事業譲渡とは? 株式譲渡・会社分割との違い、手続きの流れや税金をわかりやすく解説

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事業譲渡について

事業譲渡とは、会社が営む事業の全部または一部を選択して他社へ移転する取引であり、資産や負債、契約、従業員などを個別に承継させるM&Aスキームです。株式譲渡のように経営権を丸ごと移すのではなく、必要な事業だけを切り出せるため、経営資源の集中やカーブアウト、中小企業の事業承継などで広く利用されています。一方で、多数の契約変更や許認可手続き、税負担への対応が求められるため、法務・税務・会計の観点を踏まえた慎重な設計が重要になります。

事業譲渡は、特定の事業だけを切り出して移転できる一方、会社そのものを移転する株式譲渡や、権利義務を包括的に承継する会社分割とは仕組みが異なります。そのため、移転したい範囲や承継に必要な手続き、対価の帰属などを踏まえて、目的に適した手法を検討することが重要です。
そこで本記事では、主に事業譲渡の概要、株式譲渡・会社分割との違いと選び方、承継の範囲、手続きの流れ、価格の算定方法、税金などについてわかりやすく解説します。

監修者情報

M&Aキャピタルパートナーズ株式会社 執行役員 コーポレートアドバイザリー部長 公認会計士 梶 博義

大手監査法人、事業承継コンサルティング会社を経て、2015年に当社へ入社。 これまで、監査、IPO支援、財務DD、親族承継・役職員承継コンサル等を経験し、当社入社後はM&Aアドバイザーとして活躍。一貫して中小企業の支援に従事し、M&Aのみならず、事業承継全般を得意とする。


事業譲渡・株式譲渡・会社分割のどれを選ぶべきか

事業の移転を伴うM&A手法には、事業譲渡のほかに株式譲渡と会社分割があります。それぞれ移転する対象や手続きが異なるため、目的に応じた使い分けが必要です。

3手法の主な違いを表にまとめると、以下のとおりです。

比較項目 事業譲渡 株式譲渡 会社分割
移転する対象 事業(資産・負債・契約等) 会社の株式 事業に関する権利義務
法人格・経営権の扱い 移転しない 会社ごと経営権が移転する 法人格は移転しない
承継の方法 個別承継 株式の移転により会社ごと移る 包括承継
対価を受け取る者 譲渡会社(売り手企業) 譲渡した株主 原則として分割会社
資産・負債の選別 対象を自由に選べる 選別できない 分割契約等で定めた範囲
契約・従業員の扱い 個別の承諾等が必要 原則として影響なし 原則として承継される
許認可の扱い 原則として再取得が必要(業種により承継制度あり) 原則として維持される 許認可ごとに異なる(承継可能なものもある)
主な税務上の特徴 譲渡益に法人税等、課税資産に消費税 株主に譲渡所得課税 適格要件を満たせば課税の繰延べ
主に適するケース 一部の事業だけを移転したい 会社全体をそのまま譲渡したい 権利義務を包括的に移したい

それぞれについて、詳しく説明していきます。

株式譲渡との違い

株式譲渡は、対象会社の株主が保有する株式を買い手に譲渡することで、会社の経営権を移転させる手法です。会社そのものが買い手のもとに移るため、資産・負債・契約・従業員・許認可は、原則としてそのまま維持されます。手続きが簡便であり、中小企業のM&Aでは最も多く用いられています。

これに対して事業譲渡は、会社ではなく事業を移転します。譲渡する対象を選べる一方で、承継はすべて個別に行う必要があります。また、対価を受け取るのは会社であり、株主が直接受け取るわけではありません。オーナー経営者が個人として売却代金を得ることを重視する場合には、この違いが判断の分かれ目となります。

会社分割との違い

会社分割は、会社が営む事業に関する権利義務の全部または一部を、他の会社に承継させる組織再編手法です。既存の会社に承継させる吸収分割と、新設した会社に承継させる新設分割があります。

事業譲渡との最大の違いは、承継の方法にあります。会社分割では、分割契約または分割計画で定めた権利義務が包括的に承継されるため、契約の相手方から個別に同意を得る必要が原則としてありません。従業員についても、労働契約承継法に定める手続きを経ることで、雇用関係が承継されます。

一方で、会社分割では会社法上の手続きや債権者保護手続に一定の期間を要します。もっとも、事業譲渡も個別承継に時間を要するため、所要期間は案件ごとに異なります。

3つの手法を選ぶ際の判断基準

手法の選択にあたっては、以下の観点から検討することが一般的です。

移転したい範囲
会社全体か、特定の事業のみか
承継の負担
契約や従業員の個別対応を許容できるか
対価の帰属
会社が受け取るか、株主が受け取るか
簿外債務・偶発債務のリスク
買い手が引き継ぐ範囲を限定したいか
許認可の維持
事業の継続に不可欠な許認可があるか
税務上の影響
譲渡益課税、消費税、課税の繰延べの可否

