垂直型M&Aとは? 水平型M&Aと比較しながらメリット・デメリットについて解説

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「M&A」という言葉を耳にする機会は多いと思いますが、M&Aは実行する目的によって、いくつかの種類に分けられます。
本記事では、「垂直型M&A」「水平型M&A」といった観点からM&Aの種類を解説すると共に、それぞれのメリット・デメリットや具体的な事例を紹介します。M&Aを失敗に終わらせないためのポイントについても解説していきますので、実務ご担当者も参考にしていただければ幸いです。

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1. M&Aにおける垂直型・水平型とは

M&Aは、目的によって「垂直型M&A」「水平型M&A」に分類されます。まずは、それぞれの概要について見ていきましょう。

1-1. 垂直型M&A(垂直統合)とは

垂直型M&A(垂直統合)とは イメージ画像
垂直型M&Aとは、バリューチェーンにおける上流から下流までを自社グループ内に統合する形の、組織再編のことです。
バリューチェーンとは、製品の企画開発・原材料の調達・製造・顧客への販売活動など、一連の経済活動のことを指します。
垂直型M&Aの主な目的は、バリューチェーンの最適化を実現することです。例えば、製造業・卸売業・小売業など、一連のプロセスを自社グループの傘下とすることで、無駄の無い効率的なバリューチェーンを構築することができます。
トヨタ自動車の「かんばん方式」は、一連のプロセスを無駄なく効率化することに成功した一つの代表例です。

1-2. 水平型M&A(水平統合)とは

水平型M&A(水平統合)とは イメージ画像
水平型M&Aとは、同業種・同業態の企業を自社グループに再編する形のM&Aです。
同じ業種の事業を合併することで、製品ラインナップの多様化が期待できるだけでなく、同事業内においてシナジー効果を発揮することで、市場における地位の確立も期待できます。
例えば、業界最大手に対抗するために2番手以降の企業同士が合併するケースや、自社で保有していたノウハウをベースに、同業他社の業務を効率化させるようなケースが想定されます。
スケールメリットが得られるといった効果もある水平型M&Aですが、独占禁止法に抵触する可能性がある点には注意が必要です。

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2. 垂直型M&A・水平型M&Aの比較

垂直型M&Aと水平型M&Aの主な違いは、下表のとおりです。

垂直型M&A 水平型M&A
目的

バリューチェーンの最適化

同事業におけるシェアの拡大

対象企業

川上・川下企業

同業他社

メリット
  • プロセスの最適化によるコストの削減
  • 産業プロセス全体へ影響を与えることで、市場における競争力を確保など
  • 同業内におけるシナジー効果やスケールメリットの獲得
  • 製品ラインナップの拡大、マーケットシェアの拡大など
デメリット
  • ビジネスの多角化によって、ガバナンスを効かせることが困難となる
  • コアコンピタンス(得意分野)に集中できなくなる可能性があるなど
  • 独占禁止法に抵触してしまう可能性がある
  • 合併先が競合である場合、企業文化が衝突する可能性があるなど

垂直型M&A、水平型M&Aのそれぞれについて、目的・対象企業・メリット・デメリットといった観点から深掘りしていきます。

2-1. 目的

まずは、垂直型M&A、水平型M&A、それぞれの目的から見ていきましょう。

垂直型M&Aの目的

垂直型M&Aの主たる目的は、バリューチェーンの最適化によるコストの削減です。具体的には、川上から川下までを「内製化」することによって全体のコスト削減を見込みます。
川上から川下を含めた産業プロセス全体への影響を与えることにより、市場における競争力を確保することも目的として考えられるでしょう。
他にも、プロセス全体を管理することで得られる情報の幅が広がるため、新規ビジネスへの参入機会を探るといった観点から、M&Aを実行するケースも想定されます。

