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M&Aのプロセスは、大きくソーシング(Sourcing)、オリジネーション(Origination)、エグゼキューション(Execution)の3つの段階に分けられます。ソーシングは、この3つのうち最初の段階にあたり、M&Aのニーズの掘り起こしから相手方企業と交渉するまでの重要なプロセスです。
この記事では、M&Aにおける「ソーシング」の意味や実施するタイミングを解説します。ソーシングの流れや2つの手法、依頼する際のポイントも紹介しているので、M&A実施の参考にご活用ください。
目次
1. M&Aにおけるソーシングの意味とは
M&Aにおけるソーシングの意味とは、M&Aのニーズを掘り起こす段階からM&Aの相手と交渉する段階までのことです。売り手・買い手となる対象企業をスクリーニングし、条件にマッチする相手を探すための絞り込みのことを指します。
「ターゲット企業の選定」や「ターゲット企業との交渉」のみを指すのではなく、選定から交渉までの一連の流れをまとめてソーシングと呼ぶことに留意が必要です。
2. ソーシングがM&Aの成功のために重要な理由
M&Aを実施するにあたって、ソーシングは欠かせません。売り手企業と買い手企業にとって満足のいくM&Aを目指すには、できるだけお互いの納得が得られる条件を見つけて交渉しなければならないためです。
M&Aの目的は、買い手側は、新規事業参入・既存事業強化・販路拡大など、売り手側は、後継者への引き継ぎ・事業整理・創業者利益の確保など、さまざまに異なります。お互いのニーズが合致していないと交渉がスムーズに進まず、交渉が決裂すれば時間や機会の損失になりかねません。そのため、M&Aには適切なソーシングが求められるのです。
3. ソーシングを実施するタイミング
ソーシングは、社内でのM&Aの検討段階から行います。M&Aの売り手・買い手が理想的な企業を見つけるためには、より多くの企業データを収集・分析しなければならず、専門知識も求められます。そこで、一般的にはM&Aにおけるソーシングにあたって豊富なネットワークを持つ、M&A仲介会社などの専門家への依頼も要します。
4. ソーシングの流れ
M&Aにおけるソーシングの流れは、次のとおりです。
- 目的・戦略の明確化
- 候補企業の選定・情報収集
- ロングリスト・ショートリスト作成
- 候補企業の選別
- 相手先企業との交渉
4-1. 目的・戦略の明確化
ソーシングにあたっては、M&Aの目的と戦略を明確にする必要があります。なぜなら、M&Aの相手探しと選定、その後の交渉にM&A戦略の策定は欠かせないからです。そのために必要なのが、M&Aの目的と戦略の明確化です。
特に、M&Aによって成し遂げたいことやM&Aを選択する理由、相手企業との間にどのようなシナジーを求めるかなどは、自社においても具体的かつ明確に答えられるようにする必要があります。これらの情報を明確にできれば適切な手法を選べ、選定相手も絞り込めます。M&Aの成功のためにも、目的と戦略は時間をかけて綿密に整理するようにしましょう。
4-2. 候補企業の選定・情報収集
続いて、候補企業を選定するための情報収集を行います。M&A仲介の場合、通常はM&Aアドバイザーが売り手企業と買い手企業の双方に希望条件をヒアリングし、候補企業の選定と情報収集を行います。なお、この段階では複数の相手先企業を選定するのが一般的です。
例えば、自社がM&Aを行う目的を達成するのにどのような企業が相手方として最適かを検討し、その条件にふさわしい企業を複数選び出します。
4-3. ロングリスト・ショートリスト作成
続いて、ロングリストとショートリストを作成します。
ロングリストとは、M&Aを実施する初期段階において、ターゲット候補となる企業を一定条件にて絞り込み、作成した企業リストのことです。
一方、ショートリストとは、ロングリストをもとに丁寧な絞り込みを行い自社の理想に近い企業やM&Aが成立する可能性の高そうな企業を選びだした、より精度の高い企業リストです。