例えば、会社全体をそのまま譲渡し、オーナーが売却代金を受け取りたい場合には株式譲渡が適しています。一方、複数事業のうち非中核事業のみを切り離したい場合には、事業譲渡または会社分割が候補となり、契約や従業員の個別同意の負担を避けたいのであれば会社分割が有力な選択肢となります。

いずれの手法が適するかは、目的、対象事業の内容、契約関係、許認可、税務上の影響によって異なります。手法の選定にあたっては、弁護士、公認会計士、税理士、M&Aの専門家等への相談をお勧めします。

事業譲渡が向いているケース・向いていないケース

ここでは、どのような目的・状況において事業譲渡が選択肢となるのかを整理します。

事業譲渡が向いているケース

事業譲渡が適しているのは、主に以下のようなケースです。

一部の事業だけを譲渡したい
複数の事業を営んでいる会社が、そのうちの一部だけを切り出して譲渡したい場合に適しています。譲渡する範囲を契約で自由に設計できるためです。
会社や他の事業を残したい
売り手企業は法人格を維持し、譲渡しなかった事業を継続することができます。経営者が引き続き会社を経営したい場合に選択されます。
非中核事業や不採算事業を切り離したい
経営資源を中核事業に集中させるため、ノンコア事業や採算の合わない事業を譲渡する場面で用いられます。
買い手が特定の事業だけを取得したい
買い手にとって必要な事業のみを取得できるため、不要な資産や事業を引き受けずに済みます。
投資額や承継対象を限定したい
買い手は、承継する資産・負債の範囲を契約で限定できるため、簿外債務や偶発債務を引き継ぐリスクを抑えやすくなります

他の手法も検討すべきケース

一方、以下のようなケースでは、株式譲渡や会社分割の方が適している可能性があります。

会社全体をそのまま譲渡したい
会社の全事業を移転する場合、個別承継の手続きが膨大になります。株式譲渡であれば、株式の移転によって会社ごと引き継ぐことができます。
契約や雇用関係を維持したい
事業譲渡では、取引先との契約は相手方の同意が必要となり、従業員の労働契約を譲受会社へ承継するには、譲渡会社・譲受会社間の合意に加えて、従業員本人の個別の承諾が必要です。これらの関係をそのまま維持したい場合には、株式譲渡または会社分割が適しています。
個別承継の負担を避けたい
承継対象が多岐にわたる場合、個別の同意取得や名義変更に多大な工数を要します。取引先が多数に及ぶケースでは、同意を得るまでに相当の期間を要し、クロージングの時期が読みにくくなることもあるため、株式譲渡や会社分割の方が円滑に進む場合があります。
権利義務を包括的に承継させたい
権利義務の包括承継を希望する場合には、会社分割が適しています。会社分割では、分割契約または分割計画で定めた権利義務が包括的に承継されるため、契約の相手方から個別に同意を得る必要が原則としてありません。
対価を株主が直接受け取ることを重視する
事業譲渡の対価は会社に帰属します。オーナー個人が直接資金を得たい場合には、株式譲渡が適しています。事業譲渡の場合、会社から個人へ資金を移すには配当や役員退職金といった別途の手続きが必要となり、その際に追加の税負担が生じます。

事業譲渡では何が引き継がれるのか

事業譲渡は個別承継であるため、承継の対象ごとに必要な対応が異なります。主な対象と対応は以下のとおりです。

承継の対象 自動的に
承継されるか
主に必要となる対応 主な注意点
不動産・設備・在庫等の資産 されない 譲渡対象として個別に特定し、引渡し・登記等を行う 不動産は登記が必要。取得に伴う税負担が生じる
売掛金等の債権 されない 債権譲渡と、債務者への通知または承諾 対抗要件を備える必要がある
借入金・買掛金等の債務 されない 債権者の同意による債務引受 債権者の同意がなければ売り手に残る
取引先との契約 されない 相手方の同意を得て契約上の地位を移転、または再契約 同意が得られない場合、取引が継続しない可能性がある
従業員 されない 譲渡会社・譲受会社間の合意に加え、従業員本人の個別の承諾を得て、労働契約上の地位を譲受会社へ承継する 同意しない従業員は転籍しない
許認可 原則としてされない 買い手が新たに取得。業種によっては承継の制度がある 取得までに期間を要し、事業開始時期に影響する
知的財産権 されない 譲渡契約と、特許庁への移転登録等 登録が必要な権利は手続きを失念しないよう注意
ブランド・屋号 されない 商号・商標の使用について契約で定める 商号を続用する場合、旧債務に関する責任が生じ得る
ノウハウ・顧客情報 されない 引継ぎの範囲と方法を契約で明確化 個人情報を含む場合は個人情報保護法上の対応が必要

