DIPファイナンスとは? 背景や仕組み、メリット・デメリットをわかりやすく解説

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DIPファイナンスは、企業が民事再生や会社更生を行うなかで受けられる融資のことで、事業継続のための運転資金や設備投資、リストラの資金として重要な意義を有します。
本記事では、DIPファイナンスの仕組みや注目される背景、民事再生との違いの他、メリット・デメリットを紹介します。日本におけるDPIファイナンスの現状と課題、活用事例も解説しますので、ぜひ参考にしてください。

このページのポイント

~DIPファイナンスとは?~

DIPファイナンスは、企業が民事再生や会社更生を行うなかで受けられる融資のこと。DIPファイナンスで受けた融資は、再生計画に基づいたキャッシュフローで返済されるのが一般的である。

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1. DIPファイナンスとは

DIPファイナンス(読み方:ディップファイナンス)とは、民事再生法や会社更生法などの法的整理や私的整理手続きを行う企業に対して、手続き終結までの期間に提供される融資のことです。
DIPは「Debtor In Possession」の頭文字をとった略称で、「継続して占有する債務者」という意味を持ちます。
DIPファイナンスで受けた融資は、再生計画に基づいたキャッシュフローで返済されるのが一般的です。

1-1. 基本的な仕組み

DIPファイナンスの基本的な仕組み イメージ画像

DIPファイナンスの基本的な仕組みは、上図の通りです。
一般に、民事再生や会社更生の申し立てを行うと、新規の借り入れができなくなります。そのため、運転資金不足に陥り、結局は破産してしまうという事態を招きかねません。このような問題を解決するため、運転資金および手続き終結後のリストラや設備投資のための資金として、DIPファイナンスによる融資が実行されます。
なお、企業側にとってDIPファイナンスはメリットが顕著ですが、融資を行う金融機関側にはリスクが伴います。そこで、融資は共益債権として扱われ、申し立て以前に生じた債権よりも優先して弁済を受けることが可能です

1-2. アーリーDIPとレイターDIP

DIPファイナンスは、性質上、アーリーDIPとレイターDIPの2種類の手法に分かれます。
アーリーDIPとは、民事再生手続きなどの申し立て直後から計画が認可されるまでの期間において、企業が運転資金を調達できずに事業の継続が難しい場合に、一時的な運転資金を融資する手法です。
レイターDIPとは、計画の認可決定後において、計画実行のために必要な資金を提供する手法です。具体的には、リストラ資金や中長期的に必要となる設備投資資金、別除権の取得費用に対する融資や、債権を組み換えて法的整理プロセスを早期に終結させるために行う融資(EXITファイナンス)などを含みます。

1-3. 注目される背景

DIPファイナンスが注目されるのは、アメリカでは一定の実績がある手法だからです。
DIPファイナンスが登場した当初は高リスクな債権とみなされ、アメリカの金融機関において慎重な姿勢が見られました。ところが、1991年に連邦準備制度理事会などがDIPファイナンス債権を非分類としたことから、大手金融機関が参入する契機となりました。
アメリカでのDIPファイナンスには優先弁債権など債権者保護の仕組みが採用されており、経営破綻後も再建を目指す企業に対する運転資金の融資として実施されています。
日本の市場規模はアメリカに比べて小さいものの、昨今では大手金融機関がDIPファイナンスに注目し、積極的な姿勢を見せています

2. DIPファイナンスと民事再生の違い

DIPファイナンスは、民事再生の申し立て後から手続き終結までの間に受けられる「融資」である一方、民事再生は「手続きそのもの」であることが相違点です。
そもそも民事再生とは、民事再生法に基づいて、負債問題に直面する債務者が負債を解決し再建するための手続きを指します。具体的な再生計画には、債務の縮小や自力で弁済するための方法、事業譲渡で受け取った譲渡金により債務弁済をするなど、多様な方法が盛り込まれます。
DIPファイナンスは、民事再生や会社更生の申し立て後から手続き終結までの期間において受ける融資を指すため、民事再生とは異なる点に留意が必要です。

3. DIPファイナンスのメリット・デメリット

DIPファイナンスのメリットは、融資を受けることにより得られる資金を企業再生と雇用維持に用いることができる点です。一方のデメリットは、金融機関が負うリスクの高さです。それぞれの内容を詳しく解説します。

3-1. メリット|企業の再生・雇用の維持

DIPファイナンスのメリットは、企業の危機を支援し、再生を促すことができる点です。
優れた収益性を持つにも関わらず、一時的な経営状態の悪化から倒産する企業は少なくありません。再生計画において経済的合理性を伝えることで、DIPファイナンスによる融資が受けられる可能性があります
また、雇用やインフラの請負により、地域活性化に寄与する企業もあります。このような企業に対してDIPファイナンスを実行すれば、地域の雇用を維持できる可能性が高まるでしょう。

3-2. デメリット|金融機関側にあるリスク

DIPファイナンスのデメリットは、融資を提供する金融機関が高いリスクを負う点です。
民事再生を申し立てるということは、資金的に余裕が無いということであり、将来再び資金難に陥るリスクが否定できないため、融資の回収が困難となる恐れがあります
また、再生計画が失敗した場合、貸し手である金融機関の企業価値を低下させる可能性がある点にも留意が必要です。企業再建に失敗したとしても経営者側のデメリットは少ないため、成功する可能性の低い再生計画書が提出され、承認される可能性も否定できません。この場合、融資した金融機関側は大きな損害を被ってしまいます。

