株式取得とは? 買収との違いや方法、メリットを解説

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株式取得は、M&A(Mergers and Acquisitions:合併と買収)のうち、買収における手法の一つです。本記事では、株式取得の概要や方法、実施する目的、メリット・デメリット、手法別の手順などを解説します。

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1. 株式取得とは?

株式取得 イメージ画像 M&Aの買収手法の一つである株式取得(かぶしきしゅとく)は、株式を取得することで相手企業の経営権を得ることを意味します。
株式の売り手となる企業は、保有している株式を売却し、その対価として金銭を受け取ることが可能です。買い手は、株式を取得し、その企業の経営に関与する権利を得られます。
株式取得によってどのような権利が得られるかは、株式の取得割合によって変わります。取得割合と得られる権利の関係は、会社法によって以下のように規定されています。

取得割合 得られる権利
1%未満(1株以上) ・議事録を閲覧できる
・株主の代表として訴訟を起こせる
1%以上 株主総会で議案を提出できる
3%以上 ・株主総会員に出席できる
・帳簿などの経営資料を閲覧できる
33.4%(3分の1)以上 特別決議を単独で否決できる
50.1%(2分の1)以上 普通決議を単独で可決できる
66.7%(3分の2)以上 特別決議を単独で可決できる
100% あらゆる決議を単独で可決できる

2. 株式取得と買収の違い

株式取得と混同されがちな言葉に企業買収(買収)があります。買収とは、相手企業の経営権を買い取ること全般を指す言葉です。一方で株式取得では、株式を買い取ることで、相手企業の経営権を獲得し、買収の実現を目指します。つまり買収が目的だとするなら、株式取得は手段にあたります。
M&Aにおける買収の手段には、株式取得の他に、相手企業の事業を買い取る事業譲渡などがあります。

3. 株式取得の方法は大きく分けて4つ

株式取得の方法は、以下の4つに大別することができます。

  1. 株式譲渡
  2. 株式交換
  3. 株式移転
  4. 第三者割当増資

3-1. 株式譲渡

株式譲渡のイメージ画像株式譲渡とは、ある株主が保有している株式を、他者に譲り渡すことです。株式譲渡には「売買」「相続」「生前贈与」の3つがありますが、ここでは売買による株式譲渡について解説します。
売買による株式譲渡では、売り手が保有している株式を、買い手が金銭によって買い取ります。売り手と買い手の2者だけで完結し、手続きも株式名簿を書き換えるだけと簡易なため、数あるM&Aの手法のなかでも非常に多く利用される方法です。

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  • 相対(あいたい)取引

    相対(あいたい)取引のイメージ画像相対取引とは、公開市場を通さず、当事者同士で行う株式の取引を指します。非上場企業の株式は公開市場で取得できないため、相対取引によってやり取りするケースが多くなります。多くの場合、非上場企業は経営者が大部分の株式を保有しているため、経営者の合意さえ得ることができれば、スムーズに取引を進めることができるでしょう。

  • 市場買付

    市場買付のイメージ画像市場買付とは、上場企業の株式を、公開市場を通して購入することです。理屈のうえでは、対象となる企業の発行済み株式を買い占めれば経営権を獲得することは可能ですが、買収においてこの方法はほとんど取られません。なぜなら短期間で大量の株式を市場買付すると、株価が跳ね上がり、買収価格が高騰するためです。

  • 公開買付(TOB)

    公開買付(TOB)のイメージ画像公開買付(TOB)とは、期間、価格、株式数などの条件を事前に広告したうえで、条件に合意した株主から株式を購入することで、買収の成功を目指すM&Aの手法です。買取価格を通常の株価よりも高めに設定すると、目標とする株式数を集めやすくなり、買収の成功率が上がります。
    公開市場を通さないため、市場買付とは異なり、大量に購入しても事前に設定した株価よりも値上がりを起こすことがありません。そのため経営権に影響を及ぼすような、大規模な取引に利用されるケースが多いです。
    またその性質上、公開買付による買収は、対象となる企業の同意が無くても実施することができます。同意があるものを友好的TOB、同意の無いものを敵対的TOBと呼びます。

3-2. 株式交換

株式交換前のイメージ画像株式交換後のイメージ画像株式交換は、株式取得によって売り手企業を買い手企業の完全子会社にする際に用いられることが多い手法です。株式交換では、買い手企業は売り手企業の発行済株式のすべてを受け取り、買い手企業の株式の一部を取得させます。売り手企業の株主からみると、既に持っている売り手企業の株式と、買い手企業の株式を交換するという形になります。

