敵対的買収とは? メリットとデメリット、防衛策の解説や企業の成功・失敗事例

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敵対的買収について

敵対的買収とは、企業買収の手法のひとつで、対象企業の合意を得ずに株式を取得し、経営権を掌握しようとする戦略です。主に株式の過半数を取得することで株主総会における議決権を握り、企業の実質的な支配を目指します。友好的買収と異なり、対象企業の協力を得ないまま進行するため、企業文化やブランドへの影響、従業員の離反リスクなど、特有の課題も多く存在します。

本記事では、「TOBTOBとは?|詳細記事へ」の基本的な理解を踏まえたうえで、敵対的買収がどのように仕掛けられるのか、その進行パターンや背景、買収者の意図について詳しく解説します。どう防ぐかではなく、どう始まるかを知りたい方に向けた内容です。
TOBの基本的な概要や買収の防衛策について知りたい方は、以下の記事もご覧ください。

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このページのポイント

~敵対的買収とは?~

敵対的買収とは、買収される企業の同意を得ずに、外部の企業が経営権を取得しようとするM&A手法です。この手法には、買収される側にとってブランド毀損や人材流出といったリスクが伴います。敵対的買収への防衛策には、事前に準備するポイズンピルや、友好的な第三者企業の支援によるホワイトナイトなどがあり、局面に応じた対応が求められます。

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敵対的買収とは?

敵対的買収と友好的買収の比較イメージ

敵対的買収とは、企業買収の手法の一つです。買収対象となる企業の経営権を獲得することを目的として、その企業の合意を得ずに株式を取得することを意味します。

敵対的買収の仕組み

敵対的買収では、買収対象となる企業の株主から株式を買い付けることで、株式の50%超の取得を目指します。株式の50%超を保有すると株主総会で議決権を行使でき、経営の意思決定に直接関わることが可能になります。
「敵対的買収」という言葉が示すように、株式の取得は、買収対象となる企業の合意を得ることなく行われます。一定以上の株式を取得することで議決権の行使が可能な状態を生み出し、実質的に支配するのが敵対的買収の基本的な仕組みです。

敵対的買収の定義

敵対的買収の定義は、買収対象となる企業の同意を得ることなく、株式の取得が行われることです。
また、敵対的買収と似た用語に「敵対的TOB」があります。TOB(株式公開買付)とは、株式の買付期間や価格、買付予定数などを公開したうえで、買収対象の企業の株主から株式を直接的に買い付けることです。
日本の金融商品取引法により、上場企業の株式を買い付けることで保有株割合が3分の1を超える場合は、原則として公開買付(TOB)の形で行わなければならないと定められています。
敵対的買収はTOBによって実施されるのが一般的です。そのため、敵対的買収と敵対的TOBは、ほぼ同義と考えて差し支えありません。

敵対的買収の目的

敵対的買収の主な目的は、事業の拡大や将来的な企業の成長です。買収によって自社には無いノウハウや経営資源を入手できるほか、仕入先や販路といった資産を共有することで、コストの削減にもつながります。

友好的買収との違い

友好的買収とは、買収対象となる企業の同意を得たうえで、株式の取得を行うことです。敵対的買収とは異なり、買い手企業と売り手企業の双方が買収に合意しているため、売り手企業から経営の協力が得られます。
また、友好的買収の場合は、合併や株式交換など、双方にとって最善の買収方法を話し合いによって選択することが可能です。

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敵対的買収のメリット・デメリット

敵対的買収のメリットは、ほかの手法でM&Aを行ったときのものに近いですが、デメリットには敵対的買収ならではのものも存在します。ここでは、敵対的買収のメリット・デメリットを詳しく紹介します。

メリット

  • 経営資源の活用が可能
  • 事業規模を拡大できる
  • シナジー効果によって経営を効率化できる

買収を実施すると、買収対象となる企業の店舗や拠点、従業員、取引先などの経営資源が活用できるようになり、事業規模の拡大が期待できます。また、ノウハウのかけ合わせやスケールメリットなどのシナジー効果(相乗効果)による、経営の効率化も実現可能です。

