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株式取得について
株式取得とは、対象会社の株式を取得し、株主として経営への関与権限や支配権を得る手法です。M&Aにおける買収手法の一つで、既存株主からの取得、新株の引受け、株式交換・株式移転などの組織再編による取得を含みます。自社が発行した株式を買い取る自己株式取得も広義の株式取得に含まれ、取得割合に応じて行使できる権利の範囲が変わります。
M&Aで株式取得を検討する際は、取得方法や取得割合によって、必要な手続き、取得後に行使できる権利、引き受けるリスクが異なります。対象会社の法人格を維持したまま経営権を移しやすい一方で、会社に内在する負債や偶発債務も実質的に引き受けるため、事前の確認と手法選択が重要です。
本記事では、株式取得の概要、方法、目的、メリット・デメリット、手法別の手続きの流れ等を実務的な視点でわかりやすく解説します。
なお、M&Aの基本概要を詳しく知りたい方は、「M&Aとは?」の記事もあわせてご覧ください。
株式取得とは?
株式取得とは、対象会社の株式を取得することで、その会社の経営に対する関与権限や支配権を獲得するM&A手法です。M&Aにおける「買収」とは、ある会社が他の会社の経営権を取得する行為の総称であり、株式取得はその代表的な手段の一つにあたります。
株式取得には、既存株主から株式を取得する方法のほか、新株の引受けや、株式交換・株式移転などの組織再編によって株式を取得する方法があります。事業譲渡や合併と比べて手続きが比較的シンプルな場合が多く、中小企業のM&Aでも最も広く活用されています。
取得する株式の割合(議決権ベース)によって、株主として行使できる権利の範囲は異なります。一般に、取得割合が高いほど経営への関与度は高まり、100%取得に至ると完全子会社化による経営支配が可能となります。主な水準ごとの権利の目安は以下のとおりです。
| 取得割合(議決権ベース) | 主に行使できる権利・効果 |
|---|---|
| 1%未満(1株以上) |
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| 1%以上 |
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| 3%以上 |
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| 3分の1超(約33.34%超) |
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| 2分の1超(50%超) |
|
| 3分の2以上(約66.67%以上) |
|
| 100%(完全子会社化) |
|
※普通決議・特別決議の単独可決には、必要な定足数を満たすことが前提となります。なお、上場会社等の株式について一定規模以上の取得を行う場合は、金融商品取引法上のTOB(公開買付け)規制への対応が必要となるケースがあります。2026年5月1日施行の改正金融商品取引法では、株券等保有割合が原則として30%超となる取得等がその対象とされています。
株式取得の方法
株式取得の方法は、以下の4つに大別することができます。
各方法について概要を記載しますが、別記事でも詳しく解説していますので、あわせてご参照ください。
株式譲渡
既存の株主が保有する株式を、買い手に対して譲渡する方法です。売り手と買い手が合意した価格で株式を売買します。非上場企業の場合、会社が定款で株式の譲渡について制限を設けていることがあり(譲渡制限株式)、その場合は株主総会または取締役会の承認が必要となります。非上場企業の株式譲渡は、M&Aの実務上最も多く用いられる手法です。
株式交換
既存の会社が完全親会社となり、対象会社の発行済株式のすべてを取得する組織再編手法です。対価は完全親会社の株式が基本ですが、金銭等を交付することも可能です(いわゆる「対価の柔軟化」)。株式を対価とすることで現金支出を抑えられる場合がありますが、金銭等を対価とする設計も選択肢の一つです。
株式移転
新たに設立する会社が完全親会社となり、完全子会社となる会社の株式を取得する組織再編手法です。持株会社の新設や複数社による経営統合に用いられます。株式を対価とすることで現金支出を抑えられる場合があります。
第三者割当増資
