものではなく、当事者間の合意によって範囲や要否が決まります。もっとも、対象会社の実態を把握しないまま取引を実行することは、想定外のリスクを抱えるおそれがあるため、少なくとも財務・税務など基本的な分野については、規模を問わず実施することが望ましいとされています。小規模な取引であっても、調査範囲を絞った簡易的なデューデリジェンスを実施するケースがあります。
  • デューデリジェンスはいつ実施されますか?
  • デューデリジェンスは、一般に、買い手と売り手が基本的な取引条件について合意した基本合意契約の締結後に実施されます。基本合意契約の締結前の段階では、対象会社や取引条件について十分な信頼関係や取引の実現可能性が確立されていないことも多く、対象会社の内部情報の開示や経営陣・役職員へのヒアリングなど相応の負担と情報開示リスクを伴うため、取引の実現可能性がある程度見えた段階で実施するのが一般的です。もっとも、案件の状況によっては、基本合意に先立って財務・税務など一部の分野に絞った簡易的な調査が行われる場合もあります。
  • デューデリジェンスの費用はどのくらいかかりますか?
  • デューデリジェンスの費用は、対象会社の規模や業種、拠点数、子会社の有無、調査分野、依頼する専門家の関与度、資料の整備状況などによって大きく異なります。中小企業のM&Aでは、財務・税務DDに絞って簡易的に実施する場合は数十万円程度からとなることもありますが、法務DDやビジネスDD、労務DD、ITDDなどを含めて調査範囲が広がる場合には100万円を超えることもあります。いずれもあくまで目安であり、実際の費用は個別の見積りによって確認する必要があります。
  • 売り手はどこまで情報開示すべきですか?
  • 買い手が求める資料リストや質問事項に応じて、把握している事実を誠実に開示することが基本です。開示範囲については、秘密保持契約の内容や、開示によって事業に影響が生じる可能性のある機微情報の取扱いなどを踏まえ、専門家と相談しながら判断することをおすすめします。なお、重要な情報を意図的に隠すと、最終契約上の表明保証違反や補償請求、信頼関係の毀損につながる可能性があるため注意が必要です。
  • デューデリジェンスで問題が見つかった場合、必ず破談になりますか?
  • 必ずしも破談になるとは限りません。デューデリジェンスで判明した問題は、その内容や重要性に応じて、買収価格の調整や、表明保証・補償条項への反映といった形で対応が検討される場合があります。取引の中止に至るのは、対象会社の存続に関わるような重大な問題が判明した場合など、限られたケースです。
  • デューデリジェンスと企業価値評価の違いは何ですか?
  • 企業価値評価は、事業計画や財務数値をもとに対象会社の理論上の価値を算定する作業であるのに対し、デューデリジェンスは、その前提となる財務数値や契約関係、法令遵守状況等が実態として正しいかどうかを調査する作業です。両者は連動しており、デューデリジェンスで判明した事実が、企業価値評価の前提の見直しにつながることもあります。
  • 小規模M&Aでもデューデリジェンスは必要ですか?
  • 小規模なM&Aであっても、デューデリジェンスを実施する意義はあります。もっとも、対象会社の規模や取引の内容に応じて、調査範囲を財務・税務など基本的な分野に絞るなど、費用や期間とのバランスを踏まえた実務的な対応が取られることが一般的です。

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