更新日
M&Aや業務提携により、複数の会社が強みを持ち寄ることで生まれる相乗効果のことを「シナジー効果」といいます。シナジー効果の創出には、売上向上やコスト削減、新規市場の開拓など、多くのメリットがあります。単独では解決できない課題を解決することも可能になるでしょう。
本記事では、シナジー効果の基本的な考え方や種類を紹介したうえで、効果的に生み出す方法や注意点などについても解説していきます。成功事例も取り上げているので、ぜひ参考にしてください。
このページのポイント
~シナジーとは?~
シナジー効果とは、M&Aや業務提携により企業の成長を加速させる相乗効果のことです。本記事では、シナジー効果の意味や種類、具体例、生み出す方法、注意点について解説します。さらに、成功事例を紹介し、企業価値を高めるための戦略をわかりやすく説明します。
関連タグ
- #M&A
- #M&A関連記事
- #M&A基礎知識
- #シナジーとは?
~その他 M&Aについて~
目次
シナジーとは
はじめに、シナジーとはどのようなものかを明確にしたうえで、シナジーの反対語として使われているアナジーについても解説します。
シナジーとは「相乗効果」のこと
シナジー効果は、日本語で「相乗効果」という意味の言葉です。
それぞれが単独で活動している状態よりも、協力して行ったほうが効果を高められる状態のことで、1+1が2以上の効果があるときに「シナジー効果が働いている」といえます。
企業間で協力することだけでなく、部署間の協力でもシナジー効果を得ることは可能です。また、片方だけが利益を得られる状態は、シナジー効果とはいえません。すべての関係者にメリットがあり、2つ以上のものが合わさることで効果が高まることが必要です。
シナジーの反対語とは
シナジー効果の「シナジー」の反対語は、「アナジー」です。
相乗効果の逆の意味であり、企業同士が協力することでデメリットが増える状態を指します。マイナスシナジー、ネガティブシナジー、負のシナジー、ディスシナジーと呼ぶこともあります。
例えば、2つの事業それぞれの価値を10としたときに、協業や統合によって20以上の価値になれば、シナジー効果があるといえます。反対に、協業や統合によって20よりも価値が減ってしまった状態が「アナジー」です。
ビジネスにおけるシナジーの種類

ここでは、ビジネスにおける3つのシナジーを解説します。シナジーを分類することで、その効果がわかりやすくなるでしょう。
事業シナジー
事業シナジーは、複数の事業者が協力して事業を行うことで得られるシナジー効果です。重複している部門を統合したり、見直したりすることで実現するコスト削減が事業シナジーにあたります。
例えば、事業規模を拡大することで大量仕入れが可能となり、さらに配送部門も統一できるため、コスト削減につながるでしょう。
また、一回の生産量を増やして効率化することによるコスト削減など、スケールメリットも得られます。収益や利益が増加するだけでなく、経営の効率化にもつながり、競合他社よりも優位に立つなど、成長性や持続性に向けた好循環を生み出すことが可能です。
複数の事業者で協力して人材の獲得・活用をすることもでき、能力が高い人材の確保にも役立ちます。その結果、生産性が向上し、業績アップにもつながります。
財務シナジー
財務シナジーは、M&Aなど、事業を合併することでお金や税金に関して得られるシナジー効果です。
複数の企業が合併することで余剰資金が活用しやすくなり、新規事業や人材の確保といった、企業の成長につながる戦略に役立てられます。
また、M&Aにおいて、繰越欠損金などの債務を引き継ぐことにより、黒字の幅を削減する効果も期待できるでしょう。黒字幅の削減によって課税対象額が少なくなるため、節税効果があります。
組織シナジー
組織シナジーは、企業同士が互いに協力して活動することで得られるシナジー効果です。
いわゆる「チームワーク」のことで、協力し合うことで生産性向上につながります。具体的には、業務効率化や社員のモチベーションアップなどの効果が期待できるでしょう。
他者と協力することにより、個人同士が切磋琢磨する環境が生まれ、スキルアップすることで効率よく利益を生み出すことが可能になります。また、従業員の向上心も高まり、モチベーションの維持にも役立ちます。
シナジー効果を生み出す方法
シナジー効果を生み出すためには、いくつかの方法があります。そのなかでも代表的かつもっとも効率的な方法が、以下の4つです。
それぞれ見ていきましょう。
M&A(買収・合併)
M&A(Mergers and Acquisitions:買収・合併)は、シナジー効果を得るための代表的な手法の一つです。企業同士がリソースを統合することで、業務の効率化や、市場シェアの拡大が可能となります。