デメリット

  • 買収が失敗する可能性がある
  • ブランドイメージが低下するリスクがある
  • 従業員が離職することがある
  • デューデリジェンスを実施できない

敵対的買収は、買収対象となる企業の合意を得ずに実施するため、防衛策によって失敗に終わる可能性があります。買収に反発した従業員の離職も、想定されるデメリットです。さらに、「企業の乗っ取り」と考える人もいるため、ブランドイメージが低下するリスクもあるでしょう。
また、敵対的買収では、M&Aを実施する際に行うデューデリジェンス(相手企業の財務や経営状況の監査)も実施できません

敵対的買収の対象になりやすい企業

敵対的買収の対象になりやすい企業には、次のような特徴があります。

  • 買収防衛策を講じていない
  • 独自の技術や特許を持っている
  • 株価が割安で持株比率が低い
  • 潤沢なフリーキャッシュフローがある

当然のことながら、買収の防衛策を講じていない企業は、敵対的買収をしかけられやすくなります。独自の技術や特許を持っている企業も、買収のメリットが大きいため対象になりやすいでしょう。
株価が割安で持株比率が低い企業は、買い手企業にとって買収のコストを抑えられるメリットがあります。また、潤沢なフリーキャッシュフローがある企業は価値が高く、買収のリスクも比較的低いと評価されます。

敵対的買収をされる側の対策

ここでは、敵対的買収の防衛策を、「事前に行う防衛策」と「事後に行う防衛策」に分けて解説します。
なかには、株主や自社に友好的な企業の協力が必要な防衛策や、経営陣個人の信用に関わる防衛策もあるため、すべての企業がここで紹介する防衛策を行えるわけではありません。そのような事情も含めて詳しく見ていきましょう。

事前に行う防衛策

まずは、事前に行う防衛策について解説します。

ポイズン・ピル(ライツプラン)

ポイズン・ピル(ライツプラン)とは、敵対的な買収者以外の株主に対して、新株を市場価格より安く取得できる「新株予約権」をあらかじめ付与することで、敵対的買収を防ぐ手法です。
敵対的買収がしかけられた際に新株予約権を行使すると、ほかの株主に株式を大量に発行することになります。それにより、敵対的な買収者が必要な数の株式を取得することを防いだり、買収を断念させたりすることが可能です。
デメリットとしては、新株発行により株価が急落する可能性があることや、新株発行の差し止め請求で新株発行が無効になることなどがあげられます。既存株主への配慮が欠ける防衛策であり、活用事例はあまり多くはありません。

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ゴールデンパラシュート

ゴールデンパラシュートは、買収価格を高騰させる防衛策です。
具体的には、敵対的買収によって経営権が移動した際、経営陣に通常より高額の退職金を支払うよう契約を結びます。敵対的買収者にとっては、買収コストが増えることになり、抑止力が働きます
ただし、高額なコストがかかっても買収が強行されることはあります。そうなった場合はゴールデンパラシュートが防衛策として機能しないだけでなく、経営陣だけが利益を受けたと認識され、経営陣個人の信用低下にもつながりかねません。

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プット・オプション

プット・オプションとは、あらかじめ決められた行使価格で商品を売る権利のことです。
敵対的買収の防衛策として、株主に対しては株式を売る権利を、債権者に対しては一括弁済の請求権利を付与します。敵対的買収後にかかるコストを大きく増額でき、買収意欲を削ぎやすくなるでしょう。

事後に行う防衛策

続いて、事後に行う防衛策について解説します。

ホワイトナイト

ホワイトナイトは、敵対的買収をされそうになった企業が、買収をしかけたのとは別の友好的な買収者に、買収または合併してもらう防衛策です。結果的に買収や合併をされることにはなりますが、敵対的買収は防げます。
ホワイトナイトは「白馬の騎士」という意味で、自社に友好的な企業や経営者をこのように呼びます。防衛策としては、敵対的買収者よりも高い価格でTOBをかける「カウンターTOB」や、対象会社の第三者割当増資を実施する方法などがあります。
一方で、自社を売却する意思表示を公にすることで、新たな買収者が現れる可能性がある点はデメリットといえるでしょう。ホワイトナイトを実施することが、自ら買収競争を加速させることにもなりかねません。

