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株式移転は企業の組織再編や事業拡大の際に検討される手法の1つです。
よく、株式交換と混同される方も多い株式移転ですが、株式移転だからこそのメリットやデメリットがあります。
この記事では、株式移転のメリットやデメリット、手続きの方法などについて解説しています。
このページのポイント
~株式移転とは?~
株式移転とは、2社以上の会社がその発行済株式の全てを会社(株式会社)に取得させる手法であり、正式には共同株式移転という。買い手企業は買収の対価として新株を発行すればよく、買収資金が不要であり、買収対象企業の株主の3分の2以上の賛成が得られれば、少数株主を強制的に排除して100%子会社化することができる点がメリットだが、買い手企業が上場企業の場合、1株当たり利益が減少し株価が下落したり、買収対象企業の株主が買い手企業の株主となるため、買い手企業の株主構成が変化してしまうなどのデメリットもある。
目次
株式移転とは?
株式移転とは、2社以上の会社がその発行済株式の全てを会社(株式会社)に取得させる手法であり、正式には共同株式移転といいます。なお、株式移転は1社のみでも行うことができますが、これは単独株式移転といいます。株式移転により、当事会社を完全子会社とする完全親会社(持株会社)が設立されます。
株式移転のメリット
- 買い手企業は買収の対価として新株を発行すればよく、買収資金が不要。
- 買収対象企業の株主の3分の2以上の賛成が得られれば、少数株主を強制的に排除して100%子会社化することができる。
- 買収後も買収対象企業は別法人として存続するため、早急な経営統合を行わなくてもよい。
株式移転のデメリット
- 買い手企業が上場企業の場合、1株当たり利益が減少し株価が下落するリスクがある。
- 買収対象企業の株主が買い手企業の株主となるため、買い手企業の株主構成が変化してしまう。
株式移転の主要な手続き
基本的には株式交換とほぼ同様の手続となります。株式移転によって完全子会社の財産流出はないことから、原則として債権者保護手続は不要となります。
主な手続 | 内容 | 関連条文(会社法) |
---|---|---|
株式移転計画の作成 | 共同株式移転を行うにあたり、株式移転計画を共同で作成する。株式移転計画承認の取締役会決議を要する。 |
772条 773条 |
事前開示書類の備置 | 株式移転計画などの法定開示事項を記載した事前開示書類を株主総会の日の2週間前の日、株主または債権者ヘの公告通知 催告の日のいずれか早い日より備置する。 | 803条 |
株主総会 | 株式移転完全子会社は、効力発生の前日までに株主総会において株式移転計画の承認を要する。原則として特別決議を要する。 | 309条2項12号 804条 |
反対株主の買取請求 | 事前に反対の意思を表明した株主等は、当事会社に対して公正な価格で買取りを請求することができる。請求できる期間は効力発生日の20日前から前日まで。 | 806条 |
株券提出手続 | 株式交換完全子会社が株券発行会社の場合、効力発生日の1か月前までに、効力発生日までの株券提出を求める公告を行う。 | 219条1項8号 |
効力発生および登記 | 株式移転完全親会社はその本店所在地で設立登記をすることにより成立する。完全親会社成立により、株式移転の効力が発生し、完全親会社は完全子会社株式の全部を取得する。 | 915条 925条 |
事後開示書類の備置 | 株式移転の日から6か月間、完全親会社および完全子会社は、株式移転の結果等を記載した事後開示書類を本店に備置する。 | 811条 815条3項3号 |
株式移転 税務上の留意事項
株式移転の税務については、株式交換と同様、適格株式移転に該当するか否かで、課税上の取扱いに大きな違いがあります。また、持株会社化後に連結納税制度を導入する場合には、完全子会社の資産の時価評価課税が不要となるとともに繰越欠損金の持ち込みが可能なスキームとして、適格株式移転を検討することが多いです。
①完全子会社における税務上の取扱い
適格要件を満たす株式移転(適格株式移転)の場合、完全子会社の資産の評価替えは行われません。
非適格株式移転の場合には、完全子会社の時価評価対象資産について時価評価を行い、その結果生じた損益について完全子会社において課税されます。
例えば、2つの会社による共同株式移転について適格要件を満たさない場合には、当該2つの会社(完全子会社)はそれぞれ時価評価課税されます。
②完全親会社における税務上の取扱い
完全親会社では、完全子会社株式を受け入れるのみであり、株式移転により直接課税関係が生じることはありません。ただし、適格株式移転か否かにより完全子会社株式の取得価額が異なります。
適格株式移転の場合には、完全子会社株式の受入価格は、完全子会社の簿価純資産(ただし、完全子会社株主が50名未満の場合には、当該株主の完全子会社株式の帳簿価額の合計額)となります。
一方で、非適格株式移転の場合には、原則として取得価額は交付される財産の時価となります。
③完全子会社の株主における税務上の取扱い
株式交換と同様、対価が株式のみの場合には、完全子会社株式を帳簿価額により譲渡したとみなされることから、譲渡損益は計上されません。
一方、対価として株式以外(金銭等)が交付される場合には、完全子会社株式は時価で譲渡したこととなり、譲渡損益が計上されます。
④株式移転と連結納税
株式移転を行った後に連結納税制度を採用する場合、連結納税開始時の株式移転に係る完全子会社の資産に対し時価評価課税は免除されます。
また、完全子会社が有していた繰越欠損金について、連結欠損金として処理することが特例として認められています(ただし、一定の要件を満たさない場合には、当該完全子会社が保有している繰越欠損金の利用は、法人の個別所得の範囲に制限されます)。
このため、適格株式移転は、完全子会社の時価評価課税の回避と、連結納税を採用する場合の繰越欠損金の持ち込みを可能にする手法として、M&Aおよびグループ組織再編の際に採用されるケースもあります。
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