例えば、売り手企業の技術やブランドを活用することで自社の弱点を補強したり、顧客基盤や販売ネットワークを共有することで新たな市場への参入が容易になったりといったことが挙げられます。
ただし、M&Aによるシナジー効果を最大限に引き出すには、売り手と買い手の適切なマッチングが不可欠です。相手企業の選択を誤ると、期待していたシナジー効果を得られないこともあります。そのため、M&Aを成功させるには、専門家のアドバイスを受けながら慎重に相手企業を選定することが重要です。
業務提携
業務提携とは、異なる事業を行っている企業同士が協力し、双方の経営課題の解決を目指す手法です。お互いの強みを活かし、弱みを補完することでシナジー効果が生まれ、単独では困難な目的も達成可能になります。
シナジー効果が生まれやすい業務提携には、「販売提携」と「技術提携」があります。
販売提携とは、商品の販売を提携先に委託することで、販売網を持たない企業が効率的に生産と市場開拓を進められる手法です。例えば、小規模メーカーが大手流通企業と提携すれば、一気に市場シェアを拡大することが可能になるでしょう。
技術提携は、技術や特許を他社と共有し、技術開発だけでなく、販売や製造にも協力して取り組む手法です。新技術の共同開発や製品の改良が進めやすくなり、生産性向上やコスト削減、新たな技術・商品の開発につながるなど、競争力の強化が期待できます。
業務提携はM&Aとは異なり、資本関係を伴わずに協力関係を築けるため、リスクを抑えながらシナジーを得られる手段として、多くの企業に採用されています。
多角化戦略
多角化戦略とは、既存事業の枠を越え、新たな分野への進出を目指す経営戦略です。既存事業と新規事業で設備やノウハウを共有することによるシナジー効果が期待できます。
多角化戦略は、主に次の4種類に分けられます。
水平型多角化戦略
水平型多角化戦略とは、既存事業と関連性のある市場へ進出する多角化戦略です。企業が既に持つ技術やブランド力を活かしながら、新たな分野での事業展開を図ります。
例えば、食品メーカーが健康食品市場に進出するケースが挙げられます。既存の製造技術や販売ネットワークを活用できるため、新市場への参入コストを抑えつつ、比較的短期間で事業を軌道に乗せることが可能です。そのため、多角化戦略のなかでも広く行われている手法です。
垂直型多角化戦略
垂直型多角化戦略とは、既存事業のサプライチェーンの上流(原材料調達)や下流(販売・小売)に進出する多角化戦略です。この戦略を採用することで、コスト削減や品質管理の強化を図り、事業の安定性を高めることが可能となります。
例えば、メーカーが原材料の調達事業に参入したり、自社製品を販売する小売業に進出したりするケースが該当します。自社の事業領域を拡張することで、流通コストの削減や供給の安定化を実現できるほか、事業間のシナジー効果も期待することが可能です。
一方で、同一業界内で事業を展開するため、市場全体の不況や需要の低迷が企業の業績に大きな影響を与えるリスクもあります。そのため、垂直型多角化を進める際には、業界の動向を慎重に分析し、リスク管理を徹底することが重要です。
集中型多角化戦略
集中型多角化戦略とは、自社の強みである既存の技術や資産を活用し、同一市場内で新たな製品やサービスを展開する多角化戦略です。既存事業との関連性が高いため、スムーズな事業拡大が可能となります。
例えば、大人向けの服飾雑貨を販売しているアパレルメーカーが、幼児向けの服の取扱いを始めるケースが該当します。市場は同じでもターゲット層が異なるため、新たな顧客層を獲得しつつ、ブランドの認知度や販売機会の拡大につなげることが可能です。
また、既存のノウハウやリソースを活用することで、新規事業の展開コストを抑えながら効率的に成長できるほか、相乗効果によって既存事業の売上向上も期待できます。そのため、比較的低リスクで収益基盤を強化できる多角化戦略とされています。
集成型多角化戦略
集成型多角化戦略とは、既存事業と無関係な新分野に進出し、収益源を多様化する多角化戦略です。
例えば、製造業が金融や保険などの異業種に進出するケースが挙げられます。既存事業とは異なる収益モデルを持つ分野に参入することで、特定市場の景気変動による影響を軽減できるため、企業全体の収益基盤を強化することが可能です。
ただし、新規分野への進出には高額な投資コストがかかるうえ、専門知識が不足していると競争力を確保するのが難しいという課題もあります。そのため、成功するためには事前の市場調査や、適切なパートナーとの提携が欠かせません。
グループ一体経営
