スタートアップにおけるM&Aとは? 増加している背景、メリットやデメリットを解説

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M&Aは、スタートアップのイグジットとして考えられる選択肢の一つです。スタートアップのM&Aは増加傾向にあり、今後も増えていくことが予想されます。
本記事では、スタートアップのM&Aの概要や、増加している背景について解説したうえで、メリットや注意点、成功させるためのポイントなどを紹介していきます。
M&Aによるイグジットを検討している方は、ぜひ参考にしてください。

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1. スタートアップにおけるM&Aとは

M&Aによる売却は、スタートアップにとってイグジット(出口戦略)の手法の一つです。
スタートアップとは、革新的な技術やサービスを生み出すことで、短期間での急成長をめざす、創業間もない企業のことをさします。スタートアップの経営者は、急成長後のM&Aによる売却を創業時から視野に入れているケースも少なくありません。
一方、買い手の視点から見た場合、スタートアップをM&Aで買収することで、新たな技術や価値観を獲得し、自社の成長につなげられる点がメリットです。

2. スタートアップのM&Aが増加している背景

スタートアップのM&Aは増加傾向にあります。EYが2022年に発表した調査結果によると、2021年における国内スタートアップを対象としたM&Aの件数は143件で、前年から58%も増加しました。また、スタートアップは国による推進策も展開されているため、スタートアップのM&Aは今後も増えていくことが見込まれます。
増加の背景には、市場ニーズの多様化により、自社でリソースを割いて新たな事業を生み出し、成長させるよりも、既にある程度成長したスタートアップを買収するほうが効率的な状況であることが挙げられます。

3. スタートアップがM&Aを活用するメリット

ここでは、スタートアップのM&Aのメリットについて、売り手側と買い手側、それぞれの視点から見ていきましょう。

3-1. 売り手側のメリット

スタートアップのM&Aにおける、売り手側のメリットは以下のとおりです。

  • IPOと比べて短期間でイグジットが可能
  • 企業成長を加速させることができる

それぞれ見ていきましょう。

IPOと比べて短期間でイグジットが可能

M&Aによるイグジットは、同じくスタートアップのイグジット手法として用いられることの多いIPO(新規株式公開)と比較すると、より短期間で成立しやすい点がメリットです。
IPOを実行するには、株主数や流通株式数といった複数の条件をクリアする必要があります。そのうえ手続きも煩雑で、短く見積もって2~3年の期間がかかります。
一方M&Aであれば、買い手と売り手の合意さえあれば成立が可能で、手続きも容易です。そのため要する期間も短く、1~2ヶ月程度で実現することもあります。また、赤字企業やIPOの実施が難しい企業であっても、将来性が見込まれる場合はM&Aによるイグジットが可能な場合もあります。

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企業成長を加速させることができる

設立から間もないスタートアップは、優れた技術やサービスを持っていたとしても、人脈、知名度、経験値、資金力などがボトルネックとなり、伸び悩んでしまうケースが少なくありません。そこで、既に基盤のある企業にM&Aで買収してもらえば、ボトルネックを解消し、飛躍的な成長を実現できる可能性があります。

3-2. 買い手側のメリット

続いて、スタートアップのM&Aにおける、買い手側のメリットを見ていきましょう。

  • シナジー効果の創出
  • 新規事業参入のハードルが低くなる

それぞれ解説します。

シナジー効果の創出

スタートアップをM&Aで買収することで、既存事業とのシナジー効果(相乗効果)に期待できます。
例えば、商品の質は高いものの知名度が無く伸び悩んでいたスタートアップを、ブランド力はあるものの新規事業が根付かない課題を抱えていた大企業が買収した場合、両者の強みがかけ合わされて大きな利益を生み出す可能性があるでしょう。
また、買収によって単純に規模が大きくなることによるメリットも見逃せません。規模が大きくなれば、スケールメリットによって調達コストを削減できるためです。

新規事業参入のハードルが低くなる

M&Aによる買収を活用すれば、新規事業参入のハードルを下げることができます。
通常、新規事業の立ち上げには多大なリソースが必要になるうえ、リスクを伴います。どれだけ多くの時間や費用、人手を割いて立ち上げたとしても、その事業が成功する保証はありません。
しかし、既に成長を遂げているスタートアップをM&Aで買収すれば、自社でゼロから立ち上げるよりも短期間、低コスト、低リスクで新規事業に参入することができます。また、その分野における知識を持った優秀な人材を獲得できる点もメリットです。