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3-3. 株式移転

株式移転のイメージ画像株式移転とは、現存する1つ、または複数の会社が、それぞれの発行済株式すべてを、新設する一つの会社に取得させ、新設する会社の株式を割り当てることです。このとき、すべての株式を移転させた会社は、新設された会社の完全子会社になります。
株式移転は、複数の会社を子会社化することで経営統合したり、持株会社化によってホールディングス化したりするときによく用いられます。

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3-4. 第三者割当増資

第三者割当増資のイメージ画像第三者割当増資とは、会社が新規に株式を発行する際、割り当てる相手を指定することです。第三者割当増資をすることで、会社は資金を調達できるだけでなく、割り当てた相手の取得割合を増やしたり、それ以外の株主の取得割合を減らしたりして、経営権をコントロールすることができます。
例えば、望ましくない相手に敵対的買収を仕掛けられた際、友好的な相手に第三者割当増資を実施すれば、経営権を守ることができるでしょう。

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4. 株式取得を実施する主な目的

ここでは、株式取得を行う主な目的として以下の5項目を解説します。

  1. 対象企業を子会社化するため(他社株式の取得)
  2. 株主提案権を獲得するため(他社株式の取得)
  3. 敵対的買収を防ぐため(自社株の取得)
  4. ストックオプションを付与するため(自社株の取得)
  5. 自社株をアピールするため(自社株の取得)

4-1. 対象企業を子会社化するため(他社株式の取得)

他社株式を取得する主な目的の一つが、その会社の子会社化です。他社が発行する株式を取得し、取得割合が50%を超えると、その会社を子会社化することができます。

4-2. 株主提案権を獲得するため(他社株式の取得)

他社株式が1%以上、あるいは6ヶ月以上継続して保持する株式が300個以上あれば、株主提案権を得ることができます。これは株主総会で議案を提出できる権利です。議案提出権を得るために他社株式を取得することもあります。提出された議題は、それが違法なものでない限り、企業は株式総会で取り上げなければなりません。
また、単独で保持する株式の数が条件に満たない場合でも、他の株主と合算して条件を満たす数になれば、共同の議案として提出することができます。議案の提出期限は株式総会の8週間前までに済ませる必要があります。

4-3. 敵対的買収を防ぐため(自社株の取得)

望ましくない相手に買収されることを防ぐ目的で、既に発行した自社の株式を取得することがあります市場に出ている株式を買い戻せば、友好的な株主の取得割合を相対的に高くすることが可能です。また、株式を取得することで株価が上がるため、簡単に買収することはできなくなるでしょう。

4-4. ストックオプションを付与するため(自社株の取得)

ストックオプションを実施するために自社の株式を取得することがあります。
ストックオプションとは、その会社の従業員が、あらかじめ決めた価格(権利行使価格)で自社株式を購入できる権利です。権利行使価格は、それ以降に株価が変動しても変わることはありません。
つまり、企業が業績を伸ばして株価が上昇すれば、ストックオプションを持つ従業員は、権利行使価格と株価との差額で利益を出すことができるのです。従業員のモチベーションを高めるための施策として行われることが多い手法です。

4-5. 自社株をアピールするため(自社株の取得)

自社株式の取得は、自社の株式が流通しすぎていたり、本来の価値よりも安く見積もられているときに実施される場合もあります。自社株を買い取って市場の株式数を絞れば、市場の株式数が減り、1株あたりの価格が上がります。また、あらかじめ広く告知したうえで自社株式の取得を行うと、投資家へのアピールにもつながります。

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5. 株式取得によって得られるメリット

続いて、株式取得によって得られるメリットとして、以下の3つを紹介します。

  1. 他のM&A手法より手続きが簡単
  2. さまざまな計画に活用可能
  3. 原則として許認可は承継

5-1. 他のM&A手法より手続きが簡単

株式取得は、他のM&A手法と比較すると、手続きがそこまで複雑ではありません。当事者間で株式を売買したり、移動したりするため、資産や負債に影響が出ず、経営権が移るという形になります。
株式取得のなかでも特に株式譲渡は、売り手と買い手が合意し、株式名簿を書き換えるだけで手続きが完了するため、債権譲渡登記や債権者保護手続きのような、煩雑な過程を経る必要がありません。

5-2. さまざまな計画に活用可能

株式譲渡は、さまざまな経営計画に用いることができます。例えば以下のようなものがあります。

  • 第三者割当増資による新規事業や事業拡大の資金獲得
  • 株式移転による経営統合で事業の効率化や競争力の強化を図る
  • 業種の近い企業を買収することによる従業員数の確保
  • 買収されて大企業の子会社になることで経営を安定させる