グループ一体経営とは、複数のグループ企業間で人材・情報・資源を共有し、経営の効率化を図る手法です。個々の企業が独立性を保ちつつも、連携を深めることで、シナジー効果の創出が可能です。
例えば、物流システムやITインフラを共有し、運用コストを抑えるケースなどが挙げられます。また、金融業界でもグループ一体経営が広く採用されており、銀行・証券・保険会社などが連携してサービスを提供することで、顧客満足度の向上や事業拡大につなげています。
さらに、グループ間の連携を強化することで、共通のニーズを持つ顧客に対して別の商品やサービスを訴求できる点もメリットです。
シナジー効果の具体例
シナジー効果にはさまざまなものがあります。ここでは、そのなかでも特に代表的なものを4つ紹介します。
生産性向上による企業価値向上
M&Aによって売り手と買い手のリソースが統合されることで、業務プロセスの見直し・最適化が進み、作業や業務効率が向上します。
例えば、両社が共通のITシステムや生産設備を活用することで、業務の自動化が進み、時間や労力を削減しながら稼働率を高めることが可能です。これにより、組織全体のパフォーマンスが向上し、コスト削減や利益の最大化が実現しやすくなります。
生産性向上によって生まれた余剰時間やリソースを他の事業に充てれば、さらなる競争力強化にもつながるでしょう。
市場競争力の向上・新市場への参入
M&Aによって両社の顧客基盤が共有されれば、新たな客層にリーチし、売上高が増加する可能性があります。業界や地域が異なる企業同士のM&Aでは、このシナジー効果が特に期待できるでしょう。
また、商品やサービスを相互に補完し、ラインナップを拡充すれば、販売機会の増加にもつながります。例えば、買い手企業の営業ネットワークを活用すれば、既存の販路に新しい製品を投入し、迅速に市場を拡大することが可能です。
さらに、ブランド価値や信頼性の向上も期待できます。大手企業の傘下に入ると、取引先や消費者からの支持を得やすくなるため、競争力の強化につながります。
リソースの統合・組織規模拡大によるコストの削減
M&Aによる業務効率化で、不要な経費やコストを削減できれば、利益率の向上にもつながります。
例えば、共通の設備や技術を活用すれば、運用コストを抑えることが可能です。また、組織規模を拡大すれば、大量の原材料を一括仕入れできるようになり、スケールメリットによる調達コストの削減が可能です。
加えて、重複する部門を統合するなどして組織のスリム化が進めば、さらなるコストカットにつながり、より効率的な経営が可能になります。
ノウハウの共有による技術力向上
売り手と買い手が持つノウハウを共有し、融合させることで、新たな技術や価値の創出が可能です。
例えば、高い技術力を持つ売り手企業と、市場開拓に強みを持つ買い手企業のノウハウを組み合わせることで、より優れた商品を、より多くのユーザーに届けられるでしょう。その他にも、新たなノウハウによって従来の商品を改良したり、新商品を生み出したり、新規市場に挑戦したりと、さまざまな可能性が広がります。
また、こうしたノウハウの共有は、社員同士のスキルアップや意識改革も促します。その結果、組織全体の成長や、競争力の強化にもつながるでしょう。
シナジー効果を目指す際の注意点
シナジー効果を効率よく創出するためには、いくつかの点に注意しなければなりません。以下では、そのなかでも特に重要な2つの注意点を紹介します。
人材の流出が生じるリスクがある
シナジー効果をめざしてM&Aや業務提携を進める際には、人材の流出リスクに十分注意しなければなりません。統合後の環境変化に従業員が不安を感じた場合、離職につながる可能性があるためです。
例えば、業務提携に伴う組織変更や業務の見直しによって、従業員が将来のキャリアに対する不安を感じることがあります。特に、経営方針や企業文化の違いから摩擦が生まれた場合、優秀な人材が他社に流出するリスクが高まってしまいます。
こうした事態を防ぐためには、適切な情報共有や、従業員とのコミュニケーションを徹底することが重要です。M&Aや提携の目的を明確に説明し、従業員の役割やキャリアパスを明確にすることで、不安を軽減することができるでしょう。
また、新しい経営体制において、従業員が将来的にどのようなポジションで活躍できるのかを示せば、モチベーションの維持にもつながります。
顧客離れが生じる場合がある
シナジー効果をめざした取り組みにより、顧客が離れてしまう可能性があります。特に、M&Aによって経営母体が変わったり、ブランドイメージが変化したりすると、顧客の信頼が損なわれることが懸念されます。また、料金体系やサービス内容を変更してしまえば、既存顧客の不満を招きかねません。
