正常収益とは? 会社の真の収益力を分析・計算する方法を解説

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会社の財務分析では、事業の収益の実態である「正常収益」が重視されます。
通常の営業サイクルによるものでない損益があれば、営業利益を調整して「真の収益獲得能力」を見極めなくてはなりません。
事業譲渡や事業承継・M&Aの実施でも特に重視され、基本合意の後で正常収益力の算定が実施されます。その判断次第で、買収価格の減額あるいは最終合意の取りやめを検討する場合もあります。譲渡会社・譲受会社のどちらも、本記事で紹介する正常収益の考え方を押さえましょう。

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1. 正常収益とは?

正常収益とは、損益計算書上で必ずしも確認できるとは限らない、会社の獲得収益の実態を指し示す概念です。
正常収益の算出では、過年度の利益につき、非経常的な損益や通常の業務活動とは関係ない損益、その他にもリスクの大きい負債があればこれを排除して行います。
つまり「対象会社のある決算期において、今後も続けて見込める真の収益」と言えます。

2. 正常収益を把握する必要性

会社経営者や投資家にとって、正常収益の把握は欠かせません。リスクの可視化から改善点を見出したり、どのような点で他社と差があるのか理解したりする時の補助になります。
下記で挙げるのは、正常収益の把握の必要性及び目的として認識される点です。

財務リスクの把握

会社の財務分析では、含み損や簿外債務等のリスク把握が重視されます。一見すると高収益でも、見つかった上記項目について調整を行ってみると、その結果である正常収益は思ったほど大きくない可能性があります。

【例】従業員との間で係争中の未払い賃金があるケース

→簿外債務の一種である未払い賃金は、訴訟提起により早晩支出されるかもしれません。そうとなれば、損益計算書の儲けをそのまま評価とするのは無理があり、収益も実際の数値より小さく見積もっておく必要があります。

企業価値の正確な把握

企業価値は「稼ぐ力」で決まると言っても過言ではありません。特に投資家の間では、稼ぐ力の見極め方が課題としてあがります。
決算書について他社と比較した時、仮に営業利益まで全く同じな場合でも、実際は稼ぐ能力に差がある可能性が考えられるのです。

【例】同水準の営業利益を上げている、同業のA社とB社を比較するケース

→A社は積極的な設備投資のかいあって安い原料を使用でき、B社は設備投資より広告宣伝に力を入れていると考えましょう。上記条件だと、実質的な収益力が高いのはA社だと考えられます。

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3. 正常収益力とは?

正常収益の概念は、買収や事業承継の基本合意後に行われる財務デューデリジェンス(財務DD)で重視されます。
財務DDでは、買収対象の過年度分の損益計算書をベースに、正常な営業循環による経常的な収益を分析で見出し、正常収益力とします。
正常収益力をごく簡単に捉えるなら「営業によって今後も継続・安定的に期待できる真の収益力」です。

正常収益力の計算方法

正常収益力の分析では「EBITDA」と呼ばれる指標を導き出した後、損益計算書や取引状況の分析を通じて調整項目を洗い出します。
最終的には、各調整項目の加算または減算の結果である「調整後EBITDA」を導き出し、これを正常収益力とします。

EBITDA(イービットディーエー)とは

EBITDAとは「利払い前、税引き前、減価償却前、その他償却前利益」を英語で表した時の頭文字を取った用語です。
M&Aに限らず、定量的評価に基づく投資判断の際には、所在国・所在地域・事業展開の状況を極力排除して収益性を見極めたい時に用いられます。
調整前EBITDAの算定は簡単で、計算式は下記のように表せます。
EBITDA=営業利益+減価償却費

正常収益力の調整項目

正常収益力の判断のため調整項目とする損益には、突発的・一時的な損益、適切でない会計処理によって営業損益から漏れている損益等があります。
中小企業では、主に節税目的で支出される保険料分等も調整項目に含めます。
以下では調整項目の例の一部を挙げますが、実際に発生する項目はケースバイケースです。実務ではM &Aの専門家が入念にチェックした上での判断となる点に留意しましょう。

貸借対照表の調整から影響を受ける項目

財務DDでは、貸借対照表も調整対象であり、その項目が損益計算書にも影響を与える場合があります。例として、遊休固定資産の減損、長期滞留債権の損失処理などがあります。

営業損益に含まれる突発的・一時的な損益

突発的・一時的に生じる損益は、特別損益として扱うべきです。
営業損益に計上されている場合は、正常収益力把握のための調整項目とします。
例として、特別賞与の支給、自然災害や業種関連法改正、スポットでの大口注文、大型固定資産の売却などによる損益があります。

営業損益として計上されるべき損益

会社によっては、リベート収入やロイヤルティー、出向費用を営業外損益として計上するケースがあります。上記について営業損益として処理するのが適切であれば、調整項目とします。

経理処理のミス・会計処理の変更

経理処理のミスは、税の修正申告と似た要領で、対象年度の決算につき調整項目に含めます。会計方針の変更があった会社では、変更後の方針を以前から用いていたと仮定して調整します。

