創業者利益とは? 上場・非上場別のケースやM&Aで得られる利益について解説

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苦労して一代で会社を築き上げてきた創業者にとって、起業した対価として受け取れるのは、役員報酬や役員退職金だけではありません。実は、これらを超えるほどの対価を得る権利を有しており、それが「創業者利益」です。
しかしながら、中堅・中小企業の経営者で、創業者利益を十分に理解している方は、それほど多くないでしょう。
そこで本記事では、創業者利益とはどのようなもので、どうすれば得られ、最大化するために何をすれば良いのかを丁寧に解説します。会社の売却をお考えの方は、ぜひ参考にしてください。

このページのポイント

~創業者利益とは?~

オーナー経営者である会社の創業者が、自身の持つ株式を売却して得られる利益のことを指す。創業者利益をえる方法は、株式上場をした上で、市場で自社株を売却するか、M&Aで市場外で直接買ってもらえる相手を探すかの二択となる。市場での自社株を売却に関してはインサイダー取引に抵触する場合もあるため、売りたいときに売れるとは限らない点は留意が必要となる。

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1. 創業者利益とは

はじめに、創業者利益の概要や、創業者利益が生まれる仕組み、キャピタルゲインとの違いについて解説します。

創業者利益が生まれる仕組み イメージ画像

1-1. 創業者利益の意味や仕組み

創業者利益とは、オーナー経営者である会社の創業者が、自身の持つ株式を売却して得られる利益のことを指します。創業した会社が、IPO(Initial Public Offering:株式上場)を果たしている場合は、株式を市場で売却して創業者利益を得ます。
しかし、大多数の会社は非上場企業のため、市場で自社株を売却して創業者利益を得ることはできません。そこで、創業者利益を獲得するために、株式市場ではなくM&Aを通じて自社株を売却するのです。
会社の株価は、会社の成長や企業価値評価に応じて増減するため、創業者が事業を成功させたことに対する報酬が、創業者利益であるといえます。

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1-2. 創業者利益とキャピタルゲインの違い

キャピタルゲインとは、株式や債券などを売却して得られる利益のことです。創業者利益の源泉も、上述のように自社株のキャピタルゲインですから、広義には「創業者利益もキャピタルゲインの一種」となります。
一方、創業者利益の場合は会社設立時に出資するため、オーナー経営者として経営権を持ち、自身の才覚と責任で会社を大きくしていくことができます。
これに対し、キャピタルゲインの場合は資産を保有して、その価値の上昇で得られる一般的な投資利益のため、株式購入に伴う経営権などは原則として付与されません。こうした点において、両者は大きく異なります。

2. 創業者利益を獲得する目的

創業者利益を獲得する目的はさまざまですが、なかでも特に重要なのは以下の3つです。

  • セミリタイアするため
  • 新規事業用の資金にするため
  • 負債精算のため

一つずつ、詳細を確認していきましょう。

2-1. セミリタイアするため

創業者利益を獲得する目的の一つ目は、セミリタイアするための資金獲得です。
いったん一息ついてから新たにビジネスを始めるにしても、ハッピーリタイアをして悠々自適の老後を過ごすにしても、ある程度のまとまった資金が必要です。その資金を、創業者利益で獲得します。
経営者として激務をこなしている間は、気が休まる瞬間がなかった方も、セミリタイアすれば仕事に追われる生活から解放され、余裕のある余生を送ることが可能です。
また、創業者利益を資産運用に回せば、一定の収入を得ながら生活することも望めます。

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2-2. 新規事業用の資金にするため

創業者利益を獲得する目的の2つ目は、新規事業用の資金獲得です。創業者利益を新規事業の資金として活用すれば、新たに融資を受けることなく事業を立ち上げられます。
競業避止義務があるため、創業者利益獲得後はこれまでと同じ内容の事業はできませんが、磨き込まれた商売のコツやビジネスセンスは、他の業種でも十分に転用できるはずです。
前回よりもまとまった資金を元手に事業をスタートできるため、個人資産をリスクにさらすことなく、新事業を始められるでしょう。

2-3. 負債精算のため

創業者利益を獲得する目的の3つ目は、会社経営によって積み重なった負債をまとめて精算するためです。
大半の創業者は、会社を経営していく過程で、資金調達のために金融機関から融資を受けます。売上が伸びれば伸びるほど必要な資金も多額になるため、ある程度の負債が残ってしまうケースが一般的です。
また、融資では経営者が個人保証を行う場合が多いため、万が一の際は、経営者の個人資産が差し押さえられるリスクも背負っています。
こうした負債の解消や、経営者の個人保証の解除など、経済的および法的リスクを軽減する目的でM&Aを実行して、創業者利益の獲得が目指されるわけです。

