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事業譲渡の際には、原則として、株主総会での特別決議が必要です。本記事では、株主総会で特別決議が必要な理由と、手続きの流れについて詳しく解説します。事業譲渡の株主総会議事録に記載する項目のほか、株主総会が必要な場合に開催しないとどうなるのかについても、わかりやすく説明します。
法律上の規定にも言及していますので、事業の一部を売却したい経営者様や、事業譲渡における意思決定のプロセス・手法を理解したい方は、目次の最後までご参照ください。
このページのポイント
~事業譲渡の株主総会とは?~
事業譲渡の過程で原則として必要となるのが、株主総会での特別決議であり、その議事録の作成と保存には法律上の規定があり、これらを遵守することが求められる。ただし、事業譲渡の実施において、略式事業譲渡等に該当する場合など、例外的に株主総会での決議が不要なケースもある。
目次
1. 事業譲渡の株主総会では特別決議が必要?
事業譲渡の過程で原則として必要となるのが、株主総会での特別決議です。この決議の特徴は、重要度の高い議案の採決に用いられる点です。規定では、定足数は行使可能な議決権の過半数、表決数は出席株主の議決権の3分の2以上に達することが求められています。
ただし、すべての事業譲渡において、株主総会の開催が必要なわけではありません。例外的に、株主総会の開催が「不要」となる事業譲渡も存在します。
1-1. 事業譲渡で株主総会の決議が必要なケース
事業譲渡のなかでも、事業全部の譲渡や重要な事業の一部譲渡を行う場合には、原則として株主総会での特別決議を要します。
事業全部の譲渡を行う場合
事業承継などで事業全部の譲渡を行う場合は、会社の存続に直接関わる重大な決定であるため、株主総会での特別決議が必要です。特別決議は、企業の全体的な経営の方向性を変える可能性があり、株主全体の合意を得ることが重要です。
具体的には、企業が新たな事業領域に進出するために、既存の事業すべてを譲渡し、資本を新事業に集中させるケースが該当します。
重要な事業の一部譲渡を行う場合
一方、重要な事業の一部を譲渡する場合も、その事業が企業の収益やブランドイメージに大きな影響を与える可能性があるため、株主総会での決議が必要です。会社の将来に影響を及ぼす恐れがあり、株主全体の意見を反映させることが求められます。
具体例として、企業が自社の主力事業の一部を他社に譲渡し、得た資金を新たな事業開発や研究開発に投資するケースが考えられるでしょう。
1-2. 事業譲渡で株主総会が不要なケース
上記に対して、事業譲渡には、例外的に株主総会での決議が不要なケースがあります。
略式事業譲渡等に該当する場合
事業譲渡の相手方(譲受会社)が譲渡会社の総株主の議決権の90%以上を有する(「特別支配会社」に該当する)場合、「略式事業譲渡等」に該当し、当該事業譲渡に関して譲渡会社における株主総会での決議は不要となります。
これは、譲渡会社の株主総会における議決権の大半(90%以上)を譲受会社が保有しているケースで、その事業譲渡が承認されることが明らかであり、株主総会を開催する必要性に乏しいためです。
重要でない事業の一部譲渡を行う場合
譲渡する資産の帳簿価額が譲渡企業の総資産の20%(定款でそれを下回る割合を定めたときはその割合)以下であるときは、取引の迅速性や相手方の取引の安全性を図る趣旨により、株主総会での決議は不要です。
例えば、企業が自社の補助的な事業を他社に譲渡するケースが考えられます。この場合、取締役会の決議だけで事業譲渡を進めることが可能です。
簡易の事業譲受けに該当する場合
他の会社の事業をすべて譲り受ける際、譲受けの対価として交付する財産の帳簿価額が、譲受会社の純資産の20%(定款でそれを下回る割合を定めたときはその割合)を超えない場合、「簡易の事業譲受け」に該当し、当該事業譲受けに関して譲受会社における株主総会での決議は不要となります。
前述のケースと異なり、これは譲受側における規定です。そもそも会社が他の会社から事業の全部を譲り受ける場合には、譲受企業において原則として株主総会の特別決議による承認が必要となります。これは、事業の全部を譲り受ける際には、結果として簿外債務を含むすべての債務も引き受けることになる可能性が高く、株主への影響が大きいためです。
ただし、上記のとおり譲受けの対価が譲受企業の純資産に比べて影響が小さい事業譲受けの場合には、株主への影響も小さいと考えて株主総会での承認が不要とされています。
2. 事業譲渡の株主総会の流れ
事業譲渡の際には、株主総会での決議が必要となるケースがあります。手続きの主な流れは、下記のとおりです。いずれのステップも大切なポイントを含むため、一つずつ詳細を確認しましょう。
2-1. 株主総会開催の決定と株主への招集を行う
