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会社員や個人事業主には一般的な源泉徴収ですが、M&A(Mergers and Acquisitions、合併・買収)においても源泉徴収は発生することがあります。またその方法は複数あり、経営者がその仕組みを正確に理解しておくことはとても重要です。今回はM&Aにおける源泉徴収の仕組みや注意点について説明します。
1. 源泉徴収の概要
1-1. 源泉徴収とは?
源泉徴収とは、給与・報酬を支払う事業者があらかじめ所得税などを差し引き国へ納付する制度をいいます。
源泉徴収を行った際に給与明細は所得税と記載されますが、実際に支払うべき金額との差額を調整するために以下のような制度が設けられています。
- 会社員等の給与所得者:年末調整
- 個人事業主:確定申告
また、源泉徴収を行う際には、源泉徴収票が用いられます。
源泉徴収票には1年間の給与支払額や年末調整の後の源泉徴収税額、年末調整で適用された所得控除額や扶養親族の情報が記載されています。多くの個人情報が記載されているため源泉徴収票を見ればその人の収入状況を把握することができます。また、源泉徴収票は確定申告や住宅ローン控除の申し込みなどに利用されます。
2. 源泉徴収の種類と対象及び源泉徴収税額の計算方法
源泉徴収の種類と対象については、給与所得以外に以下のようなものがあります。
- 原稿料・講演料
- 弁護士、公認会計士、司法書士等の特定の資格を持つ人などに支払う報酬
- 社会保険診療報酬支払基金が支払う診療報酬
- プロ野球選手・サッカー選手・テニス選手・モデル・外交員などに支払う報酬・料金
- 映画・芸能プロダクションなどに支払う報酬・料金
- ホテル・旅館などで行われる接待等に支払う報酬・料金(バンケットホステス・コンパニオンやバー、キャバレーなどを含む)
- プロプレイヤーとの契約金
- 広告宣伝のための賞金や馬主に支払う競馬の賞金
また、源泉徴収税額の計算方法は1回で支払う金額により変わります。具体的にはそれぞれ以下のように計算を行います。
- 100万円以下:支払金額 × 10.21%
- 100万円越え:(支払金額 – 100万円)× 20.42% + 102,100円
3. M&Aにおける源泉徴収と課税率
ここからはM&Aにおける源泉徴収について解説します。
まず、M&Aでの源泉徴収の有無ですが、売却益が源泉徴収される場合とそうでない場合があります。
ここで証券会社には①源泉徴収ありの特定口座、②源泉徴収なしの特定口座、③源泉徴収なしの一般口座の3種類の口座がありますが、一般的に源泉徴収されるのは、源泉徴収ありの特定口座でM&Aを行った場合です。
証券会社の口座は会社設立時に選択しますが、源泉徴収ありの特定口座を選んだ場合はM&Aによる売却益が源泉徴収されます。ただ、源泉徴収なしの口座を選んだ場合は自分で確定申告を行い税金を納付する必要があります。
源泉徴収ありの特定口座を選ぶと売却益が出るたびに所得税・住民税を証券会社が算出をし源泉徴収を行い、損失が出た場合は徴収税額を上限として金融機関からの還付を受けることができます。これらの手続きをすべて証券会社が行ってくれますので自分で確定申告をする必要はありません。
源泉徴収なしの一般口座を選んだ場合は、金融機関が発行している「年間取引報告書」を確定申告の際に添付する必要があるため手間がかかります。
また、M&Aでの課税率は売却益額によらず一定であり、2037年までは復興特別所得税が課されていることから20.315%となっています。
4. M&Aでの源泉徴収の方法
M&Aを実施した際、源泉徴収ありの特定口座を選んでいる場合は源泉徴収をしなければなりません。ここでは合併があった場合の源泉徴収の方法を説明します。
まず、M&Aで買収される側の被合併法人は管轄税務署へ「給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書」を提出する必要があります。一方、合併法人は全従業員に正しく源泉徴収することで対応が足ります。
5. M&Aでの源泉徴収や税金に関する注意点
M&Aでの源泉徴収や税金に関する主な注意点は以下のとおりです。
- 源泉徴収での注意点
源泉徴収により税金を納付した方が便利ではありますが、確定申告をしたほうが得をするケースがあります。そのため、M&Aによる源泉徴収の場合は確定申告をしたほうがいいのかどうかを正しく把握しておくべきです。 - 税金での注意点
税金での注意点としては、M&Aを実施した結果、損失が出ている場合は別途確定申告を行わないと税金面で不利になることです。M&Aでは損失が出た場合、損益通算と繰越控除を行います。例えば、複数の株式を売却し利益が得た場合は確定申告で損益通算をしておくと節税になります。ただし、損益通算をしても利益転換せず損失がまだ残る場合は確定申告で繰越控除を行っておけば、来年度以降の利益を相殺が可能です。繰越控除は3年先まで行うことが可能ですので、どのタイミングで事業利益が出るのかも選定しておく必要があります。
6. まとめ
今回は源泉徴収について詳しく説明しました。
会社員や個人事業主と同じように、M&Aでも源泉徴収が必要になります。M&Aにおいて源泉徴収方法はいくつかあり、それぞれに規定・仕組みが存在します。
そのため、経営者であれば、源泉徴収について理解し、M&Aを検討する際には必要に応じて税務の専門家である税理士やM&Aの専門家に相談することが望まれます。