持株会とは? 仕組みや目的、メリット・デメリットを解説

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近年、持株会(従業員持株会)を導入する企業が増えつつあります。持株会の導入は従業員のモチベーション向上や安定株主の確保など会社にとってメリットが期待できます。一方で配当金の負担などのデメリットもあるため、その仕組みを理解したうえで慎重に導入するのが肝要です。
この記事では、持株会の概要や仕組み、従業員と会社それぞれの視点から見るメリット・デメリットを解説します。導入時のポイントも紹介しますので、参考にご活用ください。

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1. 持株会とは

持株会とは イメージ画像
持株会とは、従業員持株会とも呼ばれ、 従業員から会員を募り、会員に毎月支払われる給与や賞与などから天引きされる拠出金を原資とすることで自社株を共同購入し、会員の拠出金額に応じて持分を配分する制度です。
会社に従業員持株会が導入されていても、その加入は義務的ではなく従業員の任意となります。また、従業員持株会の会員資格は、あくまで「当該会社の従業員」が対象となり、取締役や執行役といった経営陣は持株会の会員となることができない点に留意が必要です。
なお、持株会は従業員が自社の株式を有することから、長期的に自社の株式を保有する安定株主を確保できる制度であるともいえます。多くの従業員が持株会に加入すれば、それだけ安定株主が増えるため、安定的な企業経営を目的として持株会を導入する会社も少なくありません。

2. 持株会の仕組み

持株会の仕組みは、従業員が自社の株式を共同購入し保有することで、決められた割合の奨励金や配当金が従業員に還元される仕組みです。一般的に、株式は資金調達目的で発行されるため、入会を希望する従業員の給与や賞与などから既定の掛け金を天引きして株式を購入する方法がとられています。
なお、従業員持株会は上場企業に限らず非上場企業でも運営されており、この場合は、企業から配当を受けることになります。

3. 持株会のメリット

ここからは、持株会がもたらす主なメリットを従業員視点、企業視点に分けて解説します。

3-1. 従業員視点のメリット

従業員が持株会に入会すれば配当金やキャピタルゲインを得られるだけでなく、次のようなメリットがあります。

  • 奨励金が貰える
  • 株式を少額から購入できる
  • インサイダー取引が適用外

奨励金が貰える

従業員が持株会に参加するうえで最大のメリットとなるのが奨励金です。奨励金とは、従業員が自社株を購入する際、会社が一定割合の金額を上乗せしてくれ、その分、株式を多く購入できる仕組みです。持株数が多いほど、業績が伸びたときに配当金を多く得られます
持株会を導入している企業の約9割が奨励金制度を採用しており、一般的には、5~10%の割合の奨励金を出しています。

株式を少額から購入できる

自社の株式を少額からでも購入できる点も持株会のメリットです。
2018年10月から、全国の証券取引所に上場している全株式の取引単位が100株単位(1単元)に統一されました。1株あたりの金額が高い場合、投資したいと思ってもまとまったお金が必要となり、なかなか手を出せないというケースも少なくありません。持株会では1株から購入できるため、毎月一定の金額で自社株を購入できるメリットが大きく表れます。
一般的な最低拠出額は1,000円〜数千円程度と、1,000円単位で購入できる場合が多く、毎月の積み立てにより中長期的な資産形成ができる点も魅力といえるでしょう。

インサイダー取引が適用外

持株会は会社の計画に基づいた定期的な株式の買い付けであるため、インサイダー取引に関する規制は適用されません。インサイダー取引とは、会社関係者が株価に影響を与える非公開情報を知りながら、自社株式の売買を行うなどの公平性を害する取引のことであり、持株会はその適用外となります。
ただし、未公表とされている重要事実を知りながら持株会拠出額の増加や新規加入を行った場合には、インサイダー取引が適用となるため注意が必要です。

3-2. 会社視点のメリット

持株会社を導入することに対する会社視点のメリットは次の通りです。

  • 福利厚生・従業員のモチベーションアップにつながる
  • 持株会が安定株主になる
  • 事業承継対策になる

福利厚生・従業員のモチベーションアップにつながる

持株会の運営は、従業員に対して奨励金などの便宜を図り、中長期的な資産形成を支援する制度であるため、独自的な法定外福利厚生として位置づけられ、多くの企業で採用されています。
福利厚生の充実は対外的な評価や従業員の満足度にもつながりやすいメリットがあります。また、会社の業績が配当金として還元されるため、従業員のモチベーションアップにもつながります。

