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日本企業の財務報告は、その企業の健全性や業績を示す重要な指標として、投資家等から注視されています。その中でも、「偶発債務」は企業の真の財務状態を理解する上で非常に重要な要素となっています。この概念は、特にM&A(Mergers and Acquisitions、合併・買収)の実施過程で大きな影響を持つこととなります。今回は、偶発債務の定義、M&Aにける偶発債務、偶発債務の具体例、簿外債務との違いについて詳しく説明します。
このページのポイント
~偶発債務とは?~
偶発債務とは、現実にはまだ発生していないものの、将来一定の条件が成立した場合に発生する債務の総称のこと。M&Aにおける偶発債務は、現時点では発生しておらず、将来発生する可能性がある債務を指すことが多い。
1. 偶発債務の概要
1-1. 偶発債務とは?
偶発債務とは、現実にはまだ発生していないものの、将来一定の条件が成立した場合に発生する債務の総称をいいます。偶発的に発生し、その負債額を正確に予測できないという特徴があります。発生する可能性が高く、金額を合理的に見積もることができるものには引当金を計上する必要があり、債務として確定した時点で負債に計上されることになります。
なお、偶発債務に関して、財務諸表等規則と会社計算規則では、それぞれ次のように貸借対照表に注記すべき事項として定めています。
- 財務諸表等規則第58条(偶発債務の注記)
偶発債務(債務の保証(債務の保証と同様の効果を有するものを含む。)、係争事件に係る賠償義務その他現実に発生していない債務で、将来において事業の負担となる可能性のあるものをいう。)がある場合には、その内容及び金額を注記しなければならない。ただし、重要性の乏しいものについては、注記を省略することができる。 - 会社計算規則第103条第1項第5号(貸借対照表等に関する注記)
保証債務、手形遡求債務、重要な係争事件に係る損害賠償義務その他これらに準ずる債務(負債の部に計上したものを除く。)があるときは、当該債務の内容及び金額
2. M&Aにおける偶発債務
M&Aにおける偶発債務は、現時点では発生しておらず、将来発生する可能性がある債務を指すことが多いです。
買収対象の真の価値の正確な評価が求められますが、買収後に偶発債務が発生し、それが事前に予見されていなかった場合、その金額は買収価格の調整や損失として発生する可能性があります。したがって、M&Aの過程で偶発債務のリスクを適切に評価・管理することは、不測のリスクを回避するために不可欠です。
3. 偶発債務の具体例
偶発債務には、具体的には以下のようなものがあります。
3-1. 債務保証
債務保証が設定され、対象となっている借入金等の債務の返済が滞っている場合、返済が求められる可能性があります。
そのため、債務保証を設定している場合、債務返済者の意向や財務状況に関係なく、偶発債務として認識されることになります。
3-2. デリバティブ
デリバティブとは金融派生商品のことで先物取引やスワップ取引、オプション取引等が該当します。企業会計基準上、デリバティブ取引は時価で評価され、貸借対照表に資産あるいは負債として計上されることになりますが、非上場会社の場合、デリバティブ取引が貸借対照表に反映されていないことが多々あります。その場合には偶発債務となる可能性があるので、デリバティブ取引の有無は確認した上で、該当がある場合には時価で評価して反映する必要があります。
3-3. 訴訟リスク
例えば、第三者から損害賠償請求で訴えられている場合で、敗訴し損害賠償責任を負うことが確定した場合には損失として支払いが生じることになります。
そのため、訴えられている訴訟がある場合には内容を把握した上で、今後の発生可能性も加味し偶発債務として取り扱われることになります。
3-4. 未払賃金
例えば、管理職として残業代が支給されていない場合であっても、名ばかりで実態は管理職ではない場合には適正に残業代を支給する必要があります。M&Aを実施する過程において、未払賃金は重要な論点としてよく取り上げられます。
4. 簿外債務との違い
簿外債務とは、貸借対照表には計上されませんが、企業の負債の要因となる可能性がある債務を指します。偶発債務も簿外債務の一部と考えられますが、偶発債務は「未確定」のもの、簿外債務は「確定しているが計上されていない」ものという違いがあります。簿外債務の例としては、前述した未払賃金や将来のリース支払い義務などがあります。
5. まとめ
偶発債務は、企業の真の財務状態を把握する上で不可欠な概念です。特にM&Aの実施過程においては、偶発債務の存在やリスクを正確に評価することが、成功の鍵となります。企業には、偶発債務の適切な管理と開示が求められ、投資家や関連業界に対して適切な情報を提供することが必要です。