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合併契約書は、合併の際に会社間で締結する重要な契約書です。消滅する会社の事業や権利義務を、存続する会社へ承継する「吸収合併契約書」と、合併する会社を消滅させて事業や権利義務を承継した新しい会社を設立する「新設合併契約書」とでは、法定記載事項の内容が異なります。
なお、合併契約書の作成やそれに付随する手続きを正確に行わなければ、M&Aは成立しません。そこで本記事では、合併契約書および法定記載事項、注意点について詳しく解説します。吸収合併や新設合併を検討されている方は、ぜひ参考にしてください。
目次
1. 合併契約書とは
合併契約書は、会社同士が合併する際に締結する重要な契約書です。中小企業庁によると、M&Aの実施形態として約15%の企業が「合併」を選択しています。
※引用元:中小企業庁「M&A実施企業の実態」より
合併を実施する場合、会社法第748条に基づき、必ず合併契約書を締結しなければならない決まりがあります。合併契約書の締結は、基本的に株主総会の前に行います。取締役会を設けていれば取締役会決議のあとに、設けていないのであれば過半数の取締役による決定後に行うことが一般的です。
なお、合併契約書には、法定記載事項が含まれています。法定記載事項の内容は、次のような合併のタイプに応じて異なります。
- 吸収合併契約書
- 新設合併契約書
ここからは、合併契約書の特徴について、種類ごとに詳しく解説します。
1-1. 吸収合併契約書とは
吸収合併とは、一方の会社の権利義務を、存続する会社へ移転することです。免許や許認可は、原則として存続する会社が引き継ぐことになっています。また、合併の対価は、現金での受け渡しが可能です。
吸収合併を行う際には、必ず「吸収合併契約書」を作成する必要があります。会社法第748条の規定により、吸収合併契約書の締結が義務付けられているからです。
吸収合併契約書は、法定記載事項として指定された事項の記載が必須となります。吸収合併の手続において、会社法第782条1項、および第794条1項に基づき、株主や債権者の保護のために法定記載事項を含む書面を作成し、備え置かなければなりません。
1-2. 新設合併契約書とは
合併する会社を消滅させ、消滅する会社の権利や義務を新設会社が引き継ぐことを新設合併といいます。新設合併の際、「新設合併契約書」を締結します。
吸収合併契約書との主な違いは、会社法第753条で定められた法定記載事項(法的義務のある項目)を記載することです。
なお、新設合併には、双方の会社が対等な立場で合併できたり、事業の拡大を図りやすかったりするなどのメリットがあります。ただし、新たな許認可の取得(もっとも、吸収合併でも許認可取得が必要なものはあります)や、株券の回収が必要となるため、吸収合併より手間やコストがかかりやすいです。
2. 合併契約書の記載事項
合併契約書の記載事項は、「吸収合併契約書」と「新設合併契約書」で異なります。また、吸収合併契約書には、法定記載事項および法定記載事項以外に双方の会社間で取り決めたことを記載する「任意的記載事項」があります。
ここからは、合併契約書の記載事項を詳しく解説しますので、それぞれ理解していきましょう。
2-1. 吸収合併契約書の記載事項
吸収合併契約書の記載事項は、次のとおりです。
- 法定記載事項
- 任意的記載事項
法定記載事項が欠けていたり、記載が違法だったりする吸収合併契約書は、原則的に無効とされます。また、任意的記載事項は、消滅会社と存続会社による取り決めを記載するものです。吸収合併契約書に必要な記載事項について、詳しく説明します。
法定記載事項
吸収合併契約書に必要な法定記載事項は、以下のとおりです。
- 吸収合併により消滅する会社と存続する会社の商号と住所
- 合併条件
- 吸収合併後の準備金と資本金
- 対価の支払いについての取り決め
- 吸収合併の効力発生日
合併条件は、吸収合併により消滅する会社の株式と引き換えに、交付されるものに関して定められます。例えば、交付される対価の総額や種類、割り当てなどです。
吸収合併で存続する会社側が株式を交付する場合、合併契約に準備金と資本金の額に関する事柄を定める必要があります。存続会社の準備金や資本金が、合併前より少なくなる可能性もあるため、存続会社と消滅会社の双方で債権者異議手続きを行うことが求められます。
また、効力発生日の前日までに、合併契約書の内容について株主から承認を得ることが必須です。株主総会で合併契約の承認を受ける期日も、吸収合併契約書に記載しましょう。なお、効力発生日から「2週間以内」に、登記申請を実施しなければなりません。
任意的記載事項
