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DIPファイナンスについて
DIPファイナンスとは、民事再生法や会社更生法などの法的整理や私的整理を行う企業に対し、手続き終結までの間に提供される融資です。事業継続に必要な運転資金や設備投資、リストラ資金を確保する手段として用いられ、再生計画に基づくキャッシュフローで返済されるのが一般的です。
DIPファイナンスは、企業再生の場面で事業を継続するための資金をどう確保するかに関わる論点です。民事再生や会社更生を申し立てた企業は、新たな借り入れが難しくなりやすく、運転資金や再建資金を確保できなければ、再生計画の実行にも影響が及びます。一方で、融資を行う金融機関側には回収不能リスクもあるため、仕組みや弁済の扱いを整理しておく必要があります。
本記事では、DIPファイナンスの仕組みや注目される背景、民事再生との違い、メリット・デメリット、日本における現状と課題について解説します。
DIPファイナンスとは
DIPファイナンス(読み方:ディップファイナンス)とは、民事再生法や会社更生法などの法的整理や私的整理手続きを行う企業に対して、手続き終結までの期間に提供される融資のことです。
DIPは「Debtor In Possession」の頭文字をとった略称で、「継続して占有する債務者」という意味を持ちます。
DIPファイナンスで受けた融資は、再生計画に基づいたキャッシュフローで返済されるのが一般的です。
基本的な仕組み
DIPファイナンスの基本的な仕組みは、上図の通りです。
一般に、民事再生や会社更生の申し立てを行うと、新規の借り入れができなくなります。そのため、運転資金不足に陥り、結局は破産してしまうという事態を招きかねません。このような問題を解決するため、運転資金および手続き終結後のリストラや設備投資のための資金として、DIPファイナンスによる融資が実行されます。
なお、企業側にとってDIPファイナンスはメリットが顕著ですが、融資を行う金融機関側にはリスクが伴います。そこで、融資は共益債権として扱われ、申し立て以前に生じた債権よりも優先して弁済を受けることが可能です。
アーリーDIPとレイターDIP
DIPファイナンスは、性質上、アーリーDIPとレイターDIPの2種類の手法に分かれます。
アーリーDIPとは、民事再生手続きなどの申し立て直後から計画が認可されるまでの期間において、企業が運転資金を調達できずに事業の継続が難しい場合に、一時的な運転資金を融資する手法です。
レイターDIPとは、計画の認可決定後において、計画実行のために必要な資金を提供する手法です。具体的には、リストラ資金や中長期的に必要となる設備投資資金、別除権の取得費用に対する融資や、債権を組み換えて法的整理プロセスを早期に終結させるために行う融資(EXITファイナンス)などを含みます。
注目される背景
DIPファイナンスが注目されるのは、アメリカでは一定の実績がある手法だからです。
DIPファイナンスが登場した当初は高リスクな債権とみなされ、アメリカの金融機関において慎重な姿勢が見られました。ところが、1991年に連邦準備制度理事会などがDIPファイナンス債権を非分類としたことから、大手金融機関が参入する契機となりました。
アメリカでのDIPファイナンスには優先弁債権など債権者保護の仕組みが採用されており、経営破綻後も再建を目指す企業に対する運転資金の融資として実施されています。
日本の市場規模はアメリカに比べて小さいものの、昨今では大手金融機関がDIPファイナンスに注目し、積極的な姿勢を見せています。
DIPファイナンスと民事再生の違い
DIPファイナンスは、民事再生の申し立て後から手続き終結までの間に受けられる「融資」である一方、民事再生は「手続きそのもの」であることが相違点です。
そもそも民事再生とは、民事再生法に基づいて、負債問題に直面する債務者が負債を解決し再建するための手続きを指します。具体的な再生計画には、債務の縮小や自力で弁済するための方法、事業譲渡で受け取った譲渡金により債務弁済をするなど、多様な方法が盛り込まれます。
DIPファイナンスは、民事再生や会社更生の申し立て後から手続き終結までの期間において受ける融資を指すため、民事再生とは異なる点に留意が必要です。
DIPファイナンスのメリット・デメリット
DIPファイナンスのメリットは、融資を受けることにより得られる資金を企業再生と雇用維持に用いることができる点です。一方のデメリットは、金融機関が負うリスクの高さです。それぞれの内容を詳しく解説します。
メリット|企業の再生・雇用の維持
DIPファイナンスのメリットは、企業の危機を支援し、再生を促すことができる点です。
優れた収益性を持つにも関わらず、一時的な経営状態の悪化から倒産する企業は少なくありません。再生計画において経済的合理性を伝えることで、DIPファイナンスによる融資が受けられる可能性があります。
また、雇用やインフラの請負により、地域活性化に寄与する企業もあります。このような企業に対してDIPファイナンスを実行すれば、地域の雇用を維持できる可能性が高まるでしょう。
デメリット|金融機関側にあるリスク
