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M&Aシニアエキスパートは、専門的な知識を要するM&Aに関して、さまざまな知識や経験を身につけられる資格です。M&Aシニアエキスパート認定制度と呼ばれる制度のうち最難関ともいわれる資格であり、取得することでM&Aに関する包括的な知識を証明できます。
本記事では、M&Aシニアエキスパート認定制度の概要や取得するメリット、種類ごとの試験内容などを紹介します。
目次
1. M&Aシニアエキスパート認定制度とは
M&Aに携わる仲介業を行うのであれば、特別な国家資格などを取得する必要はありません。会計や法的な部分は公認会計士や弁護士などの国家資格取得者が行うため、仲介業務だけを行うのであれば、資格はいらないためです。
しかし、それでは仲介業者の質は担保できません。経験と知識が豊富なアドバイザーがいる一方で、知識も経験も乏しいアドバイザーが増えていけば、M&A市場の健全な成長が阻害されてしまいます。
こうした危機感から、M&Aに携わるアドバイザーの質の向上を目指して、業界内で民間資格が作られました。それが「M&Aシニアエキスパート認定制度」です。
1-1. 資格制度の概要
M&Aシニアエキスパート認定制度とは、一般社団法人金融財政事情研究会が認定する資格制度のことです。
事業承継やM&Aに関する専門的な知識とスキルを持つ「プロフェッショナル」を養成し、中小・零細企業における事業承継やビジネスマッチングをサポートすることを目的に運営されています。
事業承継やM&Aに携わるプロフェッショナルとしてキャリアアップを目指す人にとって、M&Aシニアエキスパート認定制度は、さまざまな知識や経験が身につく有益な資格といえるでしょう。
1-2. 資格の認定元
M&Aシニアエキスパート認定制度は、上述のように国家資格ではなく民間資格ではありますが、M&A業界に古くから携わる株式会社日本M&Aセンターと株式会社きんざいによって、共同で創設されたものです。
M&Aに精通した人材の育成を通じ、中小・零細企業の成長と発展、経営者・従業員などの生活基盤を安定させ、ひいては日本経済を押し上げることを目的としています。
なお、2020年9月時点で、約30,000名がM&Aシニアエキスパート認定制度の資格を取得しています。
2. M&Aシニアエキスパート認定制度の種類
M&Aシニアエキスパート認定制度は、下表のように「M&Aシニアエキスパート」「事業承継シニアエキスパート」「事業承継・M&Aエキスパート」の3つで構成されています。
種類 | 特徴 | 受験資格 | 試験実施時期 |
---|---|---|---|
M&Aシニアエキスパート |
中小M&A実務に関する難関資格 |
事業承継・M&Aエキスパート認定者、事業承継シニアエキスパート認定者他 |
5月と11月の年2回 |
事業承継シニアエキスパート |
事業承継実務に関する最難関資格 |
事業承継・M&Aエキスパート認定者他 |
10月の年1回 |
事業承継・M&Aエキスパート |
事業承継や中小企業M&Aの基本的な知識に関する資格 |
金融業務2級試験合格者 |
通年実施 |
資格の詳細を一つずつ、順番に見ていきましょう。
2-1. M&Aシニアエキスパート
M&Aシニアエキスパートとは、中小企業のM&A実務に関する資格です。M&A業界に従事するプロフェッショナルのなかでも文字通りのエキスパートであり、M&A分野の成長に寄与する役割が求められています。
M&Aシニアエキスパートを受験するためには、M&Aシニアエキスパート養成スクールを修了すること以外にも、事業承継・M&Aエキスパート認定者(試験合格者)であることなどが必須です。
2-2. 事業承継シニアエキスパート
事業承継シニアエキスパートは、事業承継実務に関する資格です。こちらも、事業承継・M&Aエキスパートの上級資格にあたります。資格を取得すると事業承継の実務能力はもちろん、経営戦略に関するさまざまな提案などができるようになることから、社内の人材育成にも活用されています。
事業承継シニアエキスパートを受験するためには、事業承継シニアエキスパートWeb講義を受講する以外にも、事業承継・M&Aエキスパート認定者(試験合格者)であることなどが必要です。
2-3. 事業承継・M&Aエキスパート
事業承継・M&Aエキスパートとは、事業承継や中小企業M&Aに関する基本的な知識を確認するための資格です。
