EPS(一株当たり純利益)とは? 定義と計算方法、M&Aや投資における活用法や注意点を網羅的に解説

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EPS(一株当たり純利益)について

日本の企業間におけるM&A(Mergers and Acquisitions、合併・買収)の動きは、近年、増加していますが、M&Aの実施過程において、企業の財務分析や収益性分析をする際にEPS(一株当たり純利益)という用語を耳にすることがあると思います。

EPSは、企業がどれだけ効率よく利益を生み出しているかを1株単位で把握するための重要な指標です。
投資家にとっては投資先企業の収益性を判断する材料となり、M&Aの場面では企業価値の算出や株式交換比率の検討にも用いられます

本記事では、「M&Aとは?M&Aとは?|詳細記事へ」の基本的な理解を踏まえたうえで、EPSの概要、活用方法や計算方法、増減する要因、活用時の注意点などについてわかりやすく解説します。


EPS(一株当たり純利益)の定義

EPSとは、企業の収益性や成長性を評価する際に用いられる指標のことです。「Earnings Per Share」の略で、日本語では「一株当たり純利益」と訳されます。

企業規模が小さくても、EPSが高ければ、収益性の高い企業だといえます。過去のEPSと比較すれば、企業がどれだけ成長したかを判断することが可能です。また、増資や株式分割によって発行済株式数が変われば、EPSも大きく変動します。

EPSは、決算短信の表紙や有価証券報告書の「主要な経営指標等の推移」や、注記情報の「一株当たり情報」から確認可能です。株主や投資家が企業の経済的価値を分析する際に広く活用されています。

EPSの活用方法

EPSは、株式投資やM&Aの戦略立案など、企業価値の評価に有用な指標です。具体的な活用方法としては、以下が挙げられます。

それぞれ、順に説明します。

株式投資の判断基準として活用する

EPSは投資家にとって、出資した資金を企業が有効に活用しているかを知るための材料になります。

企業の収益性を図る指標としては、EPSの他にもPL(損益計算書)における営業利益や、当期純利益などが挙げられます。しかし、これらの指標では、増資や株式分割などの影響を考慮できません。

一方、EPSであれば、発行済株式数を加味した指標であるため、投資家にとっての収益性を測ることが可能です。

M&Aの戦略策定基準として活用する

EPSは、M&Aにおける企業価値を評価する際に参考とされる指標の一つです。また、企業の収益性を1株単位で表すため、株式交換における交換比率を決める1株当たり株式価値の背景や各株主にとっての合理性を検討する際に役立ちます。

また、買収後のシナジー効果や、投資回収期間を予測するためにもEPSが活用されています。このように、EPSはM&Aの戦略を策定する際にも重要な指標です。

EPSの計算について

次にEPSの計算方法について説明します。以下では、企業の収益性・成長性を測るために必要な構成要素や算出例も紹介します。

EPSの計算方法

EPSは、次の式で計算されます。

EPS(一株当たり純利益) = 当期純利益 ÷ 期中平均株式数

当期純利益とは、企業のすべての収益から経費や税金を差し引いたあとの利益を指します。税金控除後の数字であり、企業としての活動の最終成果を意味しています。

当期純利益が増加することでEPSは増加し、当期純利益が減少することでEPSも減少するという相関関係になります。
また、期中平均株式数は、既に市場に流通している普通株式の1期間(通常1年間)の平均株式数のことです。

例えば、株式分割や第三者割当増資によって発行済み株式数が増加すると、EPSの分母が大きくなり、EPSの減少要因となります。一方、自己株式取得・消却等によって発行済み株式数が減少すると、EPSの分母が小さくなり、EPSの増加要因となります。 ここで、期中平均株式数は自己株式を控除した普通株式の期間加重平均となり、株式分割・併合は期首に遡って過年度数値も調整されます。

なお、EPSの分子となる当期純利益は、連結財務諸表においては「親会社株主に帰属する当期純利益」を用い、自己株式を除いた普通株式の期中平均株式数で割って算出します。当期純利益については、以下の記事をご覧ください。