3. 創業者利益を得る方法

創業者利益を獲得するためには、オーナー経営者が保有する自社株式を第三者に売却し、売却益を得なければなりません。
IPOを果たし上場企業となった場合は、株式市場で自社株式を売却します。これに対し、非上場企業の場合は市場での売買ができないため、M&Aによって買い手企業に自社株を売却します。
IPOとM&Aによる、創業者利益獲得の特徴などをまとめた一覧表は、以下のとおりです。

IPO M&A
特徴

株式市場で自社株を売却可能

買い手企業を見つけて売却

メリット

・株主として残れる
・ブランドイメージ・企業価値が高まる

・負債を抱えずリタイアできる
・大量の株式を一気に売却できる
・得た資金を元手に新規ビジネスへの参入もできる

デメリット

インサイダー取引等に抵触する場合があるため、実際に売却するのは容易ではない

・売却までに手間や時間がかかる
・相手により金額が変わり、想定より安い売却額になる可能性もある

IPOとM&A、それぞれの詳細を見ていきましょう。

3-1. IPO

創業者利益を得るための一つ目の方法は、IPOです。自社を株式上場させ、市場での売買を可能にしておき、必要に応じて自社株を売却します。
IPOによるメリットは、社会的信頼性が上がるためブランドイメージも高まり、優秀な人材などを雇用しやすくなることです。それに伴い、企業価値をさらに上げることも望めます。
反対にデメリットとしては、株式をいつでも気軽に売却できないことです。IPOによって売買手続きそのものは容易に行えますが、創業者の株式の売買はインサイダー取引に抵触する場合もあるため、実際に売りたいときに売れるかどうかは分かりません。
また、空売りは禁止されており、売買にあたっては、財務局へ売買報告書を提出しなければならない点などもデメリットといえます。
ただし、IPOを果たした企業をM&Aで売却する場合は、TOBによりすべての株式を一括して売却することができます。

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3-2. M&A

創業者利益を得るためのもう一つの方法は、M&Aです。IPOのように自社株を株式市場では売却できないため、市場外で直接買ってもらえる相手を探す必要があります
M&Aのメリットとしては、会社経営から身を引いて負債を抱えずリタイアできる点や、得た資金を元手に新たなビジネスを始められる点などです。
反対にデメリットとしては、買い手企業に対して創業者の希望条件が確実に受け入れられるわけでない点です。例えば、企業風土や社風の維持などを希望しても、M&A実施後にそれらがずっと維持されるかどうかは分かりません。
また、メリットでありデメリットでもある点としては、売買相手によって創業者利益の金額が変わることが挙げられます。IPOによって市場で株式を売却するのであれば、株式を誰に売っても同じ値しかつきませんが、M&Aの場合は誰に売るかでその金額が大きく変わることが一般的です。
こちらの企業価値を評価し、M&Aによって傘下に収めればシナジー効果が生じると想定した買い手企業であれば、少々高くても何とか買おうとします。一方で、企業同士のマッチングから考えて、それほどのシナジー効果が期待できないと想定した買い手企業であれば、高値での売却を期待するのは難しいでしょう。
このように、マッチング次第で創業者利益が増減する点は、M&Aのメリットでありデメリットでもあることの一つに挙げられます。

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4. 創業者利益にかかる税金の計算方法

株式の譲渡による創業者利益は「譲渡所得」に該当し、他の所得と合算することなく創業者利益にかかる税金だけを単独で計算します。これを「分離課税」と言います。
役員報酬などの給与所得は累進課税のため、金額が増えるほどに税率も高くなりますが、譲渡所得にかかる税率は常に一定のため、たとえ巨額の創業者利益を得ても、税率が累進的に増えることはありません。
なお、創業者利益にかかる税金とその税率は、以下のとおりです。

  • 所得税:15%
  • 住民税:5%(概ね5%ですが、正確には地域によって若干異なります)
  • 復興特別所得税:0.315%

では、簡単な例を用いて実際の税額を計算してみましょう。譲渡所得は、次の式を用いて算出します。

  • 自社株の譲渡所得=譲渡価額-(出資額+株式譲渡実施時の手数料)

例として、200万円を出資して創った企業を1億円で売却し、仲介手数料として800万円を支払った場合の税額を計算してみます。上述した3つの税金の税率を合計すると20.315%ですから、税金の合計額は以下のとおりです。

