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リストラクチャリングは会社組織が競争環境の変化に適応し、持続的な成長を実現するための手段の一つであり、会社の経営戦略を検討する際には重要なポイントとなります。本記事ではリストラクチャリングに注目して、リエンジニアリングとの違いやリストラクチャリングの方法、メリットとデメリット、具体的な事例などについて分かりやすく解説します。
本記事でリストラクチャリングに関する理解を深めるのにお役立てください。
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~リストラクチャリングとは?~
リストラクチャリングとは、企業が経営資源を最適に配置し直すための一連の活動や戦略のことを指す。M&Aはリストラクチャリングのひとつの手段として事業ポートフォリオの最適化や経営資源の再配置としての側面において有効である。
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目次
1. リストラクチャリングとは
まずはリストラクチャリングの概要について、詳しく説明していきます。
1-1. リストラクチャリングとは
リストラクチャリングとは、会社が経営資源を最適に配置し直すための一連の活動や戦略のことを指します。これには、不採算事業の撤退、組織の再編、コスト削減、事業の集約や分離など、多岐にわたる取り組みが含まれます。特に日本では、バブル経済の崩壊後の1990年代以降、多くの会社が経営の効率化や生産性向上を目指してリストラクチャリングを進めるようになりました。
1-2. リエンジニアリングとは
リストラクチャリングと似た言葉にリエンジニアリングという言葉があります。
リエンジニアリングとは、会社の管理方法や業務プロセスを根本から設計し直して、経営効率を高めることです。具体的には、既存の会社のビジネスルールや管理方法、業務プロセスなどを抜本的に見直し、職務や業務フロー、管理体制、情報システムなどの再設計を行います。
1-3. リストラクチャリングとリエンジニアリングの違い
リストラクチャリングとリエンジニアリングの違いを具体的な例としてあげると、 会社に不採算部門があった場合、不採算部門の廃止を行うのがリストラクチャリングで、業務プロセスを見直すのがリエンジニアリングとなります。
2. リストラクチャリングの方法
リストラクチャリングには財務リストラクチャリング、事業リストラクチャリング、業務リストラクチャリング、M&Aによるリストラクチャリングなどがあります。それぞれのリストラクチャリングについて、解説します。
2-1. 財務リストラクチャリング
財務リストラクチャリングは、資金繰りの悪化などにより財務状況が悪化した場合に、会社のキャッシュフローを改善する目的で行うリストラクチャリングです。
新たな資金調達の検討、不良資産の売却などを進めることにより、資産・負債・純資産の分野ごとにキャッシュを生み出し、資金繰りを改善させていきます。 財務リストラクチャリングで行われる方法は、主に以下の表のとおりです
財務リストラクチャリングの種類 | 概要 |
---|---|
資産(アセット)リストラクチャリング | ・長期保有している有価証券を売却する。 ・不要な不動産を売却する。 |
純資産(エクイティ)リストラクチャリング | ・ファンドや外部スポンサーなどから新たな出資を募る。 ・債務の株式化(DES)により負債を資本金に振り替える。 |
負債(デッド)リストラクチャリング | ・融資の返済をリスケジュールして負債利子の条件緩和を行う。 ・債務の株式化(DES)やDDSを行う。 |
2-2. 事業リストラクチャリング
事業リストラクチャリングは、全社的に不採算事業の整理や見直しを行い、社内の人材や資源を成長が見込める分野へ集中投下するなど、選択と集中により企業構造を変革させる手法です。
複数の事業を多角的に展開している企業では、PPM(プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント)などのフレームワークを活用して事業を可視化し、会社が持つ経営資源の最適化を進めます。
2-3. 業務リストラクチャリング
業務リストラクチャリングは、売上の増加やコスト削減により営業利益の増加を図るリストラクチャリングです。前述のいわゆるリストラとして知られる人員削減も含まれます。
売上の増加に向けた施策としては、綿密なマーケティング、企画に基づいた製品・サービス開発・提供が挙げられます。一方コスト削減としては、いわゆる人事リストラといわれる人員削減からの経費削減が挙げられます。
2-4. M&Aによるリストラクチャリング
会社は、M&Aを実施することで自社の弱みを補完し、新しい市場や事業領域に進出することができるため、M&Aはリストラクチャリングのひとつの手段として注目されるようになりました。日本の企業間でのM&Aは、2000年代に入ると大幅に増加し、これを利用したリストラクチャリングの事例も増えてきました。M&Aは、会社の規模拡大だけでなく、事業ポートフォリオの最適化や経営資源の再配置としての側面も持ち合わせています
3. リストラクチャリングのメリットとデメリット
次にリストラクチャリングのメリットとデメリットについて、整理したいと思います。
3-1. リストラクチャリングのメリット
リストラクチャリングのメリットは主に以下のとおりです。
- 利益率を改善できる
- 主力事業への集中化を実現できる
- 時間を節約することができる
それぞれについて、詳しく説明していきます。
・利益率を改善できる
事業リストラクチャリングで不採算事業を売却したり、人事整理で余分な人件費を削減したりすることで、企業全体の利益率を改善することができます。
利益率が上がれば事業拡大や負債の早期完済も見込めるため、会社として将来的な成長に向かって進んでいくことができます。
・主力事業への集中化を実現できる