EPSの算出例

具体的なEPSの算出例を見ていきましょう。

例えば、A社の当期純利益が5億円、発行済み株式総数が100万株の場合、500円(500,000,000円 ÷ 100万株 = 500)がA社のEPSとなります。
ただし、A社の期首発行済み株式数が80万株、期末発行済み株式数が100万株であった場合、期中平均株式数を算出することが必要です。
仮に決算の中間時に20万株の増資が行われていたとすると、期中平均株式数は90万株となります。
そのため、556円(500,000,000円 ÷ 90万株 ≒ 555.56)がA社のEPSとなります。
なお、EPSは、企業の決算資料から把握することも可能です。
具体的には、決算短信の表紙や有価証券報告書の「主要な経営指標等の推移」や「一株当たり情報(注記情報)」を参照してください。

希薄化後EPS

最後に少し専門的ですが、希薄化後EPSについて、説明します。

希薄化後EPSとは、将来的に発行される可能性のある株式(潜在株式)を考慮して再計算したEPSです。 潜在株式には、ストックオプション(SO)や転換社債など、将来株式に変わる可能性のあるものが含まれます。

これらをすべて行使・転換したと仮定し、「EPSがどの程度下がるか(希薄化するか)」を測ることで、投資家は潜在的な株式価値の変化を把握できます。 希薄化後EPSの計算式は次のとおりです。

希薄化後EPS =(当期純利益+潜在株式に関連する調整額) ÷(期中平均株式数+潜在株式数)

ここで「調整額」とは、転換社債の利息など、潜在株式が実際に株式へ転換された場合に不要となる費用を指します。つまり、株式数(分母)だけでなく、利益(分子)も調整して、より現実に近い利益水準を算出します。 例えば、EPSが前述した556円(当期純利益5億円、期中平均株式数90万株)の企業の場合で考えてみましょう。
仮に転換社債を全て株式に転換した場合、株式数が10万株増え、利息費用の減少により利益が1,000万円増えるとします。
このときの希薄化後EPSは次のように計算されます。

(500,000,000円 + 10,000,000円) ÷ (90万株+10万株) = 510円

このように、EPS(556円)と希薄化後EPS(510円)の差が、「将来的に潜在株式が行使された場合にどの程度EPSが下がるか」を示す指標となります。つまり、希薄化後EPSがEPSより大きく下がる企業ほど、潜在的な株式希薄化リスクが高いといえます。

EPSが増減する要因

EPSは、企業がどれだけの利益を上げたかを表す「当期純利益」と、それを何株で割るかを決める発行済株式数から計算される「期中平均株式数」の2つの要素で決まります。 ここでは、EPSが増加する場合と減少する場合、それぞれの代表的な要因を解説します。

EPSが増加する場合

EPSが増加する主な理由は、以下のように当期純利益が増えるか、期中平均株式数が減るかのどちらかです。

当期純利益の増加

売上の増加やコスト削減などにより純利益が増えれば、当然ながら1株当たりの利益(EPS)も増加します。

期中平均株式数の減少(自社株買い・株式併合)

企業が自社株買いを行うと、市場に出回る株式数が減るため、同じ利益でも1株あたりの取り分が増え、EPSが上昇します。
また、株式併合(2株を1株にまとめるなど)を実施した場合も、発行済株式数が減少した結果期中平均株式数も減少するため、EPSは見かけ上増加します。

具体的には、以下のような例があります。

自社株買い前のEPS
当期純利益10億円 ÷ 期中平均株式数1,000万株 = 100円
自社株買い後のEPS(中間期時点で100万株消却した場合)
10億円 ÷ 950万株 ≒ 105円

このように、利益が同じでも株式数が減るとEPSは上昇します。

EPSが減少する場合

一方で、EPSが減少する主な理由は、以下のように当期純利益が減るか、期中平均株式数が増える場合です。

当期純利益の減少

売上減少や費用増加により利益が減れば、当然1株当たりの利益も減ります。

期中平均株式数の増加(増資・株式分割など)

