規模の経済とは? メリット・デメリットや活用方法を解説

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「規模の経済」は、主に製造業の生産性を高めるうえで重要な概念です。生産コストには固定費と変動費があり、固定費は生産量が増えても変わらないことから、生産量を増やすことで1製品あたりの固定費を減らすのが規模の経済の基本的な考え方です。
規模の経済には多くのメリットがありますが、その反面、デメリットもあるため、取り組み方に注意する必要があります。
この記事では、規模の経済のメリット・デメリットや活用方法、分野別の事例などをわかりやすく解説します。「範囲の経済」や「スケールメリット」など、混同しやすい用語との違いも見ていきましょう。

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1. 規模の経済とは


まずは、規模の経済の意味や似た言葉との違いを解説します。

1-1. 規模の経済の意味

規模の経済とは、簡単に説明すると、企業が生産規模を拡大することで得られる経済効果のことです。「規模の経済を働かせる」といったような使い方をします。
同じものを大量に生産すると1製品あたりにかかる固定費が下がり、結果的に生産効率が高まることを意味します。また、仕入れの量も増えるため、原材料の購買力が高まって仕入コストが低減する効果もあります。
生産コストには固定費と変動費があり、工場を維持するための費用や人件費など、生産量に関わらず発生する費用が固定費にあたります。大量生産によって、1つあたりの製品にかかる固定費を下げることで、価格競争力を高めることが可能です。
身近な例として、自動車メーカーのケースを取り上げてみましょう。同じモデルの自動車を大量生産すれば、1台の自動車を生産するのに必要な固定費が下がります。結果的に同じ品質の自動車をより低いコストで生産できるようになります。

1-2. 範囲の経済との違い

規模の経済と似た言葉に、「範囲の経済」があります。
範囲の経済とは、製品の種類や事業を増やすことで全体のコストが下がる効果のことです。1つの企業が複数の事業を手がけている状態が「範囲の経済」といえます。
規模の経済は生産規模を拡大することで得られる経済効果なのに対して、範囲の経済は複数の事業を組み合わせることで得られる経済効果です。
別々の企業が独立して事業を行うよりも、同一企業が複数の事業を運営したほうが、生産やノウハウ、物流、販売チャネルなどにおいて、シナジー効果(相乗効果)が生まれやすくなります。

1-3. スケールメリットとの違い

スケールメリットは、同様のものを複数集めて規模を拡大することで、単体よりも成果が出せることです。「規模のメリット」ともいいます。
規模の経済と同じ意味で使われることがありますが、規模の経済は、規模が大きくなったり小さくなったりすることで生じる「不利益」も含む点が、スケールメリットと大きく異なります。

1-4. 経験曲線効果との違い

経験曲線効果とは、経験を積むことで仕事の効率が上がることをいいます。
累積の生産量が増えるほど経験値が蓄積され、結果的に仕事の効率が高まり、1製品あたりのコストが下がる現象が経験曲線効果です。
規模の経済の場合は、規模の大小によって生産コストが変わることを意味するのに対して、経験曲線効果は、経験値によって生産コストが変わることを意味します。

2. 規模の経済により得られる効果・メリット

ここでは、規模の経済により得られる効果・メリットを紹介します。

2-1. 利益率向上

規模の経済による最大のメリットは、コスト削減による利益率の向上です。
固定費は生産量の大小に関わらず一定であることから、生産量を増やすことによって1製品あたりの原材料費や生産コスト、配送費などを削減できます。現状の設備で対応できる限界まで生産量を高めることで、利益を増やし続けることも可能です。

2-2. 価格競争で有利になる

規模の経済によって1製品あたりの生産コストが下がったとしても、一般的に製品の品質には影響しません。消費者は以前と同じ品質の製品を安く購入できることになるため、企業は価格競争で有利になります。
規模の経済が働いている状態が続くと、生産量を増やせば増やすほど1製品あたりのコストが下がり、価格を下げても利益が出るという好循環が生まれます

 

2-3. ライバルが参入困難

規模の経済によって1製品あたりの価格が下がり、ライバルが参入しづらくなるのもメリットの一つです。
あとから参入する企業は、質が高い製品を低価格で販売している企業と競争することになるため、あまりメリットがありません。そのため、規模の経済の恩恵を受けている企業は、そのカテゴリにおいてトップシェアを取りやすくなります。

3. 規模の経済のデメリット

規模の経済はメリットが多い一方で、次のようなデメリットもあります。

3-1. 初期投資コストが大きい

規模の経済を働かせるには、大量の製品を生産するための設備が必要です。設備投資のための費用が事業を圧迫する可能性があるので、注意しなければなりません。
大規模な設備投資は、失敗した場合のリスクが大きいことも念頭におく必要があります。