こうした事態を防ぐためには、取り組みの前後で顧客に向けた丁寧な説明を行い、安心感を与えることが重要です。これらの対応を迅速かつ柔軟に行えば、顧客離れを最小限に抑えることが可能です。
また、顧客の意見やフィードバックを積極的に取り入れ、改善施策を実施すれば、信頼の維持につながります。サービスの品質向上やアフターサポートの充実を図れば、むしろシナジー効果を活かした顧客満足度の向上が期待できます。
シナジー効果を生み出すためのポイント
シナジー効果を生み出すためには、業務提携やM&Aなどの方法で、相手企業との協力体制を築くことが重要です。しかし、すべての企業には独自の企業文化や経営方針があるため、お互いに理解し合わなければ、期待するシナジー効果を得ることは難しいでしょう。
こうした課題を克服し、シナジー効果を最大化するためには、M&A成立後の統合プロセスであるPMI(Post Merger Integration)を徹底的に実施することが不可欠です。
PMIは、統合の阻害要因を把握し、双方の企業風土も踏まえ、緻密な計画を立てたうえで実行に移しましょう。PMIがスムーズに進めば、期待どおりのシナジー効果が生まれ、競争力や企業価値の向上が期待できます。
シナジー効果による成功事例
最後に、シナジー効果の創出に成功した具体例として、3つの事例を紹介します。
オイシックスによるらでぃっしゅぼーやの合併
2018年2月、オイシックス・ラ・大地株式会社は、らでぃっしゅぼーや株式会社を買収・合併し、有機野菜宅配業界の最大手となりました。これにより、オイシックスは「Oisix」「大地を守る会」「らでぃっしゅぼーや」の3ブランドを展開することになり、食品宅配市場での地位を確立しています。
この合併のシナジー効果は、業績にも大きく表れています。2019年3月期第1四半期決算では、らでぃっしゅぼーやの業績加算と新規会員の増加により、前年同期比176%の売上高を記録しました。営業利益も4.7億円増加し、M&Aの成功事例として注目されています。
東レとユニクロの業務提携
2006年、株式会社ユニクロと、東レ株式会は業務提携を締結し、技術と商品開発を共同で進めることになりました。
この業務提携の結果、ユニクロの製品企画力と東レの先端素材開発力が組み合わさり、高機能かつ高品質な衣料品が生み出されています。この提携の代表的な成果として、ヒートテックやウルトラライトダウンなどの革新的な製品が挙げられます。
両社は現在もパートナーシップを維持しており、グローバル市場での競争力を強化し続けています。
LIXILによるグループ一体経営
LIXILグループは、複数のブランドや地域にまたがる事業を統合し、グループ一体経営を推進しています。事業の効率化や経営のスピード向上を目的とし、組織の最適化を図ってきました。
2012年には、子会社105社の会計システムを統合し、経営管理の迅速化と業務効率の向上を実現しました。さらに、2021年には基幹システムを「SAP S/4HANA」に刷新し、データ分析基盤をGoogle Cloud上に構築することで、経営判断の精度を高めています。
こうした取り組みを通じて、人材や技術、資源を共有することで、コスト削減や業務の標準化を進め、全体の生産性向上を実現しています。
また、2020年にはLIXILグループと100%子会社であった株式会社LIXILの合併を実施し、事業会社体制へ移行しました。この経営改革により、経営判断の迅速化や市場競争力の強化が進み、さらなるシナジーの創出が期待されています。
まとめ
シナジー効果とは、M&Aや業務提携を通じて、企業の成長を加速させることです。適切に活用すれば、収益の向上やコスト削減、新市場への参入など、多くのメリットを生み出すことができるでしょう。
一方で、企業文化の違いによる摩擦や人材・顧客の流出といったリスクもあるため、専門家のサポートを受けながら、適切な戦略を立てて取り組むことが望ましいでしょう。
M&Aキャピタルパートナーズは、豊富な経験と実績を持つM&Aアドバイザーとして、お客様の期待する解決・利益の実現のために日々取り組んでおります。
着手金・月額報酬・企業評価レポート作成がすべて無料、秘密厳守にてご対応しております。
以下より、お気軽にお問い合わせください。
基本合意まで無料
事業承継・譲渡売却はお気軽にご相談ください。
よくある質問
- シナジー効果とは何ですか?
- シナジー効果とは、複数の企業や部門が協力することで、単独で活動するよりも高い効果を得られる状態を指します。
- シナジー効果を生み出す方法は?
- シナジー効果を生み出す方法には、M&A、業務提携、多角化戦略、グループ一体経営などがあります。