株式移転とは? 概要、メリット・デメリット、手続きの流れと注意点を解説

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株式移転について

株式移転とは、1社または複数社が発行済株式のすべてを新たに設立する完全親会社に取得させ、完全親子会社関係を創設する会社法上の組織再編手法です。既存会社の法人格を維持したまま持株会社を設立でき、単独株式移転と共同株式移転に分かれます。株式交換と異なり、完全親会社が新設会社となる点が特徴です。

持株会社化(ホールディングス化)や複数社による経営統合を検討する際は、再編後のグループ体制、株主構成への影響、会社法・税務上の手続きなどを整理することが重要です。株式移転は、こうした場面で選択肢となる組織再編手法の一つですが、株式交換との違いや反対株主対応、届出義務なども踏まえて設計する必要があります。

本記事では、株式移転の概要、メリット・デメリット、手続きの流れ、税務上の取り扱い、実施時の注意点、代表的な事例についてわかりやすく解説します。
なお、株式取得について詳しく知りたい方は、「株式取得とは?」の記事もあわせてご覧ください。

※株式移転には複雑な法務・税務・財務上の論点が伴うため、実施を検討する際は弁護士、公認会計士、税理士などの各種専門家への相談が推奨されます。

監修者情報

M&Aキャピタルパートナーズ株式会社 執行役員 コーポレートアドバイザリー部長 公認会計士 梶 博義

大手監査法人、事業承継コンサルティング会社を経て、2015年に当社へ入社。 これまで、監査、IPO支援、財務DD、親族承継・役職員承継コンサル等を経験し、当社入社後はM&Aアドバイザーとして活躍。一貫して中小企業の支援に従事し、M&Aのみならず、事業承継全般を得意とする。


株式移転とは

株式移転のイメージ

株式移転とは、会社法第772条以下に規定される組織再編手法であり、1社または複数の会社が、その発行済株式のすべてを新たに設立する会社(株式移転設立完全親会社)に取得させることで、完全親子会社関係を創設する手続きをいいます。

株式移転の特徴は、完全子会社となる既存会社の法人格を維持したまま、その上位に新たな完全親会社を設立できる点です。合併のように会社が消滅するわけではないため、既存の事業・契約・許認可・雇用関係などへの影響を抑えながら、グループ体制を整備しやすい手法といえます。ただし、許認可の内容や契約上のチェンジ・オブ・コントロール条項の有無などは、個別に確認が必要です。

株式移転では、完全子会社となる会社の株主が、保有していた株式と引き換えに、新設された完全親会社の株式を受け取ります。株式交換と同じく完全親子会社関係を創設する手法ですが、株式交換では既存会社が完全親会社となるのに対し、株式移転では新たに設立する会社が完全親会社となる点が異なります。
株式移転には、1社が単独で持株会社を設立する「単独株式移転」と、複数の会社が共同で持株会社を設立する「共同株式移転」の2種類があります。それぞれの内容を順に見ていきましょう。

単独株式移転

単独株式移転とは、1社がその発行済株式のすべてを新たに設立する完全親会社に取得させる手法です。
この場合、完全子会社となる会社の株主全員が、保有株式と引き換えに新設完全親会社の株式を受け取ります。株主の顔ぶれ自体は変わらず、株主が保有する会社が「完全子会社」から「株式移転設立完全親会社」に切り替わる形になるため、株主構成の比率は移転前と同じ状態を維持します。

主な活用場面は、1社が自社をホールディングス化し、事業子会社を束ねる持株会社体制を構築するケースです。グループ経営の効率化や、事業子会社ごとの独立した意思決定体制の整備を目的として用いられることが多いです。

共同株式移転

共同株式移転とは、複数の会社が共同で新たな持株会社を設立し、それぞれの発行済株式のすべてを当該持株会社に取得させる手法です。
この場合、各社の株主は、それぞれが保有していた株式と引き換えに、新設された持株会社の株式を受け取ります。各社の株主がひとつの持株会社の株主として統合されるため、新設持株会社の株主構成は、各社の株式の交換比率(割当比率)に応じた内容になります。単独株式移転とは異なり、移転後の株主構成は変化する点に留意が必要です。

主な活用場面は、同業他社や異業種の企業が、それぞれの法人格を維持したまま経営統合するケースです。合併と異なり各社の独立性が保たれるため、ブランドや既存の取引関係・組織文化への影響を抑えながら統合を進められる点が、特に大規模な経営統合で好まれる理由の一つです。

