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M&A(Mergers and Acquisitions、合併・買収)を実施する過程においては、様々な指標が企業の価値を測定するために用いられます。その中でも、Qレシオ(Q- Ratio)は、そのシンプルさと広範な適用性から、M&Aを検討している企業においても注目される指標の1つといえます。今回は、Qレシオの概要から、実際の計算式、Qレシオの水準と目安、利用するメリットとデメリットについて説明します。
1. Qレシオの概要
1-1. Qレシオとは?
Qレシオとは、「実質株価純資産倍率」といわれ、企業の将来の収益性や資産の利用効率を示す指標です。Qレシオは負債が含まれているトービンのqを株式だけの指標として修正したものとされています。
なお、トービンのqはノーベル経済学賞受賞者ジェームス・トービン氏が作成者とされており、Qレシオの「Q」はトービンのqから命名されました。
2. 実際の計算式
Qレシオは、一般的に次のいずれかの方法で算定されます。
- 「株価÷1株当たり実質純資産(含み資産を加えた時価ベース)」
- 「株式の時価総額÷純資産の時価(=資産の時価総額-負債の時価総額)」
Qレシオは、企業の純資産の時価が株式の時価総額に対してどの程度かを示す指標で、理論的には1倍で均衡します。Qレシオのポイントは純資産の含み益が計算に含まれている点です。
日本のバブル期に株式市場における株価収益率(PER)や株価純資産倍率(PBR)が異常に高い銘柄の株式がありました。しかし、資産の含み益が盛り込まれているQレシオを使うと、PERやPBRが高くても株価が割安であるという説明することができました。そのため、バブル期にはQレシオが投資尺度として頻繁に使われていましたが、バブル崩壊以降は使用されることも減ったといわれています。
3. Qレシオの水準と目訳
Qレシオは1倍以下であれば株価は割安、1倍以上であれば割高とみる指標ですが、過去の統計上、0.7倍から0.8倍程度が平均的な水準と考えられているようです。また、一般的に投資結果を予測できていない指標のため信頼性に欠ける点があります。
また、Qレシオの変化率(前年比成長率)は企業が設備投資するかの指標にもなっています。これは変化率が高くなれば企業は設備投資を増加させる傾向があり、変化率が低くなれば設備投資が減少する傾向にあると考えられています。
4. Qレシオを利用するメリットとデメリット
4-1. Qレシオを利用するメリット
Qレシオは、PBRと似た指標ですが、PBRは株価を簿価ベースの1株当たり純資産で割っている点に違いがあります。そのため、Qレシオは簿価ベースのPBRより実質的な評価ができるメリットを持っています。
4-2. Qレシオを利用するデメリット
一方で、デメリットとしては、純資産を時価評価することが困難な場合がある点です。純資産は資産から負債を差し引くことで計算されるため、資産と負債を正確に時価評価することが困難な場合があることを意味します。また、市場の変動によって株価が変動することでQレシオが頻繁に変化するため、短期的な市場の変動に過度に反応してしまうリスクもあります。
5. まとめ
Qレシオは企業の価値を図るうえで有用な指標ですが、M&Aを検討する経営者にとっては、他の指標と組み合わせて利用することで、M&Aの成功率を高めることができると考えられます。