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近年M&Aの一種であるMBO(Management Buyout)が、後継者問題の解決や経営再建の一助になるとして実施されるケースが増加しています。
ビジネス課題が複雑化する中で、経営者や経営陣は柔軟な発想を持たなければなりません。
本記事では、MBOのメリットやデメリット、成功事例をご紹介します。
このページのポイント
~MBO(マネジメント・バイアウト)とは?~
幹部や経営陣自身が所有者から株式を買い取り、経営権を取得すること。実施するメリットとして、多くの株主に分散していた議決権を買い戻すことで、自社の経営がより自由になり意思決定を迅速に行えるようになる点が挙げられる。
目次
1. マネジメント・バイアウト(MBO)とは?
マネジメント・バイアウトとは、幹部や経営陣自身が所有者から株式を買い取り、経営権を取得することです。
多くの株主に分散していた議決権を買い戻すことで、自社の経営がより自由になり意思決定を迅速に行えるようになります。
ただし企業の価値が高いほど、経営陣は自社株を買い取るために金融機関やファンドなど、外部から多くの資金を調達しなければなりません。
2. MBOが増加している背景
日本の多くの企業は、少子高齢化による市場の縮小やIT技術の発展に伴う日本市場の成熟化により苦戦を強いられています。
そのため、短期的収益ではなく、市場やビジネスモデルを転換して中長期的な経営へ切り替える企業も増加しています。
MBOを行うことで、自身の利益のみを考え、短期的収益を重要視する株主の意見に左右されない経営体制を構築することが可能です。
またMBOは、株式上場企業がよく行う手法ではあるものの、株式上場のメリットが減少していることも重要な原因の1つです。
そもそも株式上場は、認知度向上による、多額の設備投資資金の調達手段として活用されてきましたが、IT化に伴うサービス業や通信業を主力とする企業はそこまで多くの設備資金を必要としません。
必要になれば、クラウドファンディングやベンチャー投資の資金調達などによって同等の資金を集めることも可能であるため、株式上場するメリットが大きく減少しています。
3. MBOの目的
MBOを行う大きな目的の1つに「経営権の完全取得」があります。
近年、IT技術の進歩や国の補助によって株式売買が広く知られるようになりました。
それに伴い、短期的な利益のみを重視する株主が増加し、長期的な経営戦略は受け入れられにくくなりました。
MBOを行い、経営の決定権を自社に戻すことで、株主からの影響を受けずに経営が行えます。
また、自社の情報を厳格に管理できるようになることも目的の1つです。
経営状態や自社の情報は、会社の所有者である株主へ公開や報告する必要があります。
企業秘密や自社のみで留めておきたい情報も共有しなければならないため、株主の数だけ情報漏えいのリスクが高まるでしょう。
情報漏えいを防ぎ、自社独自の製品やサービスを提供したいと考えている企業がMBOで上場を廃止する場合もあります。
4. TOBや自社株買いとの違い
TOB(Take Over Bit)と自社株買いはともに株式の取得方法ですが、MBOとは異なる点がいくつかあります。
TOBでは、特定の株主や株式市場全体から株式を大量に買い付けて企業の支配権を取得します。一方、MBOでは経営陣自身が企業の株式を買い取り、経営権を保持します。これにより、経営陣は企業の経営方針や戦略をより自由に決定できるようになります。
自社株買いもまたMBOとは異なる目的を持ちます。自社株買いは企業が自ら株式市場から一部の自社株式を買い戻すことで、株価を上昇させたり1株当たりの利益を上昇させたりすることを目的とします。しかし、MBOでは経営陣が全ての株式を取得し、企業の経営権を握ることが目的です。自社株買いは経営権を握ることは目指さず、その結果として企業の経営がより自由になるわけではありません。
以上の違いを理解することで、各企業が自身の経営目的や状況に応じて、最も適した株式取得方法を選択できます。
