株式持ち合いとは? 意味や解消が進む理由をわかりやすく解説。

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事業会社や金融機関などが、取引関係の強化や経営の安定化を目的に、互いの株式を所有することを指すのが「株式持ち合い」です。株式持ち合いは日本ならではの慣習で、戦後、財閥解体以降に浸透したといわれています。 本記事は、持ち合いの歴史や、資本参加・業務提携・持株会社との違い、株式持ち合いにおけるメリット・デメリット、持ち合い株が見直されている背景や、解消の方法についても解説します。

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株式持ち合いとは?

株式持ち合い イメージ画像株式持ち合いとは、事業会社や金融機関など複数(2つ以上)の企業が、お互いの株式を所有している状態のことです。単に「持ち合い」とも呼ばれ、各社が保有する株式を「持ち合い株式」または「相互保有株式」といいます。
株式持ち合いは日本独自のもので、戦後に始まったとされています。

目的・特徴

株式持ち合いには、次のような目的・特徴があります。

  1. 安定株主の確保
  2. 経営の安定化
  3. 企業のグループ化
  4. 取引先とのつながりの強化

企業の株価や業績の変動に左右されず、長期にわたって株式を所有する株主を「安定株主」といいます。株式持ち合いにより相互に安定株主になれば、互いの経営の安定を図れます。
また、企業のグループ化や企業間のつながりの強化にもつながるというのも特徴です。
さらに、株式が外部に流出するリスクを減らせるため、敵対的買収からの防衛策としても用いられていました。敵対的買収からの防衛策という側面は、株式持ち合いを行う大きな意義の一つといえるでしょう。

歴史

日本における株式持ち合いの歴史を見ていきましょう。

1940年代~ 日本で株式持ち合いが広く行われるようになったのは、第二次世界大戦後に実施された財閥解体がきっかけとされています。財閥解体によって別々の企業になったかつての財閥グループ会社が、相互に株式を所有することで、グループのつながりを維持するようになったのです。
その後、1949年、1953年に独占禁止法が改正されて株式の所有制限が緩和されると、株式持ち合いはますます浸透します。
1960年代~ 1960年代になり外資の参入が活発になり、外資による敵対的買収の危険性が高まると、株式持ち合いは買収防衛策としての役割が強まります。
1980年代~ 1980年代のバブル期には、エクイティ・ファイナンス(新株発行による事業のための資金調達)による資金調達が盛んになりました。すると、エクイティ・ファイナンスの引き受け先として、銀行・系列企業間での株式持ち合いが行われるようになり、持ち合いは広く普及します。
1990年代~ ところが、バブル崩壊により事態は一変。持ち合いを行っていた企業は資金繰りに窮し、業績は悪化して株価も下落しました。こうして、株式持ち合いを見直す企業が徐々に増加したのです。
2000年代~ 優良企業に対する敵対的買収が増えた2000年代初めには、株式持ち合いを再評価する動きもありましたが、株式持ち合い解消の潮流は、現在まで継続しています。

株式持ち合いと混同しやすい用語との違い

「資本参加」「業務提携」「持株会社」と、株式持ち合いの違いがよくわからないという方もいるかもしれません。ここでは、それぞれの定義と、株式持ち合いとの違いについて説明します。

資本参加

資本参加は、他企業との関係を強めるといった目的のために、相手企業の株式を取得するなどして資本を提供し、経営に関与することをいいます。株式持ち合いとの違いは、互いに株式を所有するのではなく、一方の企業のみが相手企業の株式を所有する点です。
なお、相手企業の経営権や事業の取得を目的とせず、両社の独立性を維持できるよう努める点は、株式持ち合いと資本参加のどちらにも共通しています。

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業務提携

複数の企業が業務のうえで協力関係を築き、資材調達、物流、技術開発・供与、販売促進、人材交流など、さまざまな面で提携するのが業務提携です。
相手企業の株式の取得・保有が必ずしも必要ではない点が、株式持ち合いおよび資本参加との大きな違いといえるでしょう。
ただし、資本参加を伴う業務提携もあり、これを「資本業務提携」といいます。

