会社売却とは? メリット・デメリットや具体的な流れ、成功のポイントを解説

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会社売却について

後継者不在や会社の持続的成長のための選択肢として「会社売却」があります。会社売却を検討する際には、赤字決算となっている場合の取扱いや、手法についての理解が欠かせません。また、実施にあたっては売却価格の適切な算定など、多くのポイントを押さえる必要があります。

本記事では、「M&Aとは?M&Aとは?|詳細記事へ」の基本的な理解を踏まえたうえで、会社売却の方法や、メリット・デメリット、価格算出方法、実施する際の流れ、実務上のポイントなどについて解説します。


会社売却とは

会社売却とは、会社の所有権を第三者に譲渡し、その対価として金銭などを受け取る取引のことです。近年、日本では少子高齢化による後継者不足が深刻化しており、M&Aを通じた会社売却が「第三者承継」の手段として注目を集めています。

会社売却は、事業の継続だけではなく、買い手企業とのシナジー効果により一層の成長も図れる手法です。これまで培ってきた技術やノウハウ、そして従業員の雇用を守るための有効な選択肢として活用されています。

近年の会社売却の動向

中小企業庁の「中小M&A市場の改革に向けた方向性について」によると、中小企業のM&A件数は2014年度から2023年度にかけて大幅に増加しています。増えているのは、事業承継や成長戦略の一環として活用されるケースです。

中小M&Aの実地件数の推移
画像出典:中小M&A市場の改革に向けた方向性について

特に民間M&A支援機関による成約件数は、2021年度の3,403件から2023年度には4,681件へと、わずか2年間で約1.4倍に達しました。事業承継・引き継ぎ支援センターといった公的機関による支援も、同期間で1,514件から2,023件へと拡大しています。

背景にあるのは、深刻化する後継者不足の問題です。「事業の持続可能性を確保する手段」としてM&Aへの関心が高まっています。

会社を売却する理由

会社売却が検討される理由は多岐にわたりますが、最も多いのは、後継者不足を背景とした「事業承継」です。

後継者不在の状況は、従業員の雇用や取引先へ深刻な影響を及ぼす可能性がありますが、会社売却によってこれらのリスクの回避を図れます。さらに、資金力のある企業への統合により経営の安定化につなげることも可能です。

近年では、経営者自身の「アーリーリタイア」や、創業者が投下資本を回収する「イグジット戦略」として、会社売却を選択するケースも少なくありません。IPO(株式上場)による企業成長や、ノンコア事業を外部へ売却することでコア事業への集中を図る「カーブアウト」を目的とした売却も行われています。

会社売却の主な理由をまとめると、次のとおりです。

  • 事業承継
  • 大企業への統合
  • コア事業への集中
  • IPO(株式上場)を目指す成長戦略
  • アーリーリタイア
  • イグジット戦略

会社が赤字でも売却できる?

会社が赤字状態であっても、売却が不可能というわけではありません。買い手は現在の利益額だけでなく、将来の成長性、事業の独自性、顧客基盤や技術、人材といった無形の資産も総合的に評価するためです。

例えば、赤字の要因が一時的なものに過ぎないのであれば「構造改革やコスト削減による黒字化が見込める」として売却対象になり得ます。ほかには、特定の地域で高いシェアを誇る、あるいは他社にとって戦略的価値のある事業を持つようなケースも、積極的な買収の対象となることがあります。

重要なのは、赤字の原因を明確に分析し、改善の可能性や自社の強みを具体的に示すことです。専門家の支援を受けながら買い手を探すことで、赤字企業でも売却を成功させることは十分に可能です。

会社売却の方法

会社売却には、会社の状況や売却の目的に応じていくつかの手法が存在します。どの方法を選択するかによって、手続きの流れや税務上の扱いが大きく異なるため、それぞれの特徴を理解したうえで慎重に検討してください。

ここでは、株式譲渡と、事業譲渡、2つのパターンについて、それぞれ見ていきましょう。

株式譲渡

株式譲渡のイメージ

株式譲渡とは、売り手企業の株主が保有する株式を買い手企業に譲渡し、会社の経営権を移転させる方法です。会社の法人格はそのまま維持されるため、従業員との雇用契約や取引先との関係も基本的に引き継がれます。手続きが比較的シンプルであることから、特に中小企業のM&Aにおいて、一般的に用いられる手法です。