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焦土作戦(スコーチドアースディフェンス)

焦土作戦(スコーチドアースディフェンス)とは、自社の資産や事業を売却することで会社の価値を意図的に下げ、敵対的買収者の買収意欲を削ぐものです。
領土に侵入してきた外敵に武器や食糧を与えないようにするため、あえて焼き払ってしまう軍事作戦に由来しています。王冠の宝石を外して王冠の価値を下げることになぞらえて、「クラウン・ジュエル」とも呼ばれます。
経営陣の独断で実行できるのがメリットですが、会社の価値が下がってしまうことは経営上のリスクになる点に注意が必要です。株主にも大きな影響があるでしょう。

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パックマン・ディフェンス

パックマン・ディフェンスは、敵対的買収をしかけられた際、逆に相手を買収する防衛策です。
敵に当たると食べられてしまうゲームの「パックマン」が、「パワーエサ(強化アイテム)」をとることで、逆に敵を食べられるようになることに由来しています。
会社法では、買収される側の企業が買収をしかけた企業の4分の1の株式を取得すると、買収をしかけた企業は自社の株主総会での議決権を失います。これを利用し、敵対的買収者の株式を4分の1取得することで買収を防ぎます
パックマン・ディフェンスのデメリットは、大きな資金が必要になることです。そのため、この防衛策が講じられる企業は限られています。

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マネジメント・バイアウト(MBO)

マネジメント・バイアウトは、自社の経営陣が自社の株式を買い取り、非上場化する防衛策です。
上場会社の株式は市場で取引できますが、マネジメント・バイアウトによって非上場化すると取引ができなくなります。それにより、敵対的買収者へ自社株式が渡らないようにすることが可能です。
マネジメント・バイアウトは、敵対的買収の防衛策としても機能しますが、通常は事業承継や上場廃止のために活用されます。

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敵対的買収の事例

海外では敵対的買収が多く行われていますが、日本では未だに「乗っ取り」のイメージが強く、成功事例は少ないのが現状です。
ここでは、国内における敵対的買収の成功事例・失敗事例を見ていきましょう。

敵対的買収の成功事例

まずは、敵対的買収の成功事例を紹介します。

フリージア・マクロス株式会社によるソレキア株式会社の買収

製造供給事業を行うフリージア・マクロス株式会社は、2017年に、テクノロジーやプロダクツ事業を行うソレキア株式会社に敵対的買収をしかけました。
その対抗策として、ソレキアは友好的企業である富士通に対して、ホワイトナイトの打診を水面下で進めていたといいます。富士通は25億円を投じてソレキアの完全子会社化に乗り出したものの、結果的には買付価格の上昇によって子会社化を断念し、フリージア・マクロスによる敵対的買収が成功しました。

株式会社スカラによるソフトブレーン株式会社の買収

IT企業の株式会社スカラは、営業支援システムを開発・提供するソフトブレーンの敵対的買収に成功しました。
2016年5月に、市場を通じてソフトブレーンの株式の2.7%を取得したスカラの経営陣は、翌月にソフトブレーンの社長を訪問し、株式を取得したことを告げたといいます。スカラは、その後も株式の買い増しを行い、翌年の2017年3月には、保有株式が議決権の所有割合で50.23%となりました。
過去最高益を叩き出していたソフトブレーンの連結に成功したことにより、スカラの営業益は売上ベースで4倍、利益は10倍となりました。