3-2. 売れないときのリスクが大きい

設備に投資して大量生産が可能な体制が整っても、製品が売れなくなることで負債を抱えるリスクは避けられません
特に、中小企業の場合は製品の種類が限られていることが多く、ほかの製品で不採算分をカバーするのが難しくなります。また、大量に残った在庫の管理費用が経営を圧迫する可能性もあるでしょう。
初期投資した費用の回収も踏まえて、バランスの取れた事業戦略が求められます。

3-3. 臨機応変に対応できない

規模の経済を最大限に高めるには、同一の製品を大量に生産する必要があります。そのためには、業務の効率化や標準化が必要ですが、業務フローを固定し過ぎることで臨機応変な対応が難しくなる場合があります。
日々変化する市場や顧客のニーズに対応できなくなり、時代に取り残されるリスクがあることは認識しておくべきでしょう。

4. 規模の経済の活用方法

規模の経済の恩恵を受ける方法は、製品の生産量を増やすだけではありません。次のように、「外部パートナーの規模の経済」を活用する方法もあります。

4-1. アウトソーシングを活用する

アウトソーシングとは、自社で行っている業務の一部またはすべてを外部の企業に委託することです。
アウトソーシングを提供している企業は、経理や人材育成、コールセンター業務など、各分野に特化していることが多く、同じ分野の業務を繰り返し行うことで専門性が高まっています。これは、規模の経済が働いている状態といえるでしょう。
近年、専門の企業に業務のプロセスを一括して委託するBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)も需要が高まっています。業務の一部のみを委託するよりも効率を高められるのが、BPOのメリットです。

4-2. クラウドを活用する

インターネットにつながっていれば、どこでもサービスを利用できる「クラウド」の活用もおすすめの方法です。テレワークの普及も後押しとなり、会計や給与計算、eラーニングシステムなど、クラウドの活用は近年広がりを見せています
システム開発はクラウドサービスを提供している企業が行い、ユーザーは利用料金を支払って、必要なときに必要な分だけサービスを利用できます。ソフトウェアを購入する必要もなく、初期投資の費用を大幅に削減可能です。

5. 規模の経済の具体例

製造業は、規模の経済の恩恵を得ている代表的な分野です。その他、人件費の割合が大きいサービス業の分野などにおいても、規模の経済が働きやすくなります。具体的な例をあげて見ていきましょう。

5-1. 半導体事業

半導体事業の事例として、液晶パネルの生産があげられます。
90年代後半まで、日本製の液晶パネルは世界で圧倒的なシェアを持っていました。ところが、2000年代に入って液晶パネルの需要は低迷します。そこへ韓国や台湾のメーカーが大規模な設備投資を行い、日本のシェアに追い付かれてしまいます。
韓国・台湾のメーカーは、その後も継続的な設備投資を行い、同じ製品を継続して作り続けることで「経験曲線効果」の効果も働き、高品質な液晶パネルを低価格で生産できるようになりました
2006年には、日本の液晶パネルの世界シェアは10%にまで落ち込む結果となりました。

5-2. デイサービス

デイサービス(通所介護)は、近年、規模の経済による成功例が増えている分野です。
デイサービスの施設には、1日の利用者が20~30名程度の大規模デイサービスと、1日の利用者が1~10名程度の小規模デイサービスがあります。
大規模デイサービスは利用者が多いことから収益が上がりやすく、リハビリ設備などへの大規模な投資が可能です。施設を維持するための固定費は利用者が増えても変わらないため、利用者を増やすことで一人あたりに必要な固定費が減り、規模の経済の恩恵を受けることができます。

6. まとめ

規模の経済には、利益率が向上し、価格競争で有利になるなどのメリットがあります。一方で、状況によっては大規模な初期投資が必要になり、投資額が大きいと製品が売れなくなったときのリスクが大きくなる点などに注意が必要です。
規模の経済によって得られる恩恵と、そのための投資にまつわるリスクを正しく理解したうえで、バランスを取りながら事業戦略を立案しましょう。

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監修者プロフィール
M&Aキャピタルパートナーズコーポレートアドバイザリー部長 梶 博義
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コーポレートアドバイザリー部長
公認会計士梶 博義

大手監査法人、事業承継コンサルティング会社を経て、2015年に当社へ入社。
これまで、監査、IPO支援、財務DD、親族承継・役職員承継コンサル等を経験し、当社入社後はM&Aアドバイザーとして活躍。一貫して中小企業の支援に従事し、M&Aのみならず、事業承継全般を得意とする。

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