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日本の企業間におけるM&A(Mergers and Acquisitions、合併・買収)の動きは、近年増加しています。M&Aを実施する過程において、シェルカンパニーという言葉を耳にすることがあります。今回は、シェルカンパニーの概要、シェルカンパニーに関連するSPC(Special Purpose Company)の概要、目的とメリット及び注意点とデメリットについて、詳しく説明します。
このページのポイント
~シェルカンパニーとは?~
シェルカンパニーとは、一般的に活発な事業活動や重要な資産を持たない会社のことをいう。M&AにおいてはSPC(Special Purpose Company)を指す。LBOスキームに活用できることがメリットだが、設立コストがかかることと、SPCと買収対象会社を合併させると存続会社に過大な債務が残る場合があることは留意すべきである。
目次
1. シェルカンパニーとは?
シェルカンパニーとは、一般的に活発な事業活動や重要な資産を持たない会社のことをいいます。また、この言葉の語源は、経営実態がないための「シェル(貝殻)」から来ているといわれています。
シェル カンパニーは、スタートアップ企業が資金を調達したり、M&Aを検討している企業が敵対的買収を行う際に設立されることがあります。
特にM&Aの実施過程において出てくるシェルカンパニーは買収やLBOに際して直接の主体となることを目的に設立される会社のことでM&AにおいてはSPC(Special Purpose Company)を指します。
2. SPCとは
ここで、SPCとは、「特別目的会社」と訳され、 企業が保有する不動産など特定の資産の流動化や資金調達を目的に設立される会社です。
一般的には、M&Aや不動産開発のように、大型の資金調達が必要な場面で利用される会社のことをいいます。
企業はSPCを設立して自社が保有する資産をSPCに売却します。SPCは保有する資産の信用を担保に資金調達を行うことが可能になります。
SPCはいわゆるSPC法(「資産の流動化に関する法律」の略称)にもとづいて設立される法人であり、一般の株式会社のように営利目的の事業活動は行えません。保有資産の管理や資金調達などの業務は、SPCの親会社などが行います。
対象となる 保有資産は、収益を発生させるもの、流動化が可能なものであれば、原則どのような資産でも該当するため、不動産に限らず債券や住宅ローン、太陽光発電なども対象になります。
3. シェルカンパニーであるSPCを活用する目的とメリット
シェルカンパニーであるSPCを活用する目的とメリットは、多くの投資家から出資を募ることができることや、資産を親会社の財務諸表から切り離せる(オフバランス化できる)ことなどがあります。
3-1. LBOスキームに活用できる
M&Aに関しては LBOスキームに活用できる点がメリットになります。具体的には、M&Aで買収資金が不足している時に、売り手側企業の保有している資産などを担保にして、買収に必要な資金を調達しM&Aを行うLBOスキームを利用する方法があります。この際にSPCが活用されます。
LBOスキームを活用したSPC設立の流れは主に以下のとおりです。
- 買い手がSPCを設立する
最初に買い手側企業がM&Aの受け皿になるSPCを設立します。一般的には合同会社や株式会社を設立します。 - SPCで資金を調達する
SPCは買収対象企業の株式や資産を担保に、金融機関や投資家からM&Aに必要な資金を調達します。 - SPCが対象会社を買収する
SPCは調達した資金を用いて対象会社を買収します。 - SPCを消滅会社、対象会社を存続会社として吸収合併を実施する
SPCと対象企業が合併し、資金調達時に負った債務は、吸収合併した存続会社が返済を行うことになります。
4. シェルカンパニーであるSPCを活用する際の注意点とデメリット
シェルカンパニーであるSPCを活用する際の注意点とデメリットは主に以下のとおりです。
4-1. 一般の会社に比べて設立コストがかかる
SPCの設立手続きや運用が煩雑で、一般の株式会社と比べてコストが必要になります。会社法にもとづく会社設立は、資本金1円からと認められていますが、SPC設立の場合、最低10万円の資本金が必要になります。その他、設立の際には内閣総理大臣への届出など各種届出や計画の提出など、手続き上の作業コストが発生します。
4-2. M&Aの際、買収後に債務が残る
SPCを用いて調達した資金によってM&Aを行う場合、SPCと買収対象会社を合併させると存続会社に過大な債務が残る場合があります。
5. まとめ
シェルカンパニーは、M&Aにおいても利用できるケースはありますが、シェルカンパニーを活用する際はメリット、デメリット、スキームの特徴をよく理解し、進める必要があります。経営者であれば、シェルカンパニーについて理解し、必要に応じてM&Aや法律及び税務の専門家に適宜相談することが望まれます。