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株式譲渡について
株式譲渡とは、株主が保有する対象会社の株式を、対価と引き換えに買い手へ譲渡し、経営権を移転するM&A手法です。会社の株式を移転するため、資産や負債、契約関係、許認可などは原則として会社に残ったまま承継されます。中小企業の会社売却や事業承継で広く用いられ、事業譲渡や株式交換とは承継範囲や手続き、対価の考え方が異なります。
株式譲渡は、会社売却や事業承継を検討する際の選択肢の一つであり、主に中小企業のM&Aにおいて広く活用されているM&A手法です。株式譲渡を検討する際は、会社売却の手法としての使いやすさだけでなく、承認手続きや株主構成、契約条件、税務上の影響まで整理しておくことが重要です。特に中小企業では、譲渡制限株式や名義株、所在不明株主、従業員持株会など、実務上の論点が売却スケジュールや条件に影響することがあります。
さらに、2027年に予定されている税制改正により、株式譲渡益に対する税負担が増加する可能性も指摘されており、事前に理解する必要性が増している状況です。
本記事では、株式譲渡の基本から実務上の論点までを整理し、判断に役立つ情報をわかりやすく解説します。
また、M&Aの意味と基本知識について知りたい方は、以下の記事もあわせてご覧ください。
株式譲渡とは
「株式譲渡」は、株主が保有する対象会社の株式を対価と引き換えに他社へ譲渡することにより承継させる手法であり、中小企業のM&Aにおいて最も多く採用されています。売り手と買い手との間で株式譲渡契約が締結され、契約に従って買い手が譲渡代金を支払うと同時に売り手が株式を交付します。資産や負債、契約関係も一体として移転するため比較的手続きが簡易な点が特徴です。
事業譲渡との違い
株式譲渡と事業譲渡はいずれもM&Aにおける代表的な方法ですが、権利義務の承継方法や手続きの負担には明確な違いがあります。
株式譲渡は、会社の株式を譲渡することで経営権そのものを引き継ぐ手法であり、会社という枠組みごと承継する点が特徴です。一方、事業譲渡は特定の事業のみを対象として譲渡する方法であり、会社全体ではなく一部の事業だけを切り出して引き継ぐ形となります。
株式譲渡は包括承継であるため、資産や負債、契約関係も原則として一体で移転し、手続きの負担が比較的軽い傾向にあります。これに対して事業譲渡では、対象となる資産や契約を個別に移転(特定承継)する必要があり、場合によっては許認可の再取得が求められることもあります。
両者の特徴を把握したうえで、目的に応じた手法を選びましょう。
| 項目 | 株式譲渡 | 事業譲渡 |
|---|---|---|
| 対象となる資産等の範囲 | 会社の株式 | 特定事業の資産・負債の全部または一部 |
| 取引の主体 | 株主(個人または法人)⇔株主(個人または法人) | 法人⇔法人 |
| 許認可や契約等の扱い | 原則そのまま継続 | 個別承継 |
| 税金の取扱い | 所得税(個人)または法人税(法人) | 消費税・法人税 |
| のれんの発生 | 原則、譲渡会社側では発生しない | 発生しうる |
なお、株式譲渡と事業譲渡の詳しい違いについて知りたい方は、以下の記事もあわせてご覧ください。
株式交換との違い
株式譲渡と株式交換の大きな違いは、対象会社を100%子会社化することを前提とするかどうかです。
株式交換は、買い手企業が対象会社の全株式を取得し、完全親子会社関係を構築するための組織再編手法であり、対価として自社株式が用いられることが多く、株主総会の特別決議など法的手続きも多くなります。
一方、株式譲渡は個々の株主から株式を取得する方法で、取得割合に制限がなく、主に現金を対価として比較的簡便に進められます。
したがって、手続きを簡潔に進めたい場合や100%子会社化を前提としない場合には株式譲渡、反対に完全子会社化を前提としている場合は株式交換が第一選択肢となります。
株式譲渡の3つの手法