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持株会社

持株会社は、他企業の事業活動の支配を目的に、相手企業の株式を所有することを主な事業とする会社のことです。持株会社は、純粋持株会社と事業持株会社などいくつかの種類があります。
「株式持ち合い」と語感が似ていますが、経営の安定や関係強化を目的に、2つ以上の企業が株式を相互に所有する株式持ち合いとは、成り立ちがまったく違います。
なお、持株会社は独占禁止法などによって設立が禁止されていましたが、1997年の法改正により、一部の例外を除いて設立が解禁されました。

株式の持ち合いにおける「議決権の制限」

株主総会での決議に参加し、投票を行う権利が「議決権」です。会社法第308条では、株主総会においては、株式1株(または1単元)につき1個の議決権を有すると定められています。
ただし、議決権には規制があります。株式持ち合いにより互いの株式を4分の1(25%)以上保有していると、相手企業の株主総会で議決権を行使できないのです。
例えば、A社とB社が株式持ち合いをしており、A社がB社の株式を4分の1以上保有していたとします。このような場合、A社はB社の株主総会で議決権を行使できません(議決権の制限)。
持ち合い株主が、先方企業の株主総会で反対意見を述べるケースは稀で、持ち合い株主が多いほど、株主総会は名ばかりのものとなる恐れがあります。会社法により議決権の制限が設けられたのはこのためです。

株式持ち合いのメリット

「株式の持ち合いにはさまざまなメリットがあり、戦後に財閥が解体されて以降、多くの企業が活用してきたという歴史があります。本項目では、持ち合いの代表的な利点を3つ紹介します。

敵対的買収を回避できる

株式持ち合いには、敵対的買収(敵対的TOB)を防ぐ効果があります。株式を所有し合う企業は友好関係にあるため、互いの持ち合い株式の割合が高ければ、敵対的買収を仕掛けられても成功する可能性は低いからです。
なお、敵対的買収とは、相手企業の現経営陣の同意を得ずに買収を仕かけることを指します。敵対的買収が成功すると、買収された企業は経営権を奪われ、組織の大幅な改変が行われたり、既存の顧客や取引先への対応方針が変更になったりする恐れがあります。

企業の経営が安定化する

株式を持ち合う企業は、互いの経営に深く干渉しないのが暗黙のルールです。したがって、「株式の持ち合いにおける「議決権の制限」」の項目で説明したように、株主総会で反対意見を表明する可能性はほとんどありません。
そのため、経営陣は経営方針を貫きやすく、経営の安定につながります。

企業間の関係を強化できる

持株式の持ち合いは、経営不振や株価下落といったリスクも、配当金という利益も共有することを意味します。だからこそ、株式を持ち合う企業間には、長期的かつ友好的な関係が生まれるのです。
こうした株式持ち合いの特徴を利用し、中小企業が株式を持ち合い、大企業に対抗するというケースもあります。
他に、銀行が取引先企業と株式持ち合いを行うケースがあり、企業にとっては次のようなアドバンテージがあります。

  • 銀行との友好的な関係を構築できる
  • 安定的な資金調達が可能になる

株式持ち合いのデメリット

株式持ち合いにはさまざまなメリットがある反面、デメリットもあります。本項目では具体的なデメリットを3つ紹介します。

少数持ち分の株主の意見が反映されにくい

持ち合い株主は、相手企業の経営に深く干渉しないのが慣例となっています。つまり、持ち合い株主は、「ものいわぬ株主」(サイレント株主)です。ものいわぬ株主が多ければ、経営陣は支配力を強めることができ、経営の安定につながります。 一方で、少数持ち分の株主の意見が反映されにくいという弱点にもなります。また、持ち合い株主が経営の安定を最優先で考えている場合は、「リスクをとって収益力を強化したい」という株主の意見は通りにくくなるでしょう。結果として、ビジネスチャンスを失ってしまう可能性もあります。

