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TOBの規制について
TOBの規制とは、株式公開買付けによって会社支配権に大きな影響を及ぼす株式取得が行われる際に、透明性と公正性を確保するためのルールです。一定規模以上の株券等を取得する場合、買付期間や買付価格などの条件を事前に開示し、株主に公平な取引機会を与えることが求められます。5%ルール、30%ルール、特別関係者の合算などが主な論点です。
TOB(Take Over Bid:株式公開買付け)は、一定規模の株券等を取得する際に用いられる重要な手法ですが、会社支配権に大きな影響を与える以上、自由に行えるわけではありません。特定の株主だけが有利な条件で売却し、他の株主が不利益を受ける事態を防ぐためには、買付条件を事前に開示し、公平な取引機会を確保する必要があります。さらに、形式的な持株分散による規制逃れを防ぐため、特別関係者の考え方も設けられています。
本記事では、TOBに設定された規制がなぜ必要なのかを整理したうえで、2026年5月1日に施行された改正を含む主なルールや、海外のTOB規制について解説します。
※なお、本記事の情報は2026年5月時点での情報です。あらかじめご了承ください。今後、法令改正等により内容が変わる可能性がありますので、個別の判断にあたっては最新情報および各種専門家へご確認ください。
また、M&Aの意味や基本知識、TOB自体について詳しく知りたい方は、以下の記事もあわせてご覧ください。
TOBの規制とは
はじめに、TOBの規制とはどのようなものかについて明らかにしたうえで、規制の対象となる「特別関係者」の概念を解説します。
義務的公開買付の必要性
義務的公開買付とは、一定規模の株式等の買取を行うにあたり、法律によりTOBの実行が義務付けられていることをいいます。 (金融商品取引法 第27条の2)
この義務的公開買付は、会社支配権等に大きな影響を及ぼすような、証券取引の透明性や公正性を確保する目的で制定されたものです。
TOBは、一部の株主から大量の株式を買い付ける行為ですが、これをもし非公開で行ったらどうなるでしょうか。一部の株主が大きな利益を得る一方で、株価の変動などにより、不利益を被る株主も多数発生してしまいます。
これでは株式の公正な取引が阻害されてしまうため、株主に公平な取引機会を設ける目的で制定されたのが、義務的公開買付です。なお、TOBのルールには後述する規制がありますが、それらに違反した場合は、刑事責任や課徴金などの対象となってしまうため、十分な注意が必要です。
特別関係者の概念について
TOBは、株式の買付者が一定割合を超える場合に求められるものです。しかし、法人をいくつも設立し、形式上の持株数を減らしてしまえば、TOBを行う必要はなくなってしまいます。
そこで、「特別関係者」という概念を設け、以下の実質基準と形式基準の2種類の基準によってTOBが形骸化されないための対策が講じられています。
実質基準
実質基準とは、表面上は同一の買付者ではないものの、実際には買付者との間で共同して対象株券等の取得・譲渡、議決権その他権利の行使、買付後に相互の株券等の譲渡・譲受を合意している者を「特別関係者」と規定する基準のことです。 (金融商品取引法第27条の2第7項 2号)
形式的には別人同士であっても、あらかじめ買付後の譲受などにお互いが合意している場合は、買付人および特別関係者の株券等所有割合が合算されます。
したがって、買付人の保有割合が後述するTOBの水準に満たない場合でも、実質基準による特別関係者に該当する際は、特別関係者の持つ株式を合算し、改めて保有割合を計算しなければなりません。
形式基準(2026年5月改正で見直し)
形式基準とは、株券等の買付者と、株式の所有を巡る関係や血縁の関係にある人物を「特別関係者」と規定する基準のことです。 (金融商品取引法 第27条の2第7項1号)
2026年5月1日施行の改正前は、買付者が個人の場合に配偶者および1親等以内の親族が形式的特別関係者として自動的に合算対象とされていました。この場合、親族からの株式取得はTOBなしで行えるという扱いとなっていました。
改正後は、配偶者・1親等内の血族・姻族等の「親族」が形式的特別関係者から除外されました。そのため、改正後は親族間取引であっても当然にTOBが不要とはならなくなりましたが、一定の要件(買付者と共同して議決権行使することに合意していること等)を満たす親族間取引については、別途設けられた適用除外規定により引き続きTOBが不要とされます。
買付者が法人の場合は、役員や当該法人と特別資本関係にある個人・法人などが引き続き特別関係者として扱われます。
TOBの規制に関する主なルール
TOBの規制に関しては、複数の重要なルールが設けられています。2026年5月1日の改正を踏まえ、以下のとおり整理します。