特に実務上の負担が大きいのは、契約・従業員・許認可の3点です。

契約については、契約上の地位の移転に相手方の同意が必要となるのが原則です。主要な取引先が同意しない場合、譲渡後の事業の収益力に直接影響するため、事前の見極めが重要となります。確認すべき条項としては、契約上の地位の譲渡禁止条項、地位移転に関する事前承諾条項、解除・解約条項等が中心となります。取引の前後で当事者の支配関係にも変更が生じる場合には、COC条項(チェンジ・オブ・コントロール条項)の有無もあわせて確認します。

従業員については、事業譲渡により当然に雇用関係が移転することはありません。転籍には従業員個人の同意が必要であり、同意しない従業員は売り手企業に残ることになります。特にキーパーソンの引継ぎは、事業価値の維持に直結する論点です。

許認可については、原則として買い手が新たに取得する必要があります。ただし、建設業をはじめ一部の業種では、事前の認可等により事業譲渡に伴う許認可の承継が認められる制度が設けられています。対象業種や要件は業法ごとに異なるため、個別の確認が必要です。

事業譲渡のメリット・デメリット

事業譲渡のメリット・デメリットは、売り手と買い手で異なります。それぞれについて、詳しく説明していきます。

売り手のメリット

売り手の主なメリットは、以下の3つが挙げられます。

それぞれについて、順に説明します。

特定の事業だけを移転できる

譲渡する事業と残す事業を選択できるため、経営資源の集中や不採算事業からの撤退を柔軟に進めることができます。

会社や残存事業を維持できる

法人格が維持されるため、経営者は引き続き会社を経営することができます。会社の歴史や許認可、他の事業との関係を維持したまま、一部の事業のみを整理することが可能です。

譲渡代金を会社に取り込める

対価は会社が受け取るため、譲渡代金を残存事業への投資や借入金の返済に充てることができます。

買い手のメリット

買い手の主なメリットは、以下の3つが挙げられます。

それぞれについて、順に説明します。

必要な事業だけを取得できる

自社の戦略に合致する事業のみを取得できるため、不要な資産や事業を引き受ける必要がありません。

承継リスクを限定しやすい

承継する資産・負債を契約で特定するため、対象外とした簿外債務や偶発債務を引き継ぐリスクを抑えやすくなります。株式譲渡では会社を丸ごと引き継ぐため、この点が事業譲渡の大きな利点となります。

のれんの税務上の取り扱いによる効果が期待できる場合がある

事業譲渡により生じたのれんに相当する部分は、税務上、一定の要件のもとで資産調整勘定として損金算入の対象となる場合があります。株式譲渡では対象会社の株式を取得するだけであり、こうした取り扱いはありません。また、適用の可否については税理士等にご確認ください。

売り手のデメリット

売り手の主なデメリットは、以下の3つが挙げられます。

それぞれについて、順に説明します。

個別承継に伴う手続き負担が大きい

資産の特定、契約先からの同意取得、従業員への説明と同意取得、各種名義変更など、実務上の作業量が多くなります。対象事業の規模が大きいほど、負担は増大します。

譲渡益に対して法人税等が課される

譲渡益は会社の益金となり、法人税等の課税対象となります。さらに、譲渡代金をオーナー個人に移す場合には、配当課税や退職所得課税といった追加の税負担が生じます。

競業避止義務を負う

会社法上、事業を譲渡した会社は、特約がない場合でも、同一の市町村およびこれに隣接する市町村の区域内において、20年間、同一の事業を行ってはならないとされています。当事者の特約により、この期間を延長することも可能です(法定の上限は30年です)。譲渡後の事業展開を検討する際には、この点を踏まえた設計が必要です。

買い手のデメリット

買い手の主なデメリットは、以下の3つが挙げられます。

それぞれについて、順に説明します。

契約・従業員を引き継げないリスクがある

主要な取引先が契約の承継に同意しない場合や、キーパーソンが転籍に同意しない場合、想定した事業価値を実現できないおそれがあります。

許認可を新たに取得する必要がある

許認可の取得には審査期間を要するため、事業の開始時期に影響します。取得できなければ事業自体を行えないケースもあるため、事前の確認が不可欠です。

消費税等の税負担が生じる

課税資産の譲受けには消費税が課され、不動産を取得する場合には不動産取得税・登録免許税も発生します。取得価額に加えて、これらの負担を織り込んだ資金計画が必要です。

事業譲渡を検討してから成約するまでの流れ

事業譲渡の検討開始からクロージングまでの基本的な流れは、以下のとおりです。

  1. 譲渡目的・対象事業の整理
  2. 専門家の選定
  3. 買い手候補の探索
  4. NDA(秘密保持契約)の締結と情報開示
  5. トップ面談・条件交渉
  6. 意向表明・基本合意
  7. デューデリジェンス
  8. 最終契約の締結
  9. 個別承継の手続き
  10. クロージング・引継ぎ

