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M&A(Mergers and Acquisitions、合併・買収)を実施する過程において、スキームによっては、配当をもらっていない場合でも事実上配当とみなされる、みなし配当が発生することがあります。今回は、みなし配当の概要、M&Aにおけるみなし配当が発生する場合、税務処理、計算式や留意点について説明します。
目次
1. みなし配当の概要
1-1. みなし配当とは?
みなし配当とは、取引としては配当ではないものの、実態としては事実上配当にあたる所得や利益のことをいいます。
みなし配当は、配当をもらっているわけではありませんが、配当の一種として取り扱われます。この制度は税務上の統一性を保つという観点から設けられています。
2. M&Aにおけるみなし配当が発生する場合
それでは、これからM&Aにおいてみなし配当が発生する可能性があるケースを紹介します。それは主に合併と会社分割の場合です。
以下でそれぞれについて説明します。
2-1. 合併
合併とは、2つ以上の会社を1つに統合するM&Aのスキームをいいます。合併にはどちらかの会社にもう一方の会社が吸収される吸収合併と、新設した会社に両社が吸収される新設合併があります。
会社合併では、合併される会社(合併消滅会社)の株主が合併する会社(合併存続会社)へ株式を譲渡し、代わりに合併消滅会社の株主は金銭または合併存続会社の株式を受け取ります。
ここで、受け取った対価が株式を取得する際に支払った額を上回れば、その差額は事実上の配当と扱われて、みなし配当が発生します。
ただし、会社合併でみなし配当が発生するのは、非適格合併の場合のみです。合併には、資産を簿価で譲渡する適格合併と時価で譲渡する非適格合併があり、適格合併であればみなし配当は発生しません。
2-2. 会社分割
会社分割とは、ある会社が営んでいる事業のうち、一部(全部も可)を他の会社に承継するM&Aのスキームをいいます。
新設分割では、事業を承継するための会社を新設して、その会社に事業を承継させます。それに対して、吸収分割では既存の会社が事業を承継します。
会社分割は、譲渡した事業の対価を譲渡した会社が受け取る分社型分割と、譲渡した会社の株主が受け取る分割型分割に分けることができます。
合併と同様に、簿価で譲渡する適格分割と、時価で譲渡する非適格分割がありますが、会社分割では、分割型分割でかつ非適格分割の場合に、みなし配当が発生する可能性があります。
3. M&Aにおけるみなし配当が発生した場合の税務処理
M&Aでみなし配当が発生するタイミングは、株主が株式を譲渡し、対価として他社の株式や金銭を受け取った時になります。この対価が出資した額よりも大きい場合は、その差額がみなし配当となります。
ここで、みなし配当の税務処理は、株主が個人か法人かで異なります。さらに、会社分割時のみなし配当の税務処理は、合併よりも複雑になるので注意が必要です。以下でそれぞれについて解説します。
3-1. 個人の場合
株主が個人の場合は、保有している株式が上場企業か非上場企業かで税務処理が異なります。上場企業の場合は、申告分離課税で一定の税率を課税されるか、総合課税で通常の所得税を納税するか選択します。
総合課税であれば、累進課税となりますので、みなし配当の額が非常に少ない場合は申告分離課税よりも有利になる場合もあります。一方、非上場企業の場合は申告分離課税を行えず、他の所得と合算して総合課税で課税されます。そのため、みなし配当の額が大きいほど税率が高くなるので注意が必要です。
3-2. 法人の場合
株主が法人の場合、みなし配当を得た時の税務処理は、みなし配当を受取配当金として計上し、源泉徴収額を法人税、住民税及び事業税として計上します。
みなし配当の配当金は、二重課税を防ぐために益金には算入しません。ただし、不算入にできる割合は、株式の保有割合によって変化します。
3-3. 会社分割の場合
会社分割時におけるみなし配当では、分割した事業単体での資本金がいくらなのか見積もる必要があります。分割した事業の純資産と会社全体の純資産を見比べて、その比率から分割した事業単体の資本金を見積もり、その資本金の額をもとにみなし配当を計算します。
4. みなし配当の計算式と留意点
みなし配当は、受け取った対価の額が出資した資本の払い戻しに該当する額を上回った時に発生します。よって、みなし配当の基本的な計算式は、以下のとおりです。
- みなし配当=(受け取った対価の金額)−((資本金と資本剰余金の合計)×(自分が保有していた株式数)÷(発行済みの全株式数))
例えば、発行済みの全株式を保有する個人の株主が、1,000万円の金銭等を受け取り、そのうち800万円が資本の払い戻しに相当する場合、残りの200万円がみなし配当の金額となります。なお、この場合、 資本の払い戻し部分は、株主に対する源泉徴収は必要ありませんが、みなし配当部分は、所得税および復興特別所得税の源泉徴収が必要になります。
5. まとめ
今回はみなし配当について詳しく説明しました。
みなし配当の考え方は非常にわかりにくくなっており、合併や会社分割でM&Aを行う際は注意が必要です。特に税務処理については、条件によって課税方法が異なるため注意が必要です。
そのため、経営者であれば、みなし配当について理解し、必要に応じて税務の専門家である税理士やM&Aの専門家に相談することが望まれます。
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