TOB(株式公開買付け)の手続きの流れとは? 対象会社の対応や株主の応募手順・注意点を解説

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TOBの手続きについて

TOBの手続きの流れとは、買い手による公開買付開始公告や公開買付届出書の提出を起点に、対象会社の意見表明、必要に応じた質問への回答、既存株主の応募判断、公開買付期間終了後の結果確定へ進む一連の実務を指します。買い手だけで完結せず、売り手や株主の対応も並行する点が特徴です。

TOBでは、買い手・対象会社・既存株主がそれぞれ異なる対応を進めるため、手続きの全体像がつかみにくくなりがちです。どの順番で何が起こるのか、株主はどの資料を確認し、どのタイミングで判断すべきかを整理しておくことで、自分の立場に応じた対応を進めやすくなります。

本記事では、TOBの手続きの流れを時系列で整理したうえで、既存株主の対応や実務上の注意点について解説します。

TOBについて詳しく知りたい方は、以下の記事もあわせてご覧ください。

監修者情報

M&Aキャピタルパートナーズ株式会社 執行役員 コーポレートアドバイザリー部長 公認会計士 梶 博義

大手監査法人、事業承継コンサルティング会社を経て、2015年に当社へ入社。 これまで、監査、IPO支援、財務DD、親族承継・役職員承継コンサル等を経験し、当社入社後はM&Aアドバイザーとして活躍。一貫して中小企業の支援に従事し、M&Aのみならず、事業承継全般を得意とする。


TOBの手続きの流れ

買い手・売り手・既存株主それぞれのTOB手続きの流れ図解

TOBは、買い手が一方的に進める手続きではありません。売り手である対象会社や、株式を保有する既存株主も、それぞれの手続きを並行して進めていきます
実際には、買い手による公開買付開始公告や公開買付届出書の提出を皮切りに、売り手による意見表明報告書の提出、必要に応じた対質問回答報告書の提出、そして株主による応募・売却の判断など、複数の実務が時系列で動きます。公開買付期間は通常20〜60営業日の範囲で設定されるため、関係者それぞれが自分の役割と対応タイミングを早めに把握しておくことが大切です。

買い手・売り手が行うべきTOBの手続き

ここでは、TOBで買い手と売り手それぞれが行うべき手続きを、ステップごとに解説します。

  1. TOBの目的や条件を整理し、基本方針を固める
  2. 買い手が公開買付開始公告を行い、買付条件を公表する
  3. 買い手が公開買付届出書を提出し、TOBを正式に開始する
  4. 売り手が意見表明報告書を提出する
  5. 買い手が対質問回答報告書を提出し、情報提供を行う
  6. 公開買付期間に入り、関係者が必要な対応を進める
  7. TOBの結果を確定させる

TOBの目的や条件を整理し、基本方針を固める

TOBの最初の段階では、買い手・売り手の双方が、取引をどのような目的で行うのか、どのような条件で進めるのかを整理します。

買い手は、対象会社の子会社化を目指すのか、完全子会社化や非公開化まで見据えるのかを検討したうえで、買付価格・買付予定数・公開買付期間などの基本条件を設計します。この段階での条件設計が、その後の手続き全体の方向性を決めるため、慎重に検討しなければなりません。
一方、売り手側は提示された条件を踏まえ、賛同するかどうか、またどのような立場を取るかを検討します。経営者にとっては、価格の妥当性だけでなく、TOB成立後の経営体制や従業員・取引先への影響まで含めて論点を整理しておくことが重要です。

買い手が公開買付開始公告を行い、買付条件を公表する

基本方針が固まったら、買い手はTOBを正式に始めるための準備を進めます。金融商品取引法に基づき、公開買付開始公告を行い、買付けの概要を広く公表することが義務付けられています。公告に記載される主な項目は以下のとおりです。

  • 社名
  • 代表者の氏名
  • 会社所在地(住所)
  • 公開買付により株券等の買付けを行う旨
  • 買付けの目的
  • 買付価格
  • 買付予定の株式の数
  • 買付期間 など

買い手が公開買付届出書を提出し、TOBを正式に開始する

買い手は、原則として公開買付開始公告を行った日に、内閣総理大臣へ「公開買付届出書」を提出しなければなりません。ただし、その日が日曜日その他内閣府令で定める日に該当する場合は、その後最初に到来する提出可能日に提出する取扱いです。公開買付届出書には、公開買付者の概要や買付目的のほか、買付資金の裏付けなども記載されます。