株式譲渡には、大株主などから直接株式を買い取る相対取引や、上場企業の株式を証券取引所等で買い入れる市場買付け、あるいは不特定多数の株主から公告により株式買付けの申し込みを勧誘して市場外で株式を買い集める公開買付け(TOB)という3つの方法があります。
相対取引
対象会社が非上場企業である場合には、株式譲渡は買い手と対象会社の株主との相対取引により実行されます。このため対象会社の株主が広く分散している場合、買い手は多くの対象会社株主との間で相対の譲渡取引を実行する必要があり、目標とする株式数(議決権比率)を取得するのが困難となる場合があります。特に、完全子会社化を目指す場合には、相対取引だけでは株式の集約が難しくなるケースもあるため、前述の株式交換のような手法が検討されることもあります。
あくまで相対取引であるため、買い取り価格は株主によって異なることもありえますが、個別に交渉していては時間がかかるうえ、株主間で不満が生じるおそれもあることから、実務上は同一価格で買い集めることが一般的です。
市場買付け
上場株式であれば、株式市場から株式を買い集めることが可能です。ただし、発行済株式総数および潜在株式総数の合計の5%を超えて取得した場合、その取得の日より5営業日以内に大量保有報告書を管轄の財務局へ提出する必要があります(いわゆる「5%ルール」)。また、その後1%を超える保有割合の変動があった場合には変更報告書の提出が必要となります。このように、市場からの買付けは買付け動向が明らかになってしまうほか、買い集めにより株価が上昇し買収金額が高騰するおそれがあることから、過半数を目指すような場合には選択されることはほとんどありません。
公開買付け(TOB)
公開買付け(TOB)とは、上場会社等(有価証券報告書提出会社)の発行する株式を大量に買い付けることを目的として、不特定多数の株主から公告により買付けの申し込みを勧誘して市場外で株式を買い集める方法です。金融商品取引法では、上場会社等の株式取得について以下の場合に公開買付けによることを強制しています。
| ルール | 概要 |
|---|---|
| 5%ルール | 証券取引所外で株式を買い集め、買付け後の保有割合が5%を超える場合には、原則としてTOBが必要になる |
| 3分の1ルール | 買付け後の保有割合が3分の1を超える場合には、一定の場合を除きTOBによる取得が求められる |
| 例外規定 | グループ内再編など、一定の要件を満たす取引ではTOB規制の対象外となることがある |
株式譲渡のメリット
株式譲渡による売却は、売り手・買い手の双方にさまざまなメリットがあります。ここでは、株式譲渡の全体像としての利点を整理したうえで、立場ごとの具体的なメリットを確認していきます。
売り手側のメリット
株式譲渡によって得られる売り手側のメリットは、主に以下の3つです。
会社や事業を存続できる
株式譲渡による売却では、会社そのものを消滅させるのではなく、株主が買い手に交代する形で承継が行われます。そのため、法人格は維持され、従業員の雇用関係や取引先との契約、これまで築いてきた事業基盤をそのまま引き継ぎやすい点が大きなメリットです。
事業譲渡のように、資産や契約を個別に移転する必要が無いため、現場への影響を抑えながら円滑に手続きを進めやすい方法といえます。さらに、買い手企業の経営資源を取り込むことで、事業の成長や発展につながる可能性も期待できます。
手続きが簡便で比較的短期間で進められる
株式譲渡による売却は、他のM&A手法と比べて法的手続きが比較的シンプルである点もメリットです。合併や会社分割のような組織再編行為とは異なり、債権者保護手続きが不要となるケースが多く、必要書類や実務対応も整理しやすい傾向にあります。
もちろん、譲渡制限株式に関する承認手続きなど一定の手続きは必要ですが、全体としてはスムーズに進めやすい方法といえます。そのため、スピード感を重視して会社売却を進めたい場合にも適した手法といえるでしょう。
経営者個人が売却対価を現金で受け取れる