新株発行による増資を行うと、分母である発行済株式数が増えるため、EPSは希薄化します。これは、同じ利益をより多くの株主で分け合う形になるためです。

また、株式分割を行う場合も、発行済株式数が増えるため、1株あたりの利益は小さくなります。

ただし、株式分割は「1株あたりの価値を引き下げて流動性を高める」目的のため、企業の実力が下がるわけではありません。

具体的には、以下のような例があります。

株式分割前のEPS
当期純利益10億円 ÷ 期中平均株式数1,000万株 = 100円
1:2分割後のEPS
当期純利益10億円 ÷ 2,000万株 = 50円

このように、EPSは半減しますが、株主の持ち株数が倍になるため、実質的な株主の経済価値は変わりません。

増資による希薄化(新株発行)

第三者割当増資や公募増資を行うと株式数が増加し、EPSは下がります。

ただし、増資によって調達した資金で成長投資やM&Aを行い、将来的に利益が増えれば、結果的にEPSも再び上昇する可能性があります。

調整後EPS

最後に調整後EPSについて説明します。

通常のEPSは、その年度の最終利益を反映するものですが、一時的な損益や非経常的要因を含むことがあります。
そのため、企業の本来の収益力をより正確に把握するために用いられるのが「調整後EPS(Adjusted EPS)」です。
調整後EPSは、例えば、以下のような項目を除外または補正して算出します。

  • 特別利益や特別損失(例えば、固定資産売却益、災害損失など)
  • 減損損失やのれん償却
  • 一時的な税効果や訴訟費用
  • 買収関連費用(M&A関連のアドバイザリー報酬や統合コストなど)

調整後EPSの計算式のイメージは以下のとおりです

調整後EPS =(当期純利益 ± 調整項目) ÷ 期中平均株式数

例えば、当期純利益が10億円、特別損失として一時的な減損損失が2億円含まれている場合、調整後EPSは(10億+2億) ÷ 期中平均株式数 で求められます。

このように調整後EPSは、企業の本来の収益力を測るための平準化されたEPSといえます。
特にM&Aでは、買収前後のシナジー効果や将来の成長見通しを比較するために、この指標が実務上、多く採用されています。

EPSと併せて覚えておきたい指標

EPSは企業の収益性を示す指標ですが、次のような指標と組み合わせることで、より多角的な企業評価が可能になります。ここでは、EPSと合わせて覚えておきたい以下の指標について、それぞれ解説します。

PER(株価収益率)

PER(株価収益率)は、株式がEPSの何倍の価格で取引されているかを示す指標です。企業価値が市場で適切に評価されているかを測る手段として用いられます。計算式は以下のとおりです。

PER(倍) = 株価÷EPS(1株当たり純利益)

例えば、EPSが100円で株価が1500円の場合、PERは15倍です。一般的に、PERが15倍未満であれば割安、15倍以上であれば割高とされますが、業種や市場状況によっても異なります。

また、PERは「株価 = PER × EPS」と逆算する形でも使用されます。

PERは、企業の収益性に対する市場の評価を客観的に把握できるため、投資家にとって有用な指標です。
PER(株価収益率)については、以下の記事をご覧ください。

BPS(1株当たり純資産)

BPS(1株当たり純資産)は、企業の1株当たりの資産価値を示す指標です。計算式は以下のとおりです。

BPS(円) = 純資産÷発行済株式総数

純資産とは、企業の総資産から負債を差し引いた金額です。BPSが高いほど企業の資産基盤が強く、財務の安定性が高いと評価されます。
EPSが企業の収益力を示すのに対し、BPSは企業の資産力を示します。両方を組み合わせて分析することで企業の総合的な価値を評価可能です。

ROE(自己資本利益率)

ROE(自己資本利益率)は、企業が株主から預かった自己資本をどれだけ効率的に活用できているかを示す指標です。計算式は以下のとおりです。

ROE(%) = 期純利益÷自己資本 × 100

また、ROEはEPSとBPSの関係を用いて「ROE = EPS÷BPS」としても算出できます。

ROEもEPSと同じく、企業の収益性を評価する際に用いられます。ROEが高い企業は、株主資本を効果的に運用しているといえます。ROEとEPSを併用することで、より多角的な評価が可能です。

