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将来的に自分が持っている株式を相続させたい場合、株式の相続についての知識を事前に身につけておく必要があります。被相続人として、前もって準備しておかなければならないこともあるため、本記事を参考に、株式の相続に関する知識を深めましょう。
このページのポイント
~株式の相続とは?~
株式の相続の際、上場株式の場合、「1株当たりの金額 × 保有株数」で相続税評価を計算するが、非上場株式の場合、「純資産価額方式」「類似業種比準方式」「配当還元方式」が相続税評価の方法となり、どの方式を採用するかは会社の規模によって異なる。
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目次
1. 株式の相続とは
株式の相続の際、「上場株式」と「非上場株式」では、扱い方が異なります。また、「株式を現金に換えて相続する」ことも可能です。
株式を現金化するケースと、株式のまま相続するのとではどちらが得なのかも踏まえて、わかりやすく解説します。
1-1. 上場株式と非上場株式
相続させたい財産のなかに株式がある場合、株式の相続について考慮しなければなりません。株式には「上場株式」と「非上場株式」があり、それぞれ相続の仕方が異なります。
上場株式とは、証券取引所で売買される株式のことで、取引価格が日々変わるのが通常です。株価は証券取引所で示された価格となるため、評価しやすいといえます。
一方、非上場株式は証券取引所で売買されていない株式を指し、市場価格が決まっていません。したがって、株価の評価方法が複数あります。中小企業の大半が非上場株式に該当するため、評価額の算出が複雑になります。
1-2. 相続は株式と現金のどちらが得なのか?
相続財産が「現金」であれば、そのまま遺産分割が可能です。
一方、相続財産に「株式」が含まれる場合、株価の変動によって価格が上下するため、相続する時点に応じて評価額が定まります。要は、相続する時機で評価額が変わるわけです。
株式で相続して、相続後に売却した際は、相続税以外の税金が発生することもあります。そのため、株式と現金のどちらが得かは「タイミングによって変わる」といえます。
2. 株式を相続する際の手順
株式を相続する際の手順を簡潔に紹介します。
- 相続財産における株式を確認する:
相続財産に株式があるかどうかの確認を行います。遺言書で株式について明記しておけば、確認が円滑になるでしょう。特に銘柄、保有数、取得時期、上場株式の場合は、その株式を保有している証券口座に関する情報があると相続手続きがスムーズに進みます。 - 相続する株式について評価する:
相続する株式に関して、評価を行う必要があります。上場株式と非上場株式では、評価の仕方が異なるため留意が不可欠です。 - 準確定申告を行う:
準確定申告は、被相続人に代わって確定申告を行い、所得税を払うことです。相続が始まると知った日の翌日から、4ヶ月以内に実施しなければなりません。 - 株式の遺産分割を協議する:
株式の分割方法は、株を各相続人に分配する「現物分割」、株を売却してその代金を分割する「換価分割」、一人が株を相続して残りの相続人に代償金を払う「代償分割」の3つがあります。 - 株式の名義変更を済ませる:
株を相続した相続人に、名義を変更します。
3. 上場株式の相続税評価方法
上場株式の相続税の評価は「1株当たりの金額 × 保有株数」で計算しなければなりません。上場株式の場合は、株価が日々変化するため、下記のなかで一番低い価格を採用します。
- 被相続人が死亡した日の終値
- 被相続人が死亡した月の、毎日の終値の平均額
- 被相続人が死亡した前月の、毎日の終値の平均額
- 被相続人が死亡した前々月の、毎日の終値の平均額
被相続人が亡くなった日が土日の場合は、市場が開いていないので、被相続人の命日に近い日の終値を適用するのが慣例です。
ただし、3連休の中日の場合は、その前後の終値の平均を採用します。
4. 非上場株式の相続税評価方法
非上場株式の相続税の評価方法は、次の3種類です。
- 純資産価額方式
- 類似業種比準方式
- 配当還元方式
どの方式を採用するかは、会社の規模によって異なるため、あらかじめ詳細を確認しておくと良いでしょう。
4-1. 純資産価額方式
非上場株式の相続税評価方法のなかでも、一般的な手法が「純資産価額方式」です。
相続税の評価において非上場株式の時価を算定する方法のため、当該企業の純資産価額を基準にします。純資産価額とは、企業の資産から負債を差し引いた金額のことです。したがって、純資産価額方式は、企業の実態を反映した評価方法といえます。
具体的には、評価対象となる会社の総資産や負債を原則として相続税の評価に洗い替え、その評価した総資産の価額から負債や評価差額に対する法人税額等相当額を差し引いた残りの金額の純資産価額を求め、その金額より評価する方法です。
以下の計算式で、1株当たりの評価額を求めることが可能です。
■計算方法

4-2. 類似業種比準方式
類似業種比準方式は、非上場株式の評価において、同じような業種の上場企業の株価を参考にする方法です。非上場株式の評価には「直接的な市場価格が存在しない」ため、類似業種の株価を調べ、評価対象となる会社の1株当たりの配当金額、利益金額および純資産価額の3つで比準して評価額を算出します。
ただし、業績や経営状態などの要素も考慮しなければならないため、単純に株価を比較するだけでなく、総合的な判断が求められます。また、比較対象となる類似業種の株価、配当金額、利益金額および純資産価額は国税庁が公表している数値を用います。
具体的な計算式は、以下のとおりです。末尾の調整率は会社の規模によって変わり、大会社は0.7、中会社は0.6、小会社は0.5と定められています。
■計算方法

