適格合併とは? 要件や税務上のメリットをわかりやすく解説

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適格合併は、一定の要件を満たすことで税法上のメリットを受けられる合併制度です。合併による組織再編を検討する際は、適格合併の要件を満たせるかどうかを見極める必要があります。
本記事では、適格合併の概要を簡単に説明し、税務面でのメリットについても解説します。また、適格合併の要件もパターン別にわかりやすく紹介しますので、ぜひ参考にしてください。

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1. 適格合併とは

適格合併の要件はややこしいものですが、どのような観点から法人税法上の要件が定められているのかを理解しておく必要があります。
まずは、適格合併の定義や非適格合併との違いから解説を進めていきます。

1-1. 適格合併の定義

適格合併とは、税法上の要件を満たす合併のことをいいます。適格合併の場合には、合併における資産や負債を帳簿価額で引き継ぐことになるため、含み益に対する課税を繰り延べることが可能です。また、被合併会社における法人税法上の繰越欠損金を引き継ぐことができるという、税務面でのメリットもあります。
適格合併の場合、合併のタイミングにおいて会社としての活動が終了したとは考えずに、合併後も同様の実体で「継続して事業活動が行われている」と考えるのが通常です。そのため、資産や負債、繰越欠損金の引き継ぎが認められています。
適格合併の要件は、「合併前と合併後で経済的実体の変化があるのか」といった観点から、複数の条件が求められています。

1-2. 適格合併と非適格合併の違い

法人税法上、合併は「適格合併」と「非適格合併」の2つに分類されます。
非適格合併とは、適格合併以外の合併のことです。適格合併における要件が一つでも欠けていると非適格合併として扱われ、税法上のメリットを享受できなくなります。そのため、適格合併の要件を満たすようなスキームを検討することが重要です。

2. 適格合併の要件

ここでは、適格合併の要件をパターン別に解説します。
次の3つに分けて、条文の内容を見ていきましょう。

  1. 完全支配関係がある場合
  2. 支配関係がある場合
  3. 共同事業を行う場合(支配関係がない場合)

2-1. 完全支配関係がある場合

完全支配関係とは、親会社が子会社の株式を100%保有している状態のことをいいます。
完全支配関係がある場合には、グループ企業内における組織再編となるため、合併前後で経済的実体が変わることの想定が困難です。そのため、適格合併がイメージする状態に最も近い前提条件となります。
完全支配関係がある場合には、金銭等不交付要件、継続保有要件を満たす必要があります。

金銭等不交付要件

金銭等不交付要件とは、「合併法人株式」または「合併法人の完全親会社の株式」のいずれか一方の株式以外の資産が交付されないことを求める要件です。要は、現金等を用いた買収ではないことを意味しており、株式を対価とした合併であることが求められます。
現金等による買収の場合は、事業の売り買いとしての性格が強く、合併において事業活動がいったん終了したと考えられるような要素になるでしょう。このことから、金銭等を交付しないことが適格合併の要件となっています。

継続保有要件

継続保有要件とは、合併の対価として交付された株式を、合併後も継続して保有し続けることを求める要件です。
合併前後の期間だけ形式的に経済的実体が変わらない場合であっても、合併後に売却を見込んでいるような場合は、一時的に適格要件を満たしたにすぎません。そのため、実質的に経済的実体が変わらないことを担保するために、継続保有の見込みがあることを一つの要件としています。

2-2. 支配関係がある場合

次に、支配関係がある場合を見ていきます。支配関係とは、100%保有とはいかないまでも、親会社が子会社株式の過半数相当を保有しており、いわゆる親子関係になっている状態です。
支配関係がある場合には、完全支配関係がある場合に求められた前述の2要件に加えて、2つの要件が増えます。

事業移転要件

事業移転要件とは、被合併法人の直前の従業員のうち、概ね80%以上が合併後に合併法人の業務に従事することが見込まれていることを求める要件です。
合併前と合併後で経済的実体に変化があるのかといった観点から、従業員が合併後の法人においても継続して業務に従事することを求めるものです。なお、本要件は後述する共同事業のケースでも必要となります。

事業継続要件

事業継続要件とは、被合併法人が合併前に営んでいた主要事業を、合併後も引き続き営むと見込まれていることを求める要件です。
こちらも、合併前と合併後で経済的実体に変化があるのかといった観点から、事業の継続を求めるものです。仮に事業内容が変化する場合には、合併において事業がいったん終了したと考え、適格合併の要件を満たさないことになります。本要件も、後述する共同事業のケースで同様に必要となります。

2-3. 支配関係がない場合(共同事業)

続いて、支配関係がない場合を見ていきましょう。支配関係がない状態で適格要件を満たすためには、共同事業を営むケースが該当します。
支配関係がある場合と比べて、合併前後で経済的実体が変化する可能性が高いため、前述した4つの条件に加えて、事業関連性要件、選択要件が求められます。

事業関連性要件

事業関連性要件とは、被合併法人と合併法人の各事業が相互に関連していることを求める要件です。
合併前後で事業が大きく異なることがないよう、相互に関連する事業の合併であると担保することを求めるための要件といえます。
仮に事業の関連性のない企業同士が合併する場合、一方の企業が他方の企業を買収したと考えられるでしょう。その場合、合併前後で事業の継続性が認められないことから、適格合併の要件を満たさないことになります。

