更新日
M&Aにおいて、監査法人(以下、本記事においてアドバイザリー業務を行う部署やいわゆるFAS等のグループ会社を含む)の存在は欠かせません。監査法人は、主たる業務である上場企業等に対する会計監査の他に、M&Aの場面においては非監査クライアントである買い手の財務デューデリジェンスや会計・税務アドバイザーとしての役割を果たしており、買収に伴うリスクを明確にしたうえで、対応策を提案します。
特に、財務面の透明性を確保し、資産価値を正確に評価することで、M&Aプロセスの信頼性を高める役割を果たしています。
本記事をご覧いただければ、M&Aにおける監査法人の具体的な役割や、M&Aを依頼するメリットを理解することが可能です。
このページのポイント
~M&Aにおける監査法人とは?~
M&Aにおける監査法人は、財務デューデリジェンスや会計・税務アドバイザーとして、取引の信頼性を高める役割を担う。財務リスクの分析や資産評価を行い、透明性を確保することで、買収に伴うリスクの明確化と対応策の提案を行う。特に非監査クライアントに対し、財務や税務リスクの検討を行い、M&Aプロセスの信頼性を支える重要な存在。本記事では、M&Aにおける監査法人の具体的な役割や、M&Aを依頼するメリットを解説。
目次
1. M&Aにおける監査法人とは
M&Aで監査法人は、財務・税務リスクの検討や資産評価を行い、取引の信頼性を高める重要な役割を果たしています。
本章では、監査法人とはどのようなもので、コンサルとはどう違うのかを解説します。
監査法人とは
監査法人とは、公認会計士が共同で設立し、財務書類の監査や証明を行う法人のことです。公認会計士法に基づいて、以下の要件が定められています。
- 【設立要件】公認会計士または特定の登録を受けた者が共同して定款を定めること。少なくとも、5名以上の公認会計士を含む必要があります。
- 【名称】その名称中に「監査法人」という文字を使用しなければならず、有限責任監査法人である場合は、その旨も名称中に含める必要があります。
- 【社員の資格】監査法人の社員は、公認会計士または特定の登録を受けた者でなければなりません。また、公認会計士である社員の割合が50%以上である必要があります。
M&Aに関わる監査法人の業務に関しては、対象会社に関する財務・税務デューデリジェンスなどが含まれます。これらの詳細については、のちほど詳しく解説します。
監査法人とコンサルの違い
監査法人のアドバイザリー業務は、リスク管理や内部統制に重点を置いており、「守りのコンサルティング」と称されることがあります。これに対し、コンサルティングファームは事業拡大や売上向上を目指した戦略策定を行うことから、「攻めのコンサルティング」として知られているのが特徴です。
また、監査法人はクライアントとの独立性を保つ必要があるため、経営の意思決定には直接関与するサービス提供を行わないという制限が設けられています。独立性を保つために、監査法人は常に客観的な立場を維持し、クライアントの意思決定や財務諸表の作成に影響を及ぼさないようにするのが通常です。
一方のコンサルティングファームは、より積極的にクライアントの経営戦略に関与し、具体的な成長戦略や改善策を提案します。
これらの理由から、監査法人とコンサルティングファームのアプローチや役割には、大きな違いがあります。どちらもアドバイザリー業務を提供していますが、その目的と方法は異なることが大半です。
2. M&Aにおける監査法人の役割
監査法人は、財務デューデリジェンスやバリュエーションを通じて、M&A取引のリスクの検出や軽減方法を提案し、取引の成功をサポートしています。この章では、これらの業務の具体的な内容について解説します。
バリュエーション
バリュエーション(企業価値評価)は、M&Aで投資対象の価値を算出するための重要な手続きです。取引価格の合理性はバリュエーションに基づいて判断されるため、このプロセスは欠かせません。
なお、バリュエーションの主な評価手法には、以下の3つが挙げられます。
マーケットアプローチ | 市場価格や類似企業の取引データをもとに評価します |
---|---|
インカムアプローチ
(特にDCF法) |
|
コストアプローチ | 純資産価値等をもとに評価します |
これらの手法を適切に選択し、適用するためには、会計や経営の深い知識が必要です。監査法人がバリュエーションを行うことで、買収対象企業の適正価格を客観的に算出し、交渉時に不当に高い金額での買収を避けることにつながります。
また、専門家が客観的に評価することにより、M&Aプロセス全体の透明性と信頼性を高め、取引の成功をサポートしてもらうことが可能になります。
デューデリジェンス