株式譲渡による売却では、譲渡対価が現金で支払われるのが一般的です。そのため、株主である経営者個人が創業者利益として直接資金を受け取ることができます。
得た資金は、引退後の生活資金として活用できるほか、新たな事業への投資や資産形成にも充てられます。会社に資金が入る事業譲渡とは異なり、経営者個人の出口戦略に直結しやすい点も、株式譲渡ならではの特徴といえるでしょう。
買い手側のメリット
株式譲渡によって得られる買い手側のメリットは、主に以下の3つです。
経営権を取得しやすく迅速に意思決定できる
株式譲渡では、株式の過半数を取得することで対象会社の経営権を確保します。特に、3分の2以上の株式を取得すれば、株主総会の特別決議も単独で成立させることが可能です。
中小企業は、一般的に発行株式数がそれほど多くないため、支配権を確保しやすい傾向にあります。そのため、買収後の統合や経営方針の見直しもスピーディーに進めやすい点がメリットです。
許認可や契約関係をそのまま引き継げる
株式譲渡では、買収後も対象会社の法人格がそのまま存続するため、事業に必要な許認可や取引先との契約関係、ブランド、ノウハウなどを維持しやすい点が特徴です。
事業譲渡のように資産や契約を個別に移転したり、許認可を再取得したりする手間が生じにくいため、実務負担を抑えながら円滑に事業を承継できます。これは既存事業を止めることなく引き継ぎたい買い手にとって、大きな利点です。
既存リソースを活用し短期間で成長を実現できる
株式譲渡を活用すれば、対象会社が既に保有している人材や顧客基盤、販売網、技術、ノウハウといった経営資源を一体として引き継ぐことができます。そのため、自社でゼロから事業を立ち上げる場合と比べて、短期間での成長を実現しやすくなります。
新規参入に伴う時間やコストを抑えられるだけでなく、既存の事業基盤を活用することで、市場参入やシェア拡大を効率的に進められる点もメリットです。これらの特徴から、株式譲渡は、買い手にとってスピードを重視した成長戦略と相性の良い手法といえるでしょう。
株式譲渡のデメリット
株式譲渡には、さまざまなメリットがある反面、注意すべきいくつかのデメリットがあります。ここでは、売り手や買い手などそれぞれの立場ごとのデメリットについて解説します。
売り手側のデメリット
売り手側にとって、株式譲渡を検討する際に特に注意すべきデメリットは、以下の3つです。
不採算事業等により譲渡価額が下落する可能性がある
株式譲渡による売却では、会社全体が包括的に売り手から買い手に引き継がれるため、事業ごとに切り分けて部分的に譲渡することができません。そのため、優良な事業だけでなく、不採算事業や活用されていない資産なども含めた全体が企業価値の評価対象となります。
買い手は、こうしたマイナス要素も織り込んだうえで企業価値を算定するため、当初の想定よりも譲渡価額が引き下げられる可能性があります。こうしたことから、有利な条件で株式譲渡による売却を実現するためには、事前に事業や資産の整理を行い、磨き上げによって適切な状態に整えておくことが重要です。
ステークホルダーとの関係が悪化するおそれがある
株式譲渡による売却では、経営権が買い手へ移ることに伴い、従業員や取引先といったステークホルダーとの関係が悪化するリスクがあります。法的には売却後も雇用関係が維持される場合でも、待遇の変化や将来への不安から従業員の離職が生じる可能性は否定できません。
また、経営陣の交代をきっかけに取引先が離反したり、外部企業の関与を好まない業界団体から不利益な扱いを受けたりすることも考えられます。さらに、チェンジ・オブ・コントロール条項により契約が解除されるリスクもあります。
こうしたデメリットを避けるためには、最終契約書への待遇明記や、関係者に対する事前の丁寧な説明が不可欠です。
対象会社が譲渡制限株式会社の場合は手続きが煩雑になる
ほとんどの中小企業は株式譲渡制限会社であり、株式の譲渡には制限が設けられているため、株式譲渡を行うためには取締役会や株主総会での承認を得なければなりません。これらの承認が得られない場合、株式譲渡そのものを実行できないため、事前の調整が重要となります。
