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2020年で全国で休廃業・解散・倒産した会社の総数は約5万5000社に上り、それに対し、M&Aの件数は3500件とまだまだ活用数が少ないのが現状です。その背景には、売手、買手ともに課題が残されており、M&Aをスムーズに行うことが出来ないケースや、そもそもM&Aが候補として上がっていないなどのケースがあります。
この記事では、M&Aにおける売手、買手の課題を紹介しておりますので、参考にしていただきM&Aも事業継続の手法の候補としていただけますと幸いです。
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~M&Aの課題とは?~
M&A実施にあたっての課題は「マッチング時」、「交渉時」、「統合時」の3つに分かれる。特に譲渡側においては、マッチング相手の良し悪しを判断するための情報不足や、M&A交渉時のサポート役不足、統合時における企業文化の融合など、M&Aをスムーズに行うために必要な準備が不足しやすい。
M&Aで譲渡を検討する際の課題
東京商工リサーチの調査にもあるように、2020年の休廃業・解散企業では、倒産の6倍以上の企業が休廃業・解散に追い込まれています。後継者難は深刻な事態であり、事業承継を円滑に進めることが喫緊の課題であるといえます。
(出典) 東京商工リサーチ 2020年「休廃業・解散企業」動向調査
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2020年(1-12月)に全国で休廃業・解散した企業(以下、休廃業企業)は、4万9,698件(前年比14.6%増)でした。これまで最多の2018年(4万6,724件)を抜き、2000年に調査を開始して以降、最多を記録しました。2020年の企業倒産は、コロナ禍での政府や自治体、金融機関の資金繰り支援策が奏功し、7,773件(前年比7.2%減)と2年ぶりに減少した結果となりました。
休廃業・解散と倒産の合計は5万7,471件に達します。「経済センサス-活動調査」(2016年)によると、国内の企業数は358万9,000超で、単純計算で1.6%が2020年に市場から撤退・消滅したことになります。
休廃業した企業の41.7%が、代表者の年齢は70代でした。60歳以上でみると84.2%と8割を超え、60歳以上の比率は前年(2019年)から0.7ポイント上昇した結果となります。事業承継がスムーズに進まず、社長の高齢化が休廃業・解散を加速する要因になっています。
公表されているM&Aの件数は年間で3500件を超え、公表されていないM&A件数が数倍あるといわれている中で過去最高の水準ではあるものの、日本の企業数約380万社からするとまだ活用数が少ないというのが現状です。そこには、事業承継問題の解決の必要性があり、経営課題の解決のためにM&Aいう選択肢があるにもかかわらず、オーナー経営者が認識していない、選択肢として考えていない(「うちみたいな中小企業は売れない」と思っているオーナー経営者が多い)、選択肢があることを知らないという背景があります。
外部の支援体制もまだ不足しています。2018(平成30)年4月20日に、中小企業庁より公表された「中小企業白書2018」では、M&A の実施にあたっての課題は「マッチング時」、「交渉時」、「統合時」の3つに分かれると述べられていました。
などが要因として挙げられていました。
中小企業へのアンケート結果から、いずれの段階においても課題はあるものの、M&A の件数が増加していくためには、買い手と売り手とのマッチングを円滑化することが不可欠であり、マッチング時の課題には、判断時の情報不足や仲介等の手数料負担が課題として挙げられています。例えば、M&Aの相手探しを依頼する際に、検討段階で着手金や企業価値算定費用が必要になる場合があります。入会金の高い結婚相談所と同様で、相手が見つかる保証がいない段階で費用がかかることで検討のハードルが高くなります。
M&Aで譲受を検討する際の課題
M&Aで会社を譲受けるために、検討からPMIまでは、どのような社内のメンバーを組織すればよいでしょうか。
