非上場株式を譲渡する方法は? 手続きの流れや注意点を解説

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非上場株式の譲渡について

非上場株式の譲渡には上場株式とは異なる特有の手続きやリスクがあります。定款の譲渡制限や株価算定方法、税務上の扱いなど、慎重な対応が求められます。

本記事では、「M&AM&Aとは?|詳細記事へ」の基本的な理解を踏まえたうえで、非上場株式の譲渡方法や手続きの流れ、株価算定のポイントと税金の扱いまで詳しく解説します。


非上場株式の譲渡に関する基礎知識

近年、事業承継の手段として非上場株式の譲渡によるM&Aを実施する非上場企業が増加傾向にあります。その背景には、中小企業における後継者不足があり、従来は流通性を持たなかった非公開株式の取引に対する変容が見られます。ここでは、非上場株式の譲渡に関する基礎知識を解説しますので、M&Aの前提知識として理解しておきましょう。

非上場株式の譲渡は可能

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非上場企業が発行する株式(非上場株式)は証券取引所に上場していないため、譲渡できないと思われがちですが、基本的には、非上場株式でも譲渡は可能です。ただし、非上場株式は経営層や深い関係性を持つ企業や個人が所有することが多く、あえて流通性を持たせない目的で上場していない企業も少なくありません。そのため、譲渡に際しては、個人間取引を行わなければならず、非上場株式の所有者とのコネクションが重要となります。
また、定款に譲渡制限についての規定が設けられており、株式譲渡に際しては株主総会や取締役会などの承認が必要とされることも少なくありません。

非上場株式の譲渡の増加理由

近年、M&A市場においては非上場株式の譲渡による事業承継が増えてきています。その背景には、経営者の高齢化や承継者不足などによる経営課題や先行き不安があげられます。 日本の中小企業の約99%は非上場企業であり、不特定多数の第三者に株式を購入されるリスクが少ないことから、あえて非上場を選択してきた経営者も少なくありません。しかし、このような背景が深刻化するにつれて、事業の存続が危ぶまれることから、解決策としての非上場株式の譲渡によるM&Aが増加しているのです。

非上場株式の譲渡を行うメリット・デメリット

ここからは、非上場株式の譲渡を行うメリットとデメリットについて解説します。

非上場株式の譲渡を行うメリット

非上場株式の譲渡を行う代表的なメリットは以下の4点です。

  • 創業者利益を得られる
  • 資金調達に活用可能
  • 事業承継への道が開かれる
  • 節税効果を期待できる

創業者利益は、株式売却によって得られる利益であり、創業時の資本金との差額が該当します。非上場株式であっても譲渡により創業者利益を得ることが可能です。非上場株式は評価方法によっては一般的な株価よりも高い評価が付けられることもあり、多額の資金を獲得できる可能性もあります。
また、事業承継の手段として非上場株式を譲渡する方法もあります。全株式数の過半数を取得できれば譲受人は経営権を握れるため、後継者不足問題を解決でき、事業も存続できるのです。
さらに、相続に比べて株式譲渡のほうが節税効果が高くなることもメリットとしてあげられます。相続税は最大で55%もの税金が課せられる可能性がありますが、株式譲渡にかかる税率は、個人の場合は20.315%であるため、節税効果が見込めます。法人の場合は譲渡益×法人税率により計算されます。税率は企業規模や年間の法人所得などにより異なり、29~42%です。

非上場株式の譲渡を行うデメリット

一方、非上場株式の譲渡にはデメリットもあります。代表的なデメリットは次の3点です。

  • 債務だけでなく資産や債権すべてが承継対象となる
  • デューデリジェンスにおいてリスクを見落とす可能性がある
  • 譲渡にあたり買い手に不都合な情報が隠されるリスクが伴う

非上場株式の譲渡にあたっては、資産や負債に関わらず会社のすべてが承継対象となるため、特定の資産や権利を除外できません。特定の資産のみを残したい場合には、株式譲渡は向いていないといえるでしょう。株式譲渡に際してはデューデリジェンスを実施してリスクを洗い出しますが、簿外債務などは見落とされる可能性がある点にも留意が必要です。悪質な場合には、M&A成立を優先すべく、買い手にとって不都合な情報を売り手が隠すケースもあります。M&A契約の破棄や訴訟、損害賠償といったトラブルを回避するためにも、譲渡にあたっては正確な情報を提供することが重要です。

