株式交付とは? メリット・注意点、手続きの流れとTOB制度改正を解説

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株式交付について

株式交付とは、株式会社が他の株式会社を新たに子会社化するために、その会社の株式を譲り受け、譲渡人に自社株式等を交付する制度です。完全子会社化を前提としない点で株式交換と異なり、対象は日本国内の株式会社に限られます。既に子会社となっている会社、持分会社、清算手続き中の株式会社は対象外です。

株式交付を検討する際は、株式交換と何が違うのか、どのような場面で使えるのか、制度上の制約は何かを正確に把握しておく必要があります。M&Aの手続きを合理化できる一方で、対象会社の範囲、対価の条件、公開買付規制、税制上の扱いなど、実務で確認すべき論点は少なくありません。仕組みだけでなく、メリット・デメリットや手続きの流れまで一通り整理することが重要です。さらに、2024年の金融商品取引法改正により、2026年5月1日から公開買付規制が大幅に見直されましたが、これは上場企業を対象とした株式交付にも関わる重要な変更です。

本記事では、株式交付の概要やメリット・デメリット、手続きの流れ、そして2026年5月に施行された公開買付(TOB)制度改正との関係などについて解説します。

また、M&Aの意味や基本知識について詳しく知りたい方は、以下の記事もご覧ください。

監修者情報

M&Aキャピタルパートナーズ株式会社 執行役員 コーポレートアドバイザリー部長 公認会計士 梶 博義

大手監査法人、事業承継コンサルティング会社を経て、2015年に当社へ入社。 これまで、監査、IPO支援、財務DD、親族承継・役職員承継コンサル等を経験し、当社入社後はM&Aアドバイザーとして活躍。一貫して中小企業の支援に従事し、M&Aのみならず、事業承継全般を得意とする。


株式交付とは

まずは、株式交付の定義や、株式交付制度が創設された背景を解説します。

株式交付の定義

株式交付の定義 イメージ画像

株式交付の定義は、会社法によって次のように定められています。

株式会社が他の株式会社をその子会社(法務省令で定めるものに限る。第七百七十四条の三第二項において同じ。)とするために当該他の株式会社の株式を譲り受け、当該株式の譲渡人に対して当該株式の対価として当該株式会社の株式を交付することをいう。

※引用:会社法(第2条第32号の2)e-Gov法令検索

つまり株式交付とは、株式会社がほかの株式会社を子会社化することを目的として株式を譲り受ける際に、譲渡人(売り手)に対して自社の株式等を交付することです。対価として買い手の株式を取得した売り手は、買い手の株主となります。
対象となるのは日本国内の株式会社のみで、持分会社(合名会社・合資会社・合同会社の総称)や清算手続き中の株式会社は対象になりません。また、既に子会社化している会社も対象とならず、新規で子会社化する場合のみ有効です。

株式交付と株式交換の違い

株式交換前のイメージ 株式交換後のイメージ

株式交付に似た用語に、「株式交換」があります。
株式交換とは、完全子会社となる会社のすべての発行済株式を、完全親会社となる会社に取得させる手法のことです。株式交換が行われると、親会社と子会社に100%の完全支配関係が生じます。
株式交付との違いは、「完全子会社化」を前提としているかどうかです。親会社が子会社の株式を100%保有している場合は、「完全子会社」となります。
株式交付の場合は、株式のすべてを取得するか、一部のみ(ただし、50%超)を取得するかを選択できます。そのため、完全子会社化を目的としない場合や、議決権の3分の2の取得を目的とする場合には株式交換は用いられません。

株式交付と現物出資の違い

現物出資とは、会社の設立や増資を行う際、現金の代わりに金銭以外の資産を出資することです。
株式交付では、自社の株式を対価として交付することで子会社化を目指しますが、現物出資は土地・建物などの有形固定資産や、知的財産権などの無形資産等を出資するという違いがあります。
現物出資の対象となる資産は価値が明確ではないため、裁判所が選任した検査役が資産の価値を調査しなければなりません。
株式交付の場合は、「株式」という一定の評価手法により価値評価可能なものを用いて子会社化が行われるため、現物出資に比べて活用しやすい制度だといえます。