それぞれについて順に解説します。
5%ルール
TOBの規制に該当する1つ目のルールが、いわゆる「5%ルール」です。60日間で10名を超える株主からの市場外取引による買付けを行い、買付後に保有する株式等の割合が発行株式全体の5%を超える場合には、公開買付を実施する義務が設けられています。 (金融商品取引法第27条の2第1項各号)
このルールの要件を整理すると、以下の4点を同時に満たした場合にTOBの実施義務が発生します。
- 60日以内の取得であること
- 買付け相手が10名超であること
- 取引が市場外(相対取引等)であること
- 取得後の保有割合が5%超となること
例えば、市場外で少数の株主から小口ずつ買い集めるケースも、60日以内に10名超から取得し5%超となれば対象となります。
なお、5%を超えて保有した場合には、TOB規制とは別に、大量保有報告書の提出義務(金融商品取引法第27条の23)が独立して生じます。両者は根拠条文も提出期限も異なる別制度であるため、それぞれの要否を個別に確認することが必要です。
5%ルール自体については、2026年5月1日の今回の改正による実質的な変更はありません。
ただし一点、第一種金融商品取引業者が顧客の売買を仲介する目的で行う一定の買付け等(単元未満株式の買付けの取次ぎなど)が、5%ルールの適用除外として明確に規定されました。これは日常の営業活動として反復継続的に株式売買を行う証券会社等への過剰な規制を是正するための改正です。
30%ルール(旧1/3ルール)
TOBの規制に該当する最重要ルールが、2026年5月1日施行の改正により「1/3ルール(3分の1ルール)」から「30%ルール」へと変更されたものです。以下の表では、改正前後で何が変わったのかを整理しています。特に重要なのは、閾値が約33.3%から30%に引き下げられた点と、市場内取引(立会内)が新たに規制対象に加わった点です。
| 比較項目 | 改正前(旧:1/3ルール) | 改正後(新:30%ルール) |
|---|---|---|
| 閾値 | 1/3超(約33.3%超) | 30%超 |
| 対象取引 | 市場外取引+市場内立会外取引 (ToSTNeT等) |
市場外取引+市場内取引全般 (立会内を含む) |
| 急速買付けルール | 3か月以内の急速取得に追加規制 | 廃止 |
| 施行日 | ~2026年4月30日 | 2026年5月1日~ |
従来の1/3ルールでは、主に市場外取引および市場内立会外取引(ToSTNeTなど)が規制対象でした。しかし改正後は、市場内取引(立会内)についても義務的公開買付の対象となりました。これにより、株式市場での通常の買付けを通じた大量取得についても、所有割合が30%を超える場合は原則としてTOBが義務付けられます。
実務への影響を端的に言えば、「これまで約33.3%を超えて初めて問題になっていたTOB規制が、30%超の段階で問題になる」ということです。例えば、上場会社の株式を25%保有している買い手が追加で10%を取得しようとする場合、取得後の所有割合は35%になります。この場合、30%を超えるため、原則としてTOBの要否を検討する必要があります。つまり、以前より早い段階でTOBを検討することが求められるようになりました。
閾値引き下げ(33.3%→30%)の背景には、諸外国の制度水準や我が国の上場会社における議決権行使割合の実情を踏まえ、30%を超えれば実質的に経営に大きな影響力を持つとの判断があります。
急速買付けルールの廃止
改正前には、「急速買付けルール」と呼ばれる規制が存在していました。これは、3か月以内に10%を超える株券等を取得し、うち市場外取引や特定売買(立会外取引)の合計が5%を超えており、かつ株式の保有割合が1/3を超えた場合に、TOBを義務付けるものでした。
2026年5月1日の改正により、この急速買付けルールは廃止されました。その理由は、新たに30%ルールが市場内取引(立会内)を含む幅広い取引を対象とすることになったため、急速買付けルールが担っていた役割が新ルールにより包摂されたからです。
ただし、市場外取引とその後の公開買付けが「一連の取引」と評価される可能性、あるいは新株発行等による取得の合意が株券等所有割合の算定で合算されるケースには引き続き留意が必要です。
その他のルール
5%ルールや30%ルール(旧1/3ルール)に抵触する場合以外にも、ルールは存在します。他の買付者がTOBによる公開買付を行っている期間中に、保有割合が30%を超えている株主が新たに一定程度の株式等を買い増しする場合にも、公開買付の要否を検討する必要があります。
また、企業グループ内で株式の移転や新株予約権を行使する場合などは、適用除外となっています。