ただし、買い手は会社を包括的に引き継ぐため、帳簿には現れない簿外債務や訴訟リスクといった潜在的な問題もすべて承継することになります。そのため、売り手としては、事前のデューデリジェンス(買収監査)に備え、社内情報を正確に整理・開示し、透明性の高い状態で交渉に臨むことが成功の鍵です。

事業譲渡

事業譲渡のイメージ

事業譲渡は、会社の事業の一部または全部を対象として、買い手に譲渡する方法です。この手法の特徴は、売却する資産や負債、契約などを個別に選定できる点にあります。これにより、売り手は不採算事業や不要な資産を切り離して売却することが可能です。

ただし、個々の資産や契約を移転させる手続きが必要となり、従業員の転籍にも個別の同意が求められるなど、実務的な手間や調整の負担が大きくなる点には注意が必要です。また、譲渡益に対して法人税、建物や機械などの資産に対しては消費税が課されるなど、税務処理が複雑になる点にも注意しなければなりません。

売り手としては、譲渡対象の範囲や税負担を事前にシミュレーションし、計画的に準備を進めることが重要です。

会社売却のメリット

会社売却は、売り手にとって以下のようなメリットをもたらします。

事業の成長や経営者個人のリスク軽減にもつながるため、自社の状況と照らし合わせながら検討しましょう。

後継者不足問題解決の糸口となる

日本の中小企業では後継者不在が深刻な課題となっており、事業承継の有力な手段として第三者への会社売却が増加しています。親族や社内に適任者がいない場合でも、外部の企業に事業を引き継ぐことで、従業員の雇用や取引先との関係を維持しながら事業の継続が可能です。

企業の成長につながる可能性がある

会社売却は、売り手企業にとって、新たな成長の機会にもなり得ます。買い手企業の資本力や販路、技術などを活かすことで、売却前には難しかった大規模な投資や事業拡大が可能になることも少なくありません。

例えば、資金力のある企業に買収されれば、新製品開発や海外展開が加速し、大企業の信用力を背景に資金調達や取引先開拓が有利に進むことが期待できます。

財務基盤の強化と持続的な成長につなげるには、自社の強みを活かせるパートナーとの相乗効果(シナジー)を創出することが重要です。

売却益を獲得できる

会社を売却することにより、経営者は築き上げてきた事業の価値に見合った売却益(創業者利益)を得られます。経営者が得た売却益は、自身の老後資金や新たな事業への投資資金として活用できるでしょう。

会社の収益性や市場での優位性が高く評価されれば、高額での売却も期待できます。より高い評価を得るため、事業が成長のピークにあるタイミングを見極めることも重要です。

個人保証を解除できる

中小企業の経営者は、金融機関からの借入に際して個人保証を提供していることが一般的です。これは、会社が返済不能に陥った場合に、経営者個人が債務を負うものです。

金融機関との調整が必要ですが、会社売却が成立し、買い手企業が融資を引き継ぐことで、経営者にとって大きなリスクである個人保証を解除できる可能性があります。これは、会社売却の非常に大きなメリットといえるでしょう。

会社売却のデメリット

会社売却には多くのメリットがある一方、以下のようなデメリットも存在します。

売却後に後悔しないよう、メリットとデメリットの両方を把握したうえで判断しましょう。

ロックアップが発生する場合がある

会社売却後、元経営者が一定期間、買い手企業の経営に関与し続けることを求められる「ロックアップ」という条件が付されることがあります。事業の円滑な引き継ぎを目的として買い手側が設定するもので、売却後すぐに引退を考えていた経営者にとっては想定外の負担となるでしょう。

ロックアップ期間中は、取締役や顧問といった立場で会社に残り、一定の責任を負うのが一般的です。後々のトラブルを避けるため、売却交渉の段階で関与する期間や報酬、具体的な役割と責任範囲について明確に取り決めておくことが不可欠です。

