M&Aで得られるシナジー効果とは?

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近年、後継者問題や企業間の競争激化などの問題からM&Aが注目されてきつつあります。M&Aはさまざまなメリットがあり、そのメリットの中に含まれているシナジー効果を狙ったM&Aも行われており、事業の拡大などの効果を発揮しています。

この記事では、そのシナジー効果についてや、測定方法、シナジ効果の事例などを解説しています。

シナジー効果とは?

シナジー効果のイメージ

M&Aにおけるシナジー効果(相乗効果)とは、二つ以上の企業ないし事業が統合して運営される場合の価値が、それぞれの企業ないし事業を単独で運営するよりも大きくなる効果をさします。シナジー効果の例としては、以下のようなものが考えられます。

シナジー効果の例
分類 内容
売上シナジー
  • クロスセリング
  • アップセリング
  • 販売チャネル
  • ブランド効果
コストシナジー
  • 営業拠点の統廃合
  • 生産拠点の一部閉鎖
  • 価格交渉力の強化
  • 間接部門費(重複部分)の削減
  • 物流コストの削減
研究開発シナジー
  • 研究開発投資力強化
  • 技術・ノウハウの複合
財務シナジー
  • 他人資本調達コストの削減
  • 他人資本調達余力の増加

アンゾフの成長マトリックスとM&A戦略、シナジー効果

市場浸透戦略

アンゾフの成長マトリックスの戦略オプションは、M&A戦略とシナジー効果を導き出すために活用することもできます。「市場浸透戦略」をM&Aを活用して実現する場合は、「市場内の同業者とのM&A」が挙げられます。いわゆる水平統合型のM&Aといわれるもので、規模の経済性を働かせて経営効率を高める戦略で、金融業界、鉄鋼業界、化学業界、石油業界、医薬品業界、通信業界、流通業界など、多くの業界の大手企業同士による合併や経営統合がその典型といえます。これにより規模の経済性による収益性の改善が期待されます。

規模の経済性とは、事業規模が大きいほどコストが下がり経営効率が高まることをさし、たとえ経営効率の悪い業績不振企業であっても、M&A後すぐに共同購買などの規模の経済性を生かしたコストシナジーが発揮され、業績が回復する例も少なくありません。

既存サービス×既存市場
売り手企業 売上10億円のディスカウントストア
買い手企業 売上150億円のディスカウントストア
狙い

売、買共に同業、同エリアでの活動をしていた。
仕入、物流の効率化を目指した事例

  • 自社のバリューチェーン(企画・研究・開発、調達、生産、物流、販売・マーケティング・間接業務)について、相手先と互いに資源を有効活用することで、売上増を実現する。
  • 相手先と重複している経営資源を統廃合し、コスト削減を実現する。
  • 相手先の共同活動による規模の経済追求により、コスト競争力の向上を実現する
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新製品開発戦略

「新製品開発戦略」をM&Aを活用して実現する場合は、「異なる製品群を扱う同業者のM&A」、「技術・特許取得を目的としたM&A」、「ブランド獲得を目的としたM&A」などが考えられます。いわゆる垂直統合型のM&Aといわれるもので、バリューチェーンの川上もしくは川下にある企業とのM&Aで、原材料の安定供給、技術や顧客ニーズの取り込みによる製品開発力の向上や販売収益の拡大などを目指す戦略です。 例えば、卸売会社によるメーカーあるいは小売会社の買収や、メーカーによる開発・設計会社のM&Aなどがその典型です。これにより範囲の経済性による収益性の改善が期待されます。範囲の経済性とは、複数の事業を展開しながらも、経営資源を共有化することで全体の経営効率を高めることをさします。関連性のある事業であれば、技術、製造ノウハウ、物流、販売チャネル等、共有化できる経営資源が少なからずあるはずであり、これら共有化できる経営資源をうまく活用することで全体として経営効率を高めることを目指すものです。

新サービス×既存市場
売り手企業 売上60億円の木材の卸会社
買い手企業 売上3000億円の建材卸会社
狙い

買い手は総合建材卸。
全国の販売拠点を確立しているが、当該木材のラインナップはなかったため買収することにより取扱高を増やした事例
新しいサービス、製品、技術を、既存の市場、顧客へ提供することで新たな成長を実現する。