また、承認手続きに時間を要することでスケジュールが遅延し、調整コストが増加する可能性もあります。これらは、迅速なM&Aの実行を妨げる要因となりかねません。
なお、有限会社(現:特例有限会社)の場合も、定款の内容に関わらず株式譲渡には株主総会の承認が必要とされているため、株式会社と同様に手続きが煩雑になります。
買い手側のデメリット
買い手側にとって、株式譲渡を検討する際に特に注意すべきデメリットは、以下の3つです。
簿外債務など想定外のリスクを引き継ぐ可能性がある
株式譲渡による企業買収では、会社全体を引き継ぐ包括承継となるため、表面化していない負債も承継対象に含まれる可能性があります。例えば、未払い残業代や係争中の訴訟リスクなど、財務諸表に現れていない、いわゆる簿外債務が買収後に発覚するケースも考えられます。
こうしたリスクが顕在化すると、買収後に想定外のコスト負担が生じかねません。そのため、株式譲渡による買収を進める際には、デューデリジェンスを徹底することはもちろんのこと、最終契約書に表明保証を明記するなどのリスク管理が重要となります。
買収資金として多額の現金が必要となる場合がある
株式譲渡では、対価を現金で支払うケースが一般的であるため、買い手は資金負担が大きくなりやすい点に注意が必要です。中小企業の買収であっても、優れた技術力やノウハウを有する企業の場合には、想定以上の評価額が付くことも少なくありません。
かといって、無理な資金調達を行うと、買収後の財務状況やキャッシュフローに悪影響を及ぼしかねません。そのため、株式譲渡による買収を進める際には、事前に入念な資金計画やスキームの検討をしておくことが非常に重要となります。
株式が分散していると完全取得が難しい
株式が分散している場合、株式譲渡による買収を円滑に進めることが難しくなる点にも注意が必要です。株主の所在が不明であったり、売却に反対する株主が存在したりすると、全株式の取得が進まず、手続きが停滞するおそれがあります。
仮に一部の株主が応じない場合、完全子会社化が実現できないだけでなく、少数株主が残ることで経営方針をめぐる対立が生じるリスクもあります。株式交換などを用いたスクイーズアウトによって対応する方法もありますが、手続きが煩雑なうえに、それなりのコストも負担しなければなりません。
このような事態を防ぐためには、事前に株主構成を把握し、丁寧な説明や株式の集中を検討しておくことが重要です。
株式譲渡の主要な手続き
株式譲渡による売却を円滑に進めるためには、全体の手続きの流れをあらかじめ把握しておくことが重要です。ここでは、一般的な株式譲渡の進め方を整理し、各段階で押さえておくべきポイントを順に確認していきます。
1.会社の承認手続きを行う(譲渡制限株式の場合)
株式譲渡による売却を進めるにあたって、まず行うべきなのが会社の承認手続きです。非上場企業の多くは株式に譲渡制限が設けられているため、この承認を得なければ株式譲渡は成立しません。
具体的には、株主が譲渡承認請求書を提出し、取締役会または株主総会において承認の可否を判断します。実務上は事前に調整が行われていることが一般的ですが、こうした形式的手続きを怠ると株式譲渡が無効となるおそれがあるため、注意が必要です。
万が一承認が得られないと出口戦略がプランどおりに進まなくなるため、承認のタイミングや条件については、事前に会社側と十分にすり合わせておくことが重要です。
2.承認決議と結果の通知を行う
次に、会社は譲渡承認の可否について決議を行い、その結果を株主に通知します。取締役会設置会社であれば取締役会、非設置会社であれば株主総会を開催し、株式譲渡を承認するかどうかを判断します。
決議後は、会社から請求者に対してその内容を通知する必要があり、この通知は請求日から2週間以内に行わなければなりません。もし期限内に通知がなされなかった場合、会社法上、自動的に譲渡が承認されたものとみなされます。