持株会が安定株主になる

企業にとって、持株会に加入している従業員は長期的に自社株を保有してくれる安定した株主とみなすことができます。一般的に、従業員持株会は自社で働いている従業員が株主になっており、言い換えると自社の経営方針に概ね賛同している株主です。
企業視点からは、多数の従業員が持株会に加入するほど安定株主を多く獲得できるため大きなメリットになります。

事業承継対策になる

持株会の運営は事業承継時の対策としても活用できます。
中小企業の株価が高くなると、事業承継時や相続などで支払う株式取得の対価も高額となってしまうため、いざというときに備えて対策をしておくと安心です。そこで活用できるのが持株会です。
持株会が自社株を保有すれば、経営陣が保有する株式比率が下がります。あらかじめ持株会を組織して自社株を分散させておけば、経営者の所有する株式の割合を低下させて相続対象となる株式を減らせるため、相続税の対策が可能となります。

4. 持株会のデメリット

続いて、持株会がもたらす主なデメリットを従業員視点、企業視点に分けて解説します。

4-1. 従業員視点のデメリット

持株会社を導入することに対する従業員視点のデメリットは次の通りです。

  • すぐに売却できない・任意のタイミングで購入できない
  • リスク分散ができず会社への依存度が高い
  • 株主優待がもらえない

すぐに売却できない・任意のタイミングで購入できない

持株会を通じて購入した株式は、通常の市場で行われる株式投資のように任意のタイミングで売ることができません。また、株を売買する際は、最低売買数量である1単元ごととなるため、1単元未満株を現金化するには、持株会を解約して買い取ってもらう手続きが必要となります。
このような手続きは時間がかかるので、持株会で購入した株式をすぐに売却したい場合であっても、すぐには対応できない点に留意しましょう。また、通常の株式投資のように任意のタイミングで購入できないため、狙いどおりのキャピタルゲインを受け取るのが難しくなってしまいます。

リスク分散ができず会社への依存度が高い

持株会ではリスク分散ができず、会社の業績への依存度が高まる点もデメリットです。会社の業績低下に伴い、株価も下落するケースは少なくありません。また、給与や賞与が下がる可能性もあるでしょう。このような状態では保有財産が目減りしてしまい、最悪の場合には勤務先が倒産し、収入と資産を共に失う事態も想定されます。
投資を成功させる原則はリスク分散を行うことです。持株会では、収入と資産の両方を会社に依存する形となるため、従業員が十分なリスク分散ができなくなる点には留意しましょう。

株主優待がもらえない

持株会では株主優待がもらえない点もデメリットです。多くの会社では、商品の割引券やサービス券、自社商品の詰め合わせなどの株主優待を実施しており、株主優待を目的とする人も少なくありません。
従業員持株会は、自社株の購入を個人名義の証券口座で行っているわけではなく、持株会の名義で行う制度です。従業員が持株会を通じて株式を購入しても株主優待は受けられない点に注意が必要です。

4-2. 企業視点のデメリット

持株会社を導入することに対する会社視点のデメリットは次の通りです。

  • 配当を出し続けなければならない
  • 従業員のモチベーション低下につながる恐れがある
  • 議決権などさまざまな権利を行使される可能性がある

配当を出し続けなければならない

持株会は、その制度上、たとえ業績が悪化したとしてもある程度の配当金を出し続けないといけません。業績悪化により無配当とした場合、従業員のモチベーションや会社への信頼度の低下の恐れが生じるからです。
一方、キャッシュフローに余裕が無いのに配当金を支払うケースでは経営の悪化が懸念されます。このような事態でも配当金を出し続けなければならないのはデメリットといえるでしょう。

従業員のモチベーション低下につながる恐れがある

持株会への従業員の加入は、業績が良い時には良い影響を与える一方で、業績が悪化すればモチベーション低下につながるリスクもあります。なぜなら、業績悪化に伴い株価が低迷すれば、従業員の保有財産は目減りしてしまい、業務意欲が低下する可能性があるからです。
無配当とする場合にも、従業員のモチベーション低下は免れないでしょう。

議決権などさまざまな権利を行使される可能性がある

持株会が株式を購入すれば、通常の株主と同様に持株比率に応じた議決権などのさまざまな権利が付与されます。
会員に権利を与えることがすぐに経営に大きな影響を及ぼすわけではありません。しかし、安定した経営を実現させるためには、持株会会員の議決権行使に関する影響について理解しておく必要があるでしょう。

