事業譲渡類似株式とは? 定義や条件、注意点、具体例を解説

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株式の譲渡に対する税金は、株主が住んでいる国の税制に従うのが大原則です。例えば、シンガポールに居住している株主が株式を売却すればシンガポールの税制に、香港に住んでいるのであれば香港の税制に従い、税金を納めます。
一方で、こうした税務上の原則にも例外があります。それが、事業譲渡類似株式の譲渡です。本記事では、事業譲渡類似株式の定義やその条件、譲渡に関する注意点などの情報について、具体例も交えて解説します。

このページのポイント

~事業譲渡類似株式とは?~

日本に拠点を置く企業が発行した株式のうち、50%以上を海外の親会社や非居住者が保有している場合などには、日本国内の会社が海外に居住する株主(法人・個人を問わず)の支配下にある場合、当該株式の譲渡は、実質的に国内企業の事業譲渡と同じであると考えられ、特定の条件を満たすと事業譲渡類似株式とみなされます。事業譲渡類似株式とみなされた場合、海外の親会社や非居住者が保有している株式を他企業や個人に譲渡した際に生じる譲渡益に対しては、海外ではなく日本で課税されます。

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1. 事業譲渡類似株式とは

事業譲渡類似株式とは、どのような株式のことでしょうか。はじめに、その定義を整理したうえで、事業譲渡類似株式となる条件について説明します。

1-1. 事業譲渡類似株式の定義

株式には普通株式や種類株式など、さまざまな種類がありますが、事業譲渡類似株式は、こうした株式の種類の一つではありません。
後述する「ある特定の条件下」で株式を売却すると、その売却は「事業譲渡類似株式の譲渡」として譲渡益に対して日本国内で課税されます
日本に拠点を置く企業が発行した株式のうち、50%以上を海外の親会社や非居住者が保有している場合などには、その株式を他企業や個人に譲渡した際に生じる譲渡益に対して、海外ではなく日本で課税が行われます。
これは、日本国内の会社が海外に居住する株主(法人・個人を問わず)の支配下にある場合、当該株式の譲渡は、実質的に国内企業の事業譲渡と同じであると考えられるためです。

1-2. 事業譲渡類似株式となる条件

株式の譲渡が「事業譲渡類似株式の譲渡」とみなされるためには、内国法人の株主などの「特殊関係株主等」が、内国法人の発行する株式の50%以上を保有していることに加え、以下の2つを満たさなければなりません
【1】特殊関係株主等が譲渡を実施した年度以前3年内の、内国法人の発行済株式や出資総額のうち、25%以上に相当する株式や出資などを、特殊関係株主等が所有していたこと
【2】非居住者を含めた内国法人の特殊関係株主等が、その譲渡を行った年度時点において、内国法人の発行済株式や出資のうち、総額の5%以上に相当する金額の株式や出資の譲渡を行ったこと
また【2】に関しては、法人税法施行令第178条第7項において、会社分割などの組織再編が実施された場合等について別途規定されているため、留意が必要となります。

2. 事業譲渡類似株式に関する注意点

事業譲渡類似株式に際しては、以下の2点に注意しなければなりません。

  • 国内法と租税条約を確認する
  • 日本での課税範囲を確認する

いずれも重要なことを含みますので、順番に見ていきましょう。

2-1. 国内法と租税条約を確認する

一つ目の注意点は、国内法と租税条約を確認することです。
法律には、日本国内にのみ通用する「国内法」と、国同士でお互いの税金の在り方を約束した「租税条約」の2つがあります。国内法よりも、国と国とで約束した租税条約のほうが優先されるため、まず国内法と租税条約を確認しなければなりません
国内法人の株式を売却した株主がどの国に居住しており、その国と日本国との間でどのような租税条約が締結されているかによって、事業譲渡類似株式の譲渡に対する日本の課税が認められたり免除されたりします。
このように、国ごとに課税要件や規定が異なるため、どの国の租税条約が適用され、その適用条件は何かを詳しく把握することが極めて重要です。

2-2. 日本での課税範囲を確認する

2つ目の注意点は、日本の課税範囲を確認することです。法人の事業譲渡類似株式の譲渡に関する課税関係については、日本での課税範囲を把握しておくことも大切です。
内国法人の課税所得は国内源泉所得だけでなく、国外の源泉所得も対象となります。したがって、こうした所得がある場合は、日本で法人税を納めなければなりません
例えば、海外の親会社が日本国内の子会社の株を譲渡して利益が生じれば、事業譲渡類似株式の譲渡とみなされるため、法人税の課税対象となり、日本国内で申告の義務が生じることになります。
また、現地で外国法人税が課された場合には、二重課税を防止する観点から、一定の範囲内で「外国税額控除」の適用が認められています。
なお、外国税額控除の限度額は、国内法人の法人税額に、全世界所得に対する国外所得額の割合をかけることで算出が可能です。

2-3. 事業譲渡類似株式の具体例

最後に、事業譲渡類似株式の譲渡に関する具体例について、シンガポールと香港のケースをそれぞれ紹介します。

シンガポールの例

例えば、シンガポールにある法人が、日本法人の株を保有しているとします。仮にこの法人が内国法人の株式を100%保有している完全親会社であり、そのうちの30%を譲渡して利益を得ていた場合は、事業譲渡類似株式における譲渡の要件を満たすこととなります。
ただし、事業譲渡類似株式の譲渡に際しては、上述のように、国内法だけでなく租税条約も確認しておかなければなりません。
日本国とシンガポール政府との間で交わされた租税条約の第十三条を確認してみると、事業譲渡類似株式についてシンガポール在住の居住者が日本法人の株式譲渡によって利益を得た場合、日本によって課税できることになっています。
したがって、シンガポールでのケースでは、事業譲渡類似株式の譲渡所得が日本で課税されることとなります。

香港の例

次は、香港の場合です。こちらも同様に、香港にある法人が日本法人の株式を100%保有しており、そのうち30%を譲渡して利益を得て、事業譲渡類似株式の要件を満たしたと仮定します。
両国間の租税条約を確認すると、日本国政府と香港特別行政区政府との間で締結された租税条約の第十三条には、事業譲渡類似株式を含む譲渡による利益への課税は、利益を得たものの居住地でのみ認められています。> したがって、香港と日本における事業譲渡類似株式の譲渡益については、日本では課税されず、香港でのみ課税されることが通常です。

3. まとめ

株式譲渡で得た収益に対する課税は、原則として、株式の所有者の居住国で行われます。一方で、本記事で述べたように、特定の要件を満たした場合には「事業譲渡類似株式の譲渡」に該当するため、日本国内で法人税が課されることになります。
ただし、課税されるかどうかを判断するためには、国内法だけでなく、租税条約も確認しなければなりません。当事国と交わした租税条約によって課税関係が大きく変わるため、グローバルにサービスを展開する企業や経営者の皆様は、必ずチェックしておきましょう。


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監修者プロフィール
M&Aキャピタルパートナーズコーポレートアドバイザリー部 部長公認会計士梶 博義
M&Aキャピタルパートナーズコーポレートアドバイザリー部 部長
公認会計士梶 博義

大手監査法人、事業承継コンサルティング会社を経て、2015年に当社へ入社。
これまで、監査、IPO支援、財務DD、親族承継・役職員承継コンサル等を経験し、当社入社後はM&Aアドバイザーとして活躍。一貫して中小企業の支援に従事し、M&Aのみならず、事業承継全般を得意とする。

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