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日本国内の企業では、中小企業が多くを占めており、スモールビジネスに該当する企業のM&A取引の件数が増加しています。その背景には、後継者不足などの承継問題が影響しており、M&Aを行いビジネスの拡大や、事業の承継を行っているのです。
この記事では、スモールM&Aの現状や起業家の現状、スモールM&Aの課題などについて解説しています。
このページのポイント
~スモールM&Aとは?~
スモールM&Aとは、スモールビジネス(小規模事業)におけるM&Aを指し、さまざまな定義があるが、本記事では概ね年間売上高1億円未満の企業と定義している。スモールM&Aの課題としては、仲介会社にマッチングを依頼した場合、売り手買い手双方の手数料が割に合わない場合が多く、また、インターネットを使ったM&A案件のマッチングサービスを活用しても当事者同士のみで金額をはじめとした条件交渉で折り合いがつかない場合がある。
スモールM&Aとは?
スモールM&Aとは、スモールビジネス(小規模事業)におけるM&Aをさします。スモールビジネスについては、さまざまな定義がありますが、今回は概ね年間売上高1億円未満の企業と定義します。
日本の経営者の高齢化と事業承継問題が取り上げられることにより、M&Aという言葉が認知され、身の回りで中小企業M&Aで譲渡をした事例が多くなり、IT系などのベンチャー企業の出口戦略としてIPOではなく、M&Aで大手企業に譲渡するという選択肢が認知され、働き方に対する働き手(経営者)の価値観の多様化、IT技術の発展やシェアリングエコノミーなどで新事業を起こしやすい環境となってきています。
このことから、「独立したい」「独立するなら一から起業をするよりも既に立ち上がっているビジネスを買収したい」不動産投資家、ベンチャー企業、企業の新規事業担当部門、シニアの退職者、起業予備軍などのニーズと、「このままやめるにはもったいないこの会社を承継したい」と考えるオーナー経営者をマッチングさせるニーズが生まれてきており、こうした背景により、市場が活性化され、スモールM&Aが今後増えていくのではないかといわれ、注目されています。
日本のベンチャー企業へのM&Aが増加している
株式会社レコフ「MARR Online」2018年3月号「2017年のベンチャー企業へのM&A動向」によると、2017年の日本のベンチャー企業へのM&A件数は880件、全体のM&A件数に占める割合が28.9%で、前年から、全体のM&A件数に占める割合が大幅に増えたことがわかりました。
ベンチャー企業へのM&Aマーケット別件数の推移
また、ベンチャー投資先の出口戦略は、日本ではほとんどがIPOであったのに対し、アメリカではほとんどがM&Aということがわかりました。日本でも年を追うごとにM&A件数およびその比率が高まってきており、出口戦略の幅が広がったことや現在の景況感を踏まえると、当面の間は日本のベンチャー企業へのM&Aが増加していくことが予想されます。
ベンチャー投資先のIPOおよびM&A件数の日米比較
起業家の現状と変化
中小企業白書2020、2017によると、日本の起業家数は2002年38.3万人、2007年34.6万人、2012年30.6万人と徐々に減少しています。
日本の起業に対する意識水準は、欧米諸国に比べて特に低いという結果が、GEM調査で明らかになっています。GEM調査とは、起業意識と起業活動の国際比較を行うに当たり、世界の主要国が参加する「Global Entrepreneurship Monitor(グローバル・アントレプレナーシップ・モニター)」(GEM)調査をさします。
18歳から64歳までの成人に対して、起業意識や起業活動の程度について、「周囲に起業家がいる」、「周囲に起業に有利な機会がある」「起業するために必要な知識、能力、経験がある」「企業をすることが望ましい」「起業に成功すれば、社会的な地位を得られる」といった項目を用いて比較したところ、いずれの項目においても、日本の回答割合はアメリカ、ドイツ、イギリス、フランスといった欧米諸国に比べて極めて意識が低いのが現状です。
一方で、全体の起業家に占める兼業・副業としての起業家の割合は、2002年:2.9%、2007年:4.0%、2012年:4.2%と徐々に増えてきています。昨今の働き方改革「柔軟な働き方がしやすい環境整備」の中で、これまで多くの企業の就業規則で禁止されてきた兼業・副業の解禁が奨励されることにより、兼業・副業としての起業が新しい働き方の一つとして注目されています。
新たな技術の開発、オープンイノベーションや起業の手段、第2の人生の準備として、兼業・副業としての起業家が増えていくことに期待が高まっています。
起業希望者について男女別の推移を見ると、1997年65.5万人以降、2002年56.4万人、2007年45.5万人、2012年42.8人、2017年45.5万人と女性の起業希望者数が減少傾向にある一方で、全体の起業家に占める女性起業家数は、2007年3.6万人以降2012年4.2万人、2017年4.4万人と増加傾向にあり、近年女性が働き方の一つとして起業を考えるようになっており、女性の起業希望者数は減少しているものの、実際の起業家数は増加している状況です。
(出典)中小企業庁「2019年度 中小企業白書」
起業家の年齢別構成を男女別に見ると、起業家全体に占める49歳以下の起業家の割合は、2007年以降男性ではあまり変化はありませんが、女性起業家では増加傾向で、2017年の49歳以下の起業家割合は、女性が76.2に対し、男性が65.9%となっています。
(出典)中小企業庁「2019年度 中小企業白書」
起業家の業種構成の推移を男女別に見ると、男女共に、近年製造業、卸売業、小売業、飲食サービス業の割合が低下している一方で、「その他のサービス業」の割合が増加傾向で、ITインフラやシェアリングエコノミーを活用した新産業の芽が出始めている状況が推測されます。
(出典)中小企業庁「2017年度 中小企業白書」
スモールM&Aの課題
このように、スモールM&Aが今後増えていく状況ではありますが、M&Aの課題でも触れられていたとおり、M&Aの件数が増加していくためには、買い手と売り手とのマッチングを円滑化することが不可欠であり、マッチング時の課題には、判断時の情報不足で投資リスクを取れないことや仲介等の手数料負担が挙げられています。
特に、スモールM&Aを仲介会社に依頼した場合、売り手側にとっても、買い手側にとっても仲介会社に支払う手数料が割に合わないというケースが多いのが現状です。IT技術の発展により、人材紹介会社やIT系の会社などでインターネットを使ったM&A案件のマッチングサービスも出てきている状況でありますが、当事者同士では金額をはじめとした条件交渉で折り合いがつかない、まとまったとしてもその後のトラブルが多発し、損をしてしまうことが容易に想像できます。