更新日
株式交換は、株式会社がその発行済株式のすべてを他の会社に取得させる、M&A手法の一つです。発行済株式の全部を取得した企業側を「完全親会社」、取得された側を「完全子会社」といいます。ただし、株式交換を行う際は、仕訳と呼ばれる処理が欠かせません。
本記事では、株式交換における仕訳と税務処理について詳しく解説します。完全親会社、完全子会社、それぞれの株主の視点による仕訳方法と税務処理を理解することで、企業のM&A戦略を成功に導くための知識が得られます。
- 関連記事
- 株式交換とは?~メリットや手続きの方法~
このページのポイント
~株式交換の仕訳とは?~
株式交換とは、株式の移転によって譲受企業と譲渡企業が、完全親会社と完全子会社の関係になるM&A手法。発行済株式の全部を取得した企業側を「完全親会社」、取得された側を「完全子会社」という。完全親会社が株式交換を行う場合、パーチェス法が用いられる。基本的には、完全子会社側で会計処理は不要だが、自己株式を保有している場合や新株予約権を発行していた場合は適切な処理が必要である。
目次
1. 株式交換の仕訳とは
株式交換とは、株式の移転によって譲受企業と譲渡企業が、完全親会社と完全子会社の関係になるM&A手法です。交換の対価は株式で交付され、現金のやりとりは発生しません。しかし、資産は移動するため、仕訳処理が必要です。
2. 株式交換の仕訳のルールとポイント
株式交換における仕訳には特定のルールとポイントがあり、会計処理と税務処理の両方で重要な役割を果たします。いずれも大切な内容を含みますので、順番に見ていきましょう。
2-1. 会計処理上の株式交換の区分
株式交換では、事業規模や議決権の状況によって、会計上4つに区分されます。それぞれの区分には、特定の会計処理が必要です。
取得
企業同士の規模や議決権の支配状況から、株式交換でどちらの企業が相手企業を取得したか明らかな状態が、取得です。会計処理では「パーチェス法」が用いられます。
完全子会社となる企業が保有する資産や負債を公正価値で評価するため、譲渡企業の純資産と譲受企業の差額を、のれんとして計上します。
共同支配企業の形成
共同支配企業の形成とは、独立した複数の企業が、株式交換によって相手企業を共同で支配する状態が生まれることを指します。
ただし、共同支配企業の形成と認められるには、以下の条件をすべて満たさなければなりません。
- 議決権のある株式が対価となっている
- 対象企業がすべて独立している
- 対象企業間で、共同支配に関する契約を結んでいる
この場合には、完全子会社となる企業の保有する資産や負債を公正価値ではなく帳簿価額で評価する会計処理を行います。のれんは発生しません。
共通支配下の取引
共通支配下の取引とは、グループ関係にある企業が株式交換を行うことです。このケースでも、共同支配企業の形成と同様、完全子会社となる企業の保有する資産や負債を公正価値ではなく帳簿価額で評価する会計処理を行います。のれんは発生しません。
2-2. 税務処理上の株式交換の区分
税務処理上の株式交換の区分によって、譲渡損益の扱いが異なります。
適格株式交換は、特定の要件を満たすことで譲渡損益が発生しません。一方、非適格株式交換では譲渡損益が発生します。税務上の影響を理解するために重要なポイントです。
適格株式交換
適格株式交換とは、法人税法上の適格要件を満たす株式交換です。帳簿価額に基づき資産の移転を行うとみなされるため、譲渡損益は発生しません。完全子会社とその株主に対する課税関係も生じないのが原則です。
非適格株式交換
一方、適格要件を満たさない株式交換は「非適格株式交換」として扱われます。この場合、税務上は保有する一部の資産については時価評価が必要となり、含み益がある場合には、その事業年度に課税が行われます。
また会計上も、税効果会計を適用している場合には、資産の時価評価に伴い、繰延税金資産または繰延税金負債の計上が必要です。
適格株式交換と非適格株式交換では、会計処理と税務処理の双方で大きな差があります。両者の違いを理解することは、企業のM&A戦略を立てるうえで非常に大切です。
3. 株式交換の仕訳方法
株式交換の仕訳方法は、取引の当事者や株式交換の形態によって異なります。以下では、完全親会社、完全子会社、それぞれの株主の視点別に、仕訳方法を詳しく解説します。
3-1. 完全親会社の場合
完全親会社が株式交換を行う場合、仕訳方法は、パーチェス法です。