非上場株式を売却する際の手続き

非上場企業における株式譲渡の手続きに際しては、非上場であるがゆえの特性に留意が必要です。ここでは、一般的な売却手続きのやり方について以下のとおり解説します。

少数株主が持つ株式の集約

株式譲渡におけるM&Aでは、一般的に買い手は株式の100%の取得を目指すことになります。売り手企業において少数株主がいる場合、M&Aを円滑に進めるためには少数株主が保有する株式を事前に集約しておく必要があります。
集約に難航すれば、成約に至らずスケジュールが延びたり、株券紛失に起因するスキーム変更が生じたりする可能性があるため、計画的に集約させることが肝要です。

譲渡制限の有無を確認

続いて、定款にて株式の譲渡制限の有無を確認します。定款上に、「譲渡により株式を取得するには株主総会の承認を必要とする」旨の項目があるかどうかを確認しましょう。株式譲渡制限がある場合は、全部事項証明書に「株式の譲渡制限に関する規定」との項目が設けられ、制限に関する詳細が記載されています。併せて確認しておくと良いでしょう。

株式譲渡承認の請求

株式譲渡制限がある場合、株式譲渡承認と呼ばれる手続きを引き続き行います。非上場企業における株式譲渡では、売り手と買い手が共同して株式譲渡承認請求書を作成し、売り手企業に提出するのが通常です。なお、売り手企業が有限会社である場合には、譲渡制限がかかっているため、株式譲渡承認請求が必ず求められます。

株式譲渡承認請求書には、以下の内容を記載します。

  • 譲渡する株式の種類と数量
  • 売り手と買い手の住所、氏名(法人名)

株式譲渡制限がある場合、株式譲渡承認請求書は重要な書類となります。将来的なトラブルを避けるためにも、税理士やM&Aの専門家などからのアドバイスを得て作成すると良いでしょう。

株式譲渡を承認する決議

売り手企業は株式譲渡承認請求書を受け取った後、株主譲渡における承認決議を実施します。承認決議は基本的には、株主総会で行いますが、取締役会が設置されている非上場企業では、取締役会が決議を行います。ただし、取締役会が設置されていても株主総会での決議を否定するものではありません。
また、株主総会や取締役会を設置していない企業においては、代表取締役か代表執行役の承認が必要です。株式譲渡を承認する決議がされた場合、第三者に対する売却が可能となり、株式譲渡契約書を交わして、買い手は対価を支払います。
承認・不承認問わず、譲渡承認請求があった日から2週間以内に株主に通知しない場合は、譲渡を承認したものとみなされるため、売り手企業側は留意が必要です。なお、不承認決議の場合は、売り手企業自身もしくは指定買取人による買い取りが行われます。

名簿の名義書換

株式譲渡が実施された場合、株主名簿の名義書き換えを行います。多くの非上場企業では株券を発行せずに株主名簿で株主を管理しています。株主名簿の名義書換が完了すれば、譲受人は第三者に対しても対抗要件を満たせるため、株主たる地位を主張できるようになります。なお、株券発行会社では、株券を提示して譲受人が単独で名義書換請求を行えます。また、株券不発行会社の場合は、譲受人は会社に対して株主名簿記載事項の記載された書面を請求可能です。

非上場株式の譲渡の株価算定方法

株式譲渡では株価が大きな意味を持つため、その算定方法が重要です。一般的な非上場株式の価格の算定方法には、以下の3つの手法があります。

類似業種比準方式

類似業種比準方式とは、非上場会社の株式を類似業種の上場会社と比較して評価する方法です。一般的には、大企業における非上場株式の評価に用いられます。
類似業種比準方式を採用するメリットは、市場取引を反映でき信頼性が高い点、純資産価額方式と比較して相続税を抑えられる点があげられます。ただし、比較対象に非上場企業を選定した場合は信頼性が低くなるため、上場企業を適切に選定することが求められます。

純資産価額方式

純資産価額方式(純資産方式)とは、貸借対照表に掲載される資産と負債をもとに1株あたりの純資産額を算出する手法です。一般的に、中規模・小規模の非上場企業で用いられています。
純資産価額方式のメリットは、客観性に優れており信頼性が高い点、含み損益を考慮して価格を算定するため現実的な財務面を反映できる点にあります。
一方で、簿外資産など将来的な収益獲得力が反映されないため株価が低く見積もられる可能性がある点に留意が必要です。

配当還元方式

配当還元方式とは、一年間の配当金額を一定の利率で還元させて1株あたりの評価額を計算する手法です。同族株主以外が取得した非上場株式については配当還元方式を用いるケースが多くみられます。ただし、非上場企業や同族会社においては配当が十分にされない場合があるため、適正な株価評価が困難である点に注意しなければなりません。

非上場株式を譲渡したときの税金

非上場株式を譲渡する場合、譲渡益に対して税金がかかります。ここでは、法人が譲渡するケース、個人が譲渡するケースに分け、税務上それぞれに生じる税金について解説します。