同じ領域の事業活動を一定期間制限される

会社を売却する際、買い手企業の事業価値を守るため「競業避止義務」が課されることが一般的です。これは、売却した事業と同一または類似の領域で、売り手経営者が新たに起業したり、競合他社へ転職したりすることを一定期間制限するルールです。

競業避止義務では、制限される業種・事業の範囲のほか、地域、期間などが細かく定められます。違反した場合には損害賠償を請求されるリスクもあるため、契約内容は事前に細部まで確認しておく必要があります。

社内外のステークホルダーに不安を与える可能性がある

会社売却の公表は、従業員や取引先といった社内外のステークホルダーに不安を与える可能性があります。

特に従業員には、雇用が継続されるか、あるいは労働条件や評価制度がどう変わるかといった懸念を与えかねません。これにより、モチベーションの低下や離職につながるリスクがあります。また、主要な取引先は、経営体制の変更による信用不安から、契約条件の見直しを検討することもあります。

こうした影響を最小限に抑えるためには、売却の背景や今後の経営方針について、関係者へ丁寧に説明し、信頼関係を維持していく姿勢が極めて重要です。

会社売却の価格算出方法

会社売却を行うためには、対象企業の企業価値を評価しなければなりません。その際の評価方法にはさまざまなものがありますが、主に用いられているのが、下表の3つです。

算出手法 主な視点 詳細
コスト・アプローチ 純資産(資産-負債)
  • 会社の「帳簿上の価値」をもとに評価される
  • 不要資産・簿外債務の整理が重要
マーケット・アプローチ 類似会社の市場価値
  • 上場企業やM&A事例と比較して算出する
  • 中小企業では参考程度になることもある
インカム・アプローチ 将来の利益・キャッシュフロー
  • 将来の収益性を重視する
  • 「成長性」や「強み」が評価につながる

コスト・アプローチ

コスト・アプローチは、会社が保有する資産と負債に着目し、その差額である「純資産価値」をもとに企業価値を算定する方法です。財務諸表の数値をベースにするため客観性が高く、特に不動産などの有形資産を多く持つ企業の評価に適しています。

ただし、帳簿上の価値に重きを置くため、将来の収益性やブランド価値といった無形の強みが反映されにくい側面があります。このような理由から、企業成長を目指す場合は、必ずしも適しているとは限りません。

売り手側は、事前に不要資産の整理や簿外債務の確認を行い、実態に即した財務状況に整えておきましょう。これにより、正当な評価を受けやすくなります。

マーケット・アプローチ

マーケット・アプローチは、株式市場に上場している類似企業や、過去のM&A取引事例と比較することで、自社の企業価値を推定する方法です。市場の相場感を反映しやすく、客観的な取引価格の目安として活用されることがあります。

ただし、非上場の多い中小企業の場合、事業規模やビジネスモデルが完全に一致する比較対象を見つけることは難しく、マーケット・アプローチはあくまで補助的な評価手法として用いられるのが一般的です。

売り手としては、自社の業界内でのポジションや収益性を客観的に把握し、専門家が適正な比較対象を選定できるよう情報を提供することが大切です。

インカム・アプローチ

インカム・アプローチは、会社が将来生み出すと期待される利益やキャッシュフローをもとに、企業価値を評価する方法です。代表的な手法としてDCF(ディスカウントキャッシュフロー)法があります。

将来の収益力に焦点を当てるため、成長性が高いスタートアップ企業や、現在は赤字でも将来的に黒字化が見込まれる企業の価値評価に適しています。注意したいのは、この方法は事業計画の予測値や設定する前提条件に結果が大きく左右されるため、客観性のある資料の準備が不可欠である点です。

売り手としては、自社の強みや優位性を整理し、信頼性の高い事業計画をもって将来性を具体的に説明できるようにしておくことが望ましいでしょう。

会社売却の流れ

会社売却の基本的な流れは以下のとおりです。

  1. 会社売却の検討
  2. 売却に向けた自社の情報・ビジョンの整理
  3. 外部の専門家の活用を検討する
  4. 買い手企業の検討
  5. 秘密保持契約の締結・企業概要書の提示
  6. トップ面談の実施
  7. 基本合意書の締結
  8. デューデリジェンスの実施
  9. 最終契約の締結・会社売却の実行
  10. 情報開示(ディスクロージャー)を行う
  11. PMIの実施