配当性向

配当性向とは、企業が当期純利益の中からどれだけ株主に還元しているかを示す指標です。計算式は以下のとおりです。

配当性向(%) = 配当支払総額÷当期純利益 × 100

例えば、当期純利益が1億円、配当金総額が3000万円の場合、配当性向は30%です。配当性向は、一般的に30%前後が適切とされますが、業種や経営方針によっても異なります。
また、配当性向が低いからといって、一概に低い評価を下すことはできません。例えば事業拡大のために利益を内部留保しており、将来的に配当性向が高くなる可能性もあります。

EPS活用時の注意点

EPSは企業の収益性を示していますが、単独の指標で判断を下すと、失敗につながる可能性があります。増減の要因や関連指標も考慮し、総合的に分析することが大切です。

ここでは、EPSを活用する際の主な注意点を3つ紹介します。

EPS増加 = 収益性向上とは限らない

EPSの主な増減理由は、当期純利益の増減です。EPSと当期純利益の増減は相関するため、EPSが増加している場合、通常は収益性が向上していると考えられます。ただし、分母である株式数の増減にも影響を受けるため、自己株式の取得等があった場合には、EPSが影響を受ける点に注意しましょう。

なお、自己株式の取得があった場合、収益性は向上していないものの、EPSは増加することになります。そのため、自己株式の取得は、投資家にとってはうれしいものであり、株主還元の一つの施策として実行されます。

EPSのみで収益性を判断しない

EPSは収益性を判断する一つの指標ですが、発行済み株式数の影響を受けるため、数字を活用する際には注意が必要です。EPS単独で見るのではなく、他の指標と合わせることで総合的に収益性を測りましょう。具体的には、売上高利益率、ROE(自己資本利益率)、ROA(総資産利益率)といった指標を活用します。

ROEは「Return On Equity 」、ROAは「Return on Assets」の略で、資産効率の観点から収益性を測る指標として利用されています。なお、ROAについては、以下の記事をご覧ください。

長期的な分析のためにEPS成長率も活用する

EPSは、企業の長期的な成長を評価する際に有効です。単年度のEPSだけでは全体像を把握できないため、次の計算式を使ってEPS成長率を測りましょう。

EPS成長率(%) = (当期EPS - 前期EPS)÷ 前期EPS × 100

例えば、前期EPSが100円で当期EPSが200円の場合、成長率は100%となります。

EPS成長率は、企業の安定性や成長可能性を長期的に見極めるうえで役立ちます。ただし、特別損益など一時的な要因で成長率が変動するケースもあるため、内容の検証が重要です。

まとめ

EPSは、M&Aや株式交換の場面で、企業価値算定や株主間の交換比率算定にも用いられる重要な指標です。M&Aの際には、M&Aの専門家のサポートを受けながら、調整後EPSや希薄化後EPSなども組み合わせて分析することで、より精度の高い企業評価が可能になります。

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よくある質問

  • EPSとは何の略で、どのような意味がありますか?
  • EPSは『Earnings Per Share』の略で、日本語では『一株当たり純利益』と訳されます。企業の利益を株式数で割った指標で、収益性の評価に用いられます。
  • EPSの計算式はどのようになっていますか?
  • EPSは『当期純利益 ÷ 期中平均株式数』で計算されます。分母には自己株式を除いた普通株式の加重平均が用いられます。
  • EPSが増減する主な要因には何がありますか?
  • EPSは当期純利益が増減した場合や、株式数が増減した場合に変動します。増資や株式分割はEPSを減少させ、自社株買いや株式併合は増加要因になります。
  • EPSは投資判断やM&Aでどのように使われますか?
  • EPSは、企業の収益性を判断するために用いられます。M&Aでは株式交換比率の算定や企業価値評価にも活用されます。
  • 希薄化後EPSとは何ですか?
  • 希薄化後EPSは、ストックオプションや転換社債など潜在株式の発行を考慮したEPSです。将来的な株式希薄化の影響を予測する目的で用いられます。

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