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債権者保護手続きについて
債権者保護手続きは、ステークホルダーのリスクを回避する重要な手続きであり、会社法によって規定されています。資本金・準備金が減少した際や、組織再編を実施する際などは、債権者保護手続きが必要な場合があります。
本記事では、債権者保護手続きの概要について解説したうえで、必要なケースと不要なケース、実施する際の流れやポイントなどについて解説します。
このページのポイント
~債権者保護手続きとは?~
債権者保護手続きとは、組織再編や減資により会社の財産が変動する際、債権者の利益を守るために会社法で定められた法的手続きです。主に合併や会社分割、資本金の減少時に実施され、公告や催告を通じて債権者に異議を申し立てる機会を提供します。法令順守と適切な対応が、企業の信頼性維持とスムーズな手続き遂行のカギとなります。
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債権者保護手続きとは
債権者保護手続きとは、組織再編等が引き起こすリスクを軽減するために定められた会社法上の手続きです。
債権者に対し「異議があったら一定期間内に述べてください」と周知し、資本金や準備金が減少する場合のように財産が流出する可能性がある際に実行します。債権者の利益を確保する意義は大きく、会社の信用維持にもつながります。対応を怠ると法令違反となるおそれがあるため、対象となる組織再編等の会社の行為を検討した段階で、しっかりと要否を確認しましょう。
債権者保護手続きにおける「債権者」とは
債権者保護手続きの債権者とは、特定の相手に対し一定の給付や行為を求める権利を持つ者を指します。
例えば、金融機関から融資を受けた場合は金融機関が「債権者」であり、融資を受けた側が「債務者」です。このとき、金融機関は返済を請求できる立場にあります。
返済を受ける権利は極めて重要です。万が一、履行が困難になれば経営を揺るがすおそれがあります。大切な資金を融資した立場だからこそ、異議を述べる機会が求められます。
債権者保護手続きと債権者異議手続きの違い
債権者保護手続きと債権者異議手続きは、どちらも債権者が意見を表明するための制度ですが、前者は異議の機会を与える全体の流れを指し、後者は実際に異議を述べる具体的な行為です。両者は緊密に連携しており、債権者保護手続きの一環として債権者異議手続きが含まれます。このため、実質的には同じように扱われがちですが、会社側としてはどの段階で意見が出るかをしっかり認識し、適切に対応する必要があります。債権者側の心情に配慮する意識が求められます。
債権者保護手続きが必要なケース
債権者保護手続きは、以下のようなケースで必要になります。
早い段階から情報を整理し、リスクを抑える姿勢が大切です。それぞれのケースについて詳しく見ていきましょう。
資本金や準備金が減少する場合
資本金や準備金が減少する際には、債権者保護手続きが必要です。減資によって会社の財産が流出し、支払い能力が低下することによる債権回収リスクから、債権者を守るためです。会社法に則り、十分な異議申立期間を設けなければなりません。
例えば、準備金を取り崩すケースでは、出資者や債権者が資金繰りの安全性に不安を抱くことも考えられるでしょう。
ただし、欠損を補うための減少や準備金全額を資本金に振り替える場合は、債権者保護手続きは必要ありません。その場合、適用条件を正確に把握して慎重に対応することが求められます。
組織再編を実施する場合
組織再編を進めるときには、債権者保護手続きのための書類作成や、異議申立期間の設定が必須です。異議申立期間を十分に確保し、債権者への周知を徹底することで、トラブルを予防しましょう。
合併

合併は、複数の会社を1つにまとめるM&A手法です。吸収合併と新設合併のいずれの場合でも、債権者保護手続きが必要になります。
合併を行うと、財務構造の変化によって返済能力が下がるおそれがあるため、負債が増加する局面では債権者の不安が大きくなりがちです。新設合併で誕生した法人が多額の負債を負う例を考えると、消滅会社の債権者は資金の回収可能性を疑問視することがあります。
また、吸収合併を行うときも、存続会社と消滅会社の双方に異議の申し立てに対応する責任を負うため、手続きを正確に遂行する必要があります。
会社分割

会社分割とは、企業が持つ事業の一部や全部を他社に移転させるM&A手法です。合併と同様、資産や負債が動くため、債権者保護手続きを行う必要があります。会社分割には、吸収分割と新設分割の種類がありますが、どちらの場合でも対象となる債権者への通知と、異議申立期間の確保が欠かせません。