株主の監視機能が形骸化しやすい

株主総会での議決権行使などを通じて、経営陣や経営状態を監視するのも、株主の役割です。
しかし、株式の持ち合いによって少数持ち分の株主の意見が反映されにくくなれば、監視機能が弱まります。監視機能が弱まれば、経営陣の支配力が高まって経営陣に都合の良い施策ばかりを行うようになり、最終的には業績の低下へとつながるかもしれません。

資本効率や株価の低下リスクがある

株式の値上がりによる利益や、配当金の取得を主な目的とせず、企業間の関係強化など経営政策的に行う株式投資を「政策投資」といいます。また、政策投資によって保有される株式は、「政策保有株式」と呼ばれます。
持ち合い株式は、「政策保有株式」にあたります。政策保有株式に投資する資金が増えれば、その分、設備投資や事業拡大に充当する資金が減り、資本効率の低下は避けられません。結果的に株価が低迷し、企業価値が大幅に下がるリスクも考えられます。

株式持ち合いの解消が進む5つの理由

戦後、日本で広く普及した株式持ち合いですが、現在は多くの企業、銀行が持ち合い株の売却を推進しています。本項目では、持ち合いの解消が進む理由を5つ挙げ、それぞれについて解説します。

バブル崩壊による景気悪化

持ち合い解消のきっかけとなったのが、バブルの崩壊です。1980年代後半から始まったバブル経済は、1990年代になると崩壊し、景気は急速に後退。多くの企業が業績の低迷に直面しました。
そんななか、株式持ち合いを行っていた企業は、資金を調達すべく持ち合い株式を売り出します。結果として、持ち合い関係を見直す動きが日本中で広まりました。

開示ルールの厳格化

2018年、東京証券取引所は、上場企業に向けた「企業統治指針(コーポレートガバナンス・コード)」を改訂。改訂後のコーポレートガバナンス・コードには次のような内容が盛り込まれていました。

  • 上場会社が政策保有株式として上場株式を保有する場合には、政策保有株式の縮減 に関する方針・考え方など、政策保有に関する方針を開示すべきである。
  • 毎年、 取締役会で、個別の政策保有株式について、保有目的が適切か、保有に伴う便益やリ スクが資本コストに見合っているか等を具体的に精査し、保有の適否を検証するとと もに、そうした検証の内容について開示すべき
  • 上場会社は、政策保有株式に係る議決権の行使について、適切な対応を確保するた めの具体的な基準を策定・開示し、その基準に沿った対応を行うべき

引用元:コーポレートガバナンス・コード|株式会社東京証券取引所(補充原則1-4②)

いずれも持ち合い株式の適切な見直しを推奨し、開示ルールを厳格化する内容となっており、これを受けて株式持ち合いを縮減する動きがますます広まったのです。
近年は、政策保有株式の削減予定や削減額の開示に積極的な企業も増えつつあります。

海外投資家からの批判

企業の資本は本来、事業拡大や設備投資など、事業成長のために使われるべきです。また、業績アップによって得られた利益は、出資者である株主に分配されるのが株式会社の本来の姿です。
しかし、株式持ち合いを行っている場合、資本の一部は他企業の株式を取得するために使われることになります。配当も、持ち合い株主同士で分配されます。
以上のように、会社の資本が有効活用されず、健全な経営が弊害されている状態を「資本の空洞化」といい、海外投資家からは批判の声が挙がっているのです。
あわせて、持ち合い株主同士が「ものいわぬ株主」となって株主によるチェック機能が有名無実化している点も、批判の対象となりました。
将来性やコーポレートガバナンスを不安視する投資家が国内外に増えれば、資金調達が困難になる可能性が高まります。そんな事態を恐れた企業が次々と持ち合い株式を手放すようになり、株式持ち合い離れが進展しました。
海外投資家は現在も、日本企業の株式持ち合いについては高い関心を寄せています。