DIPファイナンスのデメリットは、融資を提供する金融機関が高いリスクを負う点です。
民事再生を申し立てるということは、資金的に余裕が無いということであり、将来再び資金難に陥るリスクが否定できないため、融資の回収が困難となる恐れがあります。
また、再生計画が失敗した場合、貸し手である金融機関の企業価値を低下させる可能性がある点にも留意が必要です。企業再建に失敗したとしても経営者側のデメリットは少ないため、成功する可能性の低い再生計画書が提出され、承認される可能性も否定できません。この場合、融資した金融機関側は大きな損害を被ってしまいます。
DIPファイナンスを活用した再生
DIPファイナンスを活用した企業再生の流れと、活用事例について解説します。
企業再生の流れ
業績悪化による債務超過などの原因で、民事再生や会社更生の申し立てを行う企業に対して、既存取引のあった金融機関からの追加融資は当然ながら難しくなるのが一般的です。
そこで、DIPファイナンスを活用し、企業が保有する売掛債権など価値のある債権を担保として融資を実施します。企業はDIPファイナンスの融資により新たな資金を調達し、再建を図ります。
一方、債務整理を行うタイミングでは、100%減資により既存株式を無償で消却し、既存債権者の持つ債権の一部をカットします。さらに、新たな株主から出資を受け、その出資金やキャッシュフローを使ってDIPファイナンスの融資を返済するのが一連の流れです。
活用事例
日本におけるDIPファイナンスの活用事例として、株式会社埼玉りそな銀行による中堅アルミサッシメーカーの経営再建例があります。
当該アルミサッシメーカーは、創業約60年の歴史を誇る企業でしたが、バブル後の市場縮小と価格競争により収益性が悪化しました。この事態を打開しようと設備投資を行ったために負債額が過大になり、会社更生手続きを始めたのです。
そこで、埼玉りそな銀行では、アルミサッシメーカーの地域における経済合理性を考慮し、DIPファイナンスの実施を決め、約4ヶ月にわたり数千万円を融資するに至りました。同銀行では今後も、同様の支援を続ける方針を表明しています。
日本におけるDIPファイナンスの現状と課題
日本におけるDIPファイナンスの現状は、アメリカに比べて普及しておらず、今後のためにも法整備を行うことが課題となっています。
アメリカではDIPファイナンスが政府によって推奨されているため、金融機関側のサポート体制が整備されています。一方、日本の法制度では倒産企業の借り入れを促進する制度が十分ではないため、普及しづらいのが実情です。
民事再生法ではDIPファイナンスの融資は共益債権に属しますが、租税債権や労働債権に比べて弁済の優先順位が低く、金融機関においては積極的な提供が難しくなっています。
今後、日本においてDIPファイナンスを普及させるには、早急な法整備が求められます。また、株式会社商工組合中央金庫(商工中金)や株式会社日本政策金融公庫(日本公庫)によるDIPファイナンスの成功事例を積み上げ、民間金融機関のアレルギーを克服する必要もあるでしょう。
まとめ
DIPファイナンスは、民事再生や会社更生などの法的整理や私的整理を進める企業に対し、手続き終結までの期間に提供される融資です。運転資金や設備投資、リストラ資金を確保し、企業再生や雇用維持につなげられる点は大きなメリットです。一方で、金融機関側には融資回収が困難になるリスクがあり、日本では制度面や弁済順位の課題から普及が限定的です。DIPファイナンスや民事再生、会社更生を検討する際は、資金調達の仕組みと再生計画の実現可能性を整理し、必要に応じて専門的な支援を受けることが重要です。
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よくある質問
- DIPファイナンスとは何ですか?
- 民事再生法や会社更生法などの法的整理や私的整理を行う企業に対して、手続き終結までの期間に提供される融資のことです。
- DIPファイナンスの基本的な仕組みは何ですか?
- 民事再生や会社更生の申し立て後に新規借り入れが難しくなる企業に対し、運転資金やリストラ、設備投資のための資金を融資し、再生計画に基づいたキャッシュフローで返済する仕組みです。
- アーリーDIPとレイターDIPの違いは何ですか?
- アーリーDIPは申し立て直後から計画認可までの一時的な運転資金融資で、レイターDIPは計画認可後にリストラ資金や設備投資資金などを提供する融資です。
- DIPファイナンスと民事再生の違いは何ですか?
- DIPファイナンスは民事再生や会社更生の手続き中に受ける融資を指し、民事再生は負債問題を解決して再建を図るための手続きそのものを指します。
- DIPファイナンスのメリットは何ですか?
- 企業再生に必要な資金を確保しやすくなり、事業継続や雇用の維持、地域経済への影響の抑制につながる点です。
- DIPファイナンスのデメリットは何ですか?
- 融資を行う金融機関にとって回収不能リスクが高く、再生計画が失敗した場合には大きな損害を被る可能性がある点です。
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