分割会社の責任範囲が曖昧になると、債権者が請求先を特定できなくなるリスクがあります。そのような事態を避けるために、吸収分割では分割会社と承継会社が共に返済能力を確認し、新設分割では元の会社の債権者にも異議を述べる機会を与える必要があります。人的分割を含め、各種の分割手法でも公正な対応を行い、関係者に安心感を与えることが重要です。
債権者保護手続きが不要なケース
前述のとおり、組織再編を実施する際には債権者保護手続きが必要ですが、以下のような
ケースでは不要となります。
会社法の規定を踏まえつつ、不要な作業を省略できる可能性を探ることで、組織再編の効率を上げるきっかけを得やすくなります。それぞれのケースについて、詳しく見ていきましょう。
従来の債務者への弁済請求が可能な会社分割の場合
会社法が定める債権者保護手続きの対象は、債務の返済義務が不明瞭になるケースです。従来の債務者に引き続き弁済を請求できる会社分割であれば、債権者保護手続き期間の公告や書面による個別催告を行わなくても弁済の確実性が保たれるため、別途に債権者保護手続きを行う必要はないとされています。
債務の移転が発生しない会社分割の場合
債務の移転が一切発生しない会社分割であれば、債権者保護手続きも不要です。組織再編後も債務者が変わらない状況では、債権者の回収リスクは増加せず、債権者も不安を感じにくいからです。会社の資産や負債に変化がなければ、従来どおりの支払いが期待できます。
その他組織再編の場合
その他の組織再編であっても、債権者保護手続きの対象から外れる場合があります。「株式交換・株式移転」のケースと、「株式譲渡・事業譲渡」のケースを、それぞれ紹介します。
株式交換・株式移転
株式交換や株式移転の場合、原則としては株主の変更のみで、会社の権利義務に直接的な変更がありません。そのため、完全子会社となる会社では、通常、債権者保護手続きが不要です。完全親会社が株式または株式に準ずるものを交付する場合も不要です。
ただし、以下の場合には例外として債権者保護手続きが必要になるため注意が必要です。
【株式交換】
- 株式交換の対価を株式以外で渡す場合
【株式交換・株式移転】
- 株主資本等変動額をその他資本剰余金へ入れる場合
- 子会社とする会社から親会社に新株予約権付社債を承継する場合
株式譲渡・事業譲渡
株式譲渡と事業譲渡は会社法の組織再編行為に該当しないため、基本的に債権者保護手続き対象ではありません。株式の売買契約や事業資産の個別取引として扱われ、企業全体の財務構造を包括的に変えるわけではないからです。
債権者保護手続きの流れ
債権者保護手続きのおおまかな流れは、以下のとおりです。
会社法で定められた手続きの順序を意識しながら、ステークホルダーとの関係を円滑に保つためにも、段取りを誤らないようにしましょう。
1.官報公告への掲載
債権者保護手続きを実施する際には、国が発行する機関紙「官報」を通じて、次の4つの内容を公告しなければなりません。
- 会社分割(会社合併)をする旨
- 分割会社または承継会社の商号および住所
- 分割会社および承継会社の計算書類に関する事項
- 債権者が一定の期間内に異議を述べることができる旨
官報には債権者保護手続きが発生した事由を記載して債権者に公告します。
「一定の期間内」とは1ヶ月以上を定める点がポイントです。また、官報掲載には決められた費用官報公告掲載料金 | 官報公告が発生するため、掲載前に「全国官報販売協同組合」で最新の掲載料金を確認しておきましょう。
2.対象債権者へ個別催告
官報公告への掲載完了後、対象債権者である「知れたる債権者」へ個別催告が必要です。「知れたる債権者」とは、会社が認識している債権者のうち会社間の組織再編に関連する債権者のことを指します。催告方法に定めはないものの、ハガキや封書を普通郵便で送付することが一般的です。
催告内容は官報と同じで問題ありません。個別催告による異議申立て期間の起点日は「債権者に催告が到達した日」とします。ただし、催告期間は1ヶ月以上必要です。知れたる債権者はすべての債権者が対象になるため、債権額が少額であっても個別公告の対象者を指します。
なお、定款において、日刊新聞や電子広告での公告を定めている場合には、官報と、定款所定の方法による公告を行うことで、個別催告の省略が可能です。この手法は「二重公告」「ダブル公告」と呼ばれています。ただし、以下の場合には個別催告が必須となるため注意が必要です。
- 吸収分割・新設分割において、分割会社に対しての債務履行請求が不可能な債権者のうち、不法行為によって発生した債務の債権者がいる場合
- 合資会社・合名会社から株式会社への組織再編の場合
3.債権者の異議申立てに対する弁済