株式交付制度が創設された背景

株式交付制度が創設された背景を理解するには、まず先に存在していた「株式交換」の課題を押さえておく必要があります。
株式交換は1999年10月の商法改正で導入された制度です。株式会社が現金を使わずに別の会社を完全子会社化できる仕組みとして広く使われてきました。しかし、株式交換を活用するには対象会社の株式を100%取得しなければならず、完全子会社化が前提となります。
この点が課題でした。例えば、過半数(50%超)を取得して子会社化したいだけの場合でも、株式交換では対象会社を完全子会社化することになるため、反対株主への対応や必要な対価の総額が大きくなる点が課題となります。かといって現物出資による方法は、裁判所が選任した検査役による調査が必要になるなど、手続き面の負担が重くなります。
こうした課題を解消する目的で、2019年12月の会社法改正により株式交付制度が創設され、2021年3月から施行されました。完全子会社化を前提とせず、対象会社の株式を50%超取得することで子会社化でき、現物出資のような検査役調査も不要になります。株式交換のメリットである「自社株式を対価にできる」点を残しつつ、制度上の制約を大幅に緩和した手法として位置付けられています。

株式交付のメリット

次に株式交付のメリットを、譲受企業(買い手側)と譲渡企業(売り手側)から、それぞれ見ていきましょう。

譲受企業のメリット

譲受企業(買い手側)のメリットには、主に次のようなものがあります。

完全子会社化する必要がない

株式交付では、対象となる会社の株式のすべてを取得するか、一部のみ(ただし、50%超)を取得するかを選択できます。そのため、親会社が子会社の株式を100%保有する「完全子会社化」を目的としない場合にも活用が可能です。
完全子会社化を目的とする株式交換の場合は、取引に先立って株主の対立や、それに伴う経営の混乱が生じることが考えられます。
株式交付では、対象会社側の株主全員の同意や完全子会社化までは不要であり、応募・合意した株主から株式を取得することで子会社化を目指せます。
ただし、株式交付親会社では原則として株主総会の特別決議による株式交付計画の承認が必要であり、簡易株式交付に該当する場合には承認を省略できます。こうした点から、完全子会社化を目的とする株式交換で生じうる経営上の混乱リスクを抑えやすい点はメリットといえます。

資金調達の負担が軽減できる

株式交換による完全子会社化には、対象となる企業の株式を100%取得する必要があるため、資金調達の負担が大きくなります。一方で、株式交付の場合は、株式の取得割合を調整できるため、資金調達の負担を軽くすることが可能です。
株式交付は、上場企業を少額で買収する場合や、ベンチャー企業の資本提携などで特に有効といえるでしょう。なお、株式交付親会社は上場企業に限られるわけではありませんが、非上場企業の株式は市場価値の算定が難しく現金化しにくい側面があるため、実務上は上場企業が株式交付親会社となるケースが中心です。もっとも、近年は非上場株式の価値評価の実務も発展しており、非上場企業が株式交付親会社となる事例も見受けられます。

子会社の新株予約権を取得できる

新株予約権とは、株式会社が発行した株式をあらかじめ定めた金額・条件で取得する権利のことです。子会社化の対象となる会社が新株予約権を発行していた場合、親会社となる会社は、株式交付によって対象会社の新株予約権を譲り受けることが可能です。
親会社と子会社の関係が成立したあとに、子会社が新株予約権を行使できてしまうと、親会社と子会社の関係を維持できなくなるリスクがあります。親会社が子会社の新株予約権を取得できることによって、譲渡後の株主としての地位の安定性を確保できます。

譲渡企業のメリット

続いて、株式交付のメリットを譲渡企業(売り手側)から見ていきましょう。

税制上の優遇措置がある

株式交付に応じた売り手は対象会社株式を譲渡したことになるため、株式を譲渡した際に生じる利益に税金が課され、経済的負担が大きいという課題がありました。
しかし、令和3年度(2021年度)の税制改正により、対価として支払う自社株比率が全体の80%以上であることを条件とする税制上の優遇措置(課税の繰り延べ)が創設されました。
例えば、買い手側が自社株式を80%・現金を20%の割合で対価として支払う場合、売り手側はその時点での多額の税負担を回避し、将来に株式を売却した際まで課税を先送りできます。ただし、令和5年度(2023年度)改正により、株式交付親会社が株式交付の直後に一定の同族会社に該当する場合は当該措置の適用対象外となっていますので、注意が必要です。
この点については、国税庁の公表する株式等を対価とする株式の譲渡に係る譲渡所得等の課税の特例をご参照ください。