検討を開始してから最終的な統合が完了するまで、半年から1年以上の期間を要し、各段階で専門的な知識や慎重な判断が求められます。

ここでは、各段階ごとに、より詳細に解説していきます。

1.会社売却の検討

会社売却を成功させる最初のステップは、「なぜ売却するのか」という目的を明確にすることです。後継者不在による事業承継、経営者の引退を見据えた資産の確保、あるいは新規事業への挑戦に向けたイグジット戦略など、目的によって交渉の進め方や譲れない条件は大きく変わるでしょう。

同時に、売却後も守りたいもの(従業員の雇用、取引先との関係、ブランドの存続など)や、最低限実現したい希望条件(売却価格、引き継ぎの時期や方法など)を具体的に整理しておくことが重要です。

本格的に交渉を始める前に、自社の現状と向き合い、何を優先すべきかを明確にすることで、その後の交渉で判断の軸のぶれを防げます。

2.売却に向けた自社の情報・ビジョンの整理

売却の目的と方針が固まったら、交渉をスムーズに進めるための準備に取りかかります。

まず基本となるのが、直近の財務諸表や重要な契約書といった、売却プロセスで必要となる情報を整理し、いつでも提示できるようにまとめておくことです。

加えて、帳簿に記載されていない債務(簿外債務)や訴訟リスク、取引先との間で懸念される事項など、買い手がマイナス評価しかねない要素も事前に洗い出し、対応策を検討しておかなくてはなりません。

ほかに、従業員の処遇や経営体制の継続、個人保証の解除といった売却後のビジョンを具体的に描き、交渉の軸を固めておくことも必要です。

こうした丁寧な準備が、買い手との信頼関係構築につながり、有利な条件での売却を実現しやすくなります。

3.外部の専門家の活用を検討する

会社売却は、自社のリソースだけで進めることも不可能ではありません。実際に、経営者自身が買い手を見つけ、交渉から契約までを完了させるケースも存在します。

しかし、会社売却のプロセスには、税務や法務といった高度な専門知識が不可欠であり、買い手企業との相性の見極めや複雑な条件交渉も伴います。手続きを円滑に進め、売り手にとって最善の結果を導き出すためには、早い段階から専門家の支援を受けるべきでしょう。

外部の専門家を活用する場合には、依頼先としてフィナンシャル・アドバイザー(FA)とM&A仲介会社が候補に挙がります。M&A仲介会社は、売り手と買い手の間に立ち、中立的な立場でマッチングから交渉支援、契約締結までをサポートします。一方、FAは売り手か買い手、どちらか一方の代理人として、利益の最大化を目指して交渉を進めます。

それぞれの役割や料金体系、過去の実績や専門分野などを比較検討し、自社の状況に合った信頼できるパートナーを選ぶことが、会社売却の成功を大きく左右します。

4.買い手企業の検討

M&Aの専門家に依頼すると、本格的な買い手候補の選定が始まります。候補企業は下記のようなステップで段階的に絞り込まれていきます。

ステップ 内容 ポイント
ロングリスト 業種や地域などの条件に合う企業を広くリストアップ 希望条件を丁寧に伝えておくことで、的確な候補が挙がりやすくなる
ショートリスト 事業方針や将来性を踏まえて有力候補に絞り込み 自社との相性や譲れない条件(従業員・ブランド等)を共有しておく
ノンネームシート 匿名で作成された事業概要資料で打診を開始 自社の強みを簡潔に伝える内容であるか確認しておく

上記のプロセスでは、単に売却価格の高さだけでなく、自社の企業文化や事業方針との相性も慎重に見極めることが重要です。従業員や事業の将来にとって、納得感のある相手を選ぶ視点が求められます。

5.秘密保持契約の締結・企業概要書の提示

買い手候補の中から関心を示した企業が現れたら、具体的な交渉に入る前に「秘密保持契約(NDA)」を締結します。売却を検討している事実や、今後開示する財務情報などの機密情報が外部に漏洩するのを防ぐための手続きです。