この分野の専門的なスキルや知識を評価して、プロフェッショナルとしてのキャリアを築くためのファーストステップとなるものです。事業承継・M&Aエキスパート試験に合格すると、上級資格であるM&Aシニアエキスパートの養成スクールの受講が可能になります。
事業承継・M&Aエキスパート試験を受験するためには、一般社団法人金融財政事情研究会が実施する、金融業務2級試験に合格しなければなりません。
3. M&Aシニアエキスパートの資格を取得するメリット
M&Aシニアエキスパートの資格を取得すると、さまざまなメリットが得られます。そのなかでも特に重要なメリットは、以下の2つです。
3-1. 事業承継やM&A実務の即戦力人材である証明になる
資格を取得することで、事業承継やM&A実務に関する知識を豊富に持ち、即戦力人材であることが証明できます。M&A業界に就職や転職を希望する場合、非常に有利となるだけでなく、実際にクライアントと接する際にもM&Aのプロフェッショナルであることを証明し、信頼を得ることも可能です。
また、一般企業や投資会社などで事業承継やM&Aのコンサルティング業務などに従事する機会も増えるため、キャリアアップの足掛かりとすることも期待できます。
3-2. 事業承継とM&Aに関する知識を網羅的に取得できる
事業承継とM&Aに関する幅広い知識を網羅的に取得できる点もメリットです。
M&A業務は、税法はもちろん、民法や会社法をはじめとするさまざまな法務知識や、実務的な知識が必要です。各分野を横断する広範囲な知識を独学で習得するのはかなり難しいですが、M&Aシニアエキスパート認定試験に合格できれば、ゼネラリストとしての道が拓けます。
また、専門職としてのスキルセットを向上させ、クライアントへの価値提供に貢献することにもつながります。
4. M&Aシニアエキスパート認定制度の難易度
M&Aシニアエキスパート認定制度は、カリキュラムに沿った多種多様な分野に渡る勉強が必要です。簡単な試験でないことは言うまでもありませんが、ある程度まとまった時間が取れるのであれば、決して合格できない試験ではありません。
そこで、M&Aシニアエキスパート認定制度の難易度はどの程度なのかを解説します。
4-1. 難易度
M&Aシニアエキスパート認定制度の取得難易度は、資格ごとに異なります。「M&Aシニアエキスパート」「事業承継シニアエキスパート」「事業承継・M&Aエキスパート」のそれぞれに分けて、資格難易度を確認していきましょう。
M&Aシニアエキスパート
M&Aシニアエキスパートは、中小企業のM&A実務に関する難関資格であり、事業承継シニアエキスパートよりも難易度は高く、M&A資格の最高峰に位置づけられています。
試験に関しては、まずWeb講義によるM&Aシニアエキスパートの講座を受講し、そのうえで受験する「Web講義+認定試験(CBT方式)」が採用されています。
M&Aシニアエキスパートの過去問や合格率は公表されておらず、試験問題集などを入手することもできませんが、試験内容は概ねWeb講座の内容に沿ったものであるため、講義内容をしっかりと理解すれば合格できるでしょう。
事業承継シニアエキスパート
事業承継実務に関する最難関資格が、事業承継シニアエキスパートです。試験内容は幅広く、理論的な内容以外にも実務ノウハウなども問われることから、難易度はかなり高いと言われています。
Web講義を受講しなくても受験資格を得ることはできますが、講義内容に沿った形で試験問題が出題されるため、短期間で合格したい方や合格に自信の無い方は、Web講義を受講してから試験を受けるほうが良いでしょう。
事業承継・M&Aエキスパート
事業承継・M&Aエキスパート認定試験は、M&Aシニアエキスパート認定制度のなかでは最も難易度が低く、適切な準備を行えば比較的短期間で取得することができると言われています。
試験は四答択一式が30問、総合問題10題を120分で解くもので、100点満点で70点以上が合格基準となっています。
通信教育講座や試験問題集なども提供されているため、勉強を始めたばかりで自信の無い方は、これらを済ませてから受験すると良いでしょう。
4-2. 試験内容
次に、各認定資格の試験内容について、試験時間や出題形式、合格基準などについて解説します。
M&Aシニアエキスパート
M&Aシニアエキスパート試験の概要は、以下のとおりです。
試験時間 | 120分 |
---|---|
試験内容 |
|
出題形式 | 四答択一式50問 |
合格基準 | 100点満点で60点以上の正解 |
合格率 | 非公表 |
受験方法 | 全国各地のテストセンター(受験会場)において、コンピューターで受験 |
受験料 | 11,000円 |