株式交付のデメリット・注意点

株式交付を実行するには、さまざまな条件があります。ここでは、株式交付のデメリットと注意点を解説します。

子会社化できるのは日本の株式会社のみであること

株式交付によって子会社化できるのは、日本国の株式会社のみと定められています。そのため、海外企業が絡むようなM&Aには活用できません
会社法では、組織再編を行うにあたって、ほかの会社の株式を取得するための対価として自社株式を用いることが認められています。しかし、外国企業を株式交付制度によって子会社化することは想定されておらず、外国企業は対象外となっています。

新規に子会社化する会社であること

株式交付は、新たに子会社化する会社のみが制度の対象となります。既に子会社化している場合は活用できないので注意が必要です
株式の取得は、子会社化だけでなく、議決権の所有比率を上げる目的で行われることがあります。対象となる会社の議決権を既に50%以上持っている場合は、親会社と子会社の関係が成立しているため、株式交付を活用して議決権の所有比率を上げることはできません。
所有比率を上げたい場合は、株式交換や現金対価による取得といった、株式交付以外の方法を選択する必要があります。

株式が対価の8割以上であること

先述したとおり、株式交付の税制優遇措置(課税の繰り延べ)を受けるには、対価の80%以上を自社株式としなければなりません。
株式のほかに現金などを対価として交付する場合は、株式以外の対価の割合が全体の2割以下になるよう調整が必要です。この割合要件を満たさない場合、売り手に対する課税は通常どおり即時に課されることになります。
また、先述のとおり令和5年度(2023年度)の税制改正により、株式交付親会社が株式交付の直後に一定の同族会社に該当する場合は、この課税繰り延べ措置の対象外とされています。取引スキームを設計する前に、弁護士、税理士、M&Aなどの各種専門家への確認を行うことが重要といえます。

対象会社が上場企業の場合は公開買付規制(TOB規制)に注意する

株式交付は、対象会社が上場企業である場合には、金融商品取引法上の「公開買付規制(TOB規制)」の適用対象となる可能性がある制度です。そのため、対象会社が上場している場合は、事前にTOB規制の要件を十分に確認しておく必要があります。
特に、2024年の金融商品取引法改正により、2026年5月1日から公開買付規制の中心ルールが大幅に見直されました。
従来の「3分の1ルール」が「30%ルール」へと変更され、市場内取引(立会内)についても規制の対象に加わっています。このTOB制度改正と株式交付との関係については、後述のセクション(「2026年5月施行のTOB制度改正と株式交付の関係」)で詳しく解説します。
条件によっては、株式交付が活用できない可能性や、公開買付けの手続きが必要になるケースもあるため、スキーム設計の段階で弁護士、税理士、M&Aアドバイザーなどの各種専門家への確認を行うことが重要といえます。

株式交付の会計処理

株式交付は2019年に新たに創設された制度ですが、株式交付を含む組織再編に関連する「企業結合に関する会計基準」などの改正は行われていないため、現行の会計基準によって処理されます。
株式交付によって取得する株式は、現行の会計基準により時価を基準として算定します。条件次第で、直前の帳簿価額を基準にする場合もあります。
なお、株式交付は組織再編の一形態として取り扱われるため、株式交付に伴って生じるのれん(超過収益力)やその償却についても、企業結合に関する会計基準等に従って適切に処理する必要があります。会計処理の詳細は案件の特性によって異なる場合があるため、監査法人や公認会計士など会計の専門家に確認することが重要といえます。

株式交付の手続きの流れ

株式交付の手続きの流れを見ていきましょう。

  1. 株式交付計画の作成
  2. 株主総会での承認
  3. 株主への計画の通知・公告
  4. 反対株主などへの対応
  5. 株式交付の効力の発生
  6. 事後開示書類の備え置き