5-3. 原則として許認可は承継

株式移転によって買収が成立し、経営権が移動したとしても、別の会社になるわけではないため、会社が得ていた許認可はそのまま引き継がれ、新たな手続きを行う必要はありません。許認可とは「届出」「許可」「認可」「登録」「免許」の5つを指しますが、これらを実施する手間が省けることも、株式移転による買収の大きなメリットです。

6. 株式取得で生じ得るデメリット

続いて、株式取得によって生じ得るデメリットについても見ていきましょう。以下の3項目を紹介します。

  1. 特定資産・事業の売買は不可
  2. 取引交渉が難航する可能性
  3. 原則として許認可は承継

6-1. 特定資産・事業の売買は不可

株式取得では、その会社の持つ特定の事業や資産のみを選り好みして取得することはできません。買収によって、必要のない事業や負債を取得してしまうと、その後の経営に悪影響を及ぼすリスクがあります。特定の事業や資産だけを取得したい場合は、株式取得ではなく事業譲渡の実施を検討すると良いでしょう。

6-2. 取引交渉が難航する可能性

多くの株主がいる企業を、株主取得によって買収する場合、株主の数だけ思惑が絡むことになるため、交渉が簡単にはいかない可能性があります交渉が長期化すれば多くの手間や費用がかかりますし、そこまでしても最終的に交渉が決裂してしまうおそれもあります。

6-3. シナジー効果が得られないリスク

株式取得によって企業を買収する目的の一つが、自社の強みと、買収対象となる企業の強みを組み合わせることで、さらなる強み(シナジー効果)を生み出すことです。しかし株式取得の経緯や、買収後の対応次第では、買収された会社の従業員とのあいだに軋轢が発生し、期待どおりのパフォーマンスを発揮できなかったり、多くの従業員が退職してしまったりするおそれがあります。その結果、当初想定していたシナジー効果を得ることができない可能性があります。

7. 【手法別】株式取得における手続きの流れ

ここでは、株式取得の具体的な手続きの流れを、手法別にご紹介します。

7-1. 株式譲渡

株式譲渡における譲渡は、上場企業と非上場企業でそれぞれ異なります。
上場企業の株式は、売り手と買い手が合意すれば株式の譲渡が可能です。上場企業の株式には、譲渡についての制約が無いためです。
一方で非上場企業の株式の場合、売り手は以下のプロセスを踏む必要があります。

  • 株式譲渡の承認を請求する
  • 株主総会や取締役会で承認を得る
  • 買い手との交渉を行い、価格などの交渉を行う
  • 契約を締結し、株主名簿を書き換える

7-2. 株式交換・移転

株式交換や株式移転では、反対する株主への買取請求や、前後の情報開示などが会社法によって定められています。具体的な手順は以下のとおりです。

  • 株式交換・株式移転の基本合意書を作成し、契約を結ぶ
  • 事前の情報開示を実施する
  • 株主総会の特別決議で3分の2以上の賛成を得る
  • 株式交換・移転に反対する株主への買取請求手続きをする
  • 事後の情報開示を実施する

7-3. 第三者割当増資

第三者割当増資の手続きも、会社法による規定があります。具体的な流れは以下のとおりです。

  • 取締役会、もしくは株主総会で、新株主の募集事項を決める
  • 上場企業の場合、既存の株主に対して募集事項の通知や公告を行う(非上場企業の場合は不要)
  • 新規に発行する株式の割当について決定する
  • 新株主によって出資が履行される

8. まとめ

M&Aの手法の一つである株式取得について解説しました。株式取得は当事者間のみで完結できるケースもありますが、ねらいどおりの成果を得るには、売り手・買い手共に、条件に合った相手と取引することが重要です。
M&Aの成功確率を高めるのであれば、M&Aの専門家を活用しながらの実施することをおすすめします。M&Aキャピタルパートナーズでは、株式取得についての相談も承っております。

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監修者プロフィール
M&Aキャピタルパートナーズコーポレートアドバイザリー部長 梶 博義
M&Aキャピタルパートナーズ 
コーポレートアドバイザリー部長
公認会計士梶 博義

大手監査法人、事業承継コンサルティング会社を経て、2015年に当社へ入社。
これまで、監査、IPO支援、財務DD、親族承継・役職員承継コンサル等を経験し、当社入社後はM&Aアドバイザーとして活躍。一貫して中小企業の支援に従事し、M&Aのみならず、事業承継全般を得意とする。

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