4. スタートアップがM&Aを活用する際の注意点

スタートアップのM&Aには、メリットだけではなく、注意点もあります。
こちらについても売り手側と買い手側、双方の視点から見ていきましょう。

4-1. 売り手側の注意点

スタートアップのM&Aにおける、売り手側の注意点としては、以下の2点が挙げられます。

  • 希望どおりの条件で譲渡できない可能性がある
  • 取引先や従業員離れが起こる可能性がある

それぞれ解説していきます。

希望どおりの条件で譲渡できない可能性がある

創業後間もないスタートアップは、売り手が想定していたとおりの条件で売却できないケースも珍しくありません。また、買い手側から譲渡価格のディスカウントを要求されることもあるでしょう。「将来性を見込まれて高額で売れるのでは」と期待していたものの、蓋を開けてみれば想定よりも少ない金額で手放さざるを得ないという事態も起こり得ます。
適正な価格で売却するためには、実績豊富な仲介業者の利用がおすすめです。

取引先や従業員離れが起こる可能性がある

M&Aによって経営者や企業文化が代わると、取引先や従業員が反発し、離れていってしまう可能性があります。特に、事業の中核を担っていた優秀な人材が離職してしまうと、売却後の事業運営に支障がでかねません。売り手だけではなく、買い手にとっても大きな損失となるため、M&Aを実施する前に十分な説明を行い、予防に努めましょう。

4-2. 買い手側の注意点

スタートアップのM&Aにおける、買い手側の注意点は以下のとおりです。

  • シナジー効果を生み出せない可能性がある
  • 簿外債務や偶発債務を承継する可能性がある
  • 優秀な人材が離れてしまう可能性がある

一つずつ解説します。

シナジー効果を生み出せない可能性がある

先述のとおり、売り手と買い手の強みをかけ合わせることによるシナジー効果は、M&Aでスタートアップを買収する際の大きなメリットです。しかし、シナジー効果は、スタートアップを買収すれば必ず生まれるというものではありません。買収を検討する際には、両者の持つ強みやノウハウに加えて、企業文化なども含めた相性を考慮したうえで、シナジー効果の実現が可能かどうか見極める必要があります。

簿外債務や偶発債務を承継する可能性がある

M&Aでは、売り手の企業が帳簿に現れないような簿外債務や偶発債務を抱えている場合、買い手の企業がそれらを引き継ぎます。特に訴訟関係のトラブルを抱えている場合、リスクに気付かないまま買収を進めてしまうと、将来的に損害賠償を請求されるおそれもあります。事前のデューデリジェンスで、リスクとなる項目を洗い出しておくことが重要です。

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優秀な人材が離れてしまう可能性がある

売り手側の注意点としても紹介しましたが、M&Aによって経営者や企業文化が代わる事によって、優秀な従業員が離職してしまうおそれがあります。買い手側は、売り手側の企業の文化を深く理解したうえで、確保しておきたい人材に対しては十分なフォローを行う必要があるでしょう。

5. スタートアップがM&Aを成功させるためのポイント

M&Aによるイグジットをめざすのであれば、より良い条件で売却を成功させたいものです。
ここでは、スタートアップがM&Aを成功させるためのポイントとして、以下の3点を紹介します。

  • タイミングを見極める
  • シナジー効果を意識する
  • 従業員に配慮する

それぞれの詳細について見ていきましょう。

5-1. タイミングを見極める

M&Aでスタートアップを高額で売却するためには、タイミングが重要です。具体的には、成長のさなかにあり、将来の飛躍を感じさせる段階が、高額で売りやすい時期といえるでしょう。「もっと事業を大きくしてから売りたい」と考えるかもしれませんが、成熟しすぎてしまうと「これ以上の成長は望めない」と判断され、逆に価値が落ちてしまう可能性があります。
また、自社の状況だけではなく、景気や金利といった外部環境も、売却価格を左右する要素です。

5-2. シナジー効果を意識する

M&Aによってどのようなシナジー効果を得られるかを意識しましょう。たとえ高額での買収を提示されたとしても、買い手側の既存事業とのシナジー効果が期待できない場合は、売却後に事業がうまくいかなくなり、M&Aが失敗に終わるリスクがあります。
また、M&Aによるメリットが、売り手と買い手の双方にあることも重要です。例えば、売り手は買い手側の経営基盤を活用し、買い手は売り手のもつ新技術を獲得できるような関係を築けるのであれば、双方にメリットのあるM&Aといえるでしょう。
このようにWin-Winを保てるM&Aになれば、従業員のモチベーションの向上にも期待できます。