なお、TOBの手続に関しては、公開買付届出書の提出、公開買付期間の設定(20営業日以上40営業日以内が原則)、買付価格の均一性、全部勧誘義務などのルールがあります。2026年5月1日の改正では、一定の条件を満たした場合に当局(金融庁)の承認を得ることで、これらの一部規制について個別に免除を受けられる制度が新設されました。
2026年5月1日施行のTOB制度改正の概要
ここでは、2026年5月1日から施行されたTOB制度改正の全体像を改めて整理します。今回の改正は、2006年の金融商品取引法成立以来約20年ぶりとなる本格的な制度改革です。そこで、主に以下の内容について、解説します。
改正の背景と立法経緯
日本の公開買付制度は1971年に導入され、その後の市場環境の変化を踏まえて改正されてきました。しかし、2006年に金融商品取引法が成立して以降、公開買付制度に関する大きな改正は行われていませんでした。
近年、市場内取引(立会内)を通じた短期間での大量株式取得をめぐり、一般株主保護の観点から制度の見直しを求める声が高まりました。金融庁は2023年に「公開買付制度・大量保有報告制度等ワーキング・グループ」(WG)を設置して検討を進め、2023年12月25日にWG報告が公表されました。
これを受けて、2024年5月15日に「金融商品取引法及び投資信託及び投資法人に関する法律の一部を改正する法律」(令和6年法律第32号)が成立し、同年5月22日に公布されました。その後、2025年7月4日に関連する政令・内閣府令が公布され、2026年5月1日に施行されています。
主な改正事項
2026年5月1日施行の主な改正事項は、以下のとおりです。
- ① 閾値の引き下げ
- 1/3ルール(約33.3%)から30%ルールへ変更(金商法第27条の2第1項第1号)
- ② 適用対象の拡大
- 市場外取引・立会外取引に加え、市場内取引(立会内)も規制対象になった(同上)
- ③ 急速買付けルールの廃止
- 旧来の急速な買付け等に関する強制規制を廃止
- ④ 形式的特別関係者の見直し
- 配偶者・1親等内親族等を形式的特別関係者から除外(別途適用除外規定あり)
- ⑤ 僅少買付けの例外新設
- 既に30%超保有者による極めて少量の追加取得を適用除外に(前6か月未取得かつ0.5%未満増加)
- ⑥ 並行買付け制度の創設
- 非公開化TOBと同時に、特定大株主から低価格で相対取得を可能に
- ⑦ 公開買付手続の柔軟化
- 当局承認により公開買付期間・撤回規制・全部勧誘義務等の個別免除が可能になった
- ⑧ 50%超・2/3未満の適用除外を廃止
- この範囲の追加取得も原則TOB義務対象になった
② ③ については前述の30%ルールのセクションで詳述しています。また、以下では、M&Aの実務に関わりが深い⑥の並行買付け制度の創設と⑦の公開買付手続の柔軟化について補足します。
並行買付け制度の創設
改正前は、非公開化を目的とするTOBと並行して特定の大株主から低価格で株式を取得したい場合、時期をずらして2回TOBを実施する「二段階公開買付け」が必要でした。今回の改正で「並行買付け」制度が新設され(改正後の金商法施行令第7条第1項第13号)、一定の開示要件を満たせば、TOBと同時に特定大株主から公開買付価格を下回る価格での相対取得が可能となりました。手続コストの削減が期待できる改正です。
公開買付手続の柔軟化
個別事案ごとに金融庁の承認を得た場合、公開買付期間に関する規制、公開買付けの撤回に関する規制及び全部勧誘義務(公開買付後に2/3以上となる場合の義務)について、それぞれ個別の免除が認められるようになりました。複雑なスキームを伴うM&A案件での活用が想定されます。
なお、2026年5月1日以降に開始される公開買付けから新制度が適用されますが、既に進行中の案件については経過措置の確認が必要です。スキーム設計の初期段階から弁護士、公認会計士、税理士、M&Aの専門家などの各種専門家に確認しておくことが重要といえます。
海外のTOB規制
次に、海外のTOB規制について、アメリカとヨーロッパを例に、それぞれどのような規制が設けられているのかを解説します。
アメリカにおける規制・ルール
アメリカにおけるTOBに関するルールは、主に米国証券取引法(ウイリアムズ法)において定められています。
日本の5%ルールに類似した「5%超取得時の開示義務」はありますが、日本の30%ルール(旧1/3ルール)に相当する義務的公開買付規制はありません。また、買付価格の下限に関する規制はなく、公開買付期間の延長は幅広く認められています。一度公表したTOBの撤回が認められているなどの特徴があり、日本よりも柔軟な制度設計となっています。
なお、連邦法のほかに、デラウェア州など各州の会社法にも規律があり、クロスボーダーのM&Aでは両方への対応が求められます。
ヨーロッパにおける規制・ルール
ヨーロッパにおけるM&AのルールであるEU企業買収指令は、イギリスの法律がベースとなっており、日本の30%ルール(旧1/3ルール)に類似したルール(強制公開買付義務)が存在します。ただし、基本的に義務的公開買付と全部買付義務がある点などは、日本のTOB規制とは異なります。