株式移転の目的

株式移転が活用される主な目的は、大きく「単独株式移転の持株会社化・ホールディングス化」と「複数社による経営統合」の2つに整理されます。それぞれ順に説明していきます。

単独株式移転の持株会社化・ホールディングス化

持株会社化・ホールディングス化は、単独株式移転の典型的な目的といえます。現行の事業会社の上に持株会社(ホールディングス)を設置することで、以下のような効果を追求することができます。

グループ経営の効率化・意思決定の迅速化

持株会社がグループ全体の経営戦略・資本配分・人事方針を一元的に管理することで、グループとしての意思決定を効率化できます。各事業子会社は現場の判断に集中しやすくなるため、事業スピードの向上にもつながります。

事業子会社の独立性確保

持株会社と事業子会社を切り分けることで、各事業子会社が自律的に意思決定を行える体制を整備できます。事業の多角化を進める企業や、異なる業種・市場を持つ複数事業を抱える企業にとって、事業ごとの責任範囲と権限を明確にする効果があります。

グループ内での人事・財務の最適化

持株会社体制のもとでは、グループ内での人材交流や、余剰資金の効率的な再配分が行いやすくなります。グループファイナンス(グループ内の資金を一元管理する仕組み)の整備にも適しています。

新規事業・M&Aへの対応力の向上

持株会社を頂点に置くことで、新たな事業子会社を傘下に加えたり、既存の事業子会社を売却したりといった、グループの組み換えが機動的に行えます。M&Aによる事業拡大や、不採算事業からの撤退を柔軟に実行できる体制を整えやすくなります。

資本政策・事業承継への活用

持株会社化が資本政策や事業承継スキームの一環として検討されるケースがあります。例えば、持株会社を頂点に置くことで株式の分散を防ぎつつ後継者への段階的な移転を設計しやすくなる点や、事業子会社ごとに株式を切り分けることで一部事業の第三者承継を検討しやすくなる点が、実務上の活用理由として挙げられることがあります。ただし、事業承継や相続への効果は個別の状況・税制によって大きく異なるため、具体的な検討にあたっては弁護士、公認会計士、税理士、M&Aの専門家等の各種専門家への確認が必要です。

複数社による経営統合

複数社による経営統合は、共同株式移転の典型的な目的といえます。同業他社または異業種の企業が、それぞれの法人格を維持したまま、共同で設立した持株会社のもとでグループとして統合することができます。

合併を行わずに経営資源を統合できる

合併では消滅会社の法人格がなくなりますが、共同株式移転では各社が事業会社として存続したまま統合を進められます。ブランド・顧客との取引関係・許認可・雇用関係を維持しやすく、従業員や取引先への影響を段階的にコントロールしながら統合を進められる点が利点です。

対等な経営統合を実現しやすい

共同株式移転では、既存のいずれかの会社が親会社になるのではなく、新たに設立した持株会社のもとに各社が対等に並ぶ形をとれます。経営統合にあたって一方が他方を「吸収する」という構図を避けやすいため、当事者間の交渉がまとまりやすいケースがあります。

シナジー効果の追求

異なる顧客基盤・技術・販売チャネルを持つ企業が統合することで、売上の拡大・コストの削減・新たな製品・サービスの創出といったシナジー効果を追求できます。持株会社が全体最適の視点でリソース配分を行うことで、グループ全体の競争力強化につなげることが期待されます。

段階的な統合を選択できる

共同株式移転による持株会社設立はあくまでグループ化の第一歩であり、その後のPMI(統合後プロセス)において、事業・機能・人事の統合をどこまで・どのペースで進めるかを段階的に判断することができます。初期段階では各社の独立性を保ちつつ、時間をかけてグループとしての一体化を深めていくアプローチが取れます。

株式移転と株式交換の違い

株式移転と株式交換の違い

株式移転と株式交換は、いずれも完全親子会社関係を創設するという点で共通していますが、最大の違いは、完全親会社が「新設会社」か「既存会社」のいずれかという点にあります。
株式移転では、新たに設立する会社(株式移転設立完全親会社)が完全親会社となります。一方、株式交換では、すでに存在する会社が完全親会社となります。この違いが、両手法の使われ方にも大きく影響します。