吸収合併の際に、法定記載事項に記載していない内容を双方の企業間で取り決めたうえで記載するのが任意的記載事項です。
任意的記載事項の例は、次のとおりです。
- 存続する会社の定款変更に関する事項
- 存続する会社に就任する取締役や、その他役員の選任にまつわる事項
- 効力発生日までの余剰金の配当制限に関する事項
- 効力発生日までの新株発行、増資、減資、組織再編に関する事項
- 効力発生日の変更に関する事項
- 退職慰労金の支給についての事項
- 消滅する会社の財産承継に関する事項
なお、任意的記載事項は「合併の本質」や公の秩序に関する「強行規定」に違反していないこと、事項ごとに必要な手続きを実施することが前提となります。
2-2. 新設合併契約書の記載事項
合併により消滅した会社の事業や権利義務を、新たに設立した会社が承継するのが新設合併です。新設合併では「新設合併契約書」を作成します。
会社法第753条による、新設合併契約書の記載事項は、以下のとおりです。
- 新設合併により消滅した会社の商号と住所
- 新設会社の商号、本店所在地、目的、発行可能株式総数
- 新設会社の定款で定める事項
- 新設会社設立時の取締役の氏名
- 新設会社設立時の役員の氏名、もしくは名称
- 新設会社から、消滅する会社の社員や株主へ交付する株式数や算出方法、新設会社の準備金および資本金の額についての事項
- 上記に関する割当方法
- 新設会社から、消滅する会社の社員や株主へ社債などを発行する際の金額や算出方法についての事項
- 上記に関する割当方法
- 消滅する会社が新株予約権を発行している場合、新株予約権の数および内容、もしくは算出方法についての事項
- 上記に関する割当方法
3. 合併契約書作成時に注意したいポイント
合併契約書の作成を正確に行わなければ、M&Aを成立させることができません。合併契約書作成時に注意したいポイントは、次のとおりです。
- 商号を変更する場合は手続きを行う
- チェンジオブコントロールの有無を確認する
- 無対価合併があるケース
いずれも重要なことですので、順番に詳細を見ていきましょう。
3-1. 商号を変更する場合は手続きを行う
新たに会社を設立する新設合併では、商号が新しくなります。一方、吸収合併において存続する会社が商号を変更する場合でも、手続きを行う必要があります。
まず、株主総会で商号の承認を得なければなりません。承認を受けた場合、商号の変更は「効力が発生する2週間以内」に、法務局で変更登記手続きを行うよう定められています。
なお、関連する次の機関にも、手続き内容により、変更情報を提出する手続きが必要です。
- 都道府県事務所
- 市区町村役場
- 年金事務所
- 労働基準監督署など
3-2. チェンジオブコントロール(COC)の有無を確認する
合併契約書を作成する際は、チェンジオブコントロールの有無を確認しなければなりません。チェンジオブコントロール(Change of Control)とは、M&Aによる経営権の移動を契約の解除事由として取り決めたり、経営権の移動を他方当事者に通知したりする義務を課す規定のことをいいます。
取引先により、契約書にチェンジオブコントロールの項目を含めて、経営権の移動に関する通知義務を盛り込んでいる可能性があります。そのため、M&Aで経営権の移動が発生した際は、速やかに通知しなければなりません。
なお、チェンジオブコントロールは、取引を行っている会社への信用に大きく関わる規定です。適切なタイミングで報告できるように、専門家に相談すると良いでしょう。
3-3. 無対価合併があるケース
吸収合併などにおいて、消滅会社の株主に対して対価を支払わない場合を「無対価合併」といいます。無対価合併があるケースでは、専門家への相談が重要です。
例えば、親会社が子会社を吸収合併した場合、子会社の株主は親会社となるため、合併対価を支払うことに意味が無いとされるケースが該当します。
その他、消滅する会社が債務超過となっている場合もあります。無対価合併の適否や評価については、税法上の特殊な取扱いがあるため、専門知識が必要です。そのため、税理士や弁護士などの専門家に相談しましょう。
4. まとめ
会社同士の合併による契約書の条件は、合併の種類によって異なるため、専門的な知識が必要です。合併契約書の作成やそれに付随する手続きを正確に行わなければ、M&Aは成立しません。そのため、M&Aに不可欠となる合併契約書の作成や手続きについて、まずは専門家に相談することをおすすめします。
M&Aの専門家に相談し、依頼することで、合併契約書の作成や付随する手続きを正確かつスピーディに行うことが可能です。
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