株式交付計画の作成

株式交付を行う際は、会社法に従って、株式を交付する側である買い手(以下、「株式交付親会社」)が株式交付計画を作成しなければなりません。
株式交付計画に記載する内容も、会社法によって定められています。

  • 株式交付子会社(対象会社)の商号と住所
  • 株式交付親会社が株式交付子会社から譲り受ける株式数の下限
  • 株式交付親会社が対価として交付する株式の数またはその算定方法
  • 株式交付親会社の資本金および準備金の額に関する事項
  • 株式交付子会社の譲渡人に対して交付する金銭等に関する事項
  • 株式交付子会社の株式譲渡の申込期日
  • 株式交付の効力発生日
※参考:会社法(774条の3第1項)|e-Gov法令検索

作成が済んだら、株式交付の効力発生後、6ヶ月を経過する日までの間、本店に備え置きます。

株主総会での承認

作成した株式交付計画は、株式交付親会社の株主総会において特別決議による承認を受けなければなりません。承認は効力発生日の前日までに行う必要があります。
ただし、交付する対価の合計額が株式交付親会社の純資産額の5分の1(20%)以下の場合は、株主総会の特別決議を省略できます。これを一般に「簡易株式交付」と呼びます。
なお、株式交付親会社に差損が生じる場合や、株式交付親会社が公開会社でない(株式譲渡制限会社の)場合には、対価の合計額が20%以下であっても簡易株式交付は認められません。また、一定数以上の株主から反対の意思表示があった場合にも、改めて株主総会の承認が必要になります。実際に簡易株式交付の適用を検討する際は、弁護士等の専門家に事前に確認しておくことが重要といえます。

株主への計画の通知・公告

株式交付親会社は、株式交付子会社の株主(売り手)に対して株式交付計画の通知・公告を行います。
株式の譲渡を希望する株主は、希望する株式数などを記載した書面を、譲渡の申込期日までに株式交付親会社へ交付することが必要です。
株主からの依頼を受けた株式交付親会社は、株式を譲り受ける対象となる株主を申込者の中から選び、交付する株式数などを定めます。そのうえで、株式交付の効力が発生する前日までに申込者へ通知を行います。

反対株主などへの対応

株式交付に反対する株式交付親会社の株主は、一定の場合を除き、株式交付親会社に対して、自身が保有する株式交付親会社の株式を公正な価格で買い取るよう請求できます
また、金銭など株式以外の対価がある場合は、株式交付親会社の債権者である金融機関などが異議を述べることも可能です。債権者から異議申し立てがあった場合は、官報での公告や債権者への催告といった「債権者異議手続き」が必要になります。

株式交付の効力の発生

株式交付計画で定められた効力発生日を迎えると、株式交付親会社は株式交付子会社の株主から給付を受けた株式等を取得し、同日付で譲渡人(売り手)は株式交付計画の定めに従って株式交付親会社の株式その他の対価を取得します。
ただし、効力発生日において株式交付親会社が給付を受けた子会社株式の数が、株式交付計画で定めた取得株式数の下限に達していない場合は、株式交付の効力は生じません。この場合、株式交付親会社は遅滞なく申込者にその旨を通知し、受け取った株式を返還しなければなりません。なお効力発生日は親会社側の都合で変更することも可能ですが、変更後の効力発生日は当初の効力発生日から3か月以内の日でなければならないと定められています。

事後開示書類の備え置き

株式交付の効力発生後、株式交付親会社は遅滞なく事後開示書類を作成し、効力発生日から6か月間、本店に備え置かなければなりません
事後開示書類の主な記載事項は以下のとおりです。

  • 株式交付子会社の株主から譲り受けた株式等の数や内容
  • 譲渡人に対して交付した対価の内容(株式数・金額等)
  • 株式買取請求があった場合は、その経過および結果
  • 債権者異議手続を実施した場合は、その経過および結果

株主および一定の債権者は、この書類の閲覧や謄本の交付を請求することができます。開示を通じて、株式交付後の手続きが適切に行われたかを事後的に確認できる仕組みになっています。
また、株式交付により株式交付親会社の資本金や発行済株式総数に変更が生じた場合は、本店所在地において変更登記を行う必要があります。変更登記の期限は変更日から2週間以内が原則となっています。