それぞれの段階ごとに、詳しく解説します。

1.譲渡目的・対象事業の整理

なぜ事業を譲渡するのか、どの範囲を譲渡するのかを整理します。事業譲渡では譲渡範囲を自由に設計できる反面、範囲が曖昧なままでは価格の算定も交渉も進みません。対象となる資産・負債・契約・従業員をリストアップし、事業単位の損益を把握することが出発点となります。

2.専門家の選定

M&A仲介会社、ファイナンシャルアドバイザー、弁護士、公認会計士、税理士などの専門家を選定します。事業譲渡は法務・税務・会計の論点が広範に及ぶため、早い段階から専門家の関与を得ることが重要です。

3.買い手候補の探索

対象事業に関心を持つ可能性のある企業をリストアップし、打診を行います。この段階では、企業が特定されない形で概要のみを提示するのが一般的です。

4.NDA(秘密保持契約)の締結と情報開示

関心を示した候補企業とNDAを締結したうえで、事業の詳細な情報を開示します。事業譲渡では、対象事業単位の財務情報を整理して提示する必要があります。

5.トップ面談・条件交渉

経営者同士が面談し、事業に対する考え方や譲渡後の運営方針を確認します。あわせて、譲渡範囲、価格、スケジュール、従業員の処遇といった主要条件を協議します。

6.意向表明・基本合意

買い手が意向表明書を提出し、主要条件について合意に至った段階で基本合意書を締結します。基本合意書には、独占交渉権やデューデリジェンスへの協力義務などを定めることが一般的です。

7.デューデリジェンス

買い手が、対象事業の財務・税務・法務・事業内容などを調査します。事業譲渡では、承継対象となる契約における譲渡禁止条項・事前承諾条項・解除条項の有無、許認可の要否、従業員の状況などが重点的な確認事項となります。また、支配関係にも変更が生じる取引では、COC条項の有無も確認します。

8.最終契約の締結

デューデリジェンスの結果を踏まえて条件を最終化し、事業譲渡契約を締結します。契約書では、譲渡対象の特定、対価と支払方法、表明保証、クロージングの前提条件、従業員の取り扱い、競業避止義務などを定めます。

譲渡対象の特定は、事業譲渡契約における最も重要な条項です。承継する資産・負債を明細として添付し、対象外とするものを明確にしておくことが、後日の争いを防ぐうえで不可欠です。

9.個別承継の手続き

取引先からの契約承継の同意取得、従業員への説明と同意取得、債権者からの債務引受の同意取得、許認可の申請、各種名義変更などを進めます。この工程は、事業譲渡において最も時間と工数を要する部分です。

なお、会社法上必要となる株主総会の決議等の手続きは、このスケジュールと並行して進めます。詳細は次章で説明します。

10.クロージング・引継ぎ

効力発生日に、対価の支払いと事業の引渡しを行います。その後、業務の引継ぎ、システムの移行、顧客への説明などを進めます。

所要期間を左右する主な要素

事業譲渡に要する期間は、対象事業の規模や状況によって大きく異なります。主な影響要素としては、以下が挙げられます。

  • 承継対象となる契約の件数と、相手方の同意取得の難易度
  • 従業員の人数と、転籍に関する調整の状況
  • 許認可の要否と、その取得に要する審査期間
  • 不動産の有無と、登記手続きの要否
  • 株主構成と、株主総会の開催に要する期間

特に許認可については、取得までに数ヶ月を要する業種もあるため、スケジュールを組む際の制約となりやすい点に注意が必要です。

会社法上必要となる手続き

事業譲渡では、会社法に基づく社内の決議手続きと、株主保護のための手続きが必要となります。なお、事業譲渡では、原則として債権者保護手続(一定期間の公告・催告)は求められません。個別の債務の移転について債権者の同意を得ることで対応する仕組みとなっているためです。

取締役会の決議

取締役会設置会社では、事業譲渡・譲受けが重要な財産の処分・譲受けその他の重要な業務執行に該当する場合、取締役会の決議が必要となります。重要性は、取引金額、会社の総資産や事業規模、取引の目的等を踏まえて判断します。取締役会を設置していない会社では、取締役の過半数による決定によります。

売り手側の株主総会特別決議

売り手企業においては、事業の全部を譲渡する場合、または事業の重要な一部を譲渡する場合に、効力発生日の前日までに株主総会の特別決議による承認が必要となります。特別決議は、原則として、議決権の過半数を有する株主が出席し、出席株主の議決権の3分の2以上の賛成により成立します。なお、定款により、定足数を3分の1以上まで引き下げることができます。