水平型M&Aの目的

水平型M&Aの主たる目的は、同業内におけるシナジー効果の発揮やスケールメリット(規模の経済)の獲得です。
具体的には、製品ラインナップの強化、マーケットシェアの拡大、スケールメリットによる仕入れコストの削減などの効果が見込まれます。
また、買収先企業が優れた技術やノウハウを有している場合には、当該技術やノウハウを自社グループ内に取り込むといったことも期待できるでしょう。

2-2. 対象企業

次に、垂直型M&A、水平型M&Aの対象企業について把握しましょう。

垂直型M&Aの対象企業

垂直型M&Aでは、開発・仕入・製造などの上流企業(川上)や、販売・マーケティングなどの下流企業(川下)がM&Aの対象です。
より消費者から遠い企業が「川上」企業と呼ばれ、より消費者に近い企業が「川下」企業と呼ばれています。
垂直型M&Aでは、自動車やアパレルといった特定産業の、上流工程から下流工程までを自社グループ傘下に納めることで、バリューチェーンの最適化を狙います。

水平型M&Aの対象企業

水平型M&Aでは、同一市場における同業他社がM&Aの対象です。それまでは、同一市場で競合していた企業同士が協力関係となるため、市場に対して大きな影響をもたらすことが想定されます。
例えば、ファミリーマートとサンクスのケースでは、業界最大手に対抗するため、業界の2番手以降の企業同士が合併しました。
また、コロワイドと大戸屋の合併のケースでは、コロワイドグループが保持していた「セントラルキッチン」の技術を大戸屋にも展開することで、プロセスの効率化を目指しました。

2-3. メリット

続いては、垂直型M&Aと水平型M&Aのメリットについて理解しましょう。

垂直型M&Aのメリット

垂直型M&Aの最大のメリットは、バリューチェーンの最適化です。
バリューチェーンを最適化することによって、プロセス全体のコスト削減、製品の安定供給の実現など、他社との差別化につなげることが可能です。
また、外部企業との交渉事が減ることで、各グループ企業は開発や製造といった本業に集中できるメリットがあります。交渉事の減少により、意思決定のスピードが迅速化されるメリットも期待できるでしょう。
上流から下流までビジネスの範囲が広がることによって、より広範囲な情報の入手が可能となるため、新規ビジネスへの参入の可能性が広がるメリットもあります。

水平型M&Aのメリット

水平型M&Aの最大のメリットは、既存事業の競争力を強化できることです。
具体的には、製品ラインナップの拡充により、顧客にとっての満足度向上が見込めるほか、
スケールメリットを獲得することで仕入れコストが削減できる、市場シェアが高まるなどの効果が期待できます。
買収先企業の技術やノウハウを受け入れることで、企業の競争力を高められるだけでなく、自社が保有する技術やノウハウを買収先企業へ展開することで、グループとしての競争力を強化できるメリットも考えられるでしょう。

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2-4. デメリット

一方の、垂直型M&Aと水平型M&Aのデメリットについて把握しましょう。

垂直型M&Aのデメリット

ビジネスが多角化することによって、会社のガバナンスが利かなくなる可能性がある点が一つのデメリットとして挙げられます。また、コアコンピタンスに集中することができず、従来よりも経営手腕が問われる点もデメリットといえるでしょう。
いずれも、多角化によるメリットの裏返しではありますが、会社が多角化することで経営や企業統治が難しくなるケースが想定されます。
他にも、グループ内部のみにサービスを提供することになる場合、競争意識が無くなってしまうことから、サービス品質が低下する恐れがあります。自社サービスのみを利用することで、他社の優れたサービスを利用する機会を逸する可能性がある点も考えられるでしょう。