NDAの締結後は、売り手は自社の詳細情報をまとめた「企業概要書(IM)」を買い手に提示します。IMには、事業内容や財務状況、組織体制、自社の強みや将来性などが網羅的に記載されており、買い手が買収を本格的に検討するための基礎資料となります。

売り手には、自社の魅力が正確かつ十分に伝わるよう、客観的なデータに基づいた説得力のある資料を作成することが求められます。

6.トップ面談の実施

買い手候補が買収の意思を示した段階で、売り手と買い手の経営トップ同士による面談が実施されます。この面談の主な目的は、企業概要書だけではわからない経営理念や、経営者の人間性などを共有し、相互理解を深めることです。

トップ面談を経て、買い手企業が正式に買収を希望する場合、意向表明書(LOI)が提出されます。この意向表明書をもとに、売却先候補を1社に絞り込み、具体的な条件の調整へ進みます。

条件調整の場で主に話し合われるのは、譲渡価額や社員の処遇、契約時期などです。なかでも、従業員の雇用継続や経営方針の引き継ぎに関する合意は、売り手側にとって重要なポイントとなるため、慎重な交渉が求められます。

7.基本合意書の締結

トップ面談などを通じて売り手と買い手の双方で大筋の方向性が固まったら、基本合意書(MOU)を締結します。基本合意書には、現時点での売却予定価格や今後のスケジュール、基本的な条件などが明記されます。法的な拘束力を持たない項目がほとんどですが、両者の合意内容を文書で確認し、その後の交渉の土台とする重要なものです。

注意したいのは「独占交渉権」に関する条項です。締結後は他の買い手候補との交渉が禁止されるものであり、条件のすり合わせが不十分だと、後のプロセスで認識の齟齬が生じ、交渉決裂の原因にもなりかねません。

基本合意書では、価格だけでなく、従業員の処遇やブランドの扱いといった事項も含め、納得できる内容とすることが重要です。

8.デューデリジェンスの実施

基本合意書を締結した後、買い手による売り手企業の詳細な調査、すなわちデューデリジェンス(DD)が実施されます。

DDは、財務・税務・法務・労務・事業・ITなど、多角的な観点から売り手企業の経営実態や潜在的リスクを精査するプロセスです。買い手にとっては、買収後のリスクを最小限に抑え、安心して取引を進めるために不可欠な手続きといえます。

売り手側には、要求された資料を迅速かつ誠実に提供する姿勢が求められます。情報の不備や対応の遅れは、買い手の不信感を招き、最悪の場合、売却価格の引き下げや取引の中止につながる可能性もあるため、真摯な対応が不可欠です。

9.最終契約の締結・会社売却の実行

デューデリジェンスの結果を踏まえ、売り手と買い手の双方が最終的な条件に合意すると、最終契約書の締結に進みます。最終契約書には、譲渡する株式や資産の内容、確定した売却金額、支払い方法、譲渡日、表明保証といった、法的な拘束力を持つすべての条件が詳細に定められます。専門的かつ重要な書面であるため、弁護士などの専門家によるリーガルチェックが不可欠です。

最終契約書への署名・捺印後は、株式や資産の移転および売却代金の決済(クロージング)が契約書の内容に沿って行われ、会社売却のすべての手続きが正式に完了します。

後々のトラブルを避けるためにも、契約内容は細部まで十分に理解し、納得したうえで締結することが重要です。

10.情報開示(ディスクロージャー)を行う

会社売却が正式に完了したら、従業員や取引先、顧客といった社内外の関係者(ステークホルダー)に対して、適切なタイミングで情報開示(ディスクロージャー)を行います。

特に従業員に対しては、雇用の継続や今後の体制について丁寧に説明し、不安を和らげることが不可欠です。また、主要な取引先や顧客には、経営体制が変わっても事業は安定して継続される方針を明確に伝え、信頼関係を維持する必要があります。

スムーズな事業の引き継ぎと関係維持のため、情報開示のタイミングや伝える内容、方法については、買い手企業と十分に協議したうえで慎重に進めましょう。

11.PMIの実施

PMI(Post Merger Integration)は、会社売却(M&A)が成立した後に、買い手と売り手の企業を効果的に統合していく一連のプロセスを指します。