M&A実行のチームビルディングが譲受を検討する企業にとって課題となります。M&Aは秘匿性が高いため、メンバーは必要最小限に限定すべきです。なぜなら人数が増えるほど、情報管理は難しくなるからです。よほどの大型案件でなければ、社内の各部門の担当者は1名~2名、全員で多くても10名程度で十分です。とはいえ裏を返せば少なくても10名程度は必要と言うことで、M&Aを実際に検討し、実行し、シナジー効果を発揮して成功を収めるための道筋をつけるためには相応な体制が必要ということになります。
社内メンバーとしては、経営企画、M&A、事業企画、財務、法務に関する部門の担当者は必須です。M&A担当部門が専門組織として独立していない場合は、経営企画部門の担当者が兼務することが多いようですが、最近では上場企業を中心にM&Aを専門に担当する部署が増えてきている印象を受けます。
社内メンバーの中で、チームリーダーは経営企画もしくはM&A担当の上席管理職(部長クラス)もしくは役員クラスが務めることが一般的で、部長クラスより下の職位の者がリーダーになることはほとんどありません。M&Aはどんなに小さな案件であっても、上席役員あるいは社長といった経営トップが関与するもので、トップと密なコミュニケーションをとれる立場にある者でなければM&Aのチームリーダーはとても務まりません。
社長 | M&Aを10社20社と成功裏に収める企業は、トップの経営ビジョン、オーナー経営者との高い信頼構築力をもっており、M&Aという大型投資に対する決断力と意思決定からのクロージングまでのスピードが最重要であることを理解しています。 社長の意思を担当役員以下の社内メンバーといかに共有できるか、社長自身がいかにフットワークよく動けるかが重要です。 |
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担当役員 | チームリーダーの管理監督として、案件の進捗管理、案件推進可否の判断、買収予算の承認、チームリーダーのアサイン、トップマネジメントヘの根回し等が役割となります。 経営企画部門の担当役員がアサインされることが多いですが、社長自身が担う場合もあります。 |
チームリーダー | チームの執行責任者として、チームマネジメント、買収対象企業との交渉窓口、スケジュール管理、メンバーのアサイン、メンバーの役割の明確化、社内関係者への根回し、社内の意思決定会議でのプレゼンテーション、外部専門家との連携窓口等を担います。 経営企画部門の上席管理職もしくはM&A担当部門の上席管理職がアサインされることが多いです。 |
経営企画担当 | 経営企画担当は、全社の経営戦略との整合性のチェック、買収後の経営統合プランの策定支援、社内の意思決定会議のアレンジ、資料作成等を担います。 |
M&A担当 | M&Aの実務担当者として、買収戦略の立案、ターゲット企業の選定、企業価値評価(バリュエーション)買収スキームの検討、交渉の補助、契約書等の草案作成、クロージング時のデリバリー等を担います。 また、M&Aアドバイザリーの起用やM&Aアドバイザリーとの調整役も担います。 |
事業企画担当 | 買収対象事業のビジネスデューデリジェンスの実施、シナジー効果の算定、事業リスクの評価、買収後の経営統合(PMI)プランの策定等を担います。 「買収対象事業の強み・弱み」、「買収後のシナジー効果とその実現性」について事業企画担当者には判断が的確に求められます。よって、事業企画担当は買収対象事業の目利きができる経験豊富な社員をアサインすることがポイントとなります。 |
経理財務担当 | 財務・税務上の観点からの買収スキームの検討、買収資金の調達、M&Aに伴う会計処理の検討、財務デューデリジェンスのアレンジ、財務デューデリジェンスや企業価値評価レポートの内容検討、監査法人対応、買収後の買収対象企業の内部統制(J-SOX)対応や連結決算対応の検討等を担います。 |
法務担当 | 法的観点からの買収スキームの検討、基本合意書や最終契約書等の契約書作成、法律事務所との連携、法務デューデリジェンスレポートの内容検討、取締役会や株主総会議事録の作成、買収対象企業の定款変更案の作成、クロージング時の法定書類や株券の確認、役員交代等に伴う登記手続対応等を担います。 |