水平型M&Aのデメリット

水平型M&Aのデメリットとして、独占禁止法に抵触する可能性がある点が挙げられます。市場におけるシェアの拡大は、企業にとって大きなメリットとなる一方、消費者の立場で見ると「市場の独占」というデメリットになる可能性が生じます。
すなわち、市場における競争が無くなることによって、消費者としてはより安価で良質な商品の提供を受ける機会を失う恐れがあるため、消費者の利益を損なう場合があるのです。
そこで、独占禁止法では一般消費者の利益確保の観点から、公正な市場原理を妨害するような独占行為を禁止してます。そのため、水平型M&Aを実施する際は「市場の独占状態とならないか」について、留意しながら進めていく必要があります。
また、従来の競合同士が合併するケースも多いことから、企業文化が衝突してしまうリスクがある点も、水平型M&Aのデメリットといえるでしょう。

3. 垂直型M&A・水平型M&Aの事例

ここからは、垂直型M&A、水平型M&Aの事例について見ていきましょう。

3-1. 垂直型M&Aの事例

まずは、垂直型M&Aとして、トヨタ自動車株式会社、株式会社ファーストリテイリング(ユニクロ)、Amazon.com Incの事例を紹介します。

トヨタ自動車

日本が世界に誇るトヨタ自動車は、自動車の研究開発、企画から販売までを一貫して自社グループにて提供している、垂直統合型経営の代表例です。
本社で企画・開発、製造会社が自動車を製造、車種ごとの販売会社を通じて販売するといった流れで、一連のサービスをワンストップで行うことにより「モビリティサービス」を消費者へ提供しています。
このような体制をベースに「トヨタ生産方式」と呼ばれるプロセスを構築し、徹底的なムダの排除や「かんばん方式(ジャストインタイム生産方式)」などの仕組みを実現しました。

ファーストリテイリング(ユニクロ)

「ユニクロ」や「GU」ブランドを展開し、世界的なアパレル企業であるファーストリテイリングも、企画から製造、販売までをワンストップで自社グループにて提供している、垂直統合型経営の代表例といえます。
ファーストリテイリングでは、SPA(Speciality store retailer of Private label Apparel)と呼ばれる、小売業が企画・製造までを一貫して実施する形態をとっています。
こうした形態をとることで自社オリジナルの商品開発を行い、他社との差別化を図ることができました。また、店舗における顧客ニーズの取り込みが可能となり、スピーディな開発への反映を実現し、顧客満足度を高めることに成功しています。

Amazon

最後に海外の事例として、Amazon社を紹介します。
Eコマース事業を展開するだけでなく、AWS(Amazon Web Services)や動画サービスの配信など幅広く事業展開しているAmazonですが、Eコマース事業に関して垂直統合型の経営を行っています。
具体的には、倉庫の管理業務・配送業務・ECサイトの運営といった形で、これらのサービスを一貫してグループ内で実施することで、バリューチェーンの最適化を実現しました。
また、倉庫業においては自社内の倉庫業務だけでなく、独立したサービスとして外部顧客へのサービス提供も行っています。垂直統合のメリットの実現に加えて、既存リソースを最大限活用している事例といえるでしょう。

3-2. 水平型M&Aの事例

次に、水平型M&Aとして、株式会社ファミリーマート、株式会社コロワイド、ENEOSホールディングス株式会社の事例を紹介します。

ファミリーマート

ファミリーマートは、2016年にサークルKサンクスと統合しました。同業他社であるサークルKサンクスを統合することで店舗数を拡大し、市場シェアを拡大することが狙いです。
結果的に業界2番手であったローソンから、ファミリーマートが2位の座を奪取することに成功しました。
なお、ファミリーマートは2020年に伊藤忠商事株式会社の完全子会社となったため、既に上場廃止していますが、合併後から上場廃止までの株価は好調であり、水平型M&Aの成功例といえるでしょう。

コロワイド

コロワイドは、2020年に株式会社大戸屋ホールディングスを子会社化しました。コロワイドが有する「セントラルキッチン」を大戸屋グループにも展開することで、グループとしての効率性を向上させることが狙いです。
コロワイドから敵対的なTOB(Take Over Bid:株式公開買付)をしかけたため、世間的にも大きな関心を集め、多くのメディアで取り扱われました。
大戸屋側の反対があったため遺恨を残す形となりましたが、結果的に成功したといえる水平型M&Aの事例です。