取得した完全子会社の株式の原価は、株式交換実施日の時価で評価し「取得対価+取得に直接要した費用」で算定します。
また、株式発行により増えた資本金についても計上が必要です。対価として、完全子会社へ交付した自社株式の時価のなかで、株式交換契約によって定めた金額を「資本金」および「資本準備金」として、差額分は「その他資本剰余金」として計上を行います。
取得の場合
具体的な仕訳例を紹介します。例えば、A社(取得企業)がB社の株式を100%取得したとします。A社の株価は600円、B社の株価は300円で交換比率は2:1です。B社の発行済株式数は25万株です。取得に直接要した費用は今回は無視します。
- A社が発行する株式総数:25万株×1/2=12.5万株
- A社からB社株主への支払取引対価:12.5万株×600円=7,500万円
なお、増加資本のうち4,000万円は資本金として処理を行い、残額は資本準備金として処理します。
子会社株式 | 7,500万円 | 資本金 | 4,000万円 |
---|---|---|---|
資本準備金 |
3,500万円 |
また、B社の合併直前の貸借対照表は、以下のとおりだった場合、連結上、B社の貸借対照表に計上されている資本金3,500万円・利益剰余金1,500円の合計額5,000万円と、子会社株式の取得価額7,500万円との差額2,500万円が、のれんとして計上されることになります。
- 諸資産:7,000万円
- 諸負債:2,000万円
- 資本金:3,500万円
- 利益剰余金:1,500万円
共通支配下の取引の場合
共通支配下の取引の場合には、グループ関係にある企業間で株式交換を行うため、内部取引として扱われます。各企業の個別財務諸表上では簿価として処理し、その後、連結時に相殺されます。具体的な仕訳例は、下記をご覧ください。
例えば、A社とB社の上に共通の親会社C社を作り、共通支配下の取引を行ったとします。株式交換直前のA社の純資産は5,000万円、B社の純資産は4,500万円であったとします。
A社とB社はC社の株主に対して、時価100円のA社株式を100株、B社株式を80株交付します。増加資本のうち4,000万円は資本金として処理を行い、残額は資本準備金として処理します。
この場合、C社の個別財務諸表上は、以下のような仕訳になります。
子会社株式 | 9,500万円 |
資本金 | 4,000万円 |
---|---|---|---|
資本準備金 |
5,500万円 |
また、A社とB社の株式交換直前の貸借対照表は、以下のとおりであった場合、C社の連結上は、A社とB社の諸資産と諸負債が帳簿価額で引き継がれ、子会社株式取得価額9,500万円とA社純資産5,000万円・B社純資産4,500万円が相殺される形となります。のれんは発生しません。
- A社の諸資産:7,000万円
- A社の諸負債:2,000万円
- B社の諸資産:6,000万円
- B社の諸負債:1,500万円
3-2. 完全親会社の株主の場合
基本的に株式交換に直接関与していないため、仕訳は必要ありません。ただし、結果として自社の株式の持分が大きく変動した場合には、仕訳が必要となります。
例えば、完全子会社となる企業の株式の時価総額が非常に大きい場合、その対価として親会社が割り当てる株式数は増加します。一方、完全親会社の株主の持分が著しく減少する際は、移転した当該子会社の株式を「その他有価証券」へ振替処理することが必要です。
譲渡損益を計算するには、当該子会社の帳簿価額から時価総額を差し引いて計上します。
3-3. 完全子会社の場合
基本的には、完全子会社側で会計処理は不要ですが、下記のように、当該子会社の資産や負債に変化がある場合には、仕訳が求められます。
自己株式を保有の場合
株式交換実行以前に完全子会社がその親会社の株式を保有していた場合、交換により株式も同様に移転します。仕訳処理は、会社が取得した自社株式を処分する「自己株式処分」と同じです。
株式交換によって親会社が取得した株式を時価評価し、発生した対価と、子会社が保有していた自己株式の簿価との差を「その他資本剰余金」に計上します。具体的な仕訳例は、下記のとおりです。
例えば、A社(親会社)がB社(完全子会社)と株式交換を行ったとします。B社が株式交換実行以前にA社の株式を保有していて、その株式の帳簿価額は500万円、時価は700万円とする想定です。
この場合、B社の仕訳は、以下のようになります。
A社株式 | 700万円 |
自己株式 | 500万円 |
---|---|---|---|