撤退済の事業・店舗の損益

撤退済の店舗がある場合は、もともと存在しなかったものとして、調整項目に含めます。正常収益力として知りたいのは、過去ではなく、今後の経常的な収益であるためです。

為替レート変動に伴う差額

取引上の為替レートの変動も、正常収益力把握のための調整項目です。調整する時は、過年度も現在のレートだったと仮定し、その差額を加算または減算します。
円取引中心であれば問題は起きにくいものの、外貨取引がある場合は要注意です。

中小企業でよく見られる調整項目

未上場の中小企業、厳密には監査のない会社では、保険料や役員報酬も調整項目の対象です。
課税額のコントロールなどを目的として、各金額が過大となっているケースが多いためです。
調整の幅は、統一的な基準はないものの、一般的には上場企業を参考とします。

M&A実施に伴う調整項目

その他には、今回のM&A実施に伴って生じる損益も、正常収益力を算定するための調整項目に含まれます。例として、次のようなものが挙げられます。

  • M&A実施に伴う株主変更のための費用(少数株主対策費など)
  • 撤退予定の事業の損益(損益構造が大きく変化する場合)
  • 失われた大口顧客との契約・取引で、再開が見込まれないもの
  • カーブアウトであるため、生じることがなくなった本社費用
  • M&A実施に伴って必要になる追加の人件費
  • 今後の計画上と過去の為替レートの差額
  • 買い手企業の賞与基準、退職金規定

事業利益と正常収益の違い

財務分析する時は、正常収益と事業利益の混同に注意しましょう。
どちらも損益計算書上の営業利益を基礎としますが、正常収益は会社の本業について見極める場合を指し、事業利益は金融収益を含む企業活動全体の収入の把握を指します。

比較項目 正常収益 事業利益
計算方法

営業利益+減価償却費

※要調整

営業利益+受取利息や配当金等の金融収益

何が分かるのか

会計処理ミスや非経常的な損益を排除した、本業による通常の営業プロセスを踏んだ時の収益

>決算操作での利益調整をある程度まで度外視した、企業活動全体の収益

主な活用方法

より厳格な投資判断、事業譲渡、事業承継、債務整理、戦略的M&A

投資判断、事業融資の可否判断、取引先の与信管理

正常収益力を分析する時の留意点

事業譲渡や承継、買収計画では、各種調整による正常収益力の分析にあたって留意したいポイントがあります。一例として、2つの問題を挙げます。

スタンドアローン・イシュー

買収・譲渡によってグループ企業から対象会社または事業が離脱する場合は、その影響を考慮しなくてはなりません。
典型的なのは、利益を上げるにあたって、親会社の与信や販売力に強く依存するケースです。
対象会社の孤立により起こる問題(スタンドアローン・イシュー)は個別に注視する必要があり、当然、正常収益力を推し量るための調整を行うべきです。

リストラクチャリング

対象会社で従業員のリストラを実施するケースでも、正常収益力の調整で影響を加味しなくてはなりません。
大前提として、実行可能性や確実性の見極めが必要です。重要な役割を果たす従業員の退職によって、その後の経常的な収益が当初の見込みより下がるかもしれません。
いずれにしても、リストラ実施のために支払う解雇予告手当や退職金は、定量性があり、調整項目に含めるべきです。

LTM分析の必要性

売上減少・大口顧客喪失などの事象発生が直近12か月以内のケースでは、調整項目に含めるべきか判断が分かれます。仮に、単に何らかのプロセスが遅れているせいだったり、次の主たる収入源が確定していたりするだけなら、調整は必要ないでしょう。詳細はLTM分析の手法と合わせて判断しなくてはなりません。

正常収益の活用シーン

正常収益が活用される主なシーンは、M&Aの譲渡企業と譲受企業が互いに安心を得たい場面です。それぞれにとって、次のようなメリットがあります。

▼譲渡企業側

  • 一過性の業績変動を無視して収益力を見極めることで、事業を手放すべきか適正に可否判断できるようになる
  • 事業承継やM&A実施に向けて財務・会計の健全化を図りたい時、具体的な指針作りに役立つ

▼譲受企業側

  • 買収しようとする事業や会社について、厳密な収益力を見極め、不安のない状態で最終的合意に至れる
  • 買収の効果を正確に測定し、必要に応じて買収後の経営プランを立てられるようになる
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4. まとめ

正常収益とは、会社の損益計算上の数値がそのまま採用されるとは限らない「真の獲得収益」のことです。
事業承継や買収計画中は特に重視され、営業利益+減価償却費で算出されるEBITDAをベースに、細かい調整を行って正常収益力を見出します。
正常収益・正常収益力の判断方法はケースバイケースであり、当事者会社だけでは困難と言わざるを得ません。
第三者的・客観的な専門家の力が、必ずと言って良いほど求められます。
財務分析とその結果に基づく今後の判断は、ぜひ弊社にご相談ください。

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監修者プロフィール
M&Aキャピタルパートナーズコーポレートアドバイザリー部長 梶 博義
M&Aキャピタルパートナーズ 
コーポレートアドバイザリー部長
公認会計士梶 博義

大手監査法人、事業承継コンサルティング会社を経て、2015年に当社へ入社。
これまで、監査、IPO支援、財務DD、親族承継・役職員承継コンサル等を経験し、当社入社後はM&Aアドバイザーとして活躍。一貫して中小企業の支援に従事し、M&Aのみならず、事業承継全般を得意とする。

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