具体的には、経営方針のすり合わせ、組織体制の整備、人事制度や会計基準の統一、業務フローやITシステムの統合など、その対象は多岐にわたります。これらが円滑に進まないと、期待したシナジー効果が得られないばかりか、従業員のモチベーション低下や離職、業務の混乱といった問題を引き起こしかねません。

売り手としても、自社が築き上げてきた事業の未来に責任を持つという意識を持ち、買い手と協力してPMIに真摯に取り組む姿勢が求められます。専門家の支援も活用しながら、両社が一体となって新たな成長を目指す体制を築くことが重要です。

会社売却に必要な費用・税金

会社売却を実施すると、さまざまな費用や税金の支払いが発生します。以下で詳しく解説していきます。

売却の手法 税金の種類 所得税・法人税の計算式
株式譲渡 個人株主:所得税、住民税 個人株主:譲渡所得に対し20.315%
法人株主:法人税、住民税、事業税 法人株主:譲渡所得に対し約30%
事業譲渡 法人税、住民税、事業税、消費税 譲渡所得に対し約30%

株式譲渡の売却益に生じる税金

株式譲渡によって会社売却を実施した場合、売り手の株主が個人か法人かによって課税方法が異なります。

個人株主の場合、譲渡所得として所得税15%、住民税5%、復興特別所得税0.315%が課税 され、合計税率は約20.315%となります。これらは申告分離課税として課税されるため、他の所得とは区別して計算しなければなりません。

一方、法人が株主である場合、譲渡による所得に対して約30%の法人税が課税 されます。ただし、法人の場合は他の所得と合算されるため、仮に本業が譲渡益を超える赤字である場合には、法人税を支払うことはありません。

また、繰越欠損金が課税所得を上回る場合 には、譲渡益を相殺できるため、結果として法人税が発生しないこともあります。これらを考慮しながら、最適な売却スキームを検討することが重要です。

事業譲渡の売却益に生じる税金

株式譲渡の場合、売却対価は株主が受け取りますが、事業譲渡では、売却対価を受け取るのは会社自身となります。そのため、事業譲渡による譲渡所得には 約30%の法人税が課税されます。

また、土地を除く建物や機械などの譲渡には、10%の消費税が課税される点にも注意が必要です。消費税は売却価格に上乗せして買い手から受け取る形となりますが、買い手が課税事業者であれば、仕入税額控除の適用を受けられる場合があります。さらに、不動産を譲渡した場合、買い手側に不動産取得税や印紙税が課税されます。

契約内容によっては、売り手が一部の費用を負担するケースもあるため、事前に税負担のシミュレーションを行うことが重要です。

その他に必要となる費用

会社売却を進めるためには、多くの場合、仲介会社や専門家への手数料や報酬も必要です。M&A仲介会社などに依頼する場合、以下の費用が発生します。

着手金
仲介会社に依頼した時点で支払う費用
中間報酬
基本合意書を締結した際に発生する費用
成功報酬
M&Aが成約した際に支払う費用
リテイナーフィー
毎月支払う月額手数料(契約形態によっては不要な場合もある)

料金体系は依頼する仲介会社によって異なり、依頼内容に応じて変動 することもあります。そのため、契約前に手数料の内訳や支払い条件を十分に確認し、費用対効果を見極めることが重要です。

会社売却を成功させるためのポイント

会社売却を成功に導くためには、事前の準備と戦略的な視点が不可欠です。ここでは、タイミングの見極めから信頼できるパートナー選びまで、売却を有利に進めるために押さえておきたい重要なポイントを解説します。

現状分析を行い最適なタイミングで売却する

会社売却では「いつ売るか」というタイミングの見極めが非常に重要です。売却の成果は、会社の状態や市場の状況によって大きく左右されるため、慎重な判断が求められます。

経営者個人のタイミング

経営者の引退や健康上の理由など、個人的な事情が会社売却の大きなきっかけになることは少なくありません。また、長年の経営によるプレッシャーから解放されたいという心理的な要因も、売却を意識するタイミングになり得るでしょう。