ただし、中小企業のM&Aでは事前に関係者間で合意が形成されていることが多いことから、この決議手続きは形式的に行われるケースが一般的です。
3.株式譲渡契約書を締結する
続いて行うのが、株式譲渡契約書の締結です。通常は会社から譲渡承認の通知を受けた後に行われますが、承認を実行条件として事前に締結される場合もあります。
この契約書には、譲渡する株式数や譲渡価額、対価の支払方法や期日、譲渡実行日などの基本条件が明記されます。さらに、対象会社の財務状況やリスクに関する表明保証、契約解除の条件、損害賠償、譲渡後の競業避止義務といった重要な事項も盛り込まれます。
M&Aでは、デューデリジェンスの結果を反映させる必要があるため、契約内容の精度が極めて重要です。内容が曖昧な場合、クロージング後のトラブルにつながるおそれがあるため、契約書の作成は一般的には弁護士などの専門家に依頼します。
4.代金決済とクロージングを実行する
次に、代金決済とクロージングを実行します。株式譲渡契約の締結後は、契約で定めた前提条件が満たされていることを確認したうえで、譲渡対価の支払いと株式の引渡しを行います。
なお、実務上は契約締結と同時ではなく、一定期間を置いてクロージングを実施するケースが一般的です。またこの段階で、株券や議事録、各種承認書類などの重要書類の授受も行われます。
条件が満たされないまま進めてしまうと、契約違反や紛争に発展するおそれがあるため、契約条件などの確認は必須です。また、売り手企業が株券発行会社である場合は、株式譲渡の効力を生じさせるために株券の交付が必要となる点にも注意しましょう。
5.株主名簿の名義書換を行う
最後に、株主名簿の名義書換を行います。株式譲渡による売却が完了しても、この手続きを行わなければ法的には新たな株主として認められないため、議決権の行使や配当の受領といった権利を行使することができません。
なお、株券不発行会社の場合は、譲渡人と譲受人が共同で名義書換を請求しなければなりませんが、株券発行会社では、譲受人のみが単独で株券を提示すれば手続きを進めることが可能です。
名義書換が遅れると、権利関係に関するトラブルや実務上の支障が生じるおそれがあるため、契約締結後は速やかに手続きを行い、会社の記録にも確実に反映させるようにします。
【ケース別】株式譲渡で抑えておきたい実務上の論点
中小企業の株式譲渡でよくある論点については、以下のとおりです。
- 株主が分散している場合はどうすれば良いか
- 株主が未成年者や成年被後見人の場合はどうすれば良いか
- 株主が認知症になってしまった場合はどうすれば良いか
- 名義株がある場合はどうすれば良いか
- 行方がわからない株主がいるときはどうすれば良いか
- 従業員持株会の株式は譲渡できるか
- 株主が死亡したらどうするか
株主が分散している場合はどうすれば良いか
株式譲渡で会社を売却する場合、オーナー経営者が100%株式を保有しているのであれば、オーナー経営者の一存で売却できますが、他にも株主がいる場合、株式売却に対する同意の取得が懸念となります。
特に、相続で株式が分散してしまっている場合は、コンタクトをとるだけでも苦労するケースもあります。株式譲渡契約上、株式を売買するのは各株主と買い手ですが、M&Aの話を進めるのはオーナー経営者が代表して、買い手と進めることが一般的です。最終的には、大株主であるオーナー経営者が他の株主から委任を受けて契約を締結することになります。株主の意見を集約する方法としては、委任状を取り付け、相手との条件交渉や諸手続を代理人である大株主に委任してもらうことが一般的です。
委任事項の例
- 株式譲渡契約書の締結権限
- 株価等条件の受領権限
- 株式譲渡に係る譲渡承認請求および譲渡承認通知書の受領権限
- 株式名義書換請求権限
- アドバイザーへの手数料の支払権限
一方、他の株主から譲り受ける方法もあります。しかし、M&Aを具体的に検討している段階で想定価額から安価に株式を買い取った場合には課税リスクがあり、検討している事実を伝えずに買い取った場合、錯誤や詐欺にあたり株式譲渡が無効になる、あるいは行為そのものが取り消されるリスクもあります。