企業による株式交付の事例

ここでは、企業による株式交付の事例を紹介します。

GMOインターネットによるOMAKASEの株式交付事例(2021年6月)

まずは、GMOインターネットによる株式交付事例です。

株式交付による子会社化の目的

「OMAKASE」は、予約困難な人気飲食店に特化した予約管理サービスです。GMOインターネット(現・GMOインターネットグループ)は、OMAKASEが有する顧客基盤と、自社のEC支援事業・決済事業との間にシナジーが見込めると判断し、子会社化を進めました。

株式交付のスキーム

2021年5月24日に取締役会で株式交付を決議し、同年6月21日を効力発生日として手続きが完了しました。OMAKASEの普通株式1株に対して、GMOインターネットの普通株式3.677株+371円が対価として割り当てられるスキームで、GMOインターネットはOMAKASEの株式61.5%(下限:246,069株)を取得しました。
OMAKASEが発行していた新株予約権については、1個に対してGMOインターネットの普通株式331.208株と33,395円が割り当て交付されました。
本株式交付は自己株式を使用しているため新株発行を伴わず、また交付する対価の合計額が純資産額の5分の1以下であったことから、GMOインターネット側の株主総会の承認を要しない簡易株式交付として実施されています。
なお、本件は令和元年改正会社法で新設された株式交付制度のもとで、有価証券届出書の提出を要する株式交付の国内第1号案件として、業界内外から注目を集めた事例です。

プロルート丸光によるマイクロブラッドサイエンスの株式交付事例(2021年7月)

続いて、プロルート丸光による株式交付事例を紹介します。

株式交付による子会社化の目的

プロルート丸光は、総合衣料卸売事業やヘルスケア事業を手掛ける企業です。2021年6月25日の取締役会において、血液検査事業や医療機器製造をメイン事業とするマイクロブラッドサイエンス社(MBS)を、株式交付によって子会社化することを決定しました。2020年4月から代理店契約を通じてMBSの製品を取り扱っており、グループとして取り込むことで原価率改善や業績への寄与が見込めると判断しました。

株式交付のスキーム

2021年7月21日を効力発生日として、MBSの普通株式1株に対して、プロルート丸光の普通株式100株が割り当てられるスキームで実施されました。取得するMBS株の下限は議決権比率50.004651%にあたる10,751株と定められ、最終的にプロルート丸光はMBSの50.23%(10,800株)を取得し、子会社化が成立しました。本件も簡易株式交付として実施されています。
なお、その後の経緯として、プロルート丸光は当初想定していた事業目的や業績目標の達成が困難と判断し、2023年1月30日付でMBSの全保有株式を同社代表取締役に約2,100万円で譲渡し、子会社関係を解消しています。株式交付の手続きそのものは制度どおりに機能した事例ですが、投資後の事業面では期待した成果に至らなかった点も含め、M&A実行後の経営統合(PMI)の重要性を示す事例としても参照されることがあります。

株式交付税制の改正について

株式交付制度に関する最新の改正として、令和5年度(2023年度)の税制改正があります。 この改正では、株式交付の直後において株式交付親会社が一定の同族会社に該当する場合には、売り手の譲渡損益にかかる課税繰延措置の適用対象外とされました。言い換えると、株式交付親会社が同族会社の場合は、株式交付税制が適用されなくなるということです。
株式交付は本来、株式交換や現物出資のデメリットを払拭し、企業買収の手続きを合理化するための制度です。今回の改正は、同族経営の会社による私的な節税を目的とした、株式交付制度の利用を防ぐ狙いがあると考えられます。
改正後も、同族経営の範囲や改正前の取引に関する取扱いなどの課題が残っているため、今後も継続的に改正が行われる可能性があります。引き続き、最新情報をチェックしていくことが重要といえます。

2026年5月施行のTOB制度改正と株式交付の関係

上場企業を対象とする株式交付では、金融商品取引法上の公開買付規制(TOB規制)への対応が必要になる場合があります。2024年5月に成立した金融商品取引法等の改正により、2026年5月1日からTOB規制が大幅に見直されており、株式交付のスキーム設計にも直接影響します。改正の主な内容と株式交付への影響は、以下の2点です。

