アーンアウトとは? 概要、メリットデメリット、留意点を解説

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日本の企業間におけるM&A(Mergers and Acquisitions、合併・買収)の動きは、近年増加していますが、M&Aにおける交渉の過程において、アーン・アウト(Earn Out)という言葉を耳にすることがあります。今回は、アーン・アウトの概要、利用される背景、メリットとデメリット、実行する際の留意点について、詳しく説明します。

アーン・アウトのイメージ

アーン・アウト(Earn Out)とは

アーン・アウトとは、M&Aにおける支払対価の調整方法の一つであり、一括で支払うのではなく分割払いで行う取引契約のことをいいます。

言い換えると、M&Aの実行後、特定の業績条件を満たすことなどの契約条件に応じて追加代金を支払う義務のことです。

より具体的には、M&Aの実行後の一定期間内に、買収対象となっている売り手企業が定められた目標を達成した場合、あらかじめ両者が合意した計算方法に基づき対価が追加で支払われます。

一般的にM&Aの買収対価は一括で支払われますが、買収対価の一部を買収後の目標達成と連動させることで、買収対価における両社の認識の違いを解消することを目的に用いられます。

こうした規定はアーン・アウト条項と呼ばれ、純利益、売上高、営業利益、EBITDA、営業キャッシュ・フロー、フリー・キャッシュ・フローなどが財務指標の条件として設定されます。

アーン・アウトが利用される背景

M&Aにおいて、買い手側は「リスクを極力排除した上で会社・事業を譲受けたい」、売り手側は「自社を高く評価してもらい、納得のいく価格で譲渡したい」と通常考えます。

しかし、成約後に把握できていなかったリスクが顕在化して企業価値が下がる、もしくは買収金額に対するギャップが生じ、どちらかが不満を持つケースが出てくる可能性もあります。

このような両者のギャップを解消する方法として、あらかじめ財務指標などの目標値を設定して、クリアしたら支払いが実行されるアーン・アウト条項は用いられることが一般的になりました。

M&Aにおいてアーン・アウトを利用するメリット

ここでM&Aにおいてアーン・アウトを利用する主なメリットを買い手側と売り手側でそれぞれ紹介します。

3-1.買い手側

潜在的なリスクを回避できる

買収対価を一括で支払った後、対象企業のリスクが顕在化することを避けるために、買収対価の支払いをあらかじめ定めた財務指標の達成度合いに応じて実行する条項があることで、すべての買収資金を支払う前に潜在的なリスクを回避することができます。

また、売手側企業が成長著しいベンチャー企業などであれば、成長性の評価について売手企業側に不満が残るケースも考えられます。そこで、買い手側と売り手側が前もって財務指標などの目標値を設定して、クリアしたら買収資金を支払うと定めれば、両社のギャップを埋めることが可能です。特に買手側企業にとっては、すべての買収資金を支払う前に潜在的なリスクを回避する有用な方法だといえます。

資金流出(キャッシュ・アウト)を分散できる

一度に多額の資金を支払う必要がなくなるため、資金の流出(キャッシュ・アウト)を分散化できるメリットがあります。

資金調達の面を考えても、金融機関などから一度に多くの資金を調達するのが困難な場合には、複数の金融機関に時期をずらして融資を申し込むことが可能になります。

3-2.売り手側

多くの資金を獲得できる可能性が高まる

目標達成度合いによっては、一括で買収資金を受け取る場合に比べて、より多くの買収資金を受け取れる可能性があります。アーン・アウト条項は売手側企業にとってもメリットのあるオプション条項であるといえます。

売手企業のモチベーション維持が期待できる

一定の成果・目標を達成することは、すなわち自社の将来性も高く評価してくれることになるため、売り手側の従業員のやる気が高まることが期待できます。

M&Aにおいてアーン・アウトを利用するデメリット

次にM&Aにおいてアーン・アウトを利用する主なデメリットを買い手側、売り手側、共通事項でそれぞれ紹介します。

4-1.買い手側

買収金額が高くなる可能性がある

売手側企業が業績を大幅に向上させた場合には、当初の想定よりも高い買収金額を支払う必要があります。

この点は買収価格が高くなったことをデメリットとして捉えるのか、それだけ価値がアップした会社・事業を手に入れられたことをメリットとして認識するのかは判断は難しいところですが、あらかじめ買収資金が想定より増加する可能性を認識しておく必要があります。