  • 自社株の譲渡所得=1億円-(200万円+800万円)=9,000万円
  • 税金の合計額=9,000万円 × 20.315%=1,828万3,500円

したがって、この例では、9,000万円-1,828万3,500円=7,171万6,500円が、創業者利益となります。
ただし、上記以外に特別な課税がある場合は、そちらも考慮しておく必要があります。

5. 創業者利益に関する注意点

創業者利益に関する注意点のうち、特に重要なのが以下の2点です。

5-1. IPOは現金による創業者利益が少ない

IPOによって創業者利益を得ようとしても、株式の現金化が難しいため、まとまった金額を一度に得ることが難しい場合があります。
上場企業の経営者が自社株を売却しようとしても、先述のようにインサイダー取引に該当しかねないため、想定通りの株価で売却するのは一般的に容易ではありません。
また、創業者が株式を大量に売ろうとすれば投資家に良い印象を持たれないため、最悪の場合、株価が暴落して資産を大幅に目減りさせてしまう恐れがあります。
このように、IPO後の株式売却は、市場の状況や企業の状態を考慮して行う必要がある点に注意しておかなければなりません。

5-2. 適切な内容で創業者間契約を締結しておく

創業者間契約とは、複数人で会社を設立した場合、途中で会社経営から離れるメンバーの株式を残りのメンバーが買い取ることなどを、あらかじめ合意する契約のことです。
創業者が複数人いる場合、途中で離脱するメンバーが株式の引き渡しを拒否したり、第三者に売却してしまう可能性が考えられます。こうした事態を防ぐためには、創業者間での協力や株式の譲渡に関するルール、買取価額の計算方法などを事前に明確にし、契約を締結しておく必要があります。
なお、創業者間契約は将来の問題や紛争を事前に防ぐための重要な文書であるため、弁護士などの専門家に法的なアドバイスを受けながら、慎重に作成しておくのが良いでしょう。

6. 創業者利益をより多く得るためのポイント

最後に、創業者利益をより多く得るためのポイントについて解説します。創業者利益をさらに獲得するために重要なことは、主に以下の2点です。

6-1. 好業績のタイミングで売却する

創業者利益は、会社の企業価値によって決まります。業績が順調に伸びて右肩上がりであれば、企業価値はどんどん高くなりますが、業績が急降下してしまっては、企業価値が棄損され、評価額は大きく下がってしまいます。
したがって、創業者利益をより多く得るためには、業績の良いタイミングで売却することが重要です。業績の良い会社であれば、好調な時期に売却することにより、多額の創業者利益を獲得できるでしょう。

6-2. M&Aの専門家へ相談する

創業者利益を大きくするためのもう一つの方法は、自社を最も評価してくれる企業に売却することです。自社の技術力やノウハウ、ブランド力などが評価されれば、高い金額でも売却が期待できます。
そのためにはマッチング力が必要であり、M&Aの専門家が欠かせません。専門家やアドバイザーのサポートを受けられれば、理想的な買い手候補が見つかりやすくなります。その結果、創業者利益を最大化し、スムーズな売却ができるでしょう。
M&Aは成約までに複雑なプロセスが必要となるため、専門知識や経験を有する専門家へ相談することを推奨します。

7. まとめ

起業して長年事業を行ってきた創業者は、努力を積み上げた年月に応じた創業者利益が得られます。ところが、本記事で述べたように、創業者利益は方法次第で増減してしまう点に留意が必要です。
そのため、創業者利益を検討する際は、経験や実績が豊富な専門家からアドバイスを受けることをおすすめします。M&Aの専門家であれば、自社の状況に合わせて最適な創業者利益の創出や、スキームを提案してくれるでしょう。
M&Aキャピタルパートナーズは、M&A業界で最大規模を誇る仲介会社であり、東証プライム上場企業として、創業者に寄り添うさまざまなサービスを展開しています。創業者利益についてご相談のある方は、お気軽にお問い合わせください。


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監修者プロフィール
M&Aキャピタルパートナーズ株式会社コーポレートアドバイザリー部 部長公認会計士梶 博義
M&Aキャピタルパートナーズ株式会社 コーポレートアドバイザリー部 部長
公認会計士梶 博義

大手監査法人、事業承継コンサルティング会社を経て、2015年に当社へ入社。
これまで、監査、IPO支援、財務DD、親族承継・役職員承継コンサル等を経験し、当社入社後はM&Aアドバイザーとして活躍。一貫して中小企業の支援に従事し、M&Aのみならず、事業承継全般を得意とする。

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