ENEOSホールディングス(旧JXTGホールディングス)

ENEOSホールディングスも、水平型M&Aを繰り返して市場シェアを拡大してきた企業グループです。
現在のENEOSホールディングスには、旧モービル石油、旧エッソ石油、旧三井石油、旧東燃、旧ゼネラル石油、旧日石三菱、旧新日鉱ホールディングスなどの会社が含まれています。
業界の再編が繰り返された結果、グループとしての規模を拡大し続け、石油業界内での最大シェアを誇る企業グループとなりました。

4. 垂直型M&A・水平型M&Aを成功させるためのポイント

最後に、垂直型M&A、水平型M&Aを成功させるためのポイントについて解説します。

4-1. 戦略を明確化して実施する

垂直型M&A・水平型M&Aを実行する際は、事前に戦略を明確化し、なぜM&Aを実行するのか、統合後のイメージをしっかりと持っておくことが重要です。
明確な戦略が無く、M&Aの実施自体が目的となってしまうと、事前に想定していたような十分な成果を得られない恐れがあります。
そのため、事前に明確なM&Aの戦略を立て、そこから逆算したスキーム選択や条件交渉、経営統合といった流れを進めていくようにしましょう。

4-2. 入念なPMI(経営統合)を行う

M&Aは実行するだけでなく、PMI(経営統合)をしっかりと行うことも重要です。
PMIとは「Post-Merger Integration」の略称で、M&A後の統合効果を最大化するための統合プロセスのことをいいます。具体的には、経営・人事・業務・企業文化など、合併当事者間で異なる部分を一つの企業に統合していくようなイメージです。
PMIが不十分な場合、不満をもった従業員の離職、企業文化の衝突による社内対立のほか、場合によっては顧客離れや業績悪化といった事態を招く可能性があります。
M&Aを実行することで一つの目的を達成したと思いがちですが、最終的なM&Aの戦略や目的が達成できるところまで、油断なく進めていくことが大切です。

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4-3. 専門家の力を借りる

M&Aの実行には、高度な専門性が必要なだけでなく、相手方との交渉が欠かせないことから、M&Aの経験を有している担当者をアサインすることが成功への重要なポイントです。
社内でM&Aの経験があるメンバーが少ない場合には、外部の専門家の力を借りることを検討しながら進めることも可能です。
一般的に、M&Aを自社のみで成功させることは難しい場合が多いので、成功確率を高めるためには、戦略を立てるタイミングからM&Aに対する知見が深い専門家を巻き込みながら進めると良いでしょう。

5. まとめ

垂直型M&A、水平型M&Aは、それぞれ目的や対象企業が異なるため、自社の状況を踏まえたうえで適切な手法を選択するようにしましょう。
前述のとおり、M&Aの実行には高度な専門性が必要なだけでなく、相手方との交渉などが必須になるため、外部の専門家の力を借りることも検討しながら進めることが、成功のためのポイントとなります。
M&Aキャピタルパートナーズは、M&Aに関する高度な専門性を有するだけでなく、東証プライム上場の信頼性が高い企業です。M&Aを共に進めるパートナーとして、検討されてみてはいかがでしょうか。

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監修者プロフィール
M&Aキャピタルパートナーズコーポレートアドバイザリー部長 梶 博義
M&Aキャピタルパートナーズ 
コーポレートアドバイザリー部長
公認会計士梶 博義

大手監査法人、事業承継コンサルティング会社を経て、2015年に当社へ入社。
これまで、監査、IPO支援、財務DD、親族承継・役職員承継コンサル等を経験し、当社入社後はM&Aアドバイザーとして活躍。一貫して中小企業の支援に従事し、M&Aのみならず、事業承継全般を得意とする。

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