株主が未成年者や成年被後見人の場合はどうすれば良いか
株主が未成年者や成年被後見人等の制限行為能力者である場合は、保護者の特定と確認が必要です。
そして、株式譲渡においては、その保護者が代理をするか、保護者の同意の取得が必要となります。株主が未成年者の場合は、未成年者が親権者または未成年後見人から同意を得たうえで株式譲渡を行うか、親権者もしくは未成年後見人が未成年者に代わって株式譲渡の手続きをします。
株主が成年被後見人の場合は、成年後見人が、成年被後見人に代わって手続きをします。成年後見監督人がいれば、その同意が必要となり、成年後見監督人がない場合に、特に株式譲渡価額が多額になる場合は、家庭裁判所に事前の相談が必要になります。
株主が認知症になってしまった場合はどうすれば良いか
加齢や事故等により、認知症、知的障害、精神障害等、株主の判断能力が不十分な場合には、前述の成年後見の手続きを検討します。ただし、所定の手続きを経て成年被後見人または被保佐人に該当した場合は、その時点で取締役の欠格事由に該当し、「退任」となるため、株式会社の役員の最低人数を引き続き満たしているかどうか事前に確認しなければなりません。
名義株がある場合はどうすれば良いか
平成2年の商法改正前までは、株式会社を設立するには最低7名の発起人が必要であったため、7名を集めるために親族や知人の名義を借り、その人が出資したことにするケースが存在しました。
原始定款に記載された発起人の引受け株数と発行した株数が異なる場合は、発起人だけでなく外部から株式の引受人を募集し設立したと推測され、株式引受人が名義株主となっていることがあります。
他にも、設立後に従業員に株式を持たせたことにしていることもあり、年月の経過と共に、真の株主か名義株主かわからなくなることも珍しくありません。
名義株がある場合の対応例
- 出資者を確認する
- 株主総会で議決権を行使している人を確認する
- 名義株主に対して配当を行っていないことを確認する
- 名義株主に対して株券を渡していないことを確認する
- 名義貸しの理由の合理性
- 上記が確認できたら、名義株を処理する
行方がわからない株主がいるときはどうすれば良いか
所在不明株主が所有する株式は、会社法上の手続きに従い裁判所の許可を得て売却が可能です。ただし、所在不明株主の要件に当てはまらないことも多く、事前確認が必要となります。
株式会社は、行方がわからない株主に対しても、株主名簿記載の住所の宛所に通知等を行う必要があります。行方がわからない株主が所有する株式を取得するには、所在不明株主の株式として売却または競売する方法、不在者財産管理人を選任し、株式譲渡をする方法、スクイーズ・アウトといった方法が考えられます。
何の手続きもせずに行方がわからない株主を株主名簿から削除することや、当該株主の株式を売却してはなりません。
従業員持株会の株式は譲渡できるか
従業員持株会の株式を譲渡するには、会員全員の同意を得るか、従業員持株会を解散させ清算手続きを行います。
従業員持株制度とは、従業員の自己株式の取得や保有にあたって、会社が何らかの便宜を与えることにより財産形成を奨励する制度をさします。従業員持株会のほとんどは、民法第667条に規定される「民法上の組合」として設立されています。民法上の組合としての従業員持株会が有する株式は、従業員持株会の会員の共有物であり、従業員持株会の会員がそれぞれ持分を有しています。
株主が死亡したらどうするか
株主が死亡した場合は、相続による株式の取得者を確定させたうえで、株式会社に対して株主名簿の名義書換請求を行います。
株式譲渡における注意点
株式譲渡による売却は比較的シンプルな手法とされますが、実務上は見落としやすいリスクや注意点も少なくありません。最後に、株式譲渡を進めるうえで押さえておきたい重要なポイントを解説します。
株券発行の有無を確認し、必要な引渡しを行う