5. MBOを行うメリットとデメリット
MBOのメリット
MBOを行うメリットは下記の2点です。
- 自由度、意思決定スピードの向上による経営の効率化
- 事業承継の円滑化や後継者問題の解決
1つずつ詳しく解説します。
自由度、意思決定スピードの向上による経営の効率化
上場している会社の場合、MBOによって非上場し経営陣が会社の意思決定権を持つことで迅速な意思決定が可能になります。
たとえば業績が悪化し事業再編を行いたい場合でも、多くの株主がいる場合は利害の調整が難しくなります。
また、業績が好調で注力したい事業に経営資源を集中的に投下したい場合も、株主の意見も聞きながら行わなければなりません。
MBOを実施し、株式上場を廃止することで、経営の自由度や機動性を高められるのです。
事業承継の円滑化や後継者問題の解決
現在、少子化やキャリアの自由化によって、日本の多くの企業が後継者問題に悩まされています。
後継者を見つけられず廃業する場合でも、専門家への依頼や設備の廃棄などに多額のコストがかかるため、多くの経営者が抱える悩みの種です。
しかし、MBOであれば親族以外の信頼できる幹部や社員にスムーズに承継を行え、自身が株式売却益を得られます。
また、買い手と売り手に信頼関係があるため、交渉がスムーズに進みやすく、企業秘密の外部流出を防ぐこともできます。
MBOのデメリット
MBOのデメリットは下記の3点です。
- 既存株主との対立
- 主観的な経営になる
- 資金調達が困難になる
デメリットが大きな問題となる場合もあるため、必ず確認しておきましょう。
既存株主との対立
MBOは、株式を自社の経営陣が買い取るため、既存の株主からの反感を買う可能性があります。
株主によっては、売却価格をつり上げることもあり、集めた資金より買い取り金額が上回ってしまう場合もあります。
しかし、経営陣が安く買い取りたいのと同様に、既存株主も高く売りたいというのは自然なことです。
既存の株主との交渉は、専門家へ相談しながら慎重に進めるようにしましょう。
主観的な経営になる
自社で全ての株式を取得することで、経営の意思決定スピードは早くなり、大胆な施策を打てるようになります。
しかし、外部の客観的な意見を取り入れることがなくなるため、経営陣のみが先走り、従業員や顧客が離れていくかもしれません。
株主がいることで、新規事業への挑戦できなかったり短期的な利益追求に走ったりする可能性もありますが、株主からの指摘によって十分な計画を立ててから事業に取り組むこともあります。
MBOは、株主の存在や資金面などを精査した上で、実施しましょう
資金調達が困難になる可能性
上場企業の資金調達の方法として「株主からの支援」もあります。
しかし、MBOで自社株式を全て取得すると、株主からの資金調達が困難になります。
また、MBOのために既存の顧客から株式を買い取る資金の捻出が必要です。
自社に十分な資金がなく、金融機関や投資ファンドからの借り入れを行う場合、債務だけが増加する可能性もあります。
一度はMBOを検討していても、多額の負債によるキャッシュフローへの影響を考え、断念する方も多くいます。
資金面でも大きな影響がでることを考えた上で、MBO実施を検討しましょう。
6. MBOの具体的なスキーム
MBOは、下記のような流れで進んでいきます。
- MBO対象企業の価値の算出
- 新会社の設立
- MBOファンドなどから株式取得金の調達
- 株主から株式の買取
- 対象企業と新企業の合併
実際に行う場合の参考にしてください。
MBO対象企業の価値の算出
株式価格は、企業価値によって算出されます。
コストアプローチやマーケットアプローチ、DCF法などさまざまな算定方法があるものの、企業の置かれている現状を細かく判断しなければなりません。
また、金額によっては課税リスクが発生する時もあるため、できるだけ専門家へ相談し慎重に進めていきましょう。
新会社の設立
株式を買い取るためだけの新会社を設立します。
会社を分割して、子会社を作り、独立させるケースもあります。
