自己株式とは? 概要、取得及び保有の目的、メリット・デメリット、手続などについてわかりやすく説明

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日本の会社間におけるM&A(Mergers and Acquisitions、合併・買収)の動きは、近年、増加していますが、M&Aを実施する過程において、自己株式を利用することがあります。
本記事では、自己株式の概要、取得及び保有の目的、メリット・デメリット、取得手続などについて、詳しく説明します。
自己株式についての理解を深めるために、本記事をお役立てください。
なお、本記事に記載されている内容は現行法制度上のものであり、今後法改正等で変更される可能性があることにご留意ください。

このページのポイント

~自己株式とは?~

株式会社である自社が発行した株式のことであり、自己株式の取得とは、市場に流通している自社株式を自己で買い戻すことをいう。自己株式を取得及び保有する目的としては、「M&Aの対価として用いる」「敵対的買収を防ぐ」「株価の低迷を改善・防止する」以上の3つが主なものである。

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1. 自己株式とは

自己株式とは、株式会社である自社が発行した株式のことをいいます。そして、自己株式の取得とは、市場に流通している自社の株式を自ら買い戻すことをいいます。
自己株式は一度取得したら、期限などなく保有し続けることができます。
ただし、自己株式には普通株式が保有しているような共益権(株式総会での議決権など)は認められていません。自己株式に認められているのは、経済的利益を受け取ることができる自益権のみです。
日本で最初に商取引を規定する法律である商法が定められたのは明治時代です。
その当時は自己株式の保有は原則として禁止されていました。しかし、1938年の商法改正をきっかけに徐々に規制が緩和されていき、2001年の旧商法改正で遂に自己株式の保有は合法化となりました。さらに2006年には商法が会社法へと代わり、現在では自己株式の取得は会社法155条に触れない限り原則としてできることとなっています。

2. 自己株式を取得及び保有する目的

自己株式を取得及び保有する目的には主に、以下の5つが挙げられます。

2-1. M&Aの対価として用いる

M&Aを行う際には、会社同士での資金のやり取りだけでなく株式譲渡や株式交換などが行われます。そのような場合に、対価として自己株式を利用することで、新株発行の手間やコスト、株式の増加による価値の希薄化も防ぐことができます。

2-2. 敵対的買収を防ぐ

自己株式を取得すると、自社の持ち株比率が上昇し敵対的買収者の株式取得割合が低下します。また、自己株式の取得により株価が上昇することも相まって、相場よりも高額で買収しなければなくなります。
このように、買収のハードルが上がることで買収者の意欲が削がれ、敵対的買収を防ぐことができると考えられます。

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2-3. 自社株の価値が高まり、株価の低迷を改善・防止ができる

既に流通している自己株式を取得すると、市場で売られる株式数が減るため、相対的に1株あたりの価値が上昇します。このため、自己株式を取得すると株価の低迷の改善が期待できます。

2-4. 事業承継を成功させるため

事業承継対策を目的とした自己株式取得は、非上場会社で広く活用されています。そもそも会社を引き継ぐ後継者には、株式相続に際して多額の相続税が課されます。しかし、多くの手元現金がない状態でも相続税が課されてしまう点は、事業承継において大きな課題とされています。
このような問題に対して、会社側が後継者から自己株式を取得する行為が解決策となります。自己株式を取得する際、会社は後継者に対して買収対価として現金を交付します。つまり、後継者は自己株式を現金化し、納税資金に充当できます。

2-5. 持ち株比率に影響を与えるため

自社の株主の持株比率を変更するために、自己株式を取得する会社も見られます。そもそも株主は、持株比率に応じて下表のような権利を行使することが可能です。

持株比率 行使できる主な権利
3%以上 ・会計帳簿などを閲覧できる権利
・株主総会の招集を請求できる権利
・取締役や監査役の解任を請求できる権利
10%以上 株式会社の解散を請求できる権利
33.3%以上 株主総会における以下の決議(特別決議)を単独で阻止できる
・定款の変更
・増資・事業譲渡・株式交換などの承認
・自己株式の取得
・相続人への株式売渡請求
50%以上 株主総会における以下の決議(普通決議)を単独で決められる
・経営権の取得
・剰余金の配当
・各種計算書類の承認
・取締役や監査役の選任と解任および報酬額の決定
66.6%以上 株主総会における以下の決議(特別決議)を単独で決められる ・定款の変更
・増資・事業譲渡・株式交換などの承認
・自己株式の取得
・相続人への株式売渡請求

このように、株式の保有割合が高まるほど、株主は大きな権利を行使できるようになります。こうした事情を踏まえて、自己株式は、上記のような権利を特定の株主が行使することを防ぐ目的で利用される場合もあります。

3. 自己株式のメリットとデメリット

次に自己株式の利用によるメリットとデメリットについて順に説明します。

3-1. 自己株式のメリット

自己株式のメリットは、前述した目的で得られる具体的な効果となり、主に以下の3つがあります。

  • 敵対的買収への防衛目的であれば、買収防衛のメリットが期待できる
  • 株価対策が目的であれば、株価上昇のメリットが得られる
  • 事業承継対策が目的の場合、後継者により多くの現金を残せるメリットがある