ヨーロッパ各国の規制・ルールは、EU企業買収指令に基づき定められる面があるものの、各国ごとにも規律が設けられています。イギリスにおいては、株式を現金で買い付ける場合は、資金調達に問題がないことをファイナンシャルアドバイザーに証明してもらわなければなりません。また、株主の承認がある場合を除き、敵対的TOBに対して買収防衛策が打てないなどのルールも定められています。
なお、2016年のBrexitによりイギリスはEUを離脱しましたが、買収規制の実体的なルールについては現在も概ね英国テイクオーバーパネルの規則に基づく枠組みが維持されています。
まとめ
今回は、TOBの規制について解説しました。
TOBの規制は、株式公開買付けを通じた大量取得が市場や株主に与える影響を踏まえ、透明性と公正性を確保するために設けられています。2026年5月1日施行の金融商品取引法改正により、約20年ぶりの本格的な制度改革が実施されました。旧「1/3ルール」は「30%ルール」に変更され、市場内取引(立会内)も規制対象に加わりました。急速買付けルールの廃止、僅少買付けの例外新設、形式的特別関係者の見直し、並行買付け制度の創設など、多岐にわたる改正がなされています。
実務上は、義務的公開買付の要否だけでなく、特別関係者に該当するかどうか、適用除外に該当するかどうかを慎重に見極める必要があります。さらに、海外ではアメリカやヨーロッパで異なる制度設計が採られており、クロスボーダー取引では各国規制への対応も求められます。TOB規制は非常に複雑であるため、実際に株式取得を進める際には、法務やM&Aの専門家と連携しながら対応することが重要といえます。
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よくある質問
- TOBの規制とは何ですか?
- TOBの規制とは、株式公開買付けによって会社支配権に大きな影響を及ぼす株式取得が行われる際に、透明性と公正性を確保するためのルールです。一定規模以上の株券等を取得する場合には、買付条件を開示したうえで公開買付けを行う必要があります。
- 義務的公開買付はなぜ必要ですか?
- 義務的公開買付は、一部の株主だけが有利な条件で売却し、他の株主が不利益を受ける事態を防ぐために設けられています。買付条件を事前に開示し、株主に公平な取引機会を確保することが目的です。
- 5%ルールとは何ですか?
- 5%ルールとは、60日以内に10名を超える株主から市場外取引で買付けを行い、取得後の保有割合が5%を超える場合に、公開買付けが必要となるルールです。大量保有報告書の提出義務とは別制度として確認が必要です。
- 30%ルール(旧1/3ルール)とは何ですか?
- 市場外取引や市場内取引等によって株券等所有割合(買付者と特別関係者の合計)が30%を超える場合に、公開買付けが義務付けられるルールです(金融商品取引法第27条の2第1項)。2026年5月1日の改正前は閾値が「1/3(約33.3%)超」でしたが、改正後は「30%超」に引き下げられています。また、改正後は市場内取引(立会内)も規制対象に加わり、市場での通常の株式取引を通じた大量取得についても、所有割合が30%を超える場合は原則としてTOBが義務付けられます。
- 2026年5月1日のTOB改正で何が変わりましたか?
- 大きく3点が変わりました。まず、TOBが義務付けられる閾値が「33.3%超」から「30%超」に引き下げられ、以前より早い段階でTOBの検討が必要になりました。次に、市場内取引(通常の株式市場での売買)も規制対象に加わり、市場経由での大量取得にも同様のルールが適用されます。また、急速買付けルールの廃止や並行買付け制度の創設など、実務的な手続面の整理・合理化も図られました。いずれも2026年5月1日以降に開始される公開買付けから適用されます。
- 特別関係者に注意すべき理由は何ですか?
- TOBの規制は、買付者「個人・1社」だけでなく、その特別関係者の保有株式と合算した保有割合を基準に適用されます。特別関係者の判断を誤ると、規制の閾値(5%ルールや30%ルール)に抵触しているにもかかわらずTOBを実施しないという規制違反が生じるリスクがあります。2026年5月1日の改正で形式的特別関係者の範囲が見直されましたが、実質基準による特別関係者の範囲は変わっておらず、実務上の確認が欠かせません。
- TOB規制に違反するとどうなりますか?
- TOB規制に違反した場合、刑事責任や課徴金などの対象となる可能性があります。義務的公開買付の要否、特別関係者への該当性、適用除外の有無を事前に確認することが重要です。
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