MBOファンドなどから株式取得金の調達
設立した新会社に株式取得金を用意します。
株式の売買を行うほどの資金が無い場合、資金調達先として下記のようなものが挙げられます。
- 金融機関
- 金融ファンド
- ビジネスローン
- 日本政策金融公庫
企業の状態によりますが、金融機関やファンド、ビジネスローンは借入のハードルが比較的低いでしょう。
日本政策金融公庫には貸し出し条件があるため、きちんと確認してから申請しましょう。
株主から株式の買取
新会社の資金を使用し、株主から株式を買い取ります。
対象企業と新企業の合併
MBO対象企業と株式取得した新会社を合併、子会社化させます。
合併することで、経営陣がMBO対象企業の株主となります。
7. MBOを成功させた事例3選
実際に国内でMBOを行って成功した事例も数多くあります。その中でも今回は、3社の事例を紹介します。
ニチイ学館
医療・介護大手のニチイ学館は、2020年にベインキャピタルと組んでMBOを行いました。MBOを行うきっかけは、2019年9月の創業者の逝去です。それまで創業者で会長の寺田明彦氏が強いリーダーシップを発揮していたものの、寺田氏の死去をきっかけに集団での経営体制の確立が必要と経営陣が考えるようになったのです。
2020年5月にMBOを発表し8月にはTOBを成立、発行済株式総数の82%を取得しました。ニチイ学館はMBOにより上場を廃止することで、多角化経営から事業の選択と集中を迅速に進められました。
ニッパンレンタル
建設機械レンタルのニッパンレンタルは、2021年3月にMBOで株式を非公開化すると発表しています。MBOの狙いは、短期的に収益悪化の可能性がある店舗を統廃合し、事業構造の改革を進めるためです。
店舗の統廃合を行うと短期的には多額の損失が発生してしまうため、株主から批判される可能性が高まります。しかしMBOを行い株式が非公開になることで、迅速な店舗の統廃合が可能となり大胆な事業構造改革を進められたのです。
幻冬舎
出版業界の幻冬舎は、2011年3月にMBOが成立し上場を廃止しました。MBOを行うきっかけは、イザベル・リミテッドというファンドからの株式買い占めが原因です。株式を買い占められることが経営への脅威になると感じた幻冬舎の見城社長が、MBOに踏み切ったのです。
MBOが成功した結果、幻冬舎は経営と資本の一体化を進めデジタル書籍など新たな分野へもチャレンジしています。不況が続く出版業界の中でも、成長し続けている要因の一つといえます。
8. MBO成功のポイント
MBOを行う企業の目的はさまざまです。実際にMBOを行うと、事前に予期できなかったリスクなども発生することが考えられます。ここでは、MBO成功のポイントを解説します。
MBO後を考えておく
MBOを実施すると、MBOを成功させることが目的になってしまいます。しかし、あくまでも企業運営が本番です。MBOがゴールではなく、MBO達成後のビジョンを明確にしておきましょう。
MBOを行うと、上場廃止のリスクや調達した資金の返済スケジュール管理などが必要です。また会社の信用が低下する懸念や株主の確認がなくなることで、経営が揺らぐ可能性も想定できます。MBO開始前に、MBO後の計画を立てておいてください。
専門家へ相談する
MBOで重要なことは、株式の買い取りです。株式の買い取りはスムーズに進まない場合も多く、株主によっては意見の食い違いで対立することも考えられます。また予想外のリスクなども考えられ、経営陣だけでMBOを成功させるのは困難でしょう。
MBOを行う際には、専門家への相談がおすすめです。特にM&Aの実績や経験を持つ専門家に依頼すれば、買取価格の相場や具体的なMBOのスケジュールなど総合的なアドバイスを受けられます。また株主と対立した時にも、専門家の視点を加えることで説得が可能です。
9. まとめ
少子化による後継者問題の解決や経営再建の一助として、MBOが注目されています。その中で、今後自社においてもMBOが必要になる可能性は充分にあります。しかし実際に自社のみでMBOを行うには、専門的な知識や株主への充分な説明が必要です。