会社が特定の第三者に対して新株を発行し、その引受人が払込みを行うことで株式を取得する方法です。既存の株主から株式を取得するのではなく、会社が新たに発行する株式を引き受ける点で、他の手法と性質が異なります。既存株主の議決権割合が希薄化する点には留意が必要ですが、会社にとっては資金調達と同時に特定の投資家を株主として迎え入れることができる手法です。
株式取得を実施する主な目的
株式取得の目的は、「自社株式を取得するケース」と「他社株式を取得するケース」で大きく異なります。前者は主に資本政策・株主還元を目的とした財務戦略として、後者はM&Aによる事業拡大・経営権の取得を目的として活用されます。それぞれ順に見ていきましょう。
自社株式を取得する主な目的
自社が発行した株式を取得する「自己株式取得(自社株買い)」とは、会社が市場や既存株主から自社の発行済株式を買い取ることをいいます。
主な目的は以下の3点です。
- ① 株主還元・資本効率の改善
- 自社株買いを実施すると、市場に流通する株式数が減少し、EPS(1株当たり純利益)の向上につながりやすくなります。BPS(1株当たり純資産)については、取得価格と1株あたり純資産の関係によって増減が異なります。具体的には、取得価格がBPSを下回る場合はBPSが上昇し、上回る場合はBPSが低下する傾向があります。株主への直接的な還元手段として配当と並んで広く活用されており、自己資本を圧縮することでROE(自己資本利益率)の向上にもつながります。東証の資本コスト・株価意識要請を背景に、PBR(株価純資産倍率)改善策の一環として活用する上場企業が増えています。
- ② インセンティブ報酬・M&A対価への活用
- 取得した自己株式は、役員・従業員向けのストックオプションや株式報酬の原資として活用できます。また、株式交換等のM&Aを実施する際に対価として交付することで、現金支出を抑えながらM&Aを進める手段にもなります。
- ③ 買収防衛への対応
- 流通株式数が減少することで、残存株主の持株比率が相対的に上昇し、敵対的買収への一定の抑止効果が期待される場合があります。ただし、自己株式には議決権がないため効果は限定的であり、他の買収防衛策と組み合わせた検討が一般的です。なお、自己株式取得は株主総会または取締役会の決議が必要であり、分配可能額の範囲内でのみ実施できる財源規制が設けられています。
他社株式を取得する主な目的
他社の株式を取得する場合、主な目的は経営への関与・支配権の取得にあります。取得割合に応じて関与の深さが変わるため、目的に応じた取得水準の設計が重要です。
主な目的は以下の3点です。
- ① 経営支配権の取得(子会社化・関連会社化)
- 議決権の過半数を取得することで、対象会社を子会社として経営管理下に置くことができます。完全子会社化(100%取得)では少数株主との利害調整が不要となり、グループとして統一した戦略を迅速に実行しやすくなります。
- ② 事業・技術・人材の獲得とシナジーの創出
- 自社に不足する技術力・顧客基盤・人材・ブランドを持つ会社を取り込み、内部成長では時間のかかる能力を素早く獲得できます。また、両社の強みを掛け合わせることで、売上拡大やコスト削減といったシナジー効果を追求できます。
- ③ 事業承継の受け皿
- 後継者不在のオーナー企業から株式を譲り受け、事業・雇用・取引関係を継続させる形での承継に活用されます。中小M&Aにおいて最も典型的な活用場面の一つであり、地域経済の維持・雇用の確保にも貢献します。
株式取得によるメリット
株式取得の主なメリットは以下の3点が挙げられます。
他のM&A手法と比べて手続きが比較的簡易(非上場企業の株式譲渡の場合)
非上場企業の株式譲渡は、合併や会社分割のような組織再編型の手法と比較して、手続きの煩雑さが相対的に低い点がメリットです。当事者間で合意し、株主名簿の書き換えを行うことで経営権の移転が完了します。債権者保護手続きが原則不要であるため、手続きにかかる時間とコストを抑えられます。
ただし、上場会社の大量取得においては、2026年5月1日施行の改正金融商品取引法によりTOB規制の対象範囲が見直されており(原則として30%超の取得等が対象)、手続きが複雑になるケースがあります。非上場会社でも株主が分散している場合は交渉に時間を要することがあるため、「簡易」という点は非上場かつ株主が少数のケースを前提に理解しておくことが重要です。
原則として許認可・契約関係が対象会社に帰属したまま継続できる
株式取得によって経営権が移転しても、対象会社の法人格はそのまま存続します。そのため、対象会社が保有していた許認可(届出・許可・認可・登録・免許)は対象会社に帰属したまま原則として有効です。事業譲渡では個別に許認可の再取得が必要となることが多い点と比べると、株式取得は事業継続性の観点で有利な手法といえます。