ここでいう「重要な一部」に該当するかどうかについては、会社法上、譲渡する資産の帳簿価額が会社の総資産額の5分の1(定款で引き下げることも可能)を超えない場合には、株主総会の決議を要しないとされています。いわゆる簡易事業譲渡です。

買い手側の株主総会特別決議

買い手企業においては、他の会社の事業の全部を譲り受ける場合に、株主総会の特別決議が必要となります。事業の一部のみを譲り受ける場合には、原則として株主総会の決議は不要です。

ただし、事業の全部を譲り受ける場合であっても、対価として交付する財産の帳簿価額の合計額が、買い手企業の純資産額として法務省令で定める方法により算定される額の5分の1(定款でこれを下回る割合を定めた場合には、その割合)を超えない場合には、株主総会の承認を省略できます。もっとも、一定数の株主が所定の期間内に反対を通知した場合には、この簡易手続を利用できず、株主総会の承認が必要となります。

簡易・略式手続き

上記の簡易手続きのほか、取引の相手方が特別支配会社である場合には、株主総会の決議を省略できる略式手続きが認められています。特別支配会社とは、対象会社の総株主の議決権の10分の9以上を保有する会社等をいいます

適用の可否は資産・対価の金額や株主構成によって決まるため、実施にあたっては個別に判断が必要です。

株主への通知・公告

会社法上の事業譲渡等に該当する場合、会社は原則として効力発生日の20日前までに、株主に対して事業譲渡等を行う旨を通知します。一定の場合には、通知に代えて公告することができます。

反対株主の株式買取請求

会社法上の事業譲渡等に該当する場合には、一定の例外を除き、反対株主は会社に対して、自己の保有する株式を公正な価格で買い取るよう請求することができます。株主総会の承認が必要な場合、議決権を行使できる株主は、原則として株主総会に先立って反対の意思を会社に通知し、株主総会でも反対する必要があります。株主総会の承認を要しない場合には、株式買取請求権を行使できる株主の範囲や要件が異なります。

効力発生と引渡し

事業譲渡の効力は、事業譲渡契約で定めた効力発生日に生じます。組織再編行為ではないため、事業譲渡そのものについて登記が必要となるわけではありませんが、不動産を承継する場合の所有権移転登記、商号を変更する場合の変更登記など、個別の登記手続きが必要となる場合があります。

事業譲渡金額の算定方法

事業譲渡では、会社全体ではなく、譲渡の対象となる事業の価値を算定します。この点が、会社全体を評価する株式譲渡との大きな違いです。ここでは譲渡対象事業の価値について、整理して説明します。

事業単位の財務情報を整理する

算定の前提として、対象事業の損益と資産・負債を切り出して把握する必要があります。複数の事業を営んでいる会社では、本社費用の配賦、共用資産の取り扱い、事業間取引の整理といった作業が必要となります。

また、譲渡後は売り手企業から独立して事業を運営することになるため、これまで本社が担っていた機能をどう手当てするかという論点(スタンドアローン・イシュー)も、価値の算定に影響します。

主な算定アプローチ

事業価値の算定には、主に以下の3つのアプローチが用いられます。

コストアプローチ
対象事業が保有する資産と負債の時価を基礎として価値を算定する方法です。時価純資産法が代表例です。客観性が高い一方、将来の収益力を反映しにくいという特徴があります。
マーケットアプローチ
類似する上場会社や過去の類似取引の指標を参照して価値を算定する方法です。市場の評価を反映できる一方、対象事業と十分に類似する比較対象を見つけることが難しい場合があります。
インカムアプローチ
対象事業が将来生み出すと見込まれるキャッシュフローや利益を基礎として価値を算定する方法です。DCF法(割引キャッシュフロー法)が代表例です。事業の収益力を反映できる一方、将来予測の前提によって結果が大きく変動します。

のれん(営業権)とシナジー

中小企業のM&A実務では、対象事業の時価純資産に、のれん(営業権)に相当する金額を加算して価格の目安とする方法が広く用いられています。のれんは、正常収益力に一定の年数を乗じて算定されることが一般的です。

計算例:時価純資産にのれんを加算する方法

例えば、譲渡対象事業について、以下のような前提を考えます。

【承継する資産(時価)】

  • 土地:3,000万円
  • 建物:2,000万円
  • 機械設備:1,000万円
  • 棚卸資産:1,000万円
  • 売掛金:1,000万円
  • 資産合計:8,000万円