事業譲渡を行うときは、取締役会での決議で承認を得ることが必要です。取締役会の決議は、事業譲渡の意向を株主に伝え、株主総会の開催を正式に決定するために行います。
非公開会社の場合、株主総会の開催は、1週間前までに株主への通知が必要です。この通知は、株主総会の日時・場所・議題などを明記したもので、株主が総会に参加するための重要な情報を提供します。
2-2. 事前の準備を行う
株主総会の開催に向けて、事前準備を行います。準備に含まれるものは、スケジュールの作成、報告内容の整理、質疑応答への対策などです。
なかでも、事業譲渡の詳細な計画や、影響に関する説明資料の作成は、株主からの質問に対応するためにも欠かせません。
2-3. 株主総会の特別決議で承認を得る
株主総会では、事業譲渡のための特別決議が必要です。この決議では、事業譲渡の意向を株主に伝え、承認を得ます。株主への説明は、誠意をもって行うことが重要であり、そのための資料作成や質疑応答への対策も不可欠です。
2-4. 議事録の作成・保存を行う
株主総会の開催後は、すみやかに議事録を作成しましょう。
議事録の記録媒体については、電磁的データ、もしくは書面で行います。書面で作成した場合、押印について会社法上での定めはありません。ただし、定款で押印を定めている場合には必要となるため、あらかじめ確認してください。
また、議事録には保存義務があります。原本・コピーそれぞれに保存期間が定められており、債権者や株主から謄写(とうしゃ)や閲覧の要求がある際には、応じる必要があります。
3. 事業譲渡の株主総会議事録に記載する項目
事業譲渡における株主総会後には、議事録を作成する必要があります。会社法では、議事録に記載すべき項目と、作成・保存・閲覧について厳格な規定が設けられています。
具体的な項目については、下表をご覧ください。
記載内容 | ポイント・注意点 |
---|---|
開催日時・開催場所 | 株主総会の開催場所にいなかった人物が決議に参加したと見なされるためには、採決や質問に参加できる環境であることが必要 |
参加者 | 参加者全員の氏名を記載 |
会議タイトル |
会議の目的を明確にする (例:事業譲渡の承認に関する株主総会) |
譲渡事業の内容 |
譲渡する事業の内容を具体的に記載 (例:当社の自動車部品製造部門をXYZ社に譲渡する。これにより、当社は自動車部品の製造から撤退し、自動車のデザインと開発に注力する) |
譲渡先 | 譲渡先の正確な名称と住所を記載 |
譲渡価格 | 価格を具体的に記載 |
譲渡時期 | 譲渡の具体的な日付を記載 |
議事録には以下のとおり、株主総会の詳細について記載します。
- 開催日時・場所
- 議長ならびに議事録作成者の氏名
- 出席株主の氏名および出席株数
- 議案の内容と採決の結果
- 発言者の氏名と発言の要旨 など
これらの情報は、株主総会の進行と結果を正確に記録するために重要な項目です。
議事録の作成は、株主総会が終了した直後に実施します。議事録は、株式会社が存続する限り保存しなければなりません。会社の重要な決定を記録した公式文書であり、将来的にその内容が問題となる可能性があるためです。
また、株主だけでなく、債権者など第三者からの閲覧要求に応じる必要があります。
4. 株主総会が必要な場合に開催しないとどうなる?
事業譲渡において、一部の例外を除き原則として株主総会を開催しなければなりません。しかし、株主総会における承認が必要であるにも関わらず株主総会を開催しなかった場合、結果として事業譲渡が無効になるリスクがあります。
例えば、事業譲渡が無効となった場合、譲渡先との契約も無効化し、企業の信用が失墜するほか、損害賠償請求などが起きるかもしれません。
また、取締役が株主総会開催の義務を怠った場合、任務懈怠(けたい)責任が問われる可能性があります。任務懈怠責任とは、取締役をはじめとする役員が職務を適切に遂行しなかった結果、会社に損害が生じた場合に、損害を賠償する責任を負うことです。
役員が会社法や定款、株主総会の決議などに基づく職務遂行の義務を怠った際に問われます。例えば、不適切な経営判断や、法令違反を犯したケースなどが対象です。この場合、株主から損害賠償を請求されるリスクが生じます。
5. まとめ
事業譲渡は、企業の成長や経営戦略の一部として行われることが一般的です。その過程で必要になるのが、株主総会での特別決議です。しかし、すべての事業譲渡が、株主総会の開催を必要とするわけではありません。また、株主総会を開催した場合の、議事録の作成と保存には法律上の規定があり、これらを遵守することが求められます。
事業譲渡は専門的な知識を必要とするため、専門家に相談することをおすすめします。M&Aキャピタルパートナーズでは、事業譲渡のプロセスをスムーズに進めるための支援を行っています。事業譲渡の際はぜひ一度、ご相談ください。