株式譲渡による売却では、対象会社が株券発行会社かどうかによって、譲渡の成立要件や実務対応が大きく異なります。
株券発行会社の場合、原則として株券の交付がなければ、第三者に対して譲渡の効力を主張することができません。実務上は株券を発行していないまま運用されているケースも見られますが、その場合にはまず株券を発行する手続きを行ったうえで譲渡人から譲受人へ交付する、あるいは定款変更により株券不発行会社へ移行するなどの対応が必要となります。
こうした手続きの不備は、後々のトラブルや権利関係の混乱につながるおそれがあるため、事前に定款や会社の管理状況を確認し、必要な引渡しを確実に行うことが重要です。
税務上のポイントを押さえて進める
株式譲渡による売却では、税金の取扱いが取引全体に大きく影響します。ここでは、それぞれの立場ごとに押さえておきたい税務上のポイントを整理します。
買い手側のポイント
買い手側は、株式譲渡に際して支払った対価と取得に要した費用の合計が株式の取得価額となるため、適正な時価で取引が行われている限り、買収時点でただちに課税が生じるわけではありません。
ただし、関連会社間や親族・家族間で株式を譲渡する場合に、無償譲渡や著しく低い価額での取引が行われると、適正価格との差額が税務上「みなし贈与」と判断される可能性があります。その結果、買い手側に贈与税や法人税が課されるおそれもあるため注意が必要です。
こうしたリスクを避けるためにも、譲渡価格は客観的かつ合理的な根拠に基づいて設定することが重要となります。
売り手側のポイント
売り手側では、株式譲渡による売却で生じた利益に対して課税されます。
法人が売り手の場合、譲渡益に対して法人税等が課税されます。ただし、税率や税額は、会社の規模や欠損金の有無によりケースバイケースです。
これに対し、売り手が個人の場合は、譲渡益の金額によって二段階に分かれます。基本的には、現行税制上、譲渡益に対して20.315%の税率による申告分離課税が適用されますが、譲渡益が高額になると、超富裕層向けの「ミニマムタックス」の対象となり、20.315%よりも高い税率となり、追加課税の影響を受ける可能性もあります。
特に、2027年以降は制度の見直しにより、特別控除額の見直しや税率の引上げが予定されており、株式の譲渡所得が約3.5億円を超えるケースでは税負担が増加することも想定しておかなければなりません。したがって、改正を想定したうえで、譲渡のタイミングや役員退職金の活用などを含めたタックスプランニングの立案は不可欠です。
なお、株式譲渡に伴う消費税の発生有無や会計処理まで詳しく確認したい方は、以下の記事も併せてご覧ください。
まとめ
株式譲渡による売却は、中小企業のM&Aにおいて広く活用される手法です。比較的シンプルに進められますが、一方で、手続きや税務、契約面などにおいて押さえておくべきポイントも多く存在します。特に、譲渡益の金額次第では、税制改正の影響が大きくなるだけに、自社にとって最適な進め方を検討することが不可欠です。
こうした点に不安がある場合は、M&Aや税務に精通した専門家へ相談することで、より有利かつ円滑な売却につなげることができるでしょう。
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よくある質問
- 株式譲渡とは何ですか?
- 株式譲渡とは、株主が保有する対象会社の株式を、対価と引き換えに買い手へ譲渡し、経営権を移転するM&A手法です。会社の株式を移転するため、資産や負債、契約関係も原則として会社に残ったまま承継されます。中小企業のM&Aで広く活用されている手法です。
- 株式譲渡と事業譲渡の違いは何ですか?
- 株式譲渡は、会社の株式を譲渡することで経営権そのものを引き継ぐ手法であり、会社という枠組みごと承継する点に特徴があります。一方、事業譲渡は特定の事業のみを対象として譲渡する方法で、資産や契約を個別に移転する必要があります。
- 株式譲渡と株式交換の違いは何ですか?