5. 持株会制度導入のポイント

持株会制度を自社に導入する際は、次のポイントを抑えることが肝要です。

  • 配当金の支払い基準・買取価格を明確にする
  • 導入は慎重に判断する

5-1. 配当金の支払い基準・買取価格を明確にする

持株会制度を導入する際は、配当金の支払い基準や買取価格を明確にしておくことが大切です。自社株は第三者に売却できないため、持株会の会員は配当によるリターンしか得られません。配当金の割合が不明確な場合には会員に不信感や不安が生まれ、結果的に、持株会の運営や業務にも支障が生じる恐れがあります。
買取価格に不満を募らせるようなトラブルも同様に避けた方が良いため、規約などにおいて配当金の支払い基準や価格の算出基準を明記しておくのが肝要です。また、持株会に参加できる条件を従業員に明示しておくことも大切でしょう。

5-2. 導入は慎重に判断する

持株会は、長期的な運営となることが想定されるため、安易な導入は避け、計画的に行うことが肝要です。会員となった従業員とのトラブルにつながらないよう、仕組みを検討したうえで、慎重に計画を進めましょう。会員候補となる従業員には、事前に説明の機会を設けて持株会のメリット・デメリットを理解してもらうのも大切です。
また、広く会員を集めるために、持株会の導入時は従業員に対してオープンで透明性のある経営への納得感を醸成させておくことも重要な要素といえるでしょう。

6. M&A実施の際に持株会はどうなる?

M&Aが実施されて会社が売却されると、持株会が保有する株式も買い手企業へ売却されます。その結果、会員たる従業員はその株式の対価を受け取ります。
なお、持株会は組合という組織形態で成り立っているため、株式売却の際は会員全員の同意を得るか、持株会を解散して清算手続きを実施しなければなりません。新規で持株会の導入を検討している場合は、将来的なM&Aの機会を見越して計画立案しておくと、実際にM&Aを行うことになった場合に、持株会の売却や解散を円滑に進められるでしょう。

7. まとめ

持株会は、従業員に自社の株式を共同購入してもらい、拠出金額に応じた持分に従い配当金などを支払う制度です。持株会の仕組みは安定的な株主の確保につながるため、導入する企業が増加傾向にあります。
事業承継の対策として持株会を活用する場合は、持株会の設立と事業承継の準備を並行して行うことが大切です。ただし、事業承継には専門的な知識が必要となるため、深い知見を有するM&Aの専門家への相談がおすすめです。
東証プライム上場の信頼とM&A仲介業界において多くの実績を有するM&Aキャピタルパートナーズでは、M&Aに関するさまざまなご相談を承っております。持株会の設立と事業承継の準備に関するお悩みをお持ちの経営者様は、ぜひお気軽にご相談ください。

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持株会に関するよくある質問

ここからは、持株会に関して多く寄せられるご質問とその回答をご紹介します。
  • 従業員の退職時に株式はどうなる?
  • 持株会の会員は自社の従業員に限られるため、従業員の退職時には持株会も退会しなければなりません。当該従業員が所有する株式が上場株式の場合は、持株会の事務を委託する証券会社を通じ、単元株相当額について退職者の名義に書き換えられ、個人口座に預け入れられます。

  • 持株会がインサイダー取引に抵触するケースは?
  • 持株会による一定の計画に従った定期買い付けは、原則的にインサイダー取引規制の適用外となります。しかし、未公表であるとされる重要事実を知ったうえで持株会拠出額を増加させたり新規加入を行う場合はインサイダー取引に抵触します。

  • 持株会の退会後、再入会はできるか?
  • 持株会の退会後、原則として再入会はできません。なぜなら日本証券業協会では、「持ち株制度に関するガイドライン」を定めており、一度退会したものは原則として再入会することができないものと規定されているからです。なお、持株会規約や運営細則により再入会が認められている場合は、例外的に再入会が可能です。

  • 持株会に参加する従業員の数には制限があるか?
  • 持株会に参加する従業員の数には最低の制限が設けられています。具体的には、持株会は民法上の組合の形態をとることから2名以上となります。

  • 持株会制度は日本企業でどれくらい普及しているか?
  • 2022年6月に東京証券取引所が公開した「2020年度 従業員持株会状況調査結果」によると、日本企業において上場企業の86%にあたる3,239社が持株会制度を導入しているとされています。

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監修者プロフィール
M&Aキャピタルパートナーズコーポレートアドバイザリー部長 梶 博義
M&Aキャピタルパートナーズ 
コーポレートアドバイザリー部長
公認会計士梶 博義

大手監査法人、事業承継コンサルティング会社を経て、2015年に当社へ入社。
これまで、監査、IPO支援、財務DD、親族承継・役職員承継コンサル等を経験し、当社入社後はM&Aアドバイザーとして活躍。一貫して中小企業の支援に従事し、M&Aのみならず、事業承継全般を得意とする。

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