新市場開拓戦略

「新市場開拓戦略」をM&Aを活用して実現する場合は、「他エリアでの同業者とのM&A」、「海外市場獲得のためのM&A」、「大手取引先との口座獲得を目的としたM&A」、「許認可取得を目的としたM&A」、「異なる顧客層を得意とする業界他社のM&A」などが考えられます。これにより規模の経済性による収益性の改善が期待されます。

既存サービス×新市場
売り手企業 売上5億円のソフトウェアパッケージ開発会社
買い手企業 売上40億円のシステム開発会社
狙い

買い手は人材派遣、請負を中心とした企業。
パッケージ開発会社を買収することにより、自社の余剰エンジニアをパッケージ開発に割り当てることにより新市場へ参入した事例。
自社の既存のサービス・製品・技術を、販売地域を拡大したり、販売顧客層を拡大したり、新しい顧客へと広げることで新たな成長を実現する。

多角化戦略

「多角化戦略」をM&Aを活用して実現する場合は、「仕入先もしくは販売先のM&A(垂直統合)」、「共通の技術を活用できる分野への進出を目的としたM&A」、「顧客基盤を共有化できる企業のM&A」などが考えられます。共通の技術を活用できる分野への進出を目的としたM&Aの例としては、金融とITのコングロマリット企業による生命保険会社とのM&Aなどが挙げられます。また、顧客基盤を共有化できるM&Aの買収の例としては、家電量販店によるハウスメーカーとのM&Aなどが挙げられます。これによりコングロマリット・プレミアムが期待されます。

コングロマリット・プレミアムとは、複数事業を展開することでの範囲の経済性の発揮だけでなく、 “大規模企業グループ"の一員として傘下のグループ各社において信用力やブランドカを活用した有利な営業展開や人材採用が可能となるなど、広範なシナジー効果の発現によリグループ企業を単純合算した以上の企業価値向上が実現できている状態をさします。一方で、コングロマリットのような分散した事業構造は、経営資源が分散し組織が複雑化するので経営の非効率化やグループ企業の甘えの体質等を招き、かえって企業価値が減少してしまうコングロマリット・ディスカウントも発生しやすいです。2000年代以降、日本の大手企業が「選択と集中」により経営資源を集中化させてきたことは、まさにコングロマリット・ディスカウントの解消を狙ってきたものです。

新サービス×新市場
売り手企業 経常収益300億円の生命保険会社(株主は外資の大手保険会社)
買い手企業 営業収益2400億円の金融コングロマリット
狙い

買い手は金融コングロマリットグループ。
生命保険事業はノウハウがなかったため、かつて外資系金融機関と50%ずつの合弁で設立していたが、諸事情により持分を譲渡し一時期撤退していた。証券、銀行、損害保険の分野ではノウハウが蓄積されていて生命保険市場へ再参入した事例。
自社のIT技術を活用して非対面チャネルでの独自の販売体制を構築したり、相互の顧客基盤を共有し、新しい顧客へ相互のサービスを広げることで新たなサービスを実現する。

シナジー効果の測定と企業価値評価

実務上は特に取引目的の企業価値評価において、例えば、価格交渉やオークションディール(競争入札の買収案件)において勝ち残るべく買収プレミアムを払う際に、その根拠及び金額的な水準を検討するために分析が行われます。 また、会社法では、株式買取請求権の取扱いにおいて、単に「公正な価格」が買取価格であるとされ、シナジー効果分の価値をこの公正な価格に含ませることを可能とする趣旨と説明がされることがあります。したがって、企業価値評価においては、今後このシナジー効果の取扱いについても、実務上ますます重要になることが想定されます。

シナジー効果の測定においては、例えば、株式の買収を前提とした場合には、潜在的な買い手によってシナジー効果の影響額が変わってしまう点に特徴があるといえます。すなわち、投資対象の経営資源は同一であっても、買い手の有する経営資源や投資先に対する将来像が異なることで、将来にわたって期待されるシナジー効果が変わるという性質を持っています。また、シナジー効果の測定方法はそれぞれのケースの事情や適用している評価アプローチによって異なると考えられますが、例えば、インカム・アプローチのうちフリー・キャッシュ・フロー法を採用しているケースで、株式の買収時における取引目的の株主価値評価をする場合には、買い手が期待している上表の各種シナジー効果について、将来の売上高拡大予想額やコスト削減期待額等を、将来にわたって年度ごとに予測し、年度ごとの増分キャッシュ・フローの現在価値額を算定することによってシナジー効果の額を算定することも考えられます。