【承継する負債(時価)】

  • 買掛金:2,000万円

まず、時価純資産を算定します。

時価純資産=資産8,000万円 - 負債2,000万円 = 6,000万円

次に、対象事業の正常収益力(一時的な損益を除外した営業利益)が年1,500万円であり、これに3年分を乗じてのれんを算定する場合、以下のとおりとなります。

のれん=正常収益力1,500万円 × 3年 = 4,500万円

したがって、譲渡価額の目安は次のように算定されます。

譲渡価額=時価純資産6,000万円 + のれん4,500万円 = 1億500万円

なお、この算定方法は法令や会計基準に定められた統一的な評価方法ではないため、実態に合わせた算定方法を選択することに留意が必要です。

算定価値と最終的な交渉価格の違い

上記の方法により算定された金額は、あくまで交渉の出発点となる目安です。最終的な価格は、買い手が期待するシナジー、対象事業の将来性に対する評価、他の買い手候補の有無、デューデリジェンスで発見された事項、当事者の交渉力といった要素によって決まります。

算定結果と最終価格が一致しないことは通常であり、算定はあくまで合理的な根拠を示すための手続きであると理解しておくことが重要です。

事業譲渡にかかる税金・会計処理

事業譲渡では、売り手・買い手の双方に税負担が生じ、会計処理も両者で異なります。ここでは主な論点を整理します。なお、税制は改正される可能性があるため、実施にあたっては必ず最新の法令を確認し、公認会計士、税理士等の専門家にご相談ください。

売り手側に発生する税金

売り手企業には、譲渡益に対する法人税等が課されます。譲渡益は、原則として、譲渡対価から移転する純資産の帳簿価額(移転資産の帳簿価額-引受負債の帳簿価額)を控除して算定します。計算式で示すと、次のとおりです。

事業譲渡損益=譲渡対価+引受負債の帳簿価額-移転資産の帳簿価額

また、売り手が消費税の課税事業者である場合、課税資産の譲渡について消費税を預かる立場となり、申告・納付を行うことになります。

なお、事業譲渡の対価は会社が受け取るため、オーナー個人が資金を得るには、配当や役員退職金といった形で会社から個人へ移す必要があります。この段階で、配当所得課税または退職所得課税が生じます。株式譲渡であれば株主に直接譲渡所得課税が生じるのみであるのに対し、事業譲渡ではまず会社に譲渡損益が生じ、さらにオーナー個人が譲渡代金相当額を配当や役員退職金等で受け取る場合には、その支給方法に応じて個人段階の課税も生じ得ます

買い手側に発生する税金

買い手企業には、主に以下の税負担が生じます。

消費税

課税資産の譲受けに対して課されます。棚卸資産、建物、機械設備、のれんなどが課税対象となる一方、土地、有価証券、売掛金等の金銭債権の譲渡は非課税とされています。

計算例:事業譲渡に伴う消費税

前章の計算例と同じ前提で考えます。ここでは、買い手が現金で支払う譲渡対価を1億500万円とし、これとは別に買掛金2,000万円を引き受ける前提とします。

譲渡価額の内訳のうち、課税対象となるのは以下の資産です。

  • 建物:2,000万円
  • 機械設備:1,000万円
  • 棚卸資産:1,000万円
  • のれん:4,500万円
  • 課税資産の合計:8,500万円

一方、土地3,000万円と売掛金1,000万円は非課税となります。

消費税額=課税資産8,500万円 × 10% = 850万円

したがって、買い手が支払う金額は、譲渡価額1億500万円に消費税850万円を加えた1億1,350万円となります。承継する負債があっても、消費税は課税資産の対価の額に対して課される点に注意が必要です。

なお、消費税は買い手にとって仕入税額控除の対象となりますが、控除の可否や時期は買い手の課税売上割合等によって異なります。また、事業譲渡の実行時には資金として支出する必要があるため、資金計画上は無視できない金額となります。

不動産取得税・登録免許税

不動産を承継する場合に課されます。株式譲渡では会社の所有する不動産の名義が変わらないため生じませんが、事業譲渡では所有権が移転するため発生します

印紙税

営業の譲渡に関する契約書を書面(紙面)で作成した場合、記載された契約金額に応じて印紙税が課されます。電子契約のみで締結する場合は、通常、印紙税の課税文書は作成されません。

資産別の譲渡対価の配分

事業譲渡では、譲渡価額の総額を、承継する個々の資産に配分する必要があります。この配分は、消費税の課税対象額、買い手における各資産の取得価額と減価償却費、のれんの金額に直接影響します。

配分は時価を基礎として行いますが、当事者間の合意によって恣意的に配分すると、税務上の問題が生じる可能性があります。合理的な根拠に基づいて配分し、その内容を契約書に明記しておくことが重要です。