業績が安定しているうちに準備を始めることで、より有利な条件での売却につながりやすくなります。

業界や市場のタイミング

業界全体の動向や市場環境は、会社売却の成否を左右します。例えば、業界が成長期にありM&Aが活発なタイミングでは、買い手企業の関心も高く、価格交渉を有利に進められる可能性があります。一方で、業界が成熟期や衰退期に入ると買い手の意欲は低下しがちです。

自社だけでなく業界全体の動きを注視し、売り時を見極める視点が大切です。

会社の成長段階に応じたタイミング

自社の成長ステージも、売却時期を判断するうえで重要な要素です。売上や利益が安定して伸びている成長期であれば、企業価値も高まりやすく、買い手から高く評価されやすいでしょう。反対に、業績が不安定な局面では、業績が大きく落ちる前に売却を検討することも一つの選択肢です。

自社の状況を冷静に分析し、十分な準備期間を確保したうえで判断することが成功の鍵となります。

自社の価値を客観的に把握しておく

会社売却を成功させるには、自社の価値を客観的に把握しておくことが欠かせません。感覚や希望的観測だけで価格を設定すると、交渉で不利になったり、買い手との間に認識のズレが生じたりする恐れがあります。

企業価値評価(バリュエーション)を通じて、資産や将来の収益性といった観点から自社を数値化し、価格の根拠を明確にするようにしましょう。評価方法は会社の状況や業種によって異なりますが、必要であればM&A仲介会社や会計士といった専門家に依頼し、客観的な評価を得るのが確実です。

シナジー効果を見込める相手を見極める

買い手企業との間にシナジー効果が見込めるかどうかは、売却後の事業の成長を大きく左右します。シナジー効果とは、販路の拡大や技術力の補完、ノウハウの共有など、両社が一体となることで生まれる相乗効果です。事業の方向性や企業文化が一致する相手を選ぶことで、売却後の統合プロセス(PMI)もスムーズに進みやすくなります。

提示される売却価格だけでなく、事業戦略や文化の相性なども含めて、長期的な視点で慎重に相手先を見極めることが重要です。

自社の魅力を高めておく

会社売却を成功させるには、事前に自社の魅力や企業価値を整理し、高めておくことが重要です。具体的には、次のような要素を洗い出しておくべきです。

ブランド力・市場シェア
業界内で確立されたブランドや安定した顧客基盤
技術・ノウハウ
特許や独自の技術など
人材・組織力
経験豊富な従業員や優れた営業チームなど
取引先ネットワーク
安定した仕入先や販売チャネルなど
財務の安定性
収益性の高い事業構造、健全なキャッシュフローなど
成長ポテンシャル
将来の市場拡大が見込めるビジネスモデルなど

これらの強みを明確にし、磨き上げておくことで、買い手から見た企業価値の向上につながります。交渉の場でも自信を持って自社の魅力を説明でき、結果として納得感の高い売却が実現しやすくなります。

情報漏洩の対策を徹底する

会社売却のプロセスでは、多くの機密情報を取り扱うため、情報漏洩の対策を徹底しましょう。売却を検討している事実が従業員や取引先に漏れてしまうと、社内に動揺が広がり、最悪の場合、顧客離れや事業価値の低下を招きます。

買い手候補と接触する前には、必ず秘密保持契約(NDA)を締結し、情報の取扱いルールを明確にしなければなりません。ほかにも、交渉に関わる社内メンバーは必要最小限に絞り、外部とのやりとりは仲介会社を通じて慎重に行うなど、情報の管理を徹底することが売却を成功に導くための前提条件です。

信頼できるM&A仲介会社を選ぶ

会社売却を成功に導くうえで、信頼できるM&A仲介会社をパートナーに選ぶことは非常に重要です。仲介会社は、買い手候補の選定から複雑な条件交渉、契約手続きまでを一貫して支援する専門家です。

自社の業界や企業規模に合った豊富な実績を持つ仲介会社を選ぶことで、最適な買い手と出会える可能性が高まります。情報漏洩のリスク管理や、長期にわたる交渉プロセスにおける精神的な支えとしても、その存在は不可欠です。

