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DES(デットエクイティスワップ)は、企業の債務を減らすための手法です。
具体的には、債務である借入金を株式に変えることを意味し、企業の再建を目的として行われます。DESは事業承継時に実施されることもあり、債務を減らした状態で後継者に会社を引き継ぐことで、後継者の負担を軽減することが期待できます。
この記事では、DESの定義や、債務者・債権者の両方から見たメリット・デメリットなどをわかりやすく解説します。
目次
1. DES(デットエクイティスワップ)とは
DESは(Debt Equity Swap・デットエクイティスワップ )の頭文字を取ったもので、日本語に訳すと「債権の株式化」となります。企業の債務(Debt)の一部を株式化(Equity Swap)することを意味し、主に企業の再建を目的として行われます。
債務が株式という資本になることで純資産が増加するだけでなく、元金や利息の返済負担が減るというメリットがあります。ただし、資本金が増加することで税制特例が受けられなくなるなどのデメリットも考えられるため、注意が必要です。
なお、DESを実施するにあたっては以下2つの前提条件があります。
- 貸借対照表上で債務超過になっていないこと(簿価ではなく時価ベース)
- 債権の株式化によって株主への影響が発生しないこと
2. DESの手続き方法は2種類
DESには、「現物出資型」と「金銭出資型」の2種類があります。それぞれの定義を見ていきましょう。
2-1. 現物出資型
現物出資型のDESとは、借入金を債権者から債務者への出資とみなし、それに振り替えて相当額の株式発行を行うことです。DESは一般的に、この「現物出資型」を意味します。
企業は既に債権者から融資を受けているため、DESを実施する際は記帳のみが行われ、現金の移動は発生しません。
債権を活用する場合は、金融機関などの債権者が「債権を出資している」とみなし、株式を交付します。株式の交付は、特定の第三者へ新たに株式を発行する「第三者割当増資」によって実施されます。
第三者割当増資の大まかな手順は次のとおりです。
- 募集要項の決定
- 株主および債権者への通知と申し込み
- 株式の割当先の決定
- 現物の引き渡し
- 登記の変更手続き
まずは、第三者割当増資の募集条件や決定基準などを定めます。その後、株主および債権者に決定した内容を通知し、募集を行います。申し込みに対して株式の割当先を決定し、現物を引き渡して登記を変更することで、一連の手続きは完了です。
2-2. 金銭出資型
金銭出資型のDESとは、名前のとおり、金融機関などの債権者が、債務者である会社に対して現金(金銭)を支払うことです。
債権者が増資に合意したうえで現金を支払い、債務者はその現金を借入金の弁済(借入金をすべて返済すること)にあてます。同時に、債務者は債権者に対して出資額相当の株式を交付します。現金の使い道は、借入金の弁済に限定される点に注意が必要です。
現物出資型と金銭出資型の違いは、現金の移動の有無です。手法は異なるものの、結果的には現物出資型と同じ状態になります。このことから、金銭出資型のDESは「擬似DES」と呼ばれることがあります。
金銭出資型のDESでは、第三者割当増資の手続きと債務弁済手続きの両方を行います。
3. DESのメリット
DESのメリットを、債務者側・債権者側に分けて紹介します。
3-1. 債務者側のメリット
債務者側の最大のメリットは、債務が「株式」という資本になることです。
DESによって負債が減ることから、DESの主な目的は企業の再建になります。また、純資産が増加し、借入金の減少に伴って元金や利息の返済負担も減ります。資本金の増加によって、金融機関などの外部機関から会社の評価が高まる効果も期待できるでしょう。
株式の振り替えにより配当の負担が生じるものの、利息の支払により利益を圧迫する負債が減るメリットが上回ると考えられます。
3-2. 債権者側のメリット
金融機関などの債権者は、DESによって株式を取得することになります。それにより、株主として経営へ積極的に関与できるようになることがメリットです。 また、DESの実施後に会社の業績が回復すれば、キャピタルゲインや配当収入を得ることにつながります。再建の状況によっては、株式に振り替えた債権以上の見返りも期待できるでしょう。
4. DESのデメリット
続いて、DESのデメリットを債務者側・債権者側に分けて見ていきましょう。
4-1. 債務者側のデメリット
債務者側のデメリットとしては、DESによって新たな費用負担や税負担が増える可能性があることや、経営の自由度が下がる可能性があることなどがあげられます。
債務者である企業は、DESの実施によって借入金の返済や利息の支払が無くなり、キャッシュフローの改善などの恩恵を受けることができます。しかし一方で、配当負担が増えることに注意が必要です。資本金が増加すると、法人税等の増加にもつながる可能性があります。
また、債権者が株主となって経営へ積極的に参加することは、企業にとって経営の自由度が下がるというデメリットになる可能性があります。
4-2. 債権者側のデメリット
DESを実行すると債権者は貸付金として返済計画通り回収できなくなり、利息収入も無くなります。
企業が再建に成功して株式売却によるキャピタルゲインや配当収入を得られる可能性はありますが、期待したように再建が進まなければ、債権者側の利益が得られなくなってしまう点がデメリットといえるでしょう。