また、公開買付の開始時に、株主が応募判断を行えるよう「公開買付説明書」を交付しなければなりません。公開買付説明書には、買付条件や応募手続き、買付けの目的などが詳しく記載されます。こうした書類のやり取りを通じて、株主が必要な情報を確認しながら応募を検討できる状態が整っていきます。

売り手が意見表明報告書を提出する

買い手が公開買付を開始すると、売り手である対象会社は、そのTOBに対してどのような立場を取るのかを整理したうえで、公開買付開始公告がなされた日から10営業日以内に、内閣総理大臣へ「意見表明報告書」を提出します。賛同・反対・中立といった意見とその理由を明記するほか、必要に応じて買い手に対する質問を記載することも可能です。

株主はこの意見表明報告書に記載された賛否や理由を踏まえてTOBへの応募を判断するため、対象会社にとっては自社の見解を明確に示す重要な工程といえます。

買い手が対質問回答報告書を提出し、情報提供を行う

対象会社が意見表明報告書のなかで買い手への質問を記載した場合、買い手はその内容に回答するため「対質問回答報告書」を提出します。提出期限は、質問付きの意見表明報告書(写し)を受け取った日から5営業日以内です。また、内閣総理大臣への提出と同時に、対象会社および証券取引所に対してもその写しを提出しなければなりません。

実務上は、このやり取りを通じて、買い手の考え方や買付条件の背景、取引の進め方などがより具体的に整理されていきます。

公開買付期間に入り、関係者が必要な対応を進める

公開買付開始公告や各書類の提出が完了すると、TOBは公開買付期間に入ります。この期間中、買い手は公開買付代理人を通じた応募受付や進行管理を行い、対象会社は必要に応じた開示や社内外への説明を進めなくてはなりません。株主も公開買付説明書や意見表明報告書などを確認しながら、今後の対応を検討することになります。

また、既存株主が売却するかどうかを十分に検討できるよう、公開買付期間は「20〜60営業日」の範囲内で設定しなければなりません。株主が行うべき具体的な判断や手続きについては、後述の「保有株式がTOBの対象になった場合の株主の対応・手続き」で詳しく解説します。

TOBの結果を確定させる

公開買付期間が終了すると、買い手はTOBの結果を公表し、公開買付が成立するかどうかが確定します。TOBは開始されたからといって必ず成立するとは限らないため、成立する場合と撤回・不成立となる場合の両方を把握しておくことが大切です。

成立する場合

応募株数が買付予定数の下限を満たすなど、公開買付の条件を充足した場合、TOBは成立します。成立後、買い手(公開買付者)は遅滞なく内閣総理大臣に対して「公開買付報告書」を提出しなければなりません。
なお、TOBの結果として公開買付者が対象会社の株券等保有割合5%超の株主となる場合は、別途「大量保有報告書」の提出義務も生じます。

撤回・不成立となる場合

応募株数が買付予定数の下限に達しなかった場合などには、TOBは不成立です。
また、金融商品取引法に基づき、企業が倒産した場合や災害で大きな損害を受けた場合など「やむを得ない重大な支障」が生じたケースでは、例外として買付けの撤回が認められています。
TOBを中止する場合は、公開買付撤回届出書を内閣総理大臣に提出しなければなりません。

保有株式がTOBの対象になった場合の株主の対応・手続き

保有株式がTOBの対象になった場合の株主対応の図解

保有している株式がTOBの対象になった場合、株主はまず公開買付の条件や応募方法を確認し、そのうえでどのように対応するかを検討します。

公開買付に関する情報を確認する

TOBへの対応を考える前に、まずは公開買付の条件を整理して確認しなければなりません。特に確認しておきたいのは、買付価格・買付期間・買付予定数の上限と下限・応募方法・公開買付代理人となる証券会社などです。
一般にTOB価格には市場価格より高いプレミアムが付くことが多い一方、企業再建の局面などでは市場価格を下回るディスカウントTOBが行われることもあります。価格だけで判断せず、応募条件やその後の見通しまで含めて確認しておくと、対応方針を決めやすくなります。

