エスクローとは? M&Aにおける仕組みやメリット、活用場面を押さえよう

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M&Aにおけるエスクローとは、売買時に買い手と売り手との間に第三者を仲介させて、代金を受け渡す仕組みのことです。金融機関などの第三者を介在させることで、取引の安全性・信頼性を担保します。
本記事では、エスクローの仕組みや流れと共に、M&Aにおいて活用される理由やメリット・デメリット、主な手法や事例を解説します。

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~エスクローとは?~

エスクロー(Escrow)とは、売買契約時に買い手が代金を信頼できる第三者に預け、商品の引き渡しを確認した後に売り手が第三者から代金を受け取る仕組みのことである。エスクローを利用すれば、売り手は、買い手から第三者への入金後に商品を引き渡し、代金を受け取れるため、取引の安全性・信頼性が高まるメリットがある。

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1. エスクローとは?

エスクロー イメージ画像

エスクロー(Escrow)とは、売買契約時に買い手が代金を信頼できる第三者に預け、商品の引き渡しを確認した後に売り手が第三者から代金を受け取る仕組みのことです。一般的に多額の資金移動が伴う取引において活用され、第三者を介在させることで取引の安全性・信頼性を担保します。
ここでは、エスクローの仕組みを説明すると共に、M&Aにおけるエスクローの意味を解説します。

1-1. エスクローの仕組みと流れ

エスクローの仕組みは、次の流れで成り立っています。

  1. 買い手と売り手が売買契約を締結する
  2. 買い手はエスクロー事業者(第三者)に商品の代金を引き渡す
  3. エスクロー事業者は、売り手に対し入金があったことを報告する
  4. 売り手が買い手に商品を引き渡す
  5. 買い手がエスクロー事業者に商品の受け取りを報告する
  6. エスクロー事業者が売り手に代金を支払う

通常、売買契約では財産権の移転と同時に相手方が代金を支払うこととされています。しかしながら、売買の対象たる財産権の性質によっては同時に行うことが現実的でなく、また、買い手と売り手との間に信頼関係が無い場合には取引成立も難しくなってしまいます。エスクローを利用すれば、買い手から第三者への入金後に売り手は商品を引き渡し、代金を受け取れるため、取引の安全性・信頼性が高まります

1-2. M&Aにおけるエスクローの意味・活用される理由

M&Aでエスクローが実施される目的は、取引の信頼性・安全性確保のためです
一般的に、M&Aでは株式や事業の譲渡契約を結びます。その際、第三者として銀行などの金融機関やエスクローを本業とする事業者などが介入することで、高い信頼性を担保することが可能です。
ただし、M&Aにおいてエスクローが活用されるのは限定的であり、例えば、次のような事例において活用されます。

  • 企業の子会社の切り離しなど、BtoB系のM&Aにおいて早急な売却を要し、デューデリジェンスなどの手続きを実施する余裕が無い場合
  • M&A実施後に不明株主が出てきた際の担保目的として、金融機関に代金を預ける場合

いずれの場合であっても、金融機関やエスクロー事業者に対して支払う手数料との兼ね合いから、相当な規模でのM&Aにおいてエスクローは検討されます

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2. エスクローを使うメリット

エスクローを利用するメリットは主に次の2点です。

  • 取引の安全性を確保
  • 両者の認識相違を回避

2-1. 取引の安全性を確保

エスクローの主たるメリットは、取引の安全性の確保です。第三者が取引に介在して代金に関する保証を請け負うことで、M&Aにおける売り手・買い手の双方が次のように安全を確保しながら取引を行えます

  • 売り手:M&A実行後における入金の確実性を担保できる
  • 買い手:代金支払い後にM&Aが適切に実施されないリスクを排除し、契約が履行されなかった際の損害賠償の支払い確実性を担保できる

第三者が介在するため、売り手と買い手それぞれの信頼性は問題になることはなく、双方とも安心して取引を行えます。また、M&Aでは、売り手企業と買い手企業が最終契約書を締結する際に、補償条項についても規定を盛り込みます。しかし、規定があったとしても、実際に損害賠償を請求する際に、売り手企業が賠償額を全額支払える保証はありません。買い手保護の意味からもエスクローが活用されるのです。

2-2. 両者の認識相違を回避

エスクローの活用には、買い手と売り手の認識相違を回避するメリットもあります。M&A取引においては、手続きを進めるなかで両者に認識相違が生じることも考えられます。しかし、契約内容に相違が多いと信頼性が低下して取引の破綻を招くでしょう。
エスクローでは介在する第三者が契約内容を確認するため、取引の透明性を確保できます。売り手と買い手双方に公平な状況の提供が可能となるため、両者の認識相違を回避できるのです。

3. エスクローを使うデメリット

エスクローを利用することで生じる主なデメリットは次の2点です。

  • 手数料の発生
  • 手続きの負担

3-1. 手数料の発生

エスクローを利用すると、第三者たるエスクロー事業者に対して手数料を支払わなければなりません。M&Aにおけるエスクローの手数料相場は、一般的に取引価格の1〜2%程度であり、契約書に記載されます
エスクロー手数料は、M&A取引の際に仲介会社に支払うサービス利用料と類似するものです。ただし、別途エスクロー事業者に対して支払わなければならない点で異なります。

3-2. 手続きの負担

M&Aにおけるエスクローでは、手続きの負担が増加する点にも留意しなければなりません。高い信用性を持つエスクロー事業者による仲介を挟むことで、取引の安全性を確保できる一方で、手続きや支払条件の設定などの負担が生じます。スピーディな取引が難しくなる点もデメリットとなるでしょう。