なお、上表のシナジー効果をフリー・キャッシュ・フロー法において取り込むと仮定した場合、一般的には売上シナジー、コストシナジー、及び研究開発シナジーはキャッシュ・フローに影響を及ぼす項目と考えられ、一方で財務上のシナジーは割引率に影響を及ぼす項目と考えられます。

M&A検討時のフレームワーク

      当社 対象会社A社 想定されるシナジー
内部リソース ヒト 開発
  • C製品に対する特許を複数保有
  • 新卒採用で毎期安定的に若い人材を確保
  • テクニカルトレーニングセンターで技術者育成体制を確立
  • B製品に関する技術特許を保有
  • 開発グループ、技術グループを合わせて50名の専門性の高い研究開発スタッフ
  • 技術人員、技術ノウハウの共有により、開発力の強化が期待できる。
  • 採用力、育成体制のさらなる強化が期待できる。
  • 両社と取引がある顧客が多く、営業の人員効率を改善できる。
生産    
販売    
モノ 国内拠点
  • 国内10箇所に拠点
  • 国内5拠点
  • 国内の生産拠点の配置は補完関係にあり、物流の効率化が期待できる。
  • 将来的には、広域での生産拠点の統廃合の検討が可能となる。
海外拠点
  • 中国、ベトナムをはじめ6箇所に拠点
  • 中国、タイ、米国をはじめ5箇所に拠点
カネ      
  • 当社の信用力を背景に対象会社A社のコスト効率を改善し、投資余力を生み出す。
  • 共に海外同一地域への投資があるので、重複投資を回避し、経営資源を他の分野に振り分けることができる。
外部ネットワーク 顧客基盤 B製品    
  • 共同開発による商品ラインナップの拡充で、双方の顧客に対しての提案力、販売力の強化が期待できる。
C製品    
仕入先      
  • ボリュームをまとめることによる調達力の強化が期待できる。
  • 重複する調達業務を取りまとめることにより、専門化、ノウハウの蓄積、業務コストの削減が期待できる。

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中小企業が期待する事業分野とシナジー効果

中小企業経営者が新事業を展開する分野の選択の際、どのような点を重視しているか、中小企業白書2017に基づいたデータがあります。今後、関心のある分野としては、「AI、ロボット」や「自動運転」といった分野が多い傾向にあります(第2-3-8 図)。

関心のある新事業分野

資料:中小企業庁委託「中小企業の成長に向けた事業戦略等に関する調査」(2016年11月、(株)野村総合研究所)
(注) 複数回答のため、合計は必ずしも100%にならない。

第2-3-9 図では、新事業展開の戦略の違いにかかわらず、「既存事業の技術・ノウハウが活かされる」という点や、「市場規模が大きい・成長性が見込まれる」といった点を重視している傾向にあります。特に、事業転換戦略においては、「市場規模が大きい・成長性が見込まれる」といった点に関して、新事業展開に成功した企業の方が重視していることが分かります。

戦略別に特徴を見てみると、「新市場開拓戦略」においては、「知名度・信用力が活かされる」といった点において、また、「新製品開発戦略」においては、「新市場開拓戦略」と同様の「知名度・信用力が活かされる」という点のほか、「必要な認可等を取得している」という点、続いて、「多角化戦略」においては、「多額の投資を必要としない」という点、「事業転換戦略」においては、「連携相手がいる」という点で新事業展開に成功した企業の方が重視している傾向にあります。

「多角化戦略」や「事業転換戦略」は、他の戦略と比較して、成功する割合が低いため、新事業展開の際には、投資額の抑制や連携相手を探すなど、慎重な検討を要する傾向にあることが分かります。

新事業分野の選択において重視する点

資料:中小企業庁委託「中小企業の成長に向けた事業戦略等に関する調査」(2016年11月、(株)野村総合研究所)
(注) 複数回答のため、合計は必ずしも100%にならない。

第2-3-10 図では、新事業展開を実施したことによる具体的なシナジー効果を見てみましょう。同図を見ると、新事業展開に成功した企業は、「売上高の増加」や「利益の増加」といった業績面での効果に加えて、「従業員の意欲向上」、「企業の知名度向上」といった点にも効果を感じていることが分かります。

新事業展開を実施したことによる効果

資料:中小企業庁委託「中小企業の成長に向けた事業戦略等に関する調査」(2016年11月、(株)野村総合研究所)
複数回答のため、合計は必ずしも100%にならない。

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