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譲渡企業の情報は、ノンネームシートやIM(企業概要書)だけではわかりません。これらの書類の補完として実施されるのがマネジメントインタビューです。そのため、マネジメントインタビューはM&Aにおける重要なプロセスです。 マネジメントインタビューの役割、マネジメントインタビューを成功に導くための事前準備や注意点を解説します。
このページのポイント
~マネジメントインタビューとは?~
M&Aにおけるマネジメントインタビューは、譲渡企業の社長や経営陣へのインタビューで、デューデリジェンスの一環として実施される。マネジメントインタビューの目的は、資料だけでは伝わりきらない譲渡企業の経営陣や役員の人となり、事業への思いや見通し等の定性的な情報を理解することであり、譲渡企業の資料の読み込みや資料を見れば分かるような質問を避け、具体的な質問を準備することが重要である。
目次
1. マネジメントインタビュー(マネイン)とは
M&Aにおけるマネジメントインタビューは、譲渡企業の社長や経営陣へのインタビューで、デューデリジェンスの一環として実施されます。通常は社長が対象ですが、場合によっては従業員も対象になることがあります。定性情報はノンネームやIM(Information Memorandum:企業概要書)に記載されるものの、DD(デューデリジェンス)では把握しきれない情報をマネジメントインタビューで補完することが一般的です。
M&Aの進行は限られたメンバーで行われるため、一般従業員へのインタビューはあまり一般的ではありません。マネジメントインタビューの目的は、譲渡企業の経営陣や役員の人となり、事業への思いや見通し等の定性的な情報を理解することです。
マネジメントインタビューのメリットは、経営陣のリーダーシップや経営能力、人柄、ビジョン、事業へのコミットメントを評価できることです。また、管理職以外の従業員や若手社員へのインタビューを通じて、組織内で埋もれていた優秀な人材を発見する可能性があります。
2. マネジメントインタビューでの確認事項
マネジメントインタビューで確認すべき事項は、個々のM&Aによりその重点事項は異なりますが、大別して譲渡企業の事業環境に関する情報、経営に関する情報、資料では分からない情報の3つに分けられます。
譲渡企業の事業環境に関する情報では、同社の歴史的な変遷から始まり、近年の市場動向や競合他社の動向、今後その業界で成功するために必要な要因などをインタビューします。譲渡企業の経営に関する情報では、その業界における同社の優位性、経営リソースからそれを踏まえた今後の経営戦略をインタビューします。また、経営上のリスクや同社の経営課題、課題を克服するための障害などの情報を得るようにします。
譲渡企業の資料では分からない情報では、株主構成や主要取引先から始まり、簿外資産や簿外負債などの情報を得るようにします。
最後に、今回のM&Aで期待することやM&Aを決断した背景などを通じて、譲渡企業の経営陣の事業へのコミットや熱意を確認することが重要です。
3. マネジメントインタビュー実施側の事前準備
M&Aにおけるデューデリジェンスの一環として実施されるマネジメントインタビューは重要なプロセスです。このようなマネジメントインタビューは、事前の綿密な準備により成否を分けるでしょう。マネジメントインタビューを成功に導くための事前準備を解説します。
譲渡企業の資料の読み込み
マネジメントインタビューの主な目的は、譲渡企業の定性的な情報を得ることです。マネジメントインタビューの時間を有効活用するためにも、事前に与えられた資料を読み込み、資料を見ればわかるような質問を控えるようにします。マネジメントインタビューの前に資料を見ても十分に把握できない情報や疑問点を明確にして、質問事項を整理しておくことが大切です。
具体的な質問の準備
マネジメントインタビューの主な目的は、譲渡企業の定性的な情報を得ることです。マネジメントインタビューの時間を有効活用するためにも、事前に与えられた資料を十分に読み込み、資料から容易にわかる質問を避けるようにします。インタビュー前に、資料を見ても十分に把握できない情報や疑問点を明確にし、質問事項を整理しておくことが大切です。