支払いが難しくなる可能性もある

アーン・アウト条項を追加することで、M&Aを実行するタイミングと、買収資金の支払いのタイミングにずれが生じます。そのため、その間に買い手側が買収資金を調達できなくなるリスクも考えられます。

しかし、基本的にはどのような状況であれ、買収代金を支払う必要があるため、こうしたリスクに備えて金融機関などからコミットメントラインを設定してもらったりすることも重要です。

4-2.売り手側

一括でまとまった資金を獲得できない

売手側企業はあらかじめ定められた財務指標などの目標値を達成しないと、買収資金を手に入れられません。アーン・アウト条項がないM&A契約であれば、一括してまとまった資金を手に入れられますので、複数回に分割されて買収資金が支払われる点は売手側企業にとってのアーン・アウトのデメリットと言えます。

業績の達成度合いによって受け取る金額が異なる

売手側企業は業績の達成度合いに応じて受け取れる譲渡金額が変わります。もし、設定した目標値に届かない場合は、当然ながら受け取る金額は少なくなります。

契約内容によっては、極端に設定目標を大きく下回ってしまった場合には、M&Aの話自体がなくなってしまう可能性もあります。そのため、売手側企業としては、達成が非現実的な目標設定には安易に同意しないことが重要です。

4-3.共通事項

交渉に時間がかかる

買手側企業と売手側企業はともに、M&Aの契約にアーン・アウト条項を入れるためにはお互いに内容を精査および検討するため、一括で売買代金を決済する場合に比べれば多くの時間と手間がかかります。この点はアーン・アウト条項の利用における大きなデメリットといえます。

アーン・アウトを実行する際の留意点

最後にアーン・アウトを実行する際の主な留意点を以下のとおり、紹介します。

評価指標に関する留意点

アーン・アウト条項には、売上高、営業利益、EBITDAなどの財務指標を目標値として設定します。こうした目標値をクリアすれば、買手側企業は追加的に買収対価を支払う必要があります。そこで資金負担を増やさないために、故意に財務指標を操作・改ざんされてしまうおそれがあるのです。

特に、既に売手側企業の経営権を握っているような場合には、買い手側企業のこうした行為が起こりやすいと考えられます。したがって、こうした改ざん行為が行われないように、アーン・アウト条項の達成を故意に妨げる行為を防ぐための条項を盛り込むことが必要です。

一方で、売手側企業は簡単に達成可能な財務指標をアーンアウト条項として設定する可能性も考えられるので、買手側企業としては財務指標の適正さを確保するように売手側と交渉して決定する点が重要です。さらに、財務指標以外の項目もアーン・アウト条項に含めるかを考えるべきです。

評価期間に関する留意点

アーン・アウトにおいては、売り手側企業に対する評価期間も非常に重要です。評価期間が長ければ長いほど、さまざまな要因で企業や事業の評価価値に変化が生じます。特に景気や業界動向などの外部的要因による変動は当事者だけでは防ぎようがありません。したがって、評価期間は一般的には3年以内の短い期間が良いとされています。

再売却に関する留意点

再売却に関して、買手側企業と売手側企業で考え方が異なります。売手側企業としてはアーン・アウト条項を達成するよう取り組んでいる最中に再売却されたくないので、再売却できないような条項を契約書に盛り込みたいと考えるでしょう。

一方で、買手側企業としては、一定の金額を支払えば再売却できる(アーン・アウト条項を消滅させられる)、といった内容を契約に盛り込みたいと考えるでしょう。この点は両社の交渉次第ですが、「アーン・アウト条項の達成可能性や追加の対価支払額」と「アーン・アウト条項消滅のために受け取る(買手側企業にとっては支払う)一定の金額と」の比較検討した結果で判断されると考えられます。

まとめ

今回はアーン・アウトについて説明しました。M&Aを検討している経営者にとっては、アーン・アウトを理解し、M&Aを実施する際の対価支払の交渉時に適切に対応することが望ましいです。

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監修者プロフィール
M&Aキャピタルパートナーズコーポレートアドバイザリー部長 梶 博義
M&Aキャピタルパートナーズ 
コーポレートアドバイザリー部長
公認会計士梶 博義

大手監査法人、事業承継コンサルティング会社を経て、2015年に当社へ入社。
これまで、監査、IPO支援、財務DD、親族承継・役職員承継コンサル等を経験し、当社入社後はM&Aアドバイザーとして活躍。一貫して中小企業の支援に従事し、M&Aのみならず、事業承継全般を得意とする。

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