敵対的買収の失敗事例

ここでは、敵対的買収の失敗事例を紹介します。

コクヨ株式会社によるぺんてる株式会社の買収

2019年、オフィス家具などの製造を行うコクヨ株式会社は、文具事務用品の製造販売を行うぺんてる株式会社に敵対的買収をしかけました。
コクヨがぺんてるの子会社化を表明したことに、ぺんてるの経営陣が反発したことが敵対的買収に発展した形です。ぺんてるは、「他社に支配されることなく独立性を保つ」ことを目的として、同じ文具業界のプラス株式会社をホワイトナイトとする防衛策を実施しました。
結果的に、コクヨのぺんてる株の保有比率は過半数に至らず、ぺんてるがプラスの子会社になっています。

株式会社ライブドアによる株式会社ニッポン放送の買収

ライブドアとフジテレビによるニッポン放送株の争奪戦は、日本における代表的な敵対的買収の例といえるでしょう。
2005年当時、フジテレビとニッポン放送は親会社と子会社の関係でしたが、株式持ち合い比率では、フジテレビがニッポン放送の子会社という形になっていました。子会社のほうが親会社よりも企業価値が高い「資本のねじれ」が起きており、ライブドアは、「ニッポン放送の経営権を獲得すれば、間接的にフジテレビを支配できる」と考えました
ライブドアは、ニッポン放送の株式を50%超取得することに成功しましたが、ニッポン放送は、自らが保有するフジテレビの株式を、SBIインベストメント株式会社(旧ソフトバンク・インベストメント)に貸株(株式を貸して金利を得ること)として供与する作戦に出ました。
貸株にすると議決権など株主の権利を動かせるため、ライブドアはニッポン放送の株式を取得したものの、フジテレビの経営については口出しができませんでした。結果的に、ニッポン放送とライブドアが和解する形で買収騒動は収束しています。

まとめ

敵対的買収は、対象企業の同意なしに経営権を取得するという、極めて強硬なM&A手法です。経営資源や市場シェアを一気に獲得できるという利点がある一方で、ブランドイメージの毀損や従業員の離職、デューデリジェンスの困難さなど、多くのリスクも伴います。また、対象企業による多様な防衛策が講じられるため、買収成功の確率は決して高くありません。成功するためには、戦略性はもちろん、法務・財務の専門知識と、緻密なリスク管理が不可欠です。経営判断においては、敵対的買収のメリットとリスクを冷静に見極める必要があります。

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よくある質問

  • 敵対的買収とは何ですか?
  • 敵対的買収とは、企業の合意を得ずに株式を取得して経営権を獲得する買収手法です。議決権を持つ株式の過半数を取得することで、対象企業を実質的に支配します。
  • 日本で敵対的買収を行うことには、どのようなメリットとリスクがありますか?
  • 日本企業では株式持ち合い文化や防衛策が根強く、敵対的買収は成立しづらい傾向にあります。買収反対の株主やホワイトナイトの登場といった障壁も多く、失敗リスクが高いのが実情です。ただし、実行に成功した場合には、経営権の掌握や再編の主導権を得ることが可能になるなどのメリットもあります。
  • 敵対的買収の防衛策にはどのような種類がありますか?
  • ポイズンピル、ゴールデンパラシュート、ホワイトナイト、パックマン・ディフェンス、MBOなど、事前・事後に対応する複数の策があります。
  • 買収されると株式はどうなりますか?
  • 一般的に買い注文が増えることで株価が上昇する傾向がありますが、買収内容によっては下落することもあります。状況によって異なります。

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監修者プロフィール
M&Aキャピタルパートナーズ株式会社執行役員 コーポレートアドバイザリー部長公認会計士梶 博義
M&Aキャピタルパートナーズ株式会社 執行役員 コーポレートアドバイザリー部長
公認会計士梶 博義

大手監査法人、事業承継コンサルティング会社を経て、2015年に当社へ入社。
これまで、監査、IPO支援、財務DD、親族承継・役職員承継コンサル等を経験し、当社入社後はM&Aアドバイザーとして活躍。一貫して中小企業の支援に従事し、M&Aのみならず、事業承継全般を得意とする。

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