譲受候補企業との信頼関係の構築
譲渡企業のオーナー経営者は、基本的にマネジメントインタビューに前向きですが、その他の経営陣や役員、従業員がマネジメントインタビューに対して常に協力的であるとは限りません。譲渡企業にとってマネジメントインタビューに応じることは、特段法的義務を負うものではないためです。
マネジメントインタビューを成功させるためには、事前に譲渡企業と良好な関係を構築し、相互に信頼関係を築いた状態で臨むことが大切です。具体的には、真摯な対応で相手を尊重する姿勢でコミュニケーションをとり、経営陣への理解を深めることが重要です。また、譲渡企業の経営陣がマネジメントインタビューに対して回答しやすい環境づくりも大切になります。これには、インタビューを譲渡企業の社屋とは別の場所で開催したり、インタビューの人選を工夫することなどが含まれます。
譲受候補企業は、信頼関係の構築や環境づくりを通じて、マネジメントインタビューの効果的な実施を目指すことが重要です。
4. マネジメントインタビュー実施側の注意点
マネジメントインタビューの目的は、資料だけでは伝わりきらない譲渡企業の定性的な情報を探ること、と考えられます。そのための質問は、抽象的やあら捜しのようなものよりも、相手が理解しやすい具体的な内容や視点を変えた問いかけが有効であるかもしれません。
また、マネジメントインタビューの時間を有効に使うことは大切ですが、同じ質問を繰り返すと、時間の無駄になるだけでなく、譲渡企業側の負担も増える可能性があります。そのため、事前に質問事項の整理や調整をすると良いかもしれません。Web会議の活用や、質問と回答のやり取りをより具体的にするなど、インタビューを効率的に進行する方法を模索することも有効と考えられます。
マネジメントインタビューには士業などの専門家が同席することが多いですが、全員を一度に集めることが難しい場合や、長時間の会議が負担になる場合もあるかもしれません。そのため、本当に必要な議題に絞り、適切な時間と場を選ぶことも考慮に入れられるでしょう。
インタビューの対象者については、質問への適切な回答が期待できる人物を選ぶと良いとされています。経営者や各部門の管理職が対象になることが多いですが、企業の風土や雰囲気を探る場合は一般的な従業員も対象になることもあります。ただし、M&Aが秘密裏に進行され、インタビューの真意を隠す場合、情報の正確性に制限があると思われます。その点を認識しておくことが重要となるかもしれません。
5. マネジメントインタビュー回答側の注意点
マネジメントインタビューに回答する立場から考えると、譲受候補企業に対し自社の魅力を最大限に伝え、理解を得ることが重要となります。経営の現場では必ずしも全てがプラスの面ばかりではなく、マイナスとなる側面も存在します。それらを隠して表面的な美化を試みるより、マイナスとなる面も透明性を保ちつつ、それに対するリスク対策を理論的に伝えることが重要と言えるでしょう。
また、マネジメントインタビューでは、譲受候補企業からの質問の真意を理解し、それに応じた回答を提供することが求められます。譲受候補企業の質問意図を察知し、適切な回答を提供することが大切です。それによって自社の魅力を正確に伝えることが可能となります。しかし、意図していない、またはピント外れの回答は、自社の魅力を正しく伝える機会を失い、不必要な誤解や過小評価を生む可能性があることを認識しておきましょう。
6. まとめ
マネジメントインタビューはM&Aのデューデリジェンスの一部であり、譲渡候補企業にとっても譲受候補企業にとってもそのプロセスは極めて重要な要素です。マネジメントインタビューを通じて、資料には明記されていない譲渡候補企業の定性的な情報を探ることが必要になります。財務状況や経営の様子は主に決算書や他の書類から把握することができますが、企業の真の魅力を理解するには数字だけでは不十分です。そのためにも、効果的なマネジメントインタビューが求められます。双方が満足する結果を得るためには、事前の準備が重要となります。このプロセスを通じて、企業の深層を理解し、最終的な意思決定に役立てることが大切です。