その他資本剰余金 |
200万円 |
新株予約権を発行していた場合
株式交換では、完全子会社となる企業の全発行済み株式を、その親会社が保有することになります。株式交換以前にその子会社が新株予約権を発行していた場合には、それらが消滅することとなり、会計処理が必要です。
会計上の処理方法は、帳簿上の新株予約権の価格を減額します。また、差し引いた分の価額は「免除益」として課税対象になるため、該当額を譲渡損益として計上します。具体的な仕訳例は、下記のとおりです。
例えば、A社(親会社)がB社(完全子会社)と株式交換を行ったとします。B社が株式交換実行以前に新株予約権を発行していて、その新株予約権の帳簿価額が500万円、時価は700万円とする想定です。
この場合、B社の仕訳は、以下のようになります。
新株予約券 |
500万円 |
免除益 |
700万円 |
---|---|---|---|
譲渡損益 |
200万円 |
非適格株式交換の場合
非適格株式交換の場合、完全子会社の資産の一部を時価評価する必要があります。資産の一部とは、固定資産や有価証券、金融債権です。帳簿価額との間に差額が発生した場合には、それを評価損益として仕訳します。具体的な仕訳例は、下記をご覧ください。
例えば、A社(親会社)がB社(完全子会社)と株式交換を行ったとします。B社が株式交換実行以前に固定資産、有価証券、金融債権を保有していたと想定します。それぞれの帳簿価額は、以下のとおりです。
- 固定資産:1,000万円
- 有価証券:500万円
- 金融債権:200万円
また、それぞれの時価は、次のとおりです。
- 固定資産:1,200万円
- 有価証券:600万円
- 金融債権:250万円
この場合、B社の仕訳は、以下のようになります。
固定資産 |
200万円 |
評価損益 |
350万円 |
---|---|---|---|
有価証券 |
100万円 |
||
金融債権 |
50万円 |
3-4. 完全子会社の株主の場合
完全子会社の株主の立場から見た場合、株式交換の対価の形態により、仕訳方法が異なります。
対価が株式のみの場合
株式交換の対価が株式のみである場合、完全子会社の株主は、新たな完全親会社の株主となります。投資の継続性が認められるため、譲渡損益は発生せず、仕訳処理は不要です。
ただし、その子会社が株式交換によって関連会社や子会社ではなくなった場合には、投資の継続性が認められません。
株式交換前に自社が株式の50%を保有する会社があった場合、別の会社との株式交換によりその会社が完全子会社化されると、自社との関係性は消滅します。関係性の消滅に伴い取引を清算し、発生した譲渡損益を会計処理する必要が生じます。具体的な仕訳例は、下記のとおりです。
例えば、A社(親会社)がB社(完全子会社)と株式交換をしたと仮定します。B社の株主であるC氏が、株式交換実行以前にB社の株式を500株保有しています。その株式の帳簿価額は1,000万円、時価は1,200万円です。
この場合、C氏の仕訳は、以下のようになります。
A社株式 | 1,200万円 |
B社株式 | 1,000万円 |
---|---|---|---|
その他資本剰余金 |
200万円 |
対価が財産のみの場合
株式交換の対価が株式ではなく、現金や不動産などの資産で支払われた場合には、投資の継続性は認められず、会計処理が必要です。
株式交換によって完全親会社が取得した、子会社の株式の帳簿価額と受理した資産の時価を算定し、差額を算出して譲渡損益を求めます。具体的な仕訳例は、下記をご覧ください。
例えば、A社(親会社)がB社(完全子会社)と株式交換をしたと仮定します。B社の株主であるC氏が、株式交換実行以前にB社の株式を500株保有していて、その株式の帳簿価額は1,000万円、時価は1,200万円です。また、A社がC氏に対して支払った対価(現金や不動産などの資産)の時価は1,300万円とします。
この場合、C氏の仕訳は、以下のとおりです。
現金等 | 1,300万円 |
B社株式 | 1,000万円 |
---|---|---|---|
譲渡損益 |
300万円 |
対価が財産と株式の場合
株式交換の対価を株式だけで賄えない場合、財産と併用する方法もあります。基本的には、投資の継続性は認められません。株式交換によって完全親会社が取得した、子会社の株式の帳簿価額と受理した対価の時価を算定し、差額を算出して譲渡損益を求めます。具体的な仕訳例は、下記のとおりです。