- 株式譲渡は、個々の株主から株式を取得する方法で、取得割合に制限がなく、主に現金を対価として進められます。一方、株式交換は対象会社を100%子会社化するための組織再編手法であり、対価として自社株式が用いられることが多く、株主総会の特別決議など法的手続きも多くなります。
- 株式譲渡にはどのような手法がありますか?
- 株式譲渡には、買い手と株主が直接交渉して株式を売買する相対取引、上場株式を証券取引所などで買い入れる市場買付け、不特定多数の株主から市場外で株式を買い集める公開買付け(TOB)があります。非上場企業では、相対取引によって実行されることが一般的です。
- 株式譲渡の売り手側のメリットは何ですか?
- 売り手側のメリットは、会社や事業を存続させやすいこと、手続きが比較的簡便で短期間で進めやすいこと、株主である経営者個人が売却対価を現金で受け取れることです。法人格が維持されるため、従業員の雇用関係や取引先との契約も引き継ぎやすい点があります。
- 株式譲渡の買い手側のメリットは何ですか?
- 買い手側のメリットは、株式を取得することで経営権を確保しやすく、買収後の意思決定を進めやすいことです。また、対象会社の法人格が存続するため、許認可や契約関係、ブランド、ノウハウなどを維持しやすく、既存の人材や顧客基盤を活用して短期間で成長を目指しやすい点もあります。
- 株式譲渡の手続きの流れはどうなりますか?
- 株式譲渡では、譲渡制限株式の場合に会社の承認手続きを行い、承認決議と結果の通知を経て、株式譲渡契約書を締結します。その後、契約で定めた前提条件を確認したうえで代金決済とクロージングを実行し、最後に株主名簿の名義書換を行います。
- 株式譲渡で注意すべき税金は何ですか?
- 売り手側では、株式譲渡による売却で生じた利益に対して課税されます。法人が売り手の場合は譲渡益に対して法人税等が課税され、個人が売り手の場合は、基本的には譲渡益に対して20.315%の申告分離課税が適用されます。譲渡益が高額になる場合は、税制改正の影響も含めて検討が必要です。
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- 資産除去債務
- XBRL
- 特別決議
- 譲渡承認取締役会
- 大量保有報告
- 適時開示
- 法務のポイント
- インサイダー取引
- チャイニーズ・ウォール
- 匿名組合
- キラー・ビー
- クラウン・ジュエル
- グリーン・メール
- ゴールデンパラシュート
- ジューイッシュ・デンティスト
- スタッガード・ボード
- スケールメリット
- ストラクチャー
- 利益相反
- 源泉徴収
- プロキシー・ファイト
- パールハーバー・ファイル
- Qレシオ
- MSCB
- IFRS
- 現物出資
- コントロールプレミアム
- ゴーイング・プライベート(Going Private)
- バックエンド・ピル
- パックマン・ディフェンス
- EV(事業価値)
- 売渡請求
- 株主価値
- レバレッジ効果
- 減損価格
- アーンアウト
- シャーク・リペラント
- スーイサイド・ピル
- ティン・パラシュート
- 低廉譲渡
- 監査法人
- 相対取引
- 範囲の経済
- アナジー効果
- 債券
- 純有利子負債(ネット デット)
- ホールディングス
- COC条項(チェンジ・オブ・コントロール条項)
- ディスクロージャー
- 会社法
- ROA(総資産利益率)
- 国際租税条約
- 役員報酬
- SWOT分析
- アンゾフの成長マトリクス
- サクセッションプラン
- ドラッグアロング
- 累進課税
- 総合課税と分離課税の違い
- キャピタルゲイン
- インカムゲイン
- 資本と負債の区分
- 益金不算入
- タックスシールド
- 繰越欠損金
- スタンドアローン・イシュー
- ロックド・ボックス方式
- 特定承継
- プットオプション
- 埋没費用(サンクコスト)
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