法人が譲渡するケース

法人が株式を譲渡するケースでは、譲渡側に法人税等(法人税、事業税、住民税)が課せられます。なお、法人税は超過累進課税となっているため、譲渡以外の所得との兼ね合いで、譲渡金額と取得金額との差額に対して税金がかかる点に留意が必要です。法人税率は23.2%ですが、企業規模や所得によって軽減税率が適用される可能性があります。なお、株主が個人の場合、概算取得費として売却価格の5%を適用できますが、法人の場合は適用できない点に注意しましょう。

個人が譲渡するケース

非上場企業のほとんどは経営者が株式を保有しています。そのため、個人が株主となり譲渡するケースが多く、株式譲渡によって生じる譲渡所得に対して、所得税(15.315%)と住民税(5%)が課税されます。譲渡所得は株式の売却価格から譲渡費用と取得費を差し引いて計算されますが、非上場企業においては取得費が判明しないケースが少なくありません。そこで、売却価格の5%を概算取得費として扱い、計算することが可能です。

非上場会社の株式譲渡における注意点

非上場株式会社の株式譲渡においては、以下の2点に注意が必要です。

低額・無償での譲渡

低額(時価の2分の1未満)または無償で非上場株式を譲渡する場合、みなし譲渡所得やみなし贈与税の措置が取られる点に留意が必要です。 どのように課税されるかは売り手・買い手それぞれが個人・法人のどちらであるかによって異なります。

売り手と買い手が共に個人のケース
個人間譲渡において、売り手は譲渡金額で株式を譲渡したとして所得が計算され、たとえ時価の2分の1未満で譲渡が成立しても譲渡による損は無かったとみなされます。買い手に対しては、個別の事情を鑑みたうえで贈与税を検討する余地があります。
売り手が個人で買い手が法人のケース
譲渡金額が低額の場合、個人に対しては、みなし譲渡所得税が課されます。このとき、時価と取得金額との差額につき所得税等が課されます。買い手に対しては、時価と譲渡金額との差額を受贈益として課税されます。
売り手が法人で買い手が個人のケース
売り手が時価で譲渡したとされ、時価と取得金額との差額が譲渡所得として課税されます。一方で、買い手には時価と譲渡価格との差額に対して所得税が課されます。なお、買い手が売り手に対して雇用関係にある場合、給与所得に該当し、雇用関係が無い場合は一時所得として扱われる点に留意しなければなりません。
売り手と買い手が共に法人のケース
時価と取得金額との差額に対し、譲渡所得税が課されます。ただし、同差額は寄付金として損金不算入の取扱いとなります。また、買い手に対しては、差額は受贈益として課税対象になります。

時価より高い価格での譲渡

個人に対して株式を譲渡する際、譲渡価格が時価を上回る場合には、譲渡価格から時価を差し引いた金額に対して贈与税がかかります。また、時価から取得額を差し引いた金額に対して所得税がかかります。なお、譲渡が法人に対して行われる場合は、時価に対して譲渡価格が上回る金額に対して贈与税はかからず、給与所得や課税所得扱いとなる点に留意しましょう。

まとめ

非上場株式の譲渡は、事業承継や資金調達に有効な手段である一方、譲渡制限や税務対応といった特有の課題も伴います。適切な株価算定や承認手続きを踏まえ、透明性のある譲渡を行うことが重要です。複雑な判断が求められる場面では、外部の専門家の視点を取り入れることも、有力な選択肢のひとつです。

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よくある質問

  • 非上場株式の譲渡は誰でも可能ですか?
  • 基本的には可能ですが、定款で譲渡制限がある場合は株主総会や取締役会の承認が必要です。個人間の取引では所有者とのコネクションも重要です。
  • 株式譲渡承認請求とは何ですか?
  • 譲渡制限がある場合に、売り手と買い手が共同で作成し企業に提出する承認請求書で、譲渡の可否を決める手続きです。
  • 非上場株式の株価はどうやって算定しますか?
  • 類似業種比準方式、純資産価額方式、配当還元方式の3つが代表的です。企業規模や状況に応じ適切な方式を選びます。
  • 非上場株式を譲渡したときの税金はどのようになりますか?
  • 法人は法人税等が課され、個人は譲渡所得に対して所得税と住民税が課されます。取得費が不明な場合は売却価格の5%を概算取得費として計算可能です。
  • 低額譲渡や無償譲渡にはどんな注意点がありますか?
  • 時価の半額未満や無償譲渡はみなし譲渡所得やみなし贈与税の課税対象となる場合があり、売買双方の個人・法人の区分によって課税の扱いが異なります。

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