比較項目 株式移転 株式交換
親会社の設立 新たに設立する(新設) 既存の会社が親会社となる(既存)
根拠条文 会社法第772条等 会社法第767条等
当事者数 1社以上(単独・共同) 完全親会社と完全子会社の2社
登記 完全親会社の設立登記が必要 登記事項に変更が生じる場合に変更登記が必要
有価証券届出書等 新設会社の株式交付に伴い、金融商品取引法上の要件を満たす場合に有価証券届出書等の提出が必要。また完全親会社の設立登記に伴う開示手続きも別途発生 既存上場会社が当事者となる場合を中心に、金融商品取引法上の要件を満たす場合に臨時報告書・有価証券届出書等の提出が必要

両手法の選択にあたっては、「すでに持株会社が存在するか否か」、「当事者間の対等性をどう担保するか」、「手続きの複雑さ・コスト」などを総合的に検討する必要があります。

既存グループ内の完全子会社化であれば株式交換が手続き上シンプルな場合が多く、対等な経営統合や持株会社体制の新設であれば株式移転が適しているというのが、実務上の一般的な整理です。ただし、個別の案件では税務・法務・当事者の意向等が複合的に絡むため、弁護士、公認会計士、税理士、M&Aの専門家等の各種専門家に相談して最適な手法を選択することが重要です。

株式移転のメリット

株式移転の主なメリットとしては、次の3点が挙げられます。

それぞれ順に説明していきます。

既存の事業・契約関係への影響を抑えながら統合を進められる

株式移転では、完全子会社となる会社の法人格がそのまま維持されます。合併のように会社が消滅するわけではないため、既存の取引関係・雇用契約・組織体制を大きく変えることなく、グループ再編を進められる点が大きな利点です。従業員や取引先への影響を段階的にコントロールしながら統合を進めやすく、組織文化の摩擦が生じるリスクを抑えることが期待できます。

ただし、許認可の変更届・重要契約に含まれるチェンジ・オブ・コントロール条項・金融機関との融資契約上のコベナンツ等は、個別に内容を確認・対応する必要があります。

現金による買収資金が不要で財務負担を軽減できる

株式移転では、完全親会社は新株を発行し、それを対価として完全子会社となる会社の株式を取得します。現金による買収と異なり、多額の資金を事前に用意する必要がないため、手元資金に余裕がない場合でも組織再編を実施できる可能性があります。
また、完全子会社は別の法人として存続するため、完全親会社が子会社の既存債務を直接引き受けることにはなりません。この点でも財務面のリスクを一定程度切り離せることが利点です。ただし、保証・担保等の関係については個別に確認が必要です。

完全子会社化により意思決定を迅速化できる

株式移転後、完全子会社には少数株主が存在しなくなり、新設の完全親会社が唯一の株主となります。議決権が完全親会社に集約されることで、子会社の経営に関する意思決定を迅速かつ機動的に進めることができます。少数株主との利害調整が不要になるため、グループとして統一した戦略を実行しやすくなる点も利点のひとつです。
なお、株式移転計画の承認自体には株主総会の特別決議(出席株主の議決権の3分の2以上の賛成、かつ必要な定足数の充足)が必要であり、反対株主には株式買取請求権が認められています。

株式移転のデメリット

株式移転は組織再編の有効な手法ですが、主に以下のようなデメリットも存在します。

それぞれ順に説明します。

手続きが複雑で相応の時間とコストを要する

株式移転を実施するには、株式移転計画の作成・事前開示書類の備置・株主総会の特別決議による承認・反対株主への対応・登記申請など、会社法に定められた複数の手続きを順序立てて実施する必要があります。一連の手続きには通常数ヶ月単位の期間を要します。
また、共同株式移転の場合には一定規模以上の組み合わせで独占禁止法上の事前届出が必要になることがあり、公正取引委員会の審査期間も考慮したスケジュール管理が不可欠です。弁護士、公認会計士、税理士、M&Aの専門家等への専門家費用、登記費用、交換比率算定のための第三者評価費用などが発生する点も念頭に置いておく必要があります。

株主構成・議決権比率が変化する(共同株式移転の場合)

共同株式移転では、各社の株主が交換比率に応じた割合で新設持株会社の株式を受け取ります。移転前に各社で持っていた議決権比率が、新設持株会社では異なる構成になる場合があります。この変化により、特定の株主の影響力が変わる可能性があり、経営上の重要な意思決定に対する影響が生じることがあります。
交換比率の算定根拠を株主に対して丁寧に説明し、十分な理解を得ることが重要です。なお、単独株式移転では既存株主の持株比率はそのまま維持されるため、この点は主として共同株式移転に固有の留意点です。