4. エスクローの主な手法と特徴

日本でのエスクローの主な手法は、信託契約と銀行口座の2つです。ここからは、各手法の特徴と利点・欠点を解説します。

4-1. 信託契約

信託契約は、買い手はエスクロー事業者に代金を預け、信託財産として管理してもらい、条件達成後に売り手に代金を支払わせる手法です。信託契約は次の流れで実施されます。

  1. 買い手は代金を信託財産としてエスクロー事業者に預託する
  2. 契約期間中、エスクロー事業者は信託財産を管理・運用する
  3. エスクロー契約を達成後、売り手企業に代金を引き渡す

M&Aにおいては、信託契約によって買収や合併の対価を信託できるほか、損害賠償金としても取り扱えます。信託契約では、資産をエスクロー事業者に運用管理してもらうため、倒産リスクを軽減できる倒産隔離の利点があります。一方で、手続きが細かく、法定記載事項などの確認項目も多いため、信託契約の利用は長期間に及ぶことに留意しなければなりません。

4-2. 銀行口座

M&Aにおける銀行口座を用いたエスクローは、譲渡代金を口座に送金し保管する手法です。銀行口座を用いるエスクローは次の流れで実施されます。

  1. エスクロー用の銀行口座を開設する
  2. 買い手企業は代金を該当口座に送金する
  3. エスクロー事業者が口座を管理・運用する
  4. エスクロー条件が達成されれば、売り手企業に代金を引き渡す

銀行口座の活用は、信託契約と異なり規約が少なく、透明性が高いのが特長です。金融機関を利用する手数料も低く、エスクロー事業者は連携が強固な企業から選ばれます。ただし、金融機関破綻時のリスクを伴う点に注意しなければなりません。

5. エスクローを活用したM&A例

M&Aにおいてエスクローを活用する2つの事例を紹介します。

  • 例1:アーンアウト条項を締結する場合
  • 例2:買収対象が複数存在する場合

5-1. 例1:アーンアウト条項を締結する場合

M&Aでは、アーンアウト条項を締結する場合において、エスクローが活用されます。アーンアウトとは、M&Aの実行後に、事前に決めておいた条件(例えば、収益や利益が目標に達した場合)に応じて追加代金を支払う義務のことです。
具体的には、買い手は売り手に買収金額の一部を支払い、追加代金をエスクローとして入金しておきます。その後、条件が達成されればエスクローされていた代金を売り手が受け取る手法です。
エスクローとアーンアウトを組み合わせることで、買い手と売り手双方の安心感を確保し、確実なM&Aを実現できる利点があります。

5-2. 例2:買収対象が複数存在する場合

M&Aにおいて買収対象が複数存在する場合にもエスクローを活用できます。エスクロー口座を利用して支払う際は、一括だけでなく分割を選ぶこともできるため、買収の態様に応じた使い分けが可能です
例えば、M&Aによってチェーン店などの複数店舗を買収する必要がある場合には、店舗ごとに交渉しなければなりません。このとき、一括払いを選択するケースでは、全店舗の同意が得られないと全額リリースできず、不都合が生じます。
一方、口座を分割していれば契約を済ませた店舗から順に代金を支払えるため、M&Aをスムーズに進められます。このような利点から、買収対象が複数存在する場合には、エスクローが活用されているのです。

6. まとめ

エスクローは、売買契約時に買い手と売り手との間に信頼性の高い第三者を仲介させて、代金を受け渡す仕組みです。取引の安全性・信頼性を確保する目的でエスクローは活用されています。
エスクローの主な手法は信託契約と銀行口座に分かれます。銀行口座を利用する手法は、支払を分割できるため、M&Aにおいて買収対象が複数存在する場合にも活用されています。
エスクローは、M&A取引の安全性を保ち、円滑に進められる仕組みです。ただし、導入には手数料がかかることから、M&Aにおいては慎重な実施が求められるでしょう。
M&Aにおけるエスクローの活用は、詳細な手続きや契約書への反映も必要となるため、M&Aの専門家へ相談するのもおすすめです。
M&Aキャピタルパートナーズでは、M&Aに伴うエスクローの知見を豊富に有する担当者が相談に応じます。エスクローに関するお悩みをお持ちの経営者様は、ぜひお気軽にご相談ください。


よくある質問

  • エスクローの手数料は売り手・買い手のどちらが負担しますか?
  • エスクローの手数料は、通常は売り手と買い手が折半して負担します。M&Aにおけるエスクローの相場は、取引価格の1〜2%程度であるため、売り手と買い手は半額ずつ負担する計算です。
  • エスクローの選択肢として、信託契約・銀行口座にはどのような違いがありますか?
  • エスクローの選択肢として、信託契約ではエスクロー事業者に代金を信託して管理・運用してもらいます。銀行口座を活用する場合は、銀行口座を開設したうえで代金を口座に入金し、エスクロー事業者が口座を管理・運用します。銀行口座は、信託契約に比べて規約が少ないため時間を要せず、透明性が高い点で異なります。

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監修者プロフィール
M&Aキャピタルパートナーズ株式会社コーポレートアドバイザリー部 部長公認会計士梶 博義
M&Aキャピタルパートナーズ株式会社 コーポレートアドバイザリー部 部長
公認会計士梶 博義

大手監査法人、事業承継コンサルティング会社を経て、2015年に当社へ入社。
これまで、監査、IPO支援、財務DD、親族承継・役職員承継コンサル等を経験し、当社入社後はM&Aアドバイザーとして活躍。一貫して中小企業の支援に従事し、M&Aのみならず、事業承継全般を得意とする。

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