選択要件

選択要件としては、「同等規模要件」と「双方経営参画要件」のいずれかが求められます。
同等規模要件とは、合併法人と被合併法人の売上高や従業員数、資本金を比較した際に、その差が5倍を超えないことを求める要件です。
双方経営参画要件とは、合併において「合併法人の特定役員のうち1名以上」と「被合併法人の特定役員のうち1名以上」が双方に、合併法人の特定役員になると見込まれていることを求める要件です。
いずれも一方の会社が事業を買収するという形ではなく、共同で事業を行うことで合併前後の事業の継続性を担保するために必要な要件となります。

3. 適格合併の税務面でのメリットとは

適格合併の要件を満たした場合には、税務面で主に2つのメリットを受けることができます。

3-1. 譲渡損益が繰り延べられる

適格合併の場合は、合併のタイミングで事業活動が終了したとは考えずに、合併後も継続して事業活動が行われていると考えます。そのため、合併時点の資産および負債は、帳簿価額をもって合併後の会社に引き継がれます
例えば、帳簿価額100万円の資産は、合併後法人にも100万円で引き継がれるため、評価益が発生しません。
一方、非適格合併の場合には、合併のタイミングで事業がいったん終了したと考えられるため、合併時点における資産および負債を時価評価することによって精算します。
例えば、帳簿価額が100万円の資産を150万円で評価すると、評価益の50万円に対して法人税が課されるでしょう。
このように、非適格合併の場合に発生する税金を、適格合併の場合には繰り延べられるため、税務上の大きなメリットになります。

3-2. 繰越欠損金を引き継ぐことができる

適格合併の場合には、事業が継続すると考えるため、被合併会社の繰越欠損金を合併法人に引き継ぎます
例えば、被合併法人が100万円の赤字、合併法人が300万円の黒字となっていた場合、300万円から100万円を控除した200万円に対して税金が課されるでしょう。
一方、非適格合併の場合には、いったん事業活動が終了したと考えられるため、被合併法人の繰越欠損金は消滅します。先ほどの例でいうと、被合併法人の100万円の繰越欠損金は消滅するため、300万円の所得(欠損金控除前)に対して税金が課されます。

4. まとめ

適格合併は、資産および負債の帳簿価額を引き継ぐことが可能なだけではなく、繰越欠損金の引き継ぎもできることから、税務面で非常に優遇された合併制度です。
適格合併とするためには、一定の要件を満たす必要がありますが、「合併前と合併後で経済的実体の変化があるか」といった観点がポイントとなります。
M&Aには専門性が伴うだけでなく、合併の適格要件を満たせるかどうかを検討しなければなりません。また、合併に関する税金計算等は複雑かつ煩雑です。そのため、適格合併を検討される際には、M&Aの専門家に相談しながら進めることをおすすめします。
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適格合併に関してよくある質問

適格合併に関する、よくある質問と回答をまとめました。
  • 適格合併における被合併会社の仕訳は?
  • 被合併法人のすべての資産および負債が合併会社に引き継がれ、被合併法人のBS残高はゼロとなります。被合併会社の資産残高が200、負債残高が150、純資産が50の場合、以下のように仕訳を計上します(結果的にすべての残高がゼロになります)。

    負債 150
    (帳簿価額)
    / 資産 200
    (帳簿価額)
    純資産 50
    (差額)
    /
  • 適格合併における合併会社の仕訳は?
  • 被合併法人のすべての資産および負債を引き継ぎます。被合併法人とは逆の仕訳となります。被合併会社の資産残高が200、負債残高が150、純資産が50の場合、以下のように仕訳を計上します(被合併法人のBS残高が合併法人の残高に引き継がれることになります)。

    資産 200
    (帳簿価額)
    / 負債 150
    (帳簿価額)
    / 純資産 50
    (差額)
  • 適格合併における旧株主の仕訳は?
  • 被合併法人の株式を帳簿価額のまま、合併法人の株式へ振り替えます。たとえば、簿価50で被合併法人の株式を計上していた場合、同額50を合併法人の株式として振り替えます。

    投資有価証券
    (合併法人)
    50
    (帳簿価額)
    / 投資有価証券
    (被合併法人)
    50
    (帳簿価額)
  • 合併以外の組織再編の手法はある?
  • 会社法における組織再編の手法には、合併以外にも会社分割、株式交換、株式移転、株式交付などがあります。詳細は次の記事をご参照ください。

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  • 可能です。逆に、合併してから完全親子会社関係を作る場合には、合併時に適格要件を満たせなくなるため、合併前に完全支配関係を作っておくことが推奨されます。

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監修者プロフィール
M&Aキャピタルパートナーズコーポレートアドバイザリー部長 梶 博義
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コーポレートアドバイザリー部長
公認会計士梶 博義

大手監査法人、事業承継コンサルティング会社を経て、2015年に当社へ入社。
これまで、監査、IPO支援、財務DD、親族承継・役職員承継コンサル等を経験し、当社入社後はM&Aアドバイザーとして活躍。一貫して中小企業の支援に従事し、M&Aのみならず、事業承継全般を得意とする。

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