株主の権利 応募の判断基準 内容
TOBの価格 TOB価格が株主にとって適切かどうか TOB価格は、買付けを行う者が提示する株式価値に相当。この価格が市場価格よりも高い、あるいは株主が将来的な価値上昇を見込んでいない場合は、TOBへの応募の検討が合理的 株主が保有する株式の市場価格が2,000円、TOB価格が2,200円の場合、株主は検討が必要
買付期間 株主が応募を決定するための時間 買付期間は、株主がTOBに応募するために設けられた一定の時間。この期間が長ければ、株主は市場の動向を見てから応募の要否を判断できる 買付期間が上限の60営業日に設定された場合、株主はその間に市場の動向を見てから応募を決定できる
買付条件 TOBの条件が株主にとって適切かどうか 買付条件には、買付けを行う者が提供する株式の種類や数量、買付方法などが含まれる。これらの条件が、株主の投資目標やリスク許容度に合致していると、TOBへの応募の検討が合理的 買付条件が応募のあった分の「全部の買付け」で、株主がすべての株式を売却したい場合
応募撤回 応募を撤回できる条件とその手続き TOBに応募した後でも、公開買付期間中であれば撤回が可能。撤回する場合は、公開買付届出書等に記載された契約解除の方法を確認する必要がある 公開買付期間中に応募後の判断を変更する場合、株主は所定の方法で応募を撤回できる

これらの情報は、公開買付説明書に加え、対象会社の意見表明報告書や、必要に応じて提出される対質問回答報告書などでも確認できます。

株主としての対応を検討する

公開買付の条件を確認した後は、株主としてどのように対応するかを検討します。主な選択肢は以下の3つです。それぞれの特徴やリスクを理解したうえで判断しましょう。

対応方法 主な内容 向いているケース
TOBに応募する 公開買付代理人を通じて応募手続きを行い、買付価格で売却する TOB価格で売却したい場合、手続きを進められる場合に適している
口座開設や株式移管が必要なことがある点に注意
TOBに応募せず、そのまま株式を保有する 応募せず、引き続き株式を保有する すぐに売却したくない場合、買付価格では応募しないと判断した場合に適している
TOB成立後に流動性が低下したり、上場廃止やスクイーズアウトに進んだりする可能性がある
TOBに応募せず、市場で売却する 証券取引所を通じて通常の株式売却を行う 市場価格を見ながら売却したい場合に適している
市場価格はTOB価格と一致するとは限らない。

TOBに応募する

TOBに応募する場合は、公開買付代理人となる証券会社を通じて、所定の期間内に応募手続きを行います。既に公開買付代理人に口座を持ち、対象株式を預けている場合は比較的スムーズに手続きを進められます。
一方、口座を持っていない場合や他の証券会社で株式を保有している場合は、新たに口座を開設し、株式を移管しなければなりません。証券会社によっては移管完了まで10営業日程度かかることもあるため、締切直前ではなく余裕をもって準備を進めることが大切です。

TOBに応募せず、そのまま株式保有

TOBに応募せず、引き続き株式を保有することも可能です。ただし、TOB後に株式の流動性が低下したり、上場廃止となったりする恐れがあります。
また、その後の企業における方針変更などにより、株主価値が毀損(きそん)するリスクも生じます。

特に、買付者が支配株主となった場合は企業の経営方針が大きく変わる可能性があり、TOBに応募せずに株式を保有し続けるには、それらのリスクを理解したうえでの判断が必要です。
もっとも、買付者がTOBの結果、一定の株数を取得した場合には、特別支配株主の株式等売渡請求等の手段によりスクイーズアウトされてしまう可能性が高くなります。

TOBに応募せず、市場で売却

TOBに応募せず、市場で売却することも選択肢の一つです。この場合は通常の株式売買と同様に、市場価格を見ながら売却タイミングを判断することになります。ただし、市場価格はTOB価格と常に一致するわけではない点には留意が必要です。
また、個人が市場で売却して譲渡益が生じた場合には、譲渡益に対して20.315%(所得税15%・住民税5%・復興特別所得税0.315%)の税金がかかります。譲渡益は譲渡価額から取得費や手数料などを差し引いて計算されるため、売却価格だけでなく取得費もあわせて確認しておくと安心です。