ただし、許認可の根拠法令によっては変更届出・事前承認等が必要となるケースがあります。また、取引先との重要契約にチェンジ・オブ・コントロール条項(支配権変更時に相手方が解約等できる条項)が設けられている場合もあるため、デューデリジェンスの段階で主要契約の内容を確認しておくことが重要です。
さまざまな経営目的に活用できる
株式取得は、完全子会社化(100%取得)から少数持分の取得(資本業務提携等)まで、目的に応じた幅広い関与の形を選択できます。また、段階的な取得(まず一部を取得し、関係性を深めながら追加取得する)も可能であるため、対象会社の企業文化や財務状況を確認しながら慎重にアプローチするケースにも対応できます。
近年は中小企業のM&Aにおいて株式譲渡が主流となっており、事業承継を目的とした案件でも広く活用されています。後継者不在問題が深刻化するなかで、第三者への株式譲渡による事業承継ニーズは引き続き高い水準にあり、株式取得の活用機会はさらに広がっています。
株式取得で生じ得るデメリット
続いて、株式取得のデメリットは以下の3点が挙げられます。
それぞれについて、詳しく説明していきます。
対象会社に内在する負債・偶発債務リスクを実質的に引き受ける
株式取得では、買い手が対象会社の資産・負債を直接承継するわけではなく、対象会社の法人格内に資産・負債・契約・偶発債務等がそのまま残った状態で、その会社を支配する形となります。経済的には、簿外債務・訴訟リスク・租税リスク・環境リスク等、デューデリジェンスで把握しきれなかったリスクを実質的に引き受けることになります。
このリスクを軽減するため、財務・法務・税務等の各種デューデリジェンスを十分に実施したうえで、株式譲渡契約書(SPA)に表明保証条項・補償条項を設けることが実務では一般的です。なお、中小M&Aガイドライン(第3版)でも、表明保証保険の活用が選択肢の一つとして示されています。
特定の事業・資産のみの取得はできない
株式取得では対象会社全体を取得する形となるため、特定の事業や資産のみを切り出して取得することはできません。買い手にとって不要な事業・不良資産・偶発債務を抱えてしまうリスクがある点は、事業譲渡と比べた場合の大きな制約です。
また、株主が多数存在する場合や株主間で意見が割れている場合は、全株式の取得に向けた交渉が難航し、時間とコストを要することもあります。特定の事業・資産のみを取得したい場合や、対象を絞り込みたい場合は、事業譲渡や会社分割の活用を検討する必要があります。
PMIがうまく機能しない場合、シナジー効果が得られないリスクがある
株式取得後の統合プロセス(PMI:Post Merger Integration)がうまく機能しない場合、期待していたシナジー効果が実現しないリスクがあります。組織文化の違いによる摩擦、主要人材の離職、顧客・取引先との関係変化などが障壁となるケースが多く、M&Aの失敗要因として挙げられることの多いテーマです。
近年は中小M&Aの増加に伴い、PMIの重要性への認識が高まっています。中小M&Aガイドライン(第3版)でもPMIへの対応が明示されており、買収前の段階からPMI計画を策定し、クロージング後に早期かつ計画的に実行に移すことが成功の鍵となります。
【手法別】株式取得における手続きの流れ
株式取得の具体的な手続きの流れは、手法によって異なります。ここでは主に以下の手法ごとに解説します。
株式譲渡の場合
株式譲渡の手続きは、上場企業と非上場企業で異なります。
上場企業の株式は、原則として譲渡制限がなく、証券取引所を通じた市場取引で売買が可能です。ただし、一定規模以上の取得(原則として株券等保有割合が30%超となる場合等)はTOB規制の対象となるため、事前に各種専門家への確認が必要です。
非上場企業の株式を取得する場合は、以下の流れで手続きを進めます。
非上場企業の株式を取得する手続きの流れ
- 対象会社に対して株式の譲渡承認を請求する
- 対象会社の株主総会または取締役会で譲渡承認を得る
- 売り手との価格・条件交渉を行う
- 株式譲渡契約(SPA)を締結し、決済・株主名簿の書き換えを行う
株式交換・移転の場合
株式交換・株式移転は会社法に基づく組織再編手法であり、以下の流れで手続きを進めます。
- 基本合意書を締結し、株式交換契約または株式移転計画を作成する
- 事前開示書類を本店に備え置く(株主総会日の2週間前等までに備置開始)