例えば、A社(親会社)がB社(完全子会社)と株式交換をしたと仮定します。B社の株主であるC氏が、株式交換実行以前にB社の株式を500株保有していて、その株式の帳簿価額は1,000万円、時価は1,200万円です。また、A社がC氏に対して支払った対価(現金や不動産などの資産と株式)の時価は1,400万円とします。
この場合、C氏の仕訳は、以下のとおりです。
現金等 | 1,400万円 |
B社株式 | 1,000万円 |
---|---|---|---|
譲渡損益 |
400万円 |
4. 株式交換における税務上の処理
株式交換における税務処理は、取引の当事者や株式交換の形態によって異なります。ここからは、完全親会社と完全子会社、それぞれの株主の視点別に、税務処理を詳しく解説します。
4-1. 完全親会社の税務処理
完全親会社が株式交換を行う場合、その処理方法は下記のとおりです。
適格株式交換の場合
完全親会社の税務処理は、株式交換前の完全子会社の株式所有者によって変わります。所有者が50人未満の場合、その交換を実施する直前の子会社側の帳簿価額に、取得のために要した費用を加えたものが取得価額です。
一方、50人以上では、子会社の簿価純資産額に取得費用を加算して取得額を算出します。いずれの場合も、資本金については、帳簿上の資産から負債を差し引いて計算するのが一般的です。計上する金額は、その交換契約内で定めます。
非適格株式交換の場合
非適格株式交換の場合には、完全子会社の株式を時価評価した相当額が取得価額です。取得価額から、株式交換により生じた資本金を差し引いた額となります。
ただし、株式交換によって資本金が増えた場合には、適格株式交換と同様のやり方で計算するため注意が必要です。
4-2. 完全親会社の株主の税務処理
完全親会社の株主は、株式交換の対象者に該当しないため、税務処理は不要です。
4-3. 完全子会社の税務処理
適格株式交換の場合には、対価が株式に限定され、資産の変動がないため税務処理は不要です。一方、非適格株式交換の場合は、時価で評価された取得価額と、その直前の簿価資産額との差額によって差損益が発生します。
差損益は法人税の対象であり、株式交換実施年度の収支に含まなければなりません。
4-4. 完全子会社の株主の税務処理
完全子会社の株主は、株式交換においてその親会社へ株式を引き渡した当事者であるため、税務処理が必要です。
適格株式交換の場合
適格株式交換の場合、交換対価は株式のみに限定され、完全子会社の株主は、その親会社へ株式譲渡を行ったことになります。株式の帳簿価額を譲渡価格とみなし、譲渡損益を繰り延べることが可能です。
非適格株式交換の場合
非適格株式交換の場合には、受領する対価によって税務処理が異なります。
株式交換における完全子会社の株主の税務処理について理解するためには、みなし配当の理解が必要です。みなし配当とは、株主が企業から配当金を受領していないにも関わらず、実質的には利益が発生したとみなして課税が行われることです。
対価が株式のみの場合は、適格株式交換の場合と同様に、株式の帳簿価額を譲渡価格とみなし、譲渡損益を繰り延べることができます。みなし配当も、株式譲渡損益も生じません。
一方、株式交換の対価が金銭を含む場合には、対価を時価で算出し、譲渡した株式との差額を譲渡損益に計上します。譲渡損益は課税の対象ですが、みなし配当は発生しません。
5. 株式交換におけるのれんの処理は?
のれんとは、売り手企業の純資産と譲渡価額の差額です。差額が大きくなればなるほど、譲渡価額よりも大きな企業価値があります。株式交換では基本的に、個別財務諸表上で「のれんの処理」は不要です。
これに対して、連結財務諸表では、のれんの計上が必要です。こうした情報を理解することで、株式交換の税務処理についての理解が深まります。
6. まとめ
本記事では、株式交換の仕訳と税務処理について解説しました。株式交換の仕訳処理は、取引の当事者や株式交換の形態によって異なります。また、株式交換の税務処理も、適格と非適格で大きく異なります。複雑な処理を理解したうえで適切に行うことは、企業のM&A戦略を成功に導くために重要です。
これらに対応するためには、専門的な知識が求められます。不安な場合は、専門家への相談がおすすめです。M&Aキャピタルパートナーズでは、豊富な経験と専門知識を有するプロフェッショナルが皆様のM&Aをサポートします。株式交換の仕訳や税務処理について疑問や相談がある方は、お気軽にお問い合わせください。