合格基準は「100点満点で60点以上の正解」とやや低く設定されていますが、先述したとおりM&A資格の最高峰ともいわれているため、試験の難易度は高めです。試験内容が広範囲なため、しっかりと勉強しないと合格は難しいでしょう。
事業承継シニアエキスパート
事業承継シニアエキスパート試験の概要は、以下のとおりです。
試験時間 | 120分 |
---|---|
試験内容 |
|
出題形式 | 四答択一式50問 |
合格基準 | 100点満点で60点以上の正解 |
合格率 | 非公表 |
受験方法 | 全国各地のテストセンター(受験会場)において、コンピューターで受験 |
受験料 | 11,000円 |
事業承継シニアエキスパート試験は、実務におけるケーススタディが含まれている点がM&Aシニアエキスパートと大きく異なります。M&A実務を行った経験が無い方が書籍だけで勉強するには限界があるため、難しいと感じる方は、Web講義を活用すると良いでしょう。
事業承継・M&Aエキスパート
事業承継・M&Aエキスパート試験の概要は、以下のとおりです。
試験時間 | 120分 |
---|---|
試験内容 |
|
出題形式 | 四答択一式30問、総合問題10題 |
合格基準 | 100点満点で70点以上の正解 |
合格率 | 非公表 |
受験方法 | 全国各地のテストセンター(受験会場)において、コンピューターで受験 |
受験料 | 7,700円 |
事業承継・M&Aエキスパート試験は、他の試験と比べると、M&Aに関する基礎的な知識を問う問題が多いのが特徴で、合格基準も「100点満点で70点以上の正解」とやや高めに設定されています。
5. M&Aエキスパート認定資格の取得までに必要な勉強時間
M&Aエキスパート認定資格の取得までに「どれくらいの勉強時間が必要になるのか」は、試験勉強を始める時点で、M&Aや事業承継に関する知識を既にどの程度身につけているのかによって変わります。
一般的に、資格試験合格に必要な学習期間は数ヶ月程度と言われますが、Web講義に準じた内容で出題されることから、必要な勉強時間を短くしたい方は「Web講義での学習に集中する」と良いでしょう。
6. M&Aシニアエキスパート認定制度の流れ
試験の申し込み方法や、実際に合格証を取得するまでにはどのようなプロセスがあるのかを解説します。
6-1. 受講者登録・試験申し込み
はじめに、受験予定の資格試験の受験申し込みを行います。
M&Aシニアエキスパートは「5月と11月の年2回」、事業承継シニアエキスパートは「10月の年1回」、事業承継・M&Aエキスパート試験に関しては「通年」実施されています。
どの試験を受けるのかを決めたら、希望日時に合わせてオンラインで申し込みを行います。また、Web講義を受けてから受験する場合は、まずWeb講義の申し込みからスタートしましょう。
6-2. 試験準備
各種申し込みが完了したら、試験に向けた準備に入ります。Web講義を利用する場合は、必要な講義をすべて受けると修了証が与えられ、そのあとで認定試験(CBT方式)の受験手続きを行います。
一方、通信講座や独学などで試験準備をする場合は、申し込んだ受験日に向けて勉強に励むことが一般的です。
6-3. 受験・合格証を取得
受験申し込み時に登録したテストセンターに行き、コンピューターに向かって120分間の試験を受けます。試験終了後に合否が画面に表示されたら内容を確認し、試験官からスコアレポートを受け取り、テスト会場から退室します。
試験に合格した場合は、試験の翌日にユーザー登録したマイページから試験合格の認定証をダウンロードして終了です。
不合格だった場合は、システムの利用可能期間内であれば何度でも再受験が可能なため、ユーザー登録したマイページからもう一度、再受験の手続きを行います。
7. まとめ
M&Aに関する業務は、特別な国家資格などの取得を必要としないため、最低限の知識も無いままでアドバイスを行う仲介業者も多数存在します。こうした状況は、M&A仲介を依頼する側にとって決して望ましいことではありませんが、アドバイザーの知識や経験の有無を判断するのは容易ではありません。
そこで、M&A仲介会社を選ぶ際のポイントとして、資格保有者の有無を検討項目に入れることをおすすめします。本記事で紹介した、M&Aシニアエキスパート制度に関する民間資格や士業資格を持ったアドバイザーが多ければ、アドバイザーの質が高いと考えて間違いないでしょう。
当社には、士業資格を持つアドバイザーが多数在籍しています。専門的なアドバイスやご相談に対応しております、ぜひお気軽にお問い合わせください。