会社売却の事例

会社売却はどのように行われるかイメージできるよう、後継者問題の解決や企業のさらなる成長を実現した、3つのM&A事例をご紹介します。

株式会社みなとみらいDreamから株式会社JALUX

2025年4月、北海道産品の小売店「北海道うまいもの館」を運営する株式会社みなとみらいDreamは、その全株式を株式会社JALUXに譲渡しました。

みなとみらいDream側では、兼務するホテルの大規模修繕に注力する必要が生じたため、手塩にかけて育てた物産事業の成長を託せるパートナーを探していました。空港外での小売事業展開を模索していたJALUXが買い手として着目したのは、北海道ブランドの強力なコンテンツと、既に50店舗を展開する「北海道うまいもの館」の事業基盤です。

両社の事業戦略は見事に合致し、JALUXが持つ商品開発力や海外ネットワークといった経営資源を活用することで、大きなシナジー効果が期待されるM&Aとなりました。

吉村造園株式会社から株式会社ユニバーサル園芸社

2025年4月、造園工事や緑地管理を手がける吉村造園株式会社は、株式会社ユニバーサル園芸社へ全株式を譲渡しました。

売り手の吉村造園では、経営者が50歳で勇退した後の会社および従業員の将来が課題となっていました。一方、造園事業の領域拡大を目指しているユニバーサル園芸社が求めていたのは、吉村造園の技術力と、特に経営者の若さや経営手腕といった「人柄」の部分です。

トップ面談では、お互いの経営理念や将来像に深く共感し、相思相愛の形で交渉が進んでいます。M&Aは新たな挑戦の機会であるととらえ、両社が共に成長していくための理想的なパートナーシップが築かれた事例です。

有限会社ハンズからJapan Eyewear Holdings株式会社

2025年4月、眼鏡フレームのメッキ加工で高い技術力を持つ有限会社ハンズは、後継者不在を理由に、Japan Eyewear Holdings株式会社へ全株式を譲渡しました。

ハンズ社が抱えていた課題は、世界的な眼鏡産地である福井県鯖江市でチタンフレームへのメッキという希少な技術を有しながら、経営者の高齢化と後継者が見つからないことです。一方の買い手となったJapan Eyewear Holdingsは、企画から生産までの一貫体制を強化するうえで、メッキ技術の内製化が課題となっていました。

両社は以前からの取引で信頼関係があり、お互いのニーズが完全に一致したことで、M&Aはスムーズに進展しています。伝統的な匠の技を未来へ継承し、産地全体の技術力を守ることにつながったことから、地域にとっても意義の大きいM&Aだといえます。

まとめ

会社売却は、後継者不足問題の解決や、企業のさらなる成長を目的に行われる、M&Aの手法です。

会社売却を成功させるためには、自社の価値そのものを理解し、高めておくことはもちろん、売却のタイミングを適切に見極めることが重要です。また、検討段階から完了まで、多くの段階を踏む必要があるため、専門家の力を借りながら進めることで、スムーズな会社売却につながります。

M&Aキャピタルパートナーズは、豊富な経験と実績を持つM&Aアドバイザーとして、中小M&Aガイドラインを遵守し、お客様の期待する解決・利益の実現のために日々取り組んでおります。
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よくある質問

  • 会社売却とは何ですか?
  • 会社売却とは、企業の所有権を第三者に譲渡し、経営権や資産を移転するM&A手法の一つです。
  • 会社が赤字でも売却は可能ですか?
  • はい。将来性や事業の独自性、顧客基盤などに価値がある場合、赤字でも買い手が見つかることがあります。
  • 会社売却の進め方を教えてください。
  • 目的の明確化から買い手選定、交渉、デューデリジェンス、契約締結、PMIまで、段階的に進めます。
  • 会社売却にはどのような税金がかかりますか?
  • 株式譲渡なら譲渡所得に対する所得税(約20.315%)、事業譲渡なら法人税・消費税などがかかります。
  • 会社売却の期間はどれくらいかかりますか?
  • 通常6ヶ月~1年程度かかりますが、企業の規模や条件により前後します。

ご納得いただくまで費用はいただきません。
まずはお気軽にご相談ください。


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(解説記事&用語集)

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