自己株式を取得する際は、目的やメリットをあらかじめ把握しておくことが重要です。

3-2. 自己株式のデメリット

自己株式取得により起こるデメリットは、主に以下の3つがあります。

  • 資金繰りが悪化する
  • 処分に手間がかかる
  • 税負担が重くなる

それぞれ順に説明します。

資金繰りが悪化する

自己株式取得における最大のデメリットは、資金繰りが悪化する点です。自己株式を取得する際、会社側は対価として現金を支払わなければなりません。対価の金額は取得数や株価などにより変動しますが、多額の資金が必要となる可能性もあります。自己株式を取得するにあたって、資金繰りが悪化してしまっては元も子もありません。自己株式を取得する際は、十分な資金力と財政状態の安定性が確保できている必要があります。

処分に手間がかかる

自己株式における2つ目のデメリットは、処分に手間がかかる点です。自己株式を取得したら、いずれは処分の手続きが必要です。自己株式を処分するには、取締役会の決議など煩雑な手続きを経る必要があります。

税負担が重くなる

自己株式取得を進めていくにあたり、取得価額によってみなし配当が発生する場合があります。みなし配当は会社法上、配当には分類されませんが、税務上は剰余金の配当と同じ扱いになります。この場合、課税方式は総合課税となり、所得が増加するにつれて税率も上がるため、結果として自己株式取得を行うことで税負担が重くなるのはデメリットといえます。

4. 自己株式の取得手続

次に自己株式取得の手続き方法について紹介します。手続き方法は主に4つあります。

4-1. 市場取引による方法

市場取引とは、市場に流通している自己株式を購入するという方法です。
最も簡単な方法ですが、市場に既に株式が流通している、つまり上場会社であることが前提となります。もし上場している会社であれば、市場取引で自己株式を取得するのが最も手早く済む方法です。

4-2. TOB(株式公開買付)による方法

TOBとは、期間や買取額を公表して不特定多数の株主から自己株式を購入・取得する方法です。
取引所を介さずに多数の自己株式を取得して株価に影響を与えないために金融商品取引法において規定されている取得方法であり、上場していない会社でも実施することができます。

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4-3. すべての株主から取得する方法

既に自社株を取得している株主から証券市場を介さず株式を買い取る方法です。
相対取引とも呼ばれており、証券取引所などで株取引ができない非上場会社が主に利用します。

4-4. 特定の株主から取得する方法

特定の株主のみを対象に自己株式を取得する方法もあります。 この場合は、対象となる株主とそれ以外の株主の公平性を保つためにも株主総会の特別決議が必須となっています。 また、対象外の株主も会社に対して売主に追加するように請求することも可能となっています。

5. 自己株式取得に関する規制

自己株式取得に関しては、会社法上、財源規制が設けられています。具体的には、取得時点における分配可能額の範囲内でしか、自己株式を取得することはできません。分配可能額の計算は複雑ですが、概ね剰余金の範囲で計算されますので、以下の計算式となります。
「剰余金の額=その他資本剰余金の額+その他利益剰余金の額」
財源規制が設けられていないと、資金繰りに困った会社が自己株式を取得することで、資産が流出し続けることになります。これにより、債権者が損害を負うことになります。この点が資本維持の原則に反しているため、財源規制によって取得することができる総量が決まっているのです。
ただし、以下のようなケースでは、自己株式取得にかかる財源規制の適用はありません。

  • 単元未満株式の買取請求に応じる場合
  • 無償取得する場合
  • 他の会社の事業の全部を譲受により取得する場合
  • 吸収合併や吸収分割による承継の場合

6. 自己株式取得の会計処理

自己株式を取得した際の会計処理は、企業会計基準第1号「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準」に従って進めていきます。会計上は資本取引となり、仕訳勘定科目は「自己株式」として取得原価を帳簿に記載します。また、自己株式を取得したときは、「純資産の部」からの間接控除となります。
ここからは具体的な自己株式取得の例をもとに説明します。
(例)自己株式1,000株を1株あたり2,000円で取得し、取得代金を現金で支払った。
はじめに、資産として増加する自己株式の総額を計算します。
自己株式の計上額=1,000株×2,000円=2,000,000円(純資産の控除)
その一方で、支払う取得代金は、下記のとおり計算されるのです。
取得代金=1,000株×2,000円=2,000,000円(資産の減少)
<仕訳>
【借方】自己株式 2,000,000円/【貸方】現金預金 2,000,000円
なお、自己株式の取得に手数料を要した場合、費用の発生として借方に仕訳し、会計処理上は営業外費用として処理します。

7. 自己株式取得の税務処理

原則として、株式を取得した会社側では課税対象となることはありません。
ただし、株主から株式を時価の半額以下で取得した場合は、時価と取得額の差額を受贈益とみなされ課税対象となります。
なお、株主への払戻を行う際に、利益積立金額からの払戻があった場合はこれを「みなし配当」とし、税務上は配当とみなして取り扱われます。
ただし、市場取引によって取得した場合はみなし配当は発生しません。

8. まとめ

今回は自己株式について、説明しました。
自己株式を利用したM&Aを検討している経営者にとっては、自己株式の概要を理解しておくことが重要です。しかし、自己株式を利用したM&Aは複雑な手続きを伴うため、法務、税務、会計及びM&Aの専門家に相談して進めることを強くお勧めします。
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監修者プロフィール
M&Aキャピタルパートナーズ株式会社コーポレートアドバイザリー部 部長公認会計士梶 博義
M&Aキャピタルパートナーズ株式会社 コーポレートアドバイザリー部 部長
公認会計士梶 博義

大手監査法人、事業承継コンサルティング会社を経て、2015年に当社へ入社。
これまで、監査、IPO支援、財務DD、親族承継・役職員承継コンサル等を経験し、当社入社後はM&Aアドバイザーとして活躍。一貫して中小企業の支援に従事し、M&Aのみならず、事業承継全般を得意とする。

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