売り手側の会計処理

売り手企業では、移転した資産・負債の帳簿価額と、受け取った対価との差額を、事業譲渡損益として計上します。これは通常の営業活動によって生じる損益ではないため、原則として特別損益に区分されます。

買い手側の会計処理

買い手企業では、取得した資産・負債を時価により計上し、取得原価が受け入れた純資産の時価を上回る場合、その差額をのれんとして計上します。逆に、取得原価が受け入れた純資産の時価を下回る場合には、まず識別可能な資産・負債の把握および取得原価の配分を見直します。見直し後も差額が残る場合、その差額は負ののれん発生益として、原則として当期の特別利益に計上します。

会計上、のれんは20年以内のその効果の及ぶ期間にわたって、定額法その他の合理的な方法により規則的に償却します。また、事業の収益性が低下し投資額の回収が見込めなくなった場合には、減損処理の対象となります。

会計上と税務上の取り扱いの違い

のれんについては、会計上と税務上で取り扱いが異なる点に注意が必要です。

会計上ののれんが20年以内の期間で償却されるのに対し、税務上は、一定の要件を満たす事業の移転により生じた差額が資産調整勘定として認識され、原則として60ヶ月(5年)にわたり月割りで損金の額に算入されます

会計と税務で償却期間が異なるため、両者の差異を管理する必要があります。具体的な取り扱いは個別の状況によって異なるため、公認会計士・税理士などの専門家への確認が不可欠です。

事業譲渡の事例

ここでは、事業譲渡の代表的な事例を2つ紹介します。いずれも、事業譲渡が「会社そのものではなく、特定の事業だけを移転する手法」であることがよく表れた案件です。

武田薬品工業株式会社から帝人ファーマ株式会社へ糖尿病治療薬事業の譲渡

武田薬品工業は、2021年2月26日、日本国内における糖尿病治療薬4製品(ネシーナ錠、リオベル配合錠、イニシンク配合錠、ザファテック錠)について、製造販売承認およびこれに関連する資産を帝人ファーマへ譲渡する契約を締結したことを公表し、同年4月1日付で譲渡を完了しました。譲渡価額は1,330億円、対象製品の2020年3月期における国内売上高は308億円でした。

武田薬品工業は、消化器系疾患、希少疾患、血漿分画製剤、オンコロジー、ニューロサイエンスという5つの重点領域への集中を進めており、対象製品はこれらの領域に該当しないことから譲渡を決定したとしています。得られた資金は有利子負債の削減に充てられました。

事業譲渡の特徴がよく表れているのは、譲渡後も両社の取引関係が継続している点です。武田薬品工業は引き続き対象製品を製造して帝人ファーマへ供給する契約を締結しており、会社そのものを移転する株式譲渡とは異なり、承継する範囲と譲渡後の役割分担を契約によって細かく設計できることを示しています。売り手にとっては非中核事業を切り離して経営資源を集中させる手段、買い手にとっては必要な製品群だけを取得する手段として機能した事例といえます。

オンキヨーホームエンターテイメント株式会社のホームAV事業の譲渡

オンキヨーホームエンターテイメントは、2021年5月26日、主力であったホームAV(音響・映像)事業について、米国のVOXX International Corporation傘下のPremium Audio Company(PAC)とシャープの合弁会社へ譲渡する契約を締結したことを公表しました。譲渡価額は33億2,300万円で、同年6月の定時株主総会で承認を得たうえで、9月に譲渡が完了しています。

同社は、債務超過の解消が困難となり上場廃止基準に抵触する見込みとなったことから、事業継続のための選択肢を検討していました。合弁会社の出資者であるPACとシャープの2社とは、米国での販売代理店契約やマレーシアの合弁工場を通じて従前から協力関係にあり、事業譲渡の相手方として適任であると判断したとしています。

この事例は、財務状況が悪化する中で、ホームAV事業の承継と資金確保を図るために事業譲渡を実施したケースです。会社自体は存続させたまま特定の事業のみを切り出せるという事業譲渡の性質が活用されており、譲渡対価は遅延していた営業債務の支払いに充てられました。一方で、対価が会社に帰属し、その後の残存事業の再建は別の課題として残るという点も示しています。

なお、いずれの事例も上場会社による大規模な案件ですが、事業譲渡の基本的な考え方は中小企業のM&Aにおいても変わりません。「どの事業を、どの範囲で移転するか」を設計できる点が、この手法の中心的な価値といえます。

まとめ

事業譲渡とは、会社が営む事業の全部または一部を他の会社等に移転するM&A手法をいいます。会社や株式そのものを譲渡する取引ではないため、法人格は移転せず、譲渡しなかった事業は売り手企業のもとに存続します。譲渡する範囲を自由に設計できる点が最大の特徴であり、非中核事業の切り離しや、買い手が必要な事業のみを取得したい場面で有効な選択肢となります。