4-3. 配当還元方式
会社経営に関与していない同族株主以外の少数株主が株式を相続した場合、配当還元方式を採用します。これは、非上場会社の少数株主は、流動性が低い非上場株式を簡単に売却できない一方、経営にも関与できません。そのため、少数株主が非上場株式を保有する主なメリットとしては、配当を受けることが想定されているためです。
配当還元方式では、その株式を所有することによって受け取る1株当たりの1年間の配当金額を一定の利率(10%)で割り戻した金額に、1株当たりの資本金等の額を50で除した数値を乗じた金額が評価額になります。
配当が無かったり、配当金が2円50銭未満の場合は、1株当たりの年配当金額を2円50銭とみなして算出します。
■計算方法

5. 相続した株式の売却方法
相続人が相続した株式を売却することも考えられます。複数の相続人がいる状況を前提に、被相続人から株式を相続した相続人が、その後に株式を売却する方法を解説します。
5-1. 現物分割により株式を取得した各相続人が各自で売却する方法
現物分割によって各相続人に株が分割されると、株の所有権は各相続人が有することになるため、各自の自由な売却が可能になります。
遺産分割協議における株の分割後の流れは、以下のとおりです。
- 各相続人が株の管理証券会社等に口座を開設
- 遺産分割協議の内容に沿って移管依頼書を作成
- 開設した口座に株を移管
- 移管後は自由な売却が可能になる
5-2. 換価分割により代表相続人が株式を一括で売却し、その売却代金を各相続人に現金で分配する方法
換価分割による遺産分割を行う際は、次の手順で進めます。
- すべての株を現金に換えるために一括売却を行う
- 代表相続人が管理証券会社等に口座を開設
- 当該口座にすべての株を移管し売却
- 代表相続人に対して、他の相続人が株売却の処理を委任
なお、売却後の現金の分配は、遺産分割協議で決めることになります。
5-3. 非上場株式を相続人が売却したいと考えた場合
非上場株式は証券取引所で売買できないため、相続人が買い手を探さなければなりません。
また、非上場株式は「譲渡制限付き株式」である場合も多く、相続は一般承継として特段の制限無く自由にできるものの、相続後の売却は自由にできない点に注意が必要です。
譲渡制限の有無は、遺言書にも明記しておいたほうが良いでしょう。会社が買い取ることは義務ではありませんが、定款に書かれているケースもあるため、確認しておく必要があります。
6. 株式を相続する際の注意点
ここまで、株式の相続に関する方法について解説してきました。株式の相続では、以下のような注意点が挙げられます。
- 売却益に税金が発生する
- 未受領配当金にも時効が存在する
- トラブルを避けるために遺言書を作成する
被相続人としてすべきこともあるので、事前の準備が欠かせません。
6-1. 相続人が株を売却した売却益に税金が発生する
相続人が株式を売却した際に利益が発生した場合、利益に対して所得税と住民税がかかります。これを「株式等の譲渡所得等に対する申告分離課税」といいます。
株式の売却益は、確定申告の際、他の所得とは分けて納税額を計算するのが通常です。納税額は、株式を売却した際の「譲渡所得(損益)」に対し、20.315%の税率をかけることで算出します。この税率のうち、0.315%は復興特別所得税に相当し、平成25年から令和19年(2037年)まで、所得税と併せて申告・納付することが義務付けられています。
相続した株式を一度でも売却し利益が出た場合は、確定申告が必要な可能性があるため、売却した際の利益を把握しておきましょう。
6-2. 未受領配当金にも時効が存在する
相続させたい上場株式について、被相続人が配当金を受け取る権利があるにも関わらず、受け取らない状態のままになっているケースがあります。その際は、相続手続きを行うことで「未受領配当金」を相続人が受け取ることが可能です。
未受領配当金は、遺産分割が決定するまでの間は相続人全員の共有財産です。相続人が複数いる場合は、遺産分割協議によって「誰が配当金を受け取るのか」を決めなければなりません。
未受領配当金の受取は、多くの企業で3年から5年を期限としているため、注意が必要です。民法上は債権の消滅時効は10年とされていますが、大半の企業では、未払いの配当金を管理する負担が大きいことから「除斥期間」を独自に定めている場合もあるので、あらかじめ確認しておきましょう。
6-3. 遺産分割協議でのトラブルを避けるために遺言書を作成する
株式の相続におけるトラブルを回避するためにも、生前に遺言書を用意しておく必要があります。遺言書があれば、遺産分割協議で揉める可能性が少なくなります。
ただし、仮に遺言書があったとしても、そのとおりに遺産分割がなされるわけではありません。遺留分が問題になる場合があるため、役員退職金を準備し、遺留分の権利者には役員退職金を支払う方法も考えられます。
7. まとめ
現在所有している株式について、相続人が相続する場合の手順や注意点について解説してきました。被相続人としては遺言書を書く際に、所有している株式の種類だけでなく、どのように相続してほしいのかについても明記しておく必要があります。
そうすることで、遺産分割協議でごたつく確率は低くなるでしょう。ただし遺留分もあるため、遺言書どおりに相続が実行されるかどうかはわかりません。
そのため自身がオーナー経営者であり、その株式の相続を考えている場合は、相続の発生前に第三者に株式を売却することを目的にM&Aを活用するという選択肢もあります。M&Aであれば、以下のようなメリットが考えられます。
- 相続税対策になる
- 経営維持により、取引先や従業員を守ることにつながる
- 後継者問題を解決できる
M&Aは、自社だけで行うと困難さが伴うため、実績のある専門家に依頼したほうが着実に進められるでしょう。東証プライム上場のM&Aキャピタルパートナーズなら、数多くのM&A実績とノウハウを有しています。
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