上場会社の場合、市場評価によって株価に影響が生じる可能性がある

完全子会社となる会社が上場会社である場合、統合の発表後に交換比率・期待されるシナジー・統合後のガバナンス体制等に対する市場の評価が株価に反映されることがあります。評価が芳しくなければ株価が下落するリスクもあります。
反対株主は株式買取請求権を行使できます。

買取価格は会社と株主との協議によって定められ、協議が調った場合には株式移転の効力発生日から60日以内に支払う必要があります。株価への影響を最小限に抑えるためにも、統合の目的・期待されるシナジー・交換比率の根拠について、早期かつ丁寧な情報開示と株主との対話を行うことが重要です。

株式移転の手続きの流れ

株式移転を実施する際の、基本的な流れは以下のとおりです。

  1. 株式移転計画の作成
  2. 事前開示書類の備置
  3. 株主総会での承認決議
  4. 反対株主の買取請求への対応
  5. 株券提出手続(株券発行会社の場合)
  6. 登記および効力発生
  7. 事後開示書類の備置

それぞれの段階ごとに、詳しく解説します。

株式移転計画の作成

株式移転を実施するにあたり、まず株式移転計画を作成します。計画書には主に以下の事項を記載します。

  • 株式移転設立完全親会社の目的・商号・本店の所在地・発行可能株式総数
  • 完全親会社の設立に際して発行する株式の数・種類等
  • 完全子会社の株主に交付する完全親会社の株式の数・割当てに関する事項(交換比率)
  • 完全親会社の資本金・準備金の額
  • 完全親会社の取締役・監査役等の氏名

共同株式移転の場合は、関係する各社が共同で計画を作成します。この段階で無理のないスケジュールを設定しておくことが、その後の手続きを円滑に進めるうえで重要です。

事前開示書類の備置

株式移転計画の作成後、株式移転完全子会社は事前開示書類を作成し、本店に備え置く必要があります。備置の開始時期は、①株主総会の日の2週間前の日、②株主または債権者への公告・催告の日のうち、いずれか早い日からとされています。備置期間は株式移転の効力発生日後6か月を経過する日までです。
事前開示書類には、株式移転計画の内容・割当て比率の算定根拠・計算書類の内容などを記載します。株主や債権者が事前に内容を確認できるようにするための手続きです。

株主総会での承認決議

株式移転を実施するには、効力発生日の前日までに株主総会の特別決議によって株式移転計画の承認を得る必要があります。特別決議の成立には、議決権の過半数を有する株主が出席したうえで、出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要です。株主総会の招集通知は、原則として開催日の2週間前までに発送しなければなりません。株主の理解と賛同を得るために、株式移転の目的・交換比率の根拠・期待されるシナジー等について、招集通知の段階から丁寧な説明を行うことが重要です。

反対株主の買取請求への対応

株式移転に反対する株主は、会社に対して株式買取請求権を行使することができます。この権利を行使するためには、株主総会前に反対の意思を会社に通知したうえで、株主総会においても反対の意思表示を行うことが必要です。
買取価格は会社と株主との協議によって定めます。協議が調った場合には、株式移転の効力発生日から60日以内に支払う必要があります。協議が調わない場合は、裁判所に対して価格の決定を申し立てることができます。反対株主が多数に上る場合は資金負担が生じる可能性もあるため、事前の株主説明を十分に行っておくことが重要です。

株券提出手続(株券発行会社の場合)

完全子会社となる会社が株券を発行している場合、株式移転の効力発生日の1か月前までに、株主に対して株券の提出を求める公告・通知を行う必要があります。ただし、株券を実際に発行していない場合や、株主全員から株券を所持していない旨の申出があった場合は、この手続きを省略することができます。事前に株主の状況を確認し、必要かどうかを把握しておくとよいでしょう。

登記および効力発生

新設する完全親会社の設立登記申請を行い、設立登記が完了した時点で株式移転の効力が発生します。完全子会社についても、新株予約権に関する事項など登記事項に変更が生じる場合は、変更登記申請が必要です。
なお、株式移転では、株式移転計画で定めた成立予定日に合わせて設立登記を行い、株式移転設立完全親会社の成立により効力が生じます。そのため、登記申請のタイミングを含めたスケジュール管理が重要です。実務上は司法書士等と連携しながら進めることが一般的です。