TOBの手続きの注意点・ポイント

TOBの手続きをスムーズに進めるためには、書類の提出期限や応募方法を把握するだけでなく、立場ごとの注意点を押さえておくことが重要です。

TOBの全体スケジュールを時系列で把握しておく

TOBの手続きを進める際は、個々の書類や応募方法だけを見るのではなく、全体の流れを時系列で把握しておくことが大切です。具体的には、公表日・公開買付期間・結果公表日、そしてその後の上場廃止やスクイーズアウトの可能性まで見通したうえで、どの段階で何が起こるのかを整理しておく必要があります。
株主にとっては、応募期限までに必要な手続きを完了できるかどうかが重要です。一方、経営者にとってはどのタイミングで意思決定や関係者への説明を行うべきかが問われます。全体像を早い段階で把握しておくことが、後手に回らないための第一歩といえるでしょう。

経営者は社内外への説明タイミングを誤らないようにする

売り手である対象会社の経営者にとっては、法定書類の提出といった事務手続きだけでなく、従業員・取引先・金融機関などへの説明タイミングを誤らないことも重要です。開示内容と整合しない説明や、順序を誤った情報共有は、社内外に不要な混乱を招くおそれがあります。
TOBの手続きは、単なる事務対応にとどまらず、経営判断や関係者対応まで含めて進めることが望まれます。自社だけで判断するのが難しい場面では、M&Aや法務に詳しい専門家の支援を積極的に活用しながら進めると良いでしょう。

まとめ

TOBは、公開買付開始公告、公開買付届出書の提出、対象会社による意見表明報告書の提出、必要に応じた対質問回答報告書の提出、公開買付報告書の提出という流れで進みます。こうした一連の手続きは制度上厳格に定められており、提出書類や各段階の対応を正確に理解することが重要です。また、既存株主は応募、保有継続、市場売却のいずれかを選択することになり、それぞれに価格、流動性、上場廃止、スクイーズアウトなどの論点が関わります。複雑なプロセスを適切に進めるためには、必要な情報を整理したうえで、専門家の協力を得ながら判断することが重要です。



よくある質問

  • TOBの手続きはどのような流れで進みますか?
  • TOBの手続きは、買い手による公開買付開始公告・公開買付届出書の提出から始まり、売り手の意見表明報告書、必要に応じた対質問回答報告書の提出、公開買付期間を経て、結果公表へと進みます。買い手・売り手・株主のそれぞれに対応が発生するため、全体の流れを時系列で把握しておくことが大切です。
  • TOBの公開買付期間はどれくらいですか?
  • TOBの公開買付期間は、既存株主が売却するかどうかを十分に検討できるよう、一般に20〜60営業日の範囲で設定されます。この期間中に株主は、公開買付説明書や対象会社の意見表明報告書などを確認しながら、応募するか・そのまま保有するか・市場で売却するかを判断することになります。
  • 株主はTOBが始まったら、まず何を確認すれば良いですか?
  • まず、買付価格・買付期間・買付予定数の上限と下限・応募方法・公開買付代理人となる証券会社などを確認することが大切です。あわせて、対象会社の意見表明報告書や、必要に応じて提出される対質問回答報告書も確認しておくと、応募するかどうかを判断しやすくなります。
  • TOBに応募しない場合、株式はどうなりますか?
  • TOBに応募しない場合でも、そのまま株式を保有し続けることは可能です。ただし、TOB成立後の状況によっては株式の流動性が低下したり、上場廃止やスクイーズアウトに進んだりする可能性があります。応募しない場合は、その後の見通しも含めて慎重に判断しなければなりません。
  • TOBへの応募は途中で撤回できますか?
  • TOBへの応募は、公開買付期間中であれば撤回できます。撤回する場合は、公開買付届出書等に記載された契約解除の方法を確認する必要があります。
  • TOBに応募する場合、すぐに手続きできますか?
  • 既に公開買付代理人となる証券会社に口座を持ち、対象株式を預けていれば比較的スムーズに手続きを進められます。一方、口座が無い場合や他社口座で株式を保有している場合は、口座開設や株式移管が別途必要になります。移管には10営業日程度かかるケースもあるため、締切直前ではなく早めに準備しておくのが安心です。
  • 経営者がTOBの手続きで特に気をつけるべきことは何ですか?
  • 経営者は法定書類の提出だけでなく、従業員・取引先・金融機関への説明タイミングにも十分な注意が必要です。開示内容と整合しない説明や順序を誤った情報共有は、社内外に不要な混乱を招くおそれがあります。TOBの手続きは事務対応にとどまらず、関係者対応まで含めて総合的に進めることが重要です。

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