- 株主総会の特別決議によって承認を得る(出席株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要)
- 反対株主から株式買取請求があった場合に対応する
- 効力発生後、事後開示書類を本店に備え置く
なお、共同株式移転など一定規模以上の組み合わせでは、独占禁止法上の事前届出が必要となる場合があります。スケジュール策定の際は、公正取引委員会の審査期間も考慮する必要があります。
第三者割当増資の場合
第三者割当増資は、会社が特定の第三者に対して新株を発行する手法です。既存株式の売買とは異なり、会社が新たに株式を発行して資金調達を行う点に特徴があります。手続きの流れは以下のとおりです。
- 取締役会または株主総会において、新株の募集事項(発行株数・払込金額・割当先等)を決定する
- 上場企業の場合、既存株主に対して募集事項の通知・公告を行う
- 割当先への申込みの勧誘・申込み・割当決定を行う
- 割当先による払込みが履行される
- 株主名簿を更新し、資本金の変更登記を行う
なお、上場企業が第三者割当増資を行う場合は、証券取引所の規則に基づく開示・事前通知等の追加手続きが求められます。また、既存株主の議決権割合が希薄化するため、大規模な割当を行う場合には既存株主への丁寧な説明が重要です。
まとめ
株式取得は、株式譲渡・株式交換・株式移転・第三者割当増資などを通じて、対象会社への関与権限や支配権を取得する手法です。取得割合によって行使できる権利が変わるため、目的に合う水準と手法を整理する必要があります。許認可や契約関係を原則維持しやすい一方で、偶発債務やPMI不全のリスクもあるため、M&Aや事業承継で活用する際は、デューデリジェンスと取得後の統合まで見据えて検討することが重要です。法務・税務やM&A実務の判断を伴う場合は、専門家の支援を受けながら進めることも選択肢になります。
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よくある質問
- 株式取得とは何ですか?
- 株式取得とは、対象会社の株式を取得し、株主として経営への関与権限や支配権を得る手法です。M&Aでは、買収の代表的な方法の一つとして用いられます。
- 株式取得にはどのような方法がありますか?
- 主な方法は、既存株主から株式を取得する株式譲渡、完全親会社化に用いる株式交換、新設会社を完全親会社とする株式移転、特定の第三者が新株を引き受ける第三者割当増資です。
- 取得する株式の割合によって何が変わりますか?
- 議決権割合に応じて、株主総会で行使できる権利や経営への関与度が変わります。必要な定足数を満たすことを前提に、過半数では普通決議、3分の2以上では特別決議を単独で可決できる水準になります。
- 株式取得を実施する目的は何ですか?
- 自社株式の取得では、株主還元や資本効率の改善、報酬・M&A対価への活用、買収防衛への対応などが目的になります。他社株式の取得では、経営支配、事業・技術・人材の獲得、シナジー創出、事業承継の受け皿としての活用が主な目的です。
- 株式取得のメリットは何ですか?
- 主なメリットは3点です。①非上場企業の株式譲渡では手続きが比較的シンプルで時間・コストを抑えられること、②対象会社の法人格が存続するため許認可や契約関係を原則そのまま継続できること、③完全子会社化から少数持分の取得・段階的な追加取得まで、目的に応じた柔軟な関与の形を選択できることです。
- 株式取得のリスクやデメリットは何ですか?
- 主なデメリットは3点です。①対象会社に内在する簿外債務・訴訟リスク等を実質的に引き受けるリスクがあること、②特定の事業・資産のみを切り出して取得することができないこと、③取得後のPMIがうまく機能しない場合、期待したシナジー効果が得られないリスクがあることです。
- 株式取得の手続きはどのように進めますか?
- 手続きは手法によって異なります。非上場企業の株式譲渡では譲渡承認、条件交渉、株式譲渡契約、決済・株主名簿の書き換えを行います。株式交換・株式移転や第三者割当増資では、会社法上の承認・開示・登記などの手続きも確認します。
- 株式取得でTOB規制の確認が必要になるのはどのような場合ですか?
- 上場会社等の株式を一定規模以上取得する場合は、金融商品取引法上のTOB規制への対応が必要になることがあります。市場取引かどうか、取得割合、取得方法などによって判断が変わるため、事前確認が重要です。
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