4. DIPファイナンスを活用した再生

DIPファイナンスを活用した企業再生の流れと、活用事例について解説します。

4-1. 企業再生の流れ

業績悪化による債務超過などの原因で、民事再生や会社更生の申し立てを行う企業に対して、既存取引のあった金融機関からの追加融資は当然ながら難しくなるのが一般的です。
そこで、DIPファイナンスを活用し、企業が保有する売掛債権など価値のある債権を担保として融資を実施します。企業はDIPファイナンスの融資により新たな資金を調達し、再建を図ります
一方、債務整理を行うタイミングでは、100%減資により既存株式を無償で消却し、既存債権者の持つ債権の一部をカットします。さらに、新たな株主から出資を受け、その出資金やキャッシュフローを使ってDIPファイナンスの融資を返済するのが一連の流れです。

4-2. 活用事例

日本におけるDIPファイナンスの活用事例として、株式会社埼玉りそな銀行による中堅アルミサッシメーカーの経営再建例があります。
当該アルミサッシメーカーは、創業約60年の歴史を誇る企業でしたが、バブル後の市場縮小と価格競争により収益性が悪化しました。この事態を打開しようと設備投資を行ったために負債額が過大になり、会社更生手続きを始めたのです。
そこで、埼玉りそな銀行では、アルミサッシメーカーの地域における経済合理性を考慮し、DIPファイナンスの実施を決め、約4ヶ月にわたり数千万円を融資するに至りました。同銀行では今後も、同様の支援を続ける方針を表明しています。

5. 日本におけるDIPファイナンスの現状と課題

日本におけるDIPファイナンスの現状は、アメリカに比べて普及しておらず、今後のためにも法整備を行うことが課題となっています。
アメリカではDIPファイナンスが政府によって推奨されているため、金融機関側のサポート体制が整備されています。一方、日本の法制度では倒産企業の借り入れを促進する制度が十分ではないため、普及しづらいのが実情です。
民事再生法ではDIPファイナンスの融資は共益債権に属しますが、租税債権や労働債権に比べて弁済の優先順位が低く、金融機関においては積極的な提供が難しくなっています。
今後、日本においてDIPファイナンスを普及させるには、早急な法整備が求められます。また、株式会社商工組合中央金庫(商工中金)や株式会社日本政策金融公庫(日本公庫)によるDIPファイナンスの成功事例を積み上げ、民間金融機関のアレルギーを克服する必要もあるでしょう。

6. まとめ

DIPファイナンスは、民事再生や会社更生などの法的整理や私的整理を進める企業に対し、手続き終結までの期間に限り提供される融資のことです。
日本においては、金融機関のサポート体制が整っていないほか、融資の回収が困難となる恐れがある点で高リスクのため、普及していないのが実情です。他方で、企業側としては、融資を受けることにより運転資金を調達でき、企業再生を促進できるなどのメリットがあります。
弊社M&Aキャピタルパートナーズのグループ会社である「みらいエフピー株式会社」では、ファイナンシャル・アドバイザリー・サービスを提供しています。DIPファイナンスをはじめ、民事再生や会社更生に関するお悩みは、お気軽にご相談ください。

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よくある質問

  • DIPファイナンスはどのような時期に行われるか?
  • DIPファイナンスが行われる時期は、手法によって異なります。手続きの申し立てから計画の認可決定までの期間において行われるのがアーリーDIPで、計画認可決定後、終結までの期間に行われるのがレイターDIPです。
  • DIPファイナンスの融資期間はどのくらいか?
  • DIPファイナンスの融資期間は、規模や提供する金融機関によって異なります。一般的には、運転資金は5~7年、設備投資資金に関しては10~15年以内となっています。
  • DIPファイナンスの重要性は?
  • DIPファイナンスの重要性は高くなっています。民事再生や会社更生の申し立てを行う企業にとって、DIPファイナンスによる融資は、運転資金を確保するための数少ない手段です。リストラ資金や設備投資の資金としても、重要性は増しています。
  • DIPファイナンスの日本での事例は?
  • DIPファイナンスの日本での事例は少ないですが、代表的なものとして、埼玉りそな銀行によるアルミサッシメーカーへの融資がしばしば紹介されます。設備投資などが原因で負債額が過大となり、会社更生手続きを申し立てた同社に対し、DIPファイナンスとして約4ヶ月で数千万円の融資が実行されました。

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監修者プロフィール
M&Aキャピタルパートナーズ株式会社コーポレートアドバイザリー部 部長公認会計士梶 博義
M&Aキャピタルパートナーズ株式会社 コーポレートアドバイザリー部 部長
公認会計士梶 博義

大手監査法人、事業承継コンサルティング会社を経て、2015年に当社へ入社。
これまで、監査、IPO支援、財務DD、親族承継・役職員承継コンサル等を経験し、当社入社後はM&Aアドバイザーとして活躍。一貫して中小企業の支援に従事し、M&Aのみならず、事業承継全般を得意とする。

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