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合併比率とは、会社同士が合併する際の「合併される会社の株主」に割り当てられる株式数の比率のことをいいます。合併を検討する際には、合併比率への理解が欠かせません。
この記事では、合併比率の定義や計算方法、注意点を基礎からわかりやすく解説します。合併比率に関する事例も紹介しますので、参考にしてください。
目次
1. 合併比率とは
まずは、合併比率の定義や、合併比率について理解する必要性を確認しましょう。
1-1. 合併比率の概要
合併比率は、複数の会社が合併する際に、「合併される側の株主」に対して、保有している株式に応じて割り当てられる存続会社、あるいは新設会社の株式の割合を示すものです。
合併比率は各社の資産や負債、収益力などに応じて決定されます。
そもそも合併とは、複数の法人格を持つ会社を一つにすることです。
合併には、新たに設立された会社に消滅会社が持っている権利等を引き継ぐ「新設合併」と、存続する会社に消滅する会社が持っている権利等を引き継ぐ「吸収合併」があり、これらが実施される際に合併比率が用いられます。
1-2. 合併比率が必要な理由
合併比率の計算が必要な理由は、合併の当事会社間の株主が公平な取引条件を確保し、不利益を被らないようにするためです。
合併比率は、合併によって存続する会社と消滅する会社の株主に対する株式の割合を示していますが、それが不均衡である場合には、どちらかに不公平な状況が生じてしまいます。
そのような状況下では、もともと保有していた株式の価値よりも、合併後の株式の価値が下がってしまう希薄化も生じてしまうため、合併比率が必要になるということです。
2. 合併比率の決定方法
合併比率は、どのように決まるのでしょうか。ここでは、具体的な決定方法を解説します。
2-1. 合併する企業の価値算出を行う
合併比率は、合併当事者間の企業価値によって決まります。合併比率に必要な企業価値の算定方法として代表的なのは、インカムアプローチ・マーケットアプローチ・コストアプローチの3つです。
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一般的には、企業の収益性や企業特有の状況を反映することができる「インカムアプローチ」が採用されますが、企業の状況に応じて別の方法が選択されることもあります。
このように、複数の方法で算定された価値をもとに、合併比率が決まる流れです。
2-2. 合併後の株主構成の確認・調整する
企業価値によって決定された合併比率は、その比率で株主構成を計算します。その結果が、各株主が納得できる比率になっているかを確認することは重要です。
合理的な方法で計算されていれば、各株主から不満が出ることは少ないでしょう。しかし、仮に消滅会社の株主に対して有利になるように計算されていれば、存続会社の株主は不満を持ちます。
そのような状況にならないためにも、株式価値の算定や、そこから計算される合併比率の計算を慎重に実施し、調整する必要があります。
2-3. 合併比率と株主構成の最終調整を行う
決定した合併比率をもとに、株主が納得できる形で最終調整します。
調整には、次のような方法があります。
- 株式価値の算定についてほかの方法、あるいは事業計画などの前提を検討する
- 合併前後に当事者間で株式売買を行う
- 合併以外のスキームを活用する
案件ごとの状況によって最適な方法が異なるため、M&Aの実績が豊富で、税務・法務などの専門的な観点で相談ができる専門家にアドバイスを求めましょう。
3. 合併比率の計算方法
ここでは、合併比率の計算方法を解説します。
3-1. 合併比率の計算式
吸収合併の場合は、被合併法人(消滅会社)と合併法人(存続会社)の株式の1株当たりの評価額を比較して合併比率を求めます。
具体的な計算式は、次のとおりです。
- 合併比率 = 被合併法人の株式の1株当たりの評価額 ÷ 合併法人の株式の1株当たりの評価額
なお、ここでいう「1株当たりの評価額」は、先述したインカムアプローチやマーケットアプローチなどから計算される金額となります。
3-2. 合併比率の計算例