事後開示書類の備置

効力発生後は、株式移転完全子会社および株式移転設立完全親会社において、会社法に基づく事後開示書類を備え置く必要があります。事後開示書類には主に以下の事項を記載します。

  • 株式移転の効力発生日
  • 株式移転により完全親会社に取得させた子会社の株式総数
  • 債権者異議手続・反対株主の株式買取請求の経過
  • その他、株式移転に関する重要事項

事後開示書類の備置期間は、効力発生日から6か月を経過する日までとされています。手続き完了後も情報開示義務が続く点を念頭に置き、管理体制を整えておくことが重要です。

株式移転に伴う税務

株式移転の税務については、法人税法上の組織再編税制が適用されます。税務上の取り扱いは、「適格株式移転」に該当するかどうかによって大きく異なります。

適格株式移転

法人税法上の適格要件を満たす場合、完全子会社において資産の時価評価課税が行われません。含み益のある資産を保有していても、株式移転の時点では法人税が生じないことが大きなメリットです。適格要件は、株式移転前後の支配関係の状況によって異なり、主に①100%支配関係がある場合、②50%超の支配関係がある場合、③共同事業要件を満たす場合の3類型に整理されます。それぞれ求められる要件が異なるため、詳細は必ず税理士等の専門家にご確認ください。

非適格株式移転

適格要件を満たさない場合、完全子会社において一定の資産の時価評価が行われ、含み益がある資産を多く保有している場合は法人税負担が生じる可能性があります。適格・非適格の判定や具体的な課税関係は個別の状況によって異なるため、実施前に必ず公認会計士、税理士等の各種専門家への確認が推奨されます。

株式移転の注意点

株式移転には、主に以下のような注意点があります。

一つずつ見ていきましょう。

有価証券届出書等の提出が必要な場合がある

株式移転の規模や対象会社の継続開示状況等によっては、金融商品取引法に基づき、有価証券届出書・臨時報告書等の開示書類の提出が必要となることがあります。提出が必要な書類の種類や要件は個別の状況によって異なるため、事前に証券法務に詳しい専門家への確認が推奨されます。

債権者保護手続が必要な場合がある

株式移転では完全子会社の法人格がそのまま維持されるため、原則として債権者保護手続は不要です。ただし、完全子会社が新株予約権付社債を発行しており、完全親会社がその社債に係る債務を承継する場合には、例外的に債権者保護手続が必要となります。
手続きの内容は、1か月以上の期間を設けたうえでの官報公告・個別催告の実施、および異議のある債権者への弁済・担保提供等の対応です。

実施できるのは株式会社のみ

株式移転の完全子会社となることができるのは株式会社に限られます。特例有限会社は株式移転によって完全子会社となることができないため、株式移転を行う場合は事前に組織変更によって株式会社へ転換する必要があります。

独占禁止法上の事前届出が必要な場合がある

共同株式移転を行う場合、以下の両要件を満たすときは独占禁止法に基づき、公正取引委員会への事前届出が義務付けられています(同一企業結合集団内の場合など届出不要となるケースもあります)。

  • いずれか1社の国内売上高の合計額が200億円超
  • 他のいずれか1社の国内売上高の合計額が50億円超

届出後は原則として30日間(短縮可能)の待機期間があり、審査完了まで株式移転を実施することはできません。スケジュール策定の際は、この審査期間を十分に見込んでおく必要があります。

株式移転の事例

ここでは、株式移転における代表的な事例を3点紹介します。各社の狙いも合わせて確認していきましょう。

株式会社新日本建物と株式会社タスキ

2023年11月に共同株式移転による経営統合を発表し、2024年4月1日付で持株会社「株式会社タスキホールディングス」が設立されました(東京証券取引所グロース市場に上場)。

新日本建物は東京23区を中心に自社ブランドのマンション開発・販売事業を、タスキは同じく東京23区を中心に投資用IoTレジデンスの開発・販売事業を展開しています。両社は、不動産価値流通におけるネットワーク・ノウハウの相互活用やリソースの共同利用によるコスト競争力の向上などを目的として、共同株式移転による経営統合を選択しました。