ロングリストでは、条件に合う企業を広く探し出すため、候補数を多めにピックアップします。一方ショートリストの場合は、各企業を詳しく検討し、条件へのマッチ度が高い企業のみに絞って選定します。ショートリスト作成の段階では、より優先順位を明確にしたうえで絞り込みを行いましょう。
4-4. 候補企業の選別
ショートリストで自社の条件に見合う候補企業をピックアップしたら、最終的な選別に移ります。業種や規模、予算などを確認しながら選定を行います。
注意点は、ショートリスト作成の段階で候補企業数が多すぎてしまうことです。候補企業数が多いと検討に時間がかかってしまうため、最終的な候補企業は数社から十数社程度まで絞って選定しましょう。
4-5. 相手先企業との交渉
最終的な候補企業が絞り込めたら、各企業と直接交渉を行います。
この段階で注意したいのが情報漏洩です。万が一、交渉時に重要な情報が外部に漏れると取引先や従業員に多大な影響を及ぼす可能性があります。そのため、この段階の交渉は、ノンネームシートと呼ばれる秘匿性の高い資料を用いて進められます。
候補企業がM&Aに前向きな場合には、NDA(秘密保持契約・機密保持契約)を交わしたうえで具体的な情報を開示して交渉を行います。
5. M&Aにおけるソーシングの種類
M&Aにおけるソーシングには、プル型ソーシングとプッシュ型ソーシングの2種類があります。ここでは、プル型とプッシュ型それぞれの概要とメリット・デメリット(注意点)を解説します。
プル型ソーシング | プッシュ型ソーシング | |
---|---|---|
メリット |
|
|
デメリット (注意点) |
|
|
5-1. プル型ソーシング
プル型ソーシングとは、M&A仲介会社などを利用し、他社からアプローチをしてもらう方法です。膨大な企業情報を抱える専門家にサポートを依頼し、相手候補を見つけてもらうことができます。
自社が買い手企業となる場合は買収の目的や予算などを伝え、売り手企業となる場合は自社の情報や希望を伝えてノンネームシートを作成してもらいます。いずれも、専門家へ買収・売却の希望や自社の状況などを伝えたうえで、アプローチを進めてもらう流れです。
自社から直接アプローチは行わないため、受動的な手法といえます。
プル型ソーシングのメリット
プル型ソーシングのメリットは次の2点です。
- M&Aの専門家にサポートをしてもらえる
- 多くの候補企業から選定できるため、希望に合った企業を見つけやすい
プル型ソーシングでは、高度な知識を有する工程をM&Aの専門家に対応してもらえます。また、仲介会社ではさまざまな案件を抱えており、膨大なリストを保有しています。豊富な候補企業から自社の希望にあう企業を絞り込んでもらえるので、マッチする可能性が高い点もメリットです。
プル型ソーシングのデメリット・注意点
プル型ソーシングのデメリット・注意点は次の2点です。
- 初期費用や手数料などのコストが発生する
- 仲介会社のM&Aアドバイザーとイメージを共有できるよう、資料を準備しなければならない
プル型ソーシングの場合、仲介業者への初期費用や手数料といったコストが発生する点がデメリットです。また、アドバイザーに自社の意思やイメージを伝えるために、事前に必要資料をそろえておかなければなりません。
目的や希望が曖昧なまま進めてしまうと、コストが発生したうえに失敗で終わってしまうリスクがあります。M&A実施の際には、事前に社内で協議し、目的を明確にしたうえで進めることが大事です。
5-2. プッシュ型ソーシング
プッシュ型ソーシングは、仲介会社などを通さずに自社から直接アプローチする手法です。プル型ソーシングとは異なり、自社のネットワークを頼りに候補企業の選定を行います。
プッシュ型ソーシングのメリット
プッシュ型ソーシングのメリットは次の2点です。
- 自社の有するネットワークや営業力によって交渉を進められる
- 仲介会社を通さないのでコストを抑えられる
プッシュ型ソーシングでは、自社の有するネットワークによって相手方と直接交渉を進めます。そのため、M&Aをするか否かの結論を早期に出しやすい点がメリットです。また、自社で直接交渉するので仲介料などのコストを抑えられます。