また、DESを実施した企業が中小企業で、株式が非公開だった場合は、株式の評価や売却が難しく、換金までの難易度が高まります。
5. DESの税務上におけるポイント
DESを成功させるためには、税務面も考慮することが大切です。ここでは、DESの税務上におけるポイントを解説します。
5-1. 出資状況(適格現物出資と非適格現物出資)
債権者の出資状況は、「適格現物出資」と「非適格現物出資」に分けられ、法人税の取扱いが異なります。
金融機関などの第三者とのDESは、一般的に非適格現物出資とみなされ、債務の全額が「債務消滅益」となり、税金が課されます。
現物出資の対象となる資産が借入金の債権のみの場合は、事業の移転を伴いません。この場合、従業者引継要件や事業継続要件等といった、適格現物出資の要件を満たすことができないためです。
5-2. 海外法人に対するDES
DESの現物出資では、海外に子会社を設立することで税制優遇を受けることが可能です。
税制優遇を受けるには適格要件を満たす必要がありますが、M&Aによって合併や会社分割を行う際に適格要件を満たせるのは、国内の法人が対象となる場合のみです。
ただし、国内の事業所の資産や負債を現物出資すると、場合によっては非適格とみなされるため注意しましょう。
5-3. 株主間の贈与
DESによって借入金を「株式」という資本に振り替えると、株主構成や株価に変化が生じることがあります。場合によっては、株主間の贈与とみなされ、株価の上昇分に応じて贈与税が課せられることがあります。これを「みなし贈与」といい、現物出資の株式割当を公正な時価で行うことで回避が可能です。
5-4. 資本金1億円超の場合
資本金が1億円を超えた場合は、次のような中小法人の特例が適用できなくなります。
- 800万円以下の年間所得部分に対する軽減税率
- 交際費の定額控除
- 留保金課税の不適用
- 欠損金の繰戻還付
- 貸倒引当金の法定繰入率
また、法人税については、事業税の外形標準課税の導入と、法人住民税の均等割の増加に対する優遇措置が外され、結果的に納税額が増えることになります。
6. M&AでのDESの活用
DESはM&Aによる事業承継にも活用できます。ここでは、M&AでのDESを活用した場合の主な効果を解説します。
6-1. 相続税対策
経営者の借入金をDESによって株式に変えることで、相続税の評価額が下がり、税負担を軽減できる効果があります。
株式は時価評価されるという特徴があるため、振り替えた株式に対して対策を行うことで、相続税の負担軽減が可能です。
ただし、増資の際に有利発行(公正な発行額よりも低い発行価額で新株を発行すること)を行うと贈与税が課せられ、結果的に税負担が増える可能性があるため注意しましょう。
6-2. 後継者の負担を軽減
事業承継では、資産だけでなく債務も後継者に引き継がれます。
会社に債務が残っている状態で事業承継を行うと、返済の負担が後継者に重くのしかかります。DESによって債務を減らしてから事業承継を行うことで、スタートアップ時の負担軽減につながります。
7. まとめ
DESによって会社の債務が減ることで、財務状況の改善が期待できます。ただし、進め方によっては中小法人の特例が適用されなくなる懸念もあり、税負担が増えることにもつながりかねないため、M&Aの専門家へ相談すると良いでしょう。
M&Aキャピタルパートナーズは、東証プライム上場の信頼と30年以上にわたる実績があります。DESをお考えの際は、お気軽にご相談ください。
8. よくあるご質問
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DESとDDSとの違いは?
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DDS(デットデットスワップ)とは、既存の借入金を劣後ローン(債務弁済の順位がほかの債務よりも劣る借入金)として借り換える手法です。債権者が金融機関の場合、中小企業には主にDDSが適用されます。
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DESと増資との違いは?
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増資にはいくつかの手法があり、DESはそのうちの一つです。DESでは、借入金(債務)を株式化によって資本に変えることで、財務体質を改善します。
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DESの主な目的は?
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DESの主な目的は、企業の再建です。DESを実施することで金融機関は貸付金を回収できなくなりますが、その代わりに株式を取得し、企業の再建がスムーズに進めば株式売却によりキャピタルゲインなどの利益を得られる可能性があります。DESは、事業承継時の相続税対策として活用されることもあります。
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DESの仕訳方法は?
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債務者側の仕訳は、借入金が資本金に変わるのみです。債権者側の仕訳は、株式を時価評価し、残った借方科目と貸方科目との差額が債権譲渡損となります。