菱洋エレクトロ株式会社と株式会社リョーサン

2024年4月1日付で、共同株式移転により持株会社「リョーサン菱洋ホールディングス株式会社」が設立されました(東京証券取引所プライム市場に上場)。

菱洋エレクトロは半導体・デバイスやICT製品の販売を、リョーサンはデバイスの販売とソリューション事業を展開しており、ともに独立系半導体商社として業界で存在感を持つ企業です。IoTやDXの加速による業界環境の変化・商社間競争の激化・地政学リスクの高まりを背景に、両社の強みを融合してバリューチェーン全体の価値向上を図ることを目的として統合を決断しました。

株式会社リケンと日本ピストンリング株式会社

2023年10月2日付で、共同株式移転により持株会社「リケンNPR株式会社」が設立されました。

リケンはピストンリング・シリンダーライナー等のエンジン部品を、日本ピストンリングはピストンリング・カムシャフト等の自動車部品を製造・販売しており、同一市場で競合関係にあった両社が経営統合した事例です。電動化(EV化)をはじめとする自動車業界の大変革への対応や、脱炭素の潮流を踏まえた次世代コア事業の育成を目的として、共同株式移転による持株会社設立を選択しました。

まとめ

株式移転は、新たに完全親会社(持株会社)を設立することで完全親子会社関係を創設する組織再編手法であり、持株会社化(ホールディングス化)や複数社による経営統合に広く活用されています。既存の会社の法人格が維持されるため、事業継続性への影響を最小限に抑えながらグループ体制を整備できる点が大きな特徴です。

一方で、会社法に定められた複雑な手続きが必要であること、適格要件の確認を含む税務上の検討が不可欠であること、場合によっては独占禁止法上の届出が必要になることなど、専門的な知識と準備が求められます。 M&Aや事業承継の一環として検討する際は、目的と手続き全体を整理し、必要に応じて専門家の支援を受けながら進めることが重要です。

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よくある質問

  • 株式移転とは何ですか?
  • 株式移転とは、1社または複数社が発行済株式のすべてを新たに設立する完全親会社に取得させ、完全親子会社関係を創設する組織再編手法です。持株会社化や複数社による経営統合で用いられます。
  • 単独株式移転と共同株式移転の違いは何ですか?
  • 単独株式移転は、1社が新たに完全親会社を設立する手法です。共同株式移転は、複数の会社が共同で新たな持株会社を設立する手法です。共同株式移転では、各社の株主が交換比率に応じて新設持株会社の株式を受け取ります。
  • 株式移転と株式交換の違いは何ですか?
  • 株式移転では、新たに設立する会社が完全親会社になります。株式交換では、すでに存在する会社が完全親会社になります。新たな持株会社を設立するか、既存会社を親会社にするかが大きな違いです。
  • 株式移転はどのような目的で使われますか?
  • 株式移転は、単独株式移転では持株会社化やホールディングス化、共同株式移転では複数社による経営統合を目的に用いられます。グループ経営の効率化、事業子会社の独立性確保、M&Aや事業承継への対応などにも活用されます。
  • 株式移転のメリットは何ですか?
  • 株式移転のメリットは、既存会社の法人格を維持しながら統合を進められること、現金による買収資金を用意せずに組織再編を行えること、完全子会社化により意思決定を迅速化しやすいことです。
  • 株式移転のデメリットは何ですか?
  • 株式移転の主なデメリットは、手続き面・株主構成・株価影響の3点です。株式移転計画の作成から株主総会の特別決議・登記申請まで会社法上の複数の手続きが必要で、通常数か月単位の期間と専門家費用等のコストを要します。また、共同株式移転では各社の交換比率に応じて株主構成・議決権比率が変化するため、経営上の意思決定に影響が生じる場合があります。さらに、完全子会社となる会社が上場会社の場合は、統合に対する市場評価によって株価に影響が生じる可能性があり、反対株主から株式買取請求権が行使されるケースもあります。
  • 株式移転の手続きはどのように進めますか?
  • 株式移転は、株式移転計画の作成、事前開示書類の備置、株主総会での承認決議、反対株主の買取請求への対応、株券提出手続、登記および効力発生、事後開示書類の備置という流れで進みます。
  • 株式移転の税務では何を確認する必要がありますか?
  • 株式移転では、法人税法上の適格株式移転に該当するかを確認する必要があります。適格要件を満たす場合は完全子会社で資産の時価評価課税が行われませんが、非適格の場合は含み益のある資産に法人税負担が生じる可能性があります。

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