5-3. 従業員に配慮する

M&Aによる売却は、従業員に対して大きな変化を強いることになります。特に企業文化や経営方針が変わると、それをストレスに感じた従業員が、相次いで離職する事態にもなりかねません。事業の核となる人材を失ってしまえば、売却後の事業運営が困難になるでしょう。
このような事態を引き起こさないためにも、従業員に対しては慎重な配慮を心がけてください。M&Aに関する説明はしっかりと行ったうえで、PMI(M&A後の統合プロセス)後もフォローも怠らない姿勢が大切です。

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6. スタートアップにおけるM&Aの事例

ここからは、スタートアップのM&Aの事例を見ていきましょう。
自社のM&Aを検討する際の参考にしてください。

6-1. 株式会社23の例

売り手となった株式会社23は、Web領域で企画、サイト開発、コンテンツ作成などを行っている会社です。一方、買い手となった株式会社ディスコは、企業や教育機関の人材マッチングサイトを運営しています。
このケースでは、23の強みであるデジタル領域に長けた人材が、企業の採用支援や、教育機関の学生募集支援といった、ディスコの事業においても活躍することを期待し、M&Aの実現に至りました。シナジー効果への期待から成立したM&Aの好例といえるでしょう。

6-2. aiforce solutionsの例

売り手となった株式会社aiforce solutionsは、企業がAIを活用するためのソフトフェアや教育プログラム、支援サービスなどを提供している会社です。このケースでは、買い手となったAI Inside株式会社も、AIの普及をビジョンとしていました。売り手と買い手の双方が同じ目標を共有していたことから、高いシナジー効果が生まれた事例です。

6-3. Candleの例

売り手となった株式会社Candleは、ファッション、メイク、ヘアスタイル、美容といった、女性向けのメディアを運営している企業です。同社は、買い手であるクルーズ株式会社に12.5億円で買収され、その金額の大きさから大きな注目を集めました。このM&Aの背景には、より大きなことに挑戦したいと考えるCandleの希望があったとされています。

6-4. 株式会社Zeroの例

売り手企業である株式会社Zeroは、AIアルゴリズムの設計や実装、ソリューションの提供を行い、2期目にして営業利益1億円以上を達成するなど、急成長を遂げたスタートアップでした。買い手である株式会社ネオマーケティングは、マーケティングのトータルサポートを行う企業です。
このケースでは、ネオマーケティングがZeroの株式を100%取得し、完全子会社化しました。ネオマーケティングが手がけるマーケティング事業に、ZeroのAIに関する技術を活かせると期待してのものです。

6-5. Nagisaの例

売り手となった株式会社Nagisaは、漫画アプリ「マンガZERO」などを手がけてきた企業です。一方、買い手である株式会社メディアドゥは、ミッションとして「著作物の健全なる創造サイクルの実現」を掲げる東証プライム上場企業です。このケースでは、コロナ禍により人々が外出を自粛したことで、Nagisaが提供する漫画アプリの需要が高まったため、高額での売却が実現したとみられています。

6-6. Momentumの例

売り手となったMomentum株式会社は、アドテクノロジー領域における、ネットワークアドベリフィケーション(広告の検証)やブランドセーフティーソリューション(ブランドの保護)といった分野の開発を手がけるスタートアップでした。同領域は市場規模が小さく、IPOによるイグジットは困難だと判断したため、M&Aによるイグジットに舵を切った結果、KDDIのグループ会社であるSyn.ホールディングス株式会社への売却が成立した事例です。

7. まとめ

スタートアップのM&Aについて、概要やメリット、注意点、成功のためのポイントなどを紹介しました。スタートアップのM&Aは、売り手と買い手の双方にメリットがあり、うまくマッチングできれば企業の成長に大きな効果を示す手法です。
とはいえ、リスクの無いM&Aはありません。十分な知識が無い状態でM&Aを推し進めてしまうと、思わぬ失敗に見舞われるおそれもあります。M&Aを成功させ、最大限のメリットを享受するためには、専門家への相談がおすすめです。
M&Aキャピタルパートナーズは、スタートアップのM&Aについても豊富な経験と知識を備えています。M&Aでのイグジットを検討中の方は、ぜひ一度ご相談ください。

まずはお気軽にご相談ください。
秘密厳守にてご対応いたします。
監修者プロフィール
M&Aキャピタルパートナーズコーポレートアドバイザリー部長 梶 博義
M&Aキャピタルパートナーズ 
コーポレートアドバイザリー部長
公認会計士梶 博義

大手監査法人、事業承継コンサルティング会社を経て、2015年に当社へ入社。
これまで、監査、IPO支援、財務DD、親族承継・役職員承継コンサル等を経験し、当社入社後はM&Aアドバイザーとして活躍。一貫して中小企業の支援に従事し、M&Aのみならず、事業承継全般を得意とする。

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