上記の計算式に、具体的な例を当てはめてみましょう。
- <前提条件>
- 消滅会社の株式価値:2,000万円
- 消滅会社の株式数:100株
- 存続会社の株式価値:8,000万円
- 存続会社の株式数:200株
- <計算式>
- 合併比率:(2,000万円 ÷ 100株)÷(8,000万円 ÷ 200株)= 20万円 ÷ 40万円 = 0.5
- <算出された合併比率>
- 1:0.5
4. 合併比率における小数点や端数の取扱いについて
合併比率を計算する際には、小数点以下の数字が出ることがよくあります。しかし、小数点以下の数字が残ったままになっていると、株式数の計算など煩雑になるため、合併比率が小数点以下が出ないように調整するのが一般的です。
株式の端数調整には、株式分割や株式併合などの手法が用いられ、これらによって整数に近づくよう調整されます。調整によって整数に近づいた合併比率は、交換する株式も処理できるように整理されることとなります。
5. 合併比率における注意点
ここでは、合併比率の注意点を解説します。専門家にアドバイスを求めながら、公平かつ適切な合併比率の設定を心がけましょう。
5-1. 株主の財産を変動させない
合併比率を決定する際には、株主の財産が変化しないように配慮しましょう。
不公平な合併比率が設定されてしまうと株主の損が発生してしまい、不満が出る可能性があるためです。
企業価値が同等である場合、合併比率が「1:1」に設定されれば問題は生じませんが、「1:0.8」などに設定してしまうと、保有している株式の価値が下がってしまいます。
合併においては、株主の権益を守りつつ、公平かつ適切な合併比率を確立することが求められます。
5-2. 債務超過の場合は合併比率の計算が特殊になる
債務超過の会社が合併を行う場合には、合併比率の計算が特殊になるので注意が必要です。
債務超過は、会社の負債が資産を上回っている状態で、収益性も下がっています。将来の収益性も見込めず、その会社の株式は実質的に0円の価値しか持ちません。
このような状況では、合併比率の計算が困難となるため、「無対価合併」と呼ばれる手法が用いられることがあります。
一般的に、無対価合併や「非適格合併」は税務上のデメリットが大きいため、できる限り避けるべきといえるでしょう。合併比率の調整を行い、適切な税務アドバイスを受けることが重要です。
6. 合併比率の参考事例
最後に、合併比率の参考となる事例を紹介します。
6-1. ユニーグループ・ホールディングス/ファミリーマート
1件目は、2016年に実施された株式会社ファミリーマートとユニーグループ・ホールディングス株式会社の吸収合併の事例です。
ファミリーマートが実施した本件は、ユニーグループが保有するサークルKサンクスやスーパーの獲得が主な目的となっています。合併比率は、「1:0.138」となっており、ユニーグループ・ホールディングス株式1株に対して、ファミリーマート株式0.138株が割り当てられました。
当該合併比率の基礎となる株式価値に関しては、市場株価分析とDCF分析から計算された結果により決定されています。
6-2. 新日本製鐵/住友金属工業
2件目は、2012年に実施された新日本製鐵株式会社と住友金属工業株式会社の吸収合併の事例です。
この合併は、グローバル展開の拡充や研究開発の推進、生産・調達関連の効率化などを目的として実施されました。合併比率は、「1:0.735」となっており、住友金属工業株式1株に対して新日本製鐵株式0.735株が割り当てられました。
当該合併比率の基礎となる株式価値に関しては、市場株価分析、類似企業比較分析およびDCF分析から計算された結果により決定されています。
7. まとめ
合併比率は、合併する会社の当事者間だけではなく、双方の株主にとっても非常に重要な数字です。そのため、公平な観点で比率を算出しなければなりません。
合併比率の計算には、合併する企業の価値算出を行う必要がありますが、複数の計算方法を用いたうえで算出する必要があるため、複雑な面があります。
最適な合併比率を求めるには、M&Aの専門家への相談が有効な手段です。
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