債権者が異議申立てを行った場合、会社は弁済しなければなりません。弁済方法は以下の3つのうちのいずれかで行います。
- 金銭で債権者に弁済する
- 相当の担保を債権者に提供する
- 弁済目的で信託会社等に相当の財産を信託する
ただし、1ヶ月を超える一定期間に公告や催告に対して債権者から異議申し立てが無い場合は承認されたものとみなします。
4.登記申請
債権者保護手続きが完了したら、組織再編の最終ステップとして登記申請を行います。官報公告や個別催告の履行を証明できないと、法務局から受理を拒まれ、手続き自体が無効と見なされる恐れがあるためです。添付書類に不備や誤りがあれば、一からやり直す可能性があります。
登記が済めば、組織再編が公式に認められます。すべての債権者保護手続きが終わったことを確かめたうえで、万全の態勢で書類を用意し、登記を申請しましょう。
債権者保護手続きの注意点・ポイント
債権者保護手続きを適切に行うための、4つのポイントを紹介します。法的リスクを最小限にとどめつつ、ステークホルダーとの関係を保って債権者保護手続きを実施できるよう、ぜひ確認してください。
余裕のある異議申立期間を設ける
債権者保護手続きの異議申立期間は、最低でも官報公告から1ヶ月以上が必要です。1ヶ月未満だと手続きが無効になる可能性があり、再度やり直す手間がかかります。組織再編そのものが無効化されるリスクもあるため、余裕を持ったスケジュールを設定することが重要です。
組織再編は手続き完了後に実施する
組織再編は、債権者保護手続きの完了後に行わなければなりません。手続き完了前に登記をしてしまうと、最初からやり直す事態になりかねないからです。また、登記申請時には債権者保護手続きの完了を示す書類が必要です。登記に進む前に、確実に保護手続きを終えてから証明書類を整備しましょう。
個別催告漏れがないように確認する
知れたる債権者への個別催告に漏れがないか、徹底的に確認する必要があります。催告から漏れた債権者がいる場合、後日訴訟に発展するおそれがあります。債権額の大小を問わず、すべての該当者を正確に把握し、個別に通知を行いましょう。
すべての債権者をリスト化したうえで、移転がある債務をチェックしていく方法が望ましいでしょう。定款改定で催告を日刊新聞や電子公告に切り替える方法も検討すると、リスクを抑えやすくなります。
会社分割の際には7条措置を実施する
会社分割を行う場合には、労働者への7条措置を実施する必要があります。会社分割が行われると、従業員の就業条件や雇用関係が変わる可能性があり、労働者の理解を得るプロセスが必須とされているためです。
7条措置とは、事前に労働者へ説明と話し合いを行い、協力を得るための取り組みを指します。労働者を軽視したまま会社分割に進むと、予想外の軋轢が生まれる危険性が高いため、十分な時間をかけてスケジュールを組みましょう。
まとめ
債権者保護手続きは、法的リスクを回避し、組織再編を円滑に進めるうえで欠かせない要素であり、ステークホルダーの不安を和らげる効果が期待できます。
十分な異議申立期間の設定や個別催告などを抜け漏れなく行うことで、企業の信用を守りながらスムーズなM&Aを実現しやすくなるでしょう。
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よくある質問
- 債権者保護手続きとは何ですか?
- 債権者保護手続きは、組織再編等が引き起こすリスクを軽減するために定められた会社法上の手続きです。
- 債権者保護手続きの流れは?
- 官報公告への掲載、対象債権者への個別催告、債権者の異議申立てに対する弁済、登記申請の順です。
- 債権者保護手続きが必要なケースは?
- 資本金や準備金が減少する場合や組織再編を実施する場合に必要です。
- 債権者保護手続きの「債権者」の範囲は?
- 組織再編により債務履行ができなくなった債権者が対象です。以下は、一般的に債権者と言われる対象範囲です。「分割型分割の場合は全債権者が対象」「分社型分割の場合は承継会社に移転する債権を持つ債権者が対象」「吸収合併の場合は消滅会社と存続会社両方の債権者が対象」「新設合併の場合は消滅会社の債権者が対象」ただしM&Aスキームごとに対象者が異なるため、確認が必要です。
- 事業譲渡では債権者保護手続きは必要?
- 会社法上では、事業譲渡に関して債権者保護手続きが義務付けられているわけではありません。事業譲渡は個別承継の仕組みであり、債権者が同意しない限り債務は移転しないため、合併や分割のような包括承継とは性質が異なります。ただし、債権者が大きな不利益を被るおそれがあるときは、あえて債権者保護手続きを行うことでリスクを減らす判断も考えられます。最終的には状況に応じた判断が重要です。