デューデリジェンス(DD)とは、M&Aの際に対象会社の資産価値やリスクを評価するための「買収監査」のことです。デューデリジェンスにはいくつかの種類がありますが、特に監査法人が重要な役割を果たすのは「財務デューデリジェンス」です。
財務デューデリジェンスでは、調査対象の企業に関する財務諸表や事業計画の分析などをもとに、現在および将来の財務状況やリスクを評価します。
その役割として特に重要なのが、従業員への未払い残業代や退職金、他社からの借入債務など、財務諸表に記載されていない「簿外債務」を発見することです。これらを見逃すと、M&A後に買収企業側が、従業員への賠償責任や債務返済等の想定外のリスクを負う可能性が生じます。
そのため、財務デューデリジェンスでは、専門知識に基づいた詳細な調査が必要です。監査法人がこの業務を担当することで、企業買収に伴うリスクを最小限に抑えられ、M&Aの成功を支援してもらうことができます。
プロセス全体へのサポート
M&Aの実施には、経済面や事業運営面、社内外の関係者に対して広範囲かつ多岐にわたる影響があります。監査法人は財務分野の専門家として、M&Aを成功に導くために、プロセス全体へのサポートも請け負っています。
具体的なサポート例としては、以下のとおりです。
M&Aの計画段階 | M&Aの目的を明確にし、計画をサポートする |
---|---|
スキーム選択のアドバイス | クライアントの状況に応じて、会計・財務面から最適なスキームを提案する |
PMI計画の策定と管理 | M&A実施後のPMI(ポスト・マージャー・インテグレーション)計画を策定し、適切に管理する |
特に、買い手と対象会社の統合手続きとなるPMIは、M&Aの成功のカギを握る、極めて重要なプロセスです。
この重要な業務を監査法人に依頼することで、会計制度や内部統制、会計システムの統合などについて、財務・会計面でのサポートを受けながら、緻密なPMIの実施や管理が可能となります。
3. M&Aを監査法人に依頼するメリット
M&Aを監査法人に依頼すると、さまざまなメリットを享受できます。なかでも特に大きなメリットは、以下の3つです。
会計・財務分野で専門的サポートを受けられる
監査法人にM&Aを依頼する利点の一つは、会計・財務面の専門的なサポートを受けられることです。
M&Aでは、買い手は安く買いたく、売り手は高く売りたいといった利害対立が生じやすいため、適正な取引を行うには企業価値の評価が重要です。特に非上場企業の株式は、株式市場での相場が無いため、当事者だけで手続きを進めるのは容易ではありません。
専門家である監査法人が、中立的な立場から適切な買収価格の算定を行うことで、客観的な価格算定が可能となり、買い手と売り手の双方が納得しやすくなります。これにより、M&Aプロセス全体が、スムーズに進む可能性が高まります。
大規模案件にも対応できる
監査法人に依頼すれば、大規模案件にも対応してもらえます。デューデリジェンスでは多くの項目を綿密に調査する必要があり、少人数の専門家では、企業の規模が大きくなるほど時間がかかるのが一般的です。
しかし、監査法人なら、大規模な案件でも組織的に対応できるため、正確性を保ちながらスピーディにプロセスを進めることが可能です。専門家の豊富な知識と経験により、複雑な案件でも安心して任せられるのが、監査法人の強みといえます。
他分野の専門家を紹介してもらえる
監査法人に依頼することで、M&Aに関わる他分野の専門家を紹介してもらえる可能性がある点も、大きなメリットです。
M&Aでは企業価値の評価だけでなく、ビジネス、労務・法務・税務など、多岐にわたる検討事項が発生します。各工程でのリスクを回避し、M&Aを成功させるためには、各専門家の連携が不可欠です。
監査法人は、弁護士や社会保険労務士(社労士)など他の専門家とのネットワークを多数持っており、M&A業務に関与することにより、必要な専門家を紹介してもらえます。
そのため、問題発生のリスクを最小限に抑えたうえで、スムーズなM&Aプロセスを実現することが可能です。こうした監査法人の広範なネットワークと連携力を活用することによって、より安心してM&Aを進めることができます。
4. まとめ
監査法人にM&Aを依頼すると、専門的なサポートを受けられ、取引の信頼性が向上するだけでなく、大規模案件の場合でも対応してもらうことが可能です。
また、他分野の専門家を紹介してもらえるため、リスクを最小限に抑え、スムーズなM&Aプロセスを実現する可能性が高くなります。
M&Aキャピタルパートナーズでは、会計士・税理士・弁護士が多数在籍しており、M&Aのプロフェッショナルとしてのサービスを提供しています。相談料も無料ですので、お気軽にご相談ください。