それぞれ順に解説します。

30%ルールへの変更

従来の「1/3ルール(約33.3%超)」が「30%超」に引き下げられました。取得後の所有割合が30%を超える場合、原則としてTOBの手続きが必要となるため、旧制度より早い段階でTOBの要否を確認する必要があります。

市場内取引(立会内)の規制対象化

これまで原則規制対象外だった市場内取引も、新たに規制対象に加わりました。複数の株主から分散して株式を取得する場合も、累計取得割合が30%を超えるタイミングでTOB義務が発生する点に注意が必要です。

なお、TOB規制の詳細な内容(急速買付けルールの廃止、僅少買付けの例外、並行買付け制度など)については、以下の関連記事をあわせてご参照ください。

まとめ

株式交付は、株式会社がほかの株式会社を子会社化する際に、対象会社の株式を譲り受ける対価として自社株式等を交付する制度です。完全子会社化を前提としない点が特徴で、株式交換よりも柔軟に子会社化を進めやすく、現物出資と比べても手続きを合理化しやすい方法として活用できます。買い手側には資金調達の負担を抑えやすいこと、売り手側には条件を満たせば税制上の優遇措置を受けられることなどのメリットがあります。
一方で、株式交付の対象は日本の株式会社に限られ、既存子会社には使えないなどの制約があります。対価に占める株式の割合、公開買付規制、会計処理、手続き、税制改正の影響なども確認が必要です。特に2026年5月1日から施行されたTOB制度改正により、上場企業を対象とする株式交付においては、30%ルールへの移行や市場内取引への規制適用拡大といった変更を踏まえたスキーム設計が求められます。

株式交付を活用する際は、制度のメリットだけでなく、適用条件や実務上の注意点を整理し、自社の目的や取引条件に合う手法かどうかを慎重に検討することが重要です。



よくある質問

  • 株式交付とは何ですか?
  • 株式交付とは、株式会社が他の株式会社を新たに子会社化するために、その会社の株式を譲り受け、対価として自社株式等を交付する制度です。完全子会社化を前提としない点が特徴です。
  • 株式交付と株式交換は何が違いますか?
  • 株式交換は完全子会社化を前提とするのに対し、株式交付は対象会社の株式を一部取得して子会社化する場合にも使えます。ただし、取得後に子会社となることが前提です。
  • 株式交付はどのような背景で創設されましたか?
  • 株式交換では対象会社を完全子会社化する必要があり、現物出資では検査役調査などの手続き負担が生じます。株式交付は、自社株式を対価にしながら子会社化を進めやすくする制度として創設されました。
  • 株式交付の対価に占める株式割合は重要ですか?
  • 税制上の課税繰り延べ措置を受けるには、対価の80%以上を自社株式とする必要があります。株式以外の対価が2割を超える場合は、通常どおり課税される点に注意が必要です。
  • 株式交付はどのような流れで進めますか?
  • 株式交付親会社が株式交付計画を作成し、原則として株主総会の特別決議で承認を受けます。その後、株主への通知・公告、反対株主や債権者への対応、効力発生、事後開示書類の備え置きへ進みます。
  • 株式交付を使えない場合はありますか?
  • 株式交付の対象は日本国内の株式会社で、新規に子会社化する場合に限られます。外国企業、持分会社、清算手続き中の株式会社、既に子会社化している会社には利用できません。
  • 上場企業を対象に株式交付を行う場合の注意点は何ですか?
  • 対象会社が上場企業の場合、公開買付規制の適用対象となる可能性があります。2026年5月施行のTOB制度改正により、30%ルールや市場内取引への規制適用を踏まえて手続きの要否を確認する必要があります。
  • 2026年のTOB制度改正は株式交付にどう影響しますか?
  • 2026年5月1日施行の金融商品取引法改正により、公開買付けが義務付けられる閾値が従来の「3分の1(約33.3%)」から「30%」に引き下げられました。また、これまでは市場内取引(立会内)は原則としてTOBの対象外でしたが、改正後は市場内取引についても規制の対象となっています。これにより、上場企業を対象とした株式交付において、取得後の所有割合が30%を超える場合には、スキームの設計段階でTOB手続きの要否を慎重に確認することが必要です。

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