事業リストラクチャリングを行うと、高収益や成長が望める主力事業に資金や人材を集中させられるため、より効率の良い経営をすることができます。また、M&Aリストラクチャリングなどで得た資金を収益性の良い事業に投入することで、よりその事業を大規模に展開することも可能となります。
・時間を節約することができる
買い手の立場になった場合には、買い手にとって不足している分野の事業や会社を買収する形で、より時間を節約してリストラクチャリングを実現できることもメリットといえます。
3-2. リストラクチャリングのデメリット
リストラクチャリングのデメリットは主に以下のとおりです。
- 従業員のモチベーションが低下するリスクがある
- 将来性のあるビジネスを止めてしまう可能性がある
- M&Aにより企業文化やブランドイメージの変化によるリスクがある
それぞれについて、詳しく説明していきます。
・従業員のモチベーションが低下するリスクがある
日本においてはリストラがネガティブなイメージとして広く浸透しています。そのため、従業員に丁寧かつ納得できる説明をしないと、リストラクチャリングを行おうとしているにもかかわらず、人員整理だけをしようとしているかのように誤解されることもあります。これにより従業員全体のモチベーションが低下してしまうと、リストラクチャリングをしてもかえって業績が悪化する場合があります。
・将来性のあるビジネスを止めてしまう可能性がある
新規事業は、どのような内容でも黒字化するまでには一定の期間が必要となります。そのため、現在の業績が赤字であるということだけに目を向けて事業リストラクチャリングを行うと、将来性のある事業まで止めてしまう可能性があります。
・M&Aにより企業文化やブランドイメージの変化によるリスクがある
M&Aを実施することで、既存株主や現経営陣が大幅に変更となることがあります。その場合、その会社の企業文化やブランドイメージが大きく変わる可能性があります。この変化がマイナスになった場合にはデメリットといえます。
4. リストラクチャリングの具体的な事例
リストラクチャリングを行った会社事例を3つご紹介します。
4-1. ソニーの事例
「ウォークマン」や「プレイステーション」などの発売により、世界有数の会社となったソニーは、2000年代初め、事業構造の複雑さや競合との競争により業績が低迷していました。主力だったテレビ事業は赤字が続き、これまで好調だったPC事業の販売も伸び悩み、電機メーカーとしての陰りが見え始めました。
こうした不調の果てにいわゆる「ソニーショック」が起こりました。2003年の決算では大幅赤字を計上し、2004年度の見通しが大幅減益であることから投資家の売り注文が殺到し、株価が大暴落しました。
しかし、ここからソニーは当期純利益が1兆円を超す大企業へと復活を果たします。低迷からの脱出をかけてリストラクチャリングによる再構築を繰り返し、ゲームやスマートフォン、音楽や映画、金融などのさまざまな分野へ進出すると同時に不採算部門の整理を繰り返し、見事に再生しました。
ソニーは、2000年代初頭に大規模なリストラクチャリングを行い、不採算事業の整理や人員削減を進める一方、ゲームや音楽、金融分野へ進出しました。その結果、収益性の向上と事業の再編が図られ、当期純利益1兆円を超す大企業へ復活し、再び成長の軌道に乗りました。
4-2. 日本航空の事例
日本航空は、日本のフラッグキャリアとして、世界中の主要都市に就航していましたが、大型機の過剰配備により座席の供給過剰が常態化していました。また、就航都市に展開していたホテルチェーンの赤字や不採算路線の継続就航、労使問題などにより、長年にわたり非常に厳しい経営状態を強いられていました。
このような状況下で2008年にリーマンショックが起こり、世界規模で航空需要が低迷したことが決定打となり、2010年には経営破綻してしまいます。しかし、ここから企業再生支援機構による経営の立て直しが行われます。
会社更生法の適用により金融機関の債権は約9割放棄され、企業再生支援機構からは3,000億円を超える公的資金が投入されることが決定しました。また100%減資も行われ、既存株主の持分はゼロとなりました。こうした施策と並行して行われたのが、リストラクチャリングです。
国内外の不採算路線を運休するとともに、パイロットや客室乗務員の人員整理を行い、人件費の大幅な削減を行いました。その結果、驚異的なV字回復を遂げ、上場廃止からわずか2年後の2012年には再上場を果たしました。
4-3. 日本レーザーの事例
日本レーザーは、1968年に設立されたレーザー機器専門商社ですが、1994年に債務超過に陥りました。この時、親会社である日本電子からの指示で社長に就任した近藤宣之氏は、1年で日本レーザー株式会社の黒字化に成功します。その際には、人件費の削減や評価制度の見直しといった、事業リストラクチャリングに取り組みました。そのほかにも、企業の経営陣と従業員が出資して企業買収するMEBO(Management Employee Buyout)という手法を用い、企業の統治形態の変更と従業員の株主化を行いました。
その結果、日本レーザー株式会社は1年で黒字化に成功したのです。近藤氏が経営の黒字化に成功したのは、若いころのリストラクチャリングの経験を活かしたとされています。
5. まとめ
今回は、リストラクチャリングについて解説しました。
リストラクチャリングは、企業が次の成長段階に入るための大切なプロセスであり、時には厳しい経営判断が求められることもあります。しかし、その結果として、企業の競争力が高まり、持続的な成長が期待できるようになります。日本の企業も、国際的な競争の中で生き残るために、リストラクチャリングを適切に進めることの重要性を認識し、その取り組みを深化させていく必要があります。
本記事を通じて、リストラクチャリングの理解が深まり、それを自社の経営やM&Aの現場で活用する一助となれば幸いです。M&Aに関するお悩みはM&Aの専門家へ相談する選択肢もあります。東証プライム上場の信頼と、豊富な実績を有するM&Aキャピタルパートナーズに、どうぞご相談ください。