プッシュ型ソーシングのデメリット・注意点
プッシュ型ソーシングのデメリット・注意点は、次の2点です。
- 自社でソーシングを行うため、相当な時間と労力を要する
- 自社のネットワークや営業力では最適な候補企業を見つけられない可能性がある
プッシュ型ソーシングはコストを抑えられる一方で、時間や労力など自社のリソースを割かなければなりません。また、候補企業となる対象が自社と関係のある企業に限られるため選択肢が狭まります。最適な候補企業とマッチできない可能性が高まる点に留意が必要です。
6. ソーシングを依頼する際のポイント
M&Aの成功率を高めるには適切なソーシングを行うことが重要であり、M&Aの仲介会社やアドバイザーなどの専門家をうまく活用する必要があります。なぜなら、ソーシングの実施には相手企業の情報を収集・分析できる力を要し、さまざまな業種にまたがる広いネットワークが求められるからです。
ここでは、外部にソーシングを依頼する際のポイントを解説します。
6-1. 秘密保持契約(NDA)を締結する
M&Aを成功させるために最も意識したいのが、NDAの締結です。M&Aの手続きにおいては、売り手企業の評価をしなければならず、少なからず企業にとって秘匿性の高い情報を扱うからです。このような情報が外部に漏れた場合、取引先や従業員に不安を与えてしまい経営が揺らぐ事態になりかねません。
仲介会社などの第三者にソーシングを依頼する場合は、関与する人が増える分、情報漏洩のリスクも高まります。情報の管理には常に気を配り、重要な情報を開示する必要があるときはNDAを締結してリスクに備えるのが肝要です。
6-2. 必要資料を準備し、自社の正確な情報を開示する
買い手と売り手、双方が納得のいくM&Aを実施するためには、自社の情報を正確に伝える必要があります。そのため、事前に自社の情報を整理し、開示に備えて準備しておくのが重要です。
特に、次の項目は開示されることが多いため、必要に応じて確認しておきましょう。
- 会社概要
- 決算書類(決算書や申告書類一式など)
- 定款
- 履歴事項全部証明書
- 株主名簿
- 組織図
- 直近の試算表
- 直近の預貯金の内訳と借入金の内訳
- 法人が所有している固定資産に関連する資料一式
- 事務所や工場などの契約書
- 機械や車両などのリース契約書
- 営業許可証や免許など
6-3. 自社に合った範囲を得意とする業者を選ぶ
ソーシングをM&Aの仲介業者に依頼するときは、自社に合った範囲を得意とする業者を選びましょう。M&Aの仲介会社は多種多様なため、どこで頼んでも同じ結果が得られるわけではありません。
M&Aを成功させるには、自社の業種や地域、規模などの範囲におけるM&Aを得意とし、実績を豊富に有する業者を選ぶと良いでしょう。
6-4. 手数料の体系を確認する
M&Aの仲介会社やアドバイザーなどの専門家へ依頼する際は、相談料や着手金などの手数料が発生します。想定外の支出とならないために、手数料の体系を確認しておきましょう。
手数料について疑問がある場合には必ず確認してください。質問に対して明確な説明をしてくれる業者を選ぶと良いでしょう。また、手数料が安ければ良いわけでもありません。あまりに安価な場合には、希望通りの仕事をしてもらえない可能性もあります。
7. まとめ
ソーシングはM&Aのプロセスにおける最初の段階であり、ニーズの掘り起こしから候補企業との交渉までを含みます。M&Aを成功させるには、お互いのニーズが可能な限り合致した相手を見つける必要があり、適切なソーシングが求められます。
ただし、候補企業の絞り込みは重要なプロセスであるため、膨大な企業データと知見を有する専門家への依頼がおすすめです。M&A業界において豊富な実績と東証プライム上場の信頼をもつM&Aキャピタルパートナーズでは、ソーシングに関するご相談も承っております。
弊社では、相手先との基本合意に至るまで着手金や月額報酬をいただくことはございません。M&Aにお悩みの経営者様はぜひご相談ください。