一方で、事業譲渡は個別承継であるため、資産の特定、契約先からの同意取得、従業員本人の承諾を得た労働契約の承継、許認可の再取得といった実務上の負担が生じます。また、対価は会社に帰属するため、オーナー個人が資金を得るには追加の手続きと税負担が必要となります。消費税や不動産取得税といった流通課税が生じる点も、株式譲渡との重要な違いです。

事業譲渡・株式譲渡・会社分割は、移転の対象、承継の方法、対価の帰属、税務上の取り扱いがそれぞれ異なります。何を移転したいのか、どこまでの負担を許容できるのか、税務上どのような影響が生じるのかを踏まえて、手法を選択することが重要です。検討にあたっては、弁護士、公認会計士、税理士、M&Aの専門家等の各種専門家に相談しながら進めることをお勧めします。

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よくある質問

  • 事業譲渡と株式譲渡はどちらを選ぶべきですか?
  • 移転したい範囲と、対価を誰が受け取るかによって判断します。会社全体をそのまま譲渡し、オーナー個人が売却代金を受け取りたい場合には株式譲渡が適しています。一方、複数の事業のうち一部だけを譲渡したい場合や、買い手が特定の事業のみを取得したい場合には事業譲渡が適しています。ただし、事業譲渡は資産・契約・従業員を個別に承継する必要があり、実務上の負担が大きくなります。また、対価は会社に帰属するため、個人へ移す際に追加の税負担が生じる点も判断材料となります。
  • 従業員や取引先との契約は自動的に引き継がれますか?
  • 自動的には引き継がれません。事業譲渡は個別承継であるため、従業員については、本人の個別の承諾を得て、既存の労働契約上の地位を譲受会社へ移転する必要があります。承諾しない従業員は、売り手企業に残ることになります。取引先との契約についても、契約上の地位の移転には相手方の同意が原則として必要です。主要な取引先やキーパーソンの引継ぎは事業価値に直結するため、早い段階で見通しを立てておくことが重要です。
  • 不採算事業や一部店舗だけでも事業譲渡できますか?
  • 一部店舗のみでも、従業員・設備・契約・ノウハウ等を含む事業として一体的に移転する場合には、事業譲渡として整理できます。ただし、店舗の建物や設備等の個別資産だけを売却する場合は、事業譲渡に該当しないことがあります。実務上も、経営資源を中核事業に集中させるために不採算事業を切り離すケースや、多店舗展開している企業が一部の店舗を譲渡するケースは多く見られます。なお、対象範囲を明確に特定し、承継する資産・負債・契約を契約書の明細で確定させておくことが不可欠です。
  • 事業譲渡にはどれくらいの期間がかかりますか?
  • 対象事業の規模や状況によって大きく異なるため、一概にはいえません。期間を左右する主な要素としては、承継対象となる契約の件数と相手方の同意取得の難易度、従業員の人数と転籍に関する調整、許認可の要否とその審査期間、不動産の有無、株主総会の開催に要する期間などが挙げられます。特に許認可は取得までに相応の期間を要する業種もあるため、スケジュールを検討する際の制約となりやすい点に注意が必要です。
  • 売却代金は経営者個人が受け取れますか?
  • 事業譲渡の対価は、原則として事業を譲渡した会社が受け取ります。経営者個人が直接受け取ることはできません。個人へ資金を移すには、配当や役員退職金といった形をとる必要があり、その段階で配当所得課税または退職所得課税が生じます。つまり、会社段階での法人税等と個人段階での課税という双方で課税が生じる場合があります。オーナー個人が売却代金を得ることを重視する場合には、株式譲渡の方が適している可能性があります。
  • 事業譲渡では債権者保護手続きは必要ですか?
  • 会社分割や合併のような債権者保護手続(一定期間の公告・催告)は、原則として必要ありません。事業譲渡では権利義務が包括的に移転するわけではなく、個別の債務を買い手に移転するには債権者の同意を得る必要があるためです。裏を返せば、債権者の同意が得られない債務は売り手企業に残ることになります。借入金の承継を予定している場合には、金融機関との事前協議が不可欠です。
  • どの段階で専門家へ相談すべきですか?
  • 譲渡の検討を始めた段階での相談をお勧めします。事業譲渡は、譲渡範囲の設計、契約・従業員・許認可の承継、株主総会等の会社法上の手続き、譲渡対価の資産別配分、消費税や譲渡益課税の取り扱いなど、法務・税務・会計にまたがる論点を含みます。特に、譲渡範囲の設計と対価の配分は、後から変更することが難しく、税負担にも直接影響します。条件が固まってから相談すると対応できる範囲が限られるため、早期に弁護士、公認会計士、税理士、M&Aの専門家等へ相談することが望まれます。

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