日本3大銀行の姿勢の消極化

株式持ち合いは企業と銀行で行われることもあり、企業にとっては資金調達が安定するという利点があります。
しかし政府は、株価が下落した際の財務健全性を保つために株式持ち合いの解消を目指し、2002年に銀行等保有株式取得機構を設立。金融機関の保有株の買い取りを進めました。
三菱UFJ銀行、三井住友銀行、みずほ銀行の3大銀行も株式持ち合いには後ろ向きで、現在は持ち合い株式などの政策保有株式の売却を進めています。例えば三菱UFJフィナンシャル・グループは、2022年5月に政策保有株式の売却額を5,000億円に拡大するとの目標を公表して注目を浴びました。
以上のような状況も、持ち合い衰退の一因だといわれています。

金融ビッグバンに伴う制度変更

1996年、政府は日本の金融市場を活性化するために、金融大改革を打ち出します。これを「日本版金融ビッグバン」といいます。
日本版金融ビッグバンにより会計基準が変更され、持ち合い株の利益・損失が自己資本比率に大きく響くようになりました。持ち合い株が利益を出していても、損失しても、企業にとっては悪影響をおよぼすようになったのです。そのため、多数の企業が持ち合い株を手放す方向に舵を切りました。
持ち合い解消の流れは現在も継続中で、2020年度の株式持ち合い比率は、前年度比で2年連続下がり、過去最低水準を更新しています。
我が国上場企業の株式持ち合い状況(2020年度)|野村資本市場研究所 グラフ

画像引用:我が国上場企業の株式持ち合い状況(2020年度)|野村資本市場研究所

また近年、持ち合い解消をサポートする信託商品も登場しています。

株式持ち合いのメリット

株式持ち合いを解消する方法としては、次の2つがあります。

  • 第三者への株式の売却
  • 他社が保有する自社株の取得

どちらの方法も、持ち合い解消後も相手との友好的な関係を維持するには、十分な時間をかけた合意形成が非常に重要です。

第三者に株式を売却する

相手企業から解消の合意を得られたら、持ち合い株式の売却先を決めます。
第三者に売り出す場合は、上場企業であれば、比較的短い期間で株式を売却できるでしょう。ただし、売却価格の決定には、先方企業との入念なすり合わせが欠かせません。

他社が保有する株を取得する

相手企業が保有している自社株式を、自社で買い取る方法もあります。持ち合いの解消方法は、この自社株式の取得が一般的といえるでしょう。
自社株式の取得には、2つの選択肢があります。
1つは、相手企業に自社株式を市場で売却してもらい、それを自社で買い戻す方法です。
もう1つは、証券取引所などの市場を通さずに、直接交渉して自社株を買い取る方法です。これを「相対取引」といいます。
ただし、相対取引には、株主総会の特別決議での可決が必要です。特別決議は原則として、議決権を行使できる株主の過半数の出席と、出席した株主の3分の2以上の賛成が必要とされ、実施のハードルは高いといえます。

まとめ

株式持ち合いは、日本では80年以上行われてきた、日本特有のならわしです。しかし近年になって、解消に積極的な企業が増加しています。
なお、株式持ち合いを取りやめる方法として、第三者へ株式を売却する方法と、自社株を買い取る方法を紹介しましたが、いずれの方法も専門的な知識が必要となり、手続きも複雑です。まずは、M&Aなど他の方法も検討したうえで、専門家に相談することをおすすめします。
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監修者プロフィール
M&Aキャピタルパートナーズコーポレートアドバイザリー部長 梶 博義
M&Aキャピタルパートナーズ 
コーポレートアドバイザリー部長
公認会計士梶 博義

大手監査法人、事業承継コンサルティング会社を経て、2015年に当社へ入社。
これまで、監査、IPO支援、財務DD、親族承継・役職員承継コンサル等を経験し、当社入社後はM&Aアドバイザーとして活躍。一貫